1-第2章 主決会
行事開始の鐘がなるころには、保護者たちは体育館から去り、後ろにあるパイプ椅子が寂しく残っているだけとなった。
『主決会』・・・か。
どうやらこれから始まる行事が何なのか知らされていないのは一年生だけらしく、疑問が思いっきり顔に出た顔をしていたが、二、三年生は、ざわざわと賑やかなしゃべり声&笑い声が聞こえてくる。聞こえてくると入っても、聞こえる言葉が断片的過ぎて、何を話しているかはさっぱり解らない。逆にこの雰囲気から一年生が浮いているように思える。
ピィィィィー ガァッ、ガァァァ。
思わず耳をふさいでしまった。これは割れたスピーカー音だろう。どうやらようやく『主決会』が始まるようだ。
『えー、テステス、マイクテス。うぉっほん!』
・・・わざとらしい。
『あー、これから主決会を始めます。進行は私、小野だ――――』
「帰れ小野田ぁー!!」
「あのハゲ校長をかえろ!」
「ぶーぶー!!!」
ものすごいブーイングだった。一年生は何が何だかわからない様子だったが、先輩席が異様に盛り上がっていて、ハゲ校長のブーイングがほぼ全員で行われていた。ここまでかってくらいの罵声が飛ぶ。・・・・今回だけは同情するよ。だが、なぜあのハゲが進行してはだめなのか不思議である。
すると今度は罵声がコールへ変わった。
「理事長をだせー!」
「琴音さぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「理事長!理事長!理事長!理事長!りじちょぉぉぉぉぉぉ!!!」
・・・なんか怖い。
なぜ、ハゲではなく、理事長なのだろうか。
「ハゲって言うのは感心しないわ。」
奈津美さんである。・・・・おおっと、心の声が口から出てしまっていたらしい。気をつけなければ。・・・頭のおかしい子とは思われたくは無い。
「ヅラならいいわ。」
「そんなにかわらなぃぃぃぃぃぃぃ!!」
・・・叫んでしまった。まあ、周りがこれだけうるさいので、あまり気付かれなかったからよかった。・・・奈津美さんはうつむいてクスクスと笑っている。ああ奈津美さん、なんか普通なら許せないのだが、奈津美さんだと許せてしまう。これが美人のパワーなのか。
「理事長さんね、とても『可愛い』人らしいわよ。」
可愛い?じゃあ女の人なのだな。・・・・まさか、「ご婦人可愛い~!」なんてオチじゃないだろうな?
するとしばらく理事長コールが続いた後に、「あ、ちょっと理事長今年は出ないって――」という小野田の声が聞こえ、マイクが強引に奪われた音がした・・・
『やっほー!ガキ共の声援に答え、今年も進行やってやるかこのやろぉぉぉぉ!』
オオオオオォォォォォォォォォーーー!!!
・・・・・・・。だめだ・・・・。先輩方のテンションがおかしくなってきてしまっている。一年生は訳が解らず、涙目になっている奴もいた。
なるほど、理事長は若そうな声だった。これで、お年寄り萌えでは無くなったわけだが、すごいなあ。声だけなら二十~三十歳くらいなのに理事長とは。
『さて、主決会始めるぞ。』
現在理事長のいる体育館の簡易放送室は、校庭とつながっている扉があり、残念ながら姿は見えない。可愛いとは・・・・しかもここまで生徒に好かれる教師、では無く理事長なら、一目見てみたいものである。
『まずは、自己紹介だ。私の名前は古杉琴音。この高等学校の理事長を務めている。覚えておくといいぞ、新入生。』
ものすごい上からだな。オイ。Sか?こいつ。
『毎年毎年同じ説明をしているからな、端的にいくぞ』
そうして息を吸う音が聞こえた。
『まず、主決会が何かというと――――――――』
『異世界生物と共に、世界のため戦ってもらう主をを決める会だ!』
「「「はい!?」」」(←一年生一同)
異世界?世界?・・・・はい?・・・なんのこっちゃ。
『異世界、もといディファー・ワールドは、確かに存在する。』
そんな俺たちの混乱はよそに、理事長の話はどんどん進んでいく。
異世界?いい大人が何を言っているんだ。それともあれか?新手の新入生いびりか!?
『異世界は、その名のとおりこの一般世界から、「見えない裏側」にあるこことは異なった世界だ。実際、一般世界か異世界は見えないし、異世界からも一般世界は見えない。だが、唯一解っていることは、異世界、一般世界どちらかが壊れれば、もう片方も壊れるということだ。』
「見えないのに、どうして解るんだ!!」
1年生のある男子生徒からの疑問である。俺も全く同意だ。
理事長が出てきて少し静かになった体育館にその男子生徒の声はよく響いた。
『五月蝿いなあ、解るものは解るんだよ。丁度学校の丘を降りて、後ろにある裏山へいくと、時空のひびがあるから見に行ってみるといいぞ。ただ、立ち入り禁止だが。』
ははははっ。と愉快そうな笑い声が聞こえてきた。
・・・・・信じられん。全くもって。
他の1年生も混乱の表情をしているが、先輩席からはクスクスと笑い声が上がっている。一体、何なんだ。
『ここら一帯は、異世界と一般世界が、一番近く隣接しているところなのだ。だから昔から異世界生物、もといディファーがよく現れて、怪奇現象が起きる学校でちょっと楽しかったわけだが、ここ十年になって、きゅうに異世界生物が増えて、人間にまで手ぇ出すようになってしまった。おっかなくて仕方が無い。これじゃあ、観光料とって一儲けする私の計画がパアだ。』
『理事長!またそんなことを考え――――』
『うっさい。』
あ、ハゲが一蹴された。
『私の考えだと、裏で何かが動いている気がしてならん。』
・・・・・・・・・・。
『だから、お前たちの誰か異世界生物が一般世界で暮らせるためのプラスの力が強い奴が寄り代となって、一緒に攻めてきている異世界生物を倒してもらい、裏で動いている人物もやっつけてもらいたいのだ。そうじゃないと、一般世界も異世界も潰れるぞ。』
・・・・・・・・・・。
『さっきの言ったとおり、どっちかが潰れれば、もう片方も潰れる。時空のひびが広がって、一般世界がだんだん埋め尽くされて、世界がなくなってしまう。だから、主が必要なのだ。』
・・・・・・・・・・。
『つまり、そういうことだ。』
ふう。・・・・・・やっと理事長の大演説が終わった。
なんとなーく話していることは解ったが、話がありえなさすぎて、信じられない。そんなファンタジックなことがあったら、今の話は小説になるぞ?
『お前たち・・・信じてないな?』
はい、そーです!
『だから最近の想像力のないガキ共は嫌いなんだ。じゃあもういい。百聞は一見にしかず、だ。もう見ろ。見ちまえ。』
なんか自暴自棄になったなあ。だが、見ろ、とは?
『あ、言っておくが、別に襲ってはこないから、安心していいぞ。』
そういって、ガアァァァァッ、っと体育館の後ろのドアが開かれた。
思いがけずビビッてしまった。
そこにいたのは、
翼の生えた人型の生き物だった。