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第1幕 第1章  入学

 春一番も吹かなくなり、校庭の桜は満開で、俺たち入学生を快く迎えてくれるようだー。と、幻想的なことは残念ながら一切無く、まだ硬ぁく硬ぁーく閉じた蕾が、俺たちを見ていた。・・・・寒いなあ、オイ。

 校庭には、入学生数が少ないといっても、人が大勢いた。ざっと160~80人。二、三年生はもう校舎か体育館に入っているはずだから、入学生とその保護者、または極少数で教師ってところか。まあ、俺の場合、両親は仕事の都合上海外に住んでいるから、家にはいない。姉がついてくる(あの人こういうイベント好きだから、別についてきてほしいとかじゃないぞ?・・・いや別に、ツンデレしてるとかじゃないんだからねっ!)と思ったのだが、・・・大学もまだ始まっていないのだが、「行きたいのは山々だけど、今日はライブがあるからごめんね?」だそうだ。まあ、楽しんでくるといいさ。

 俺はこれからの高校ライフのことを考えた。まずは友達作りが先決だな。初っ端から孤立なんて、寂しくて兎のようにポックリ逝ってしまう。・・・それからバイトして、部活は・・・どっちでもいいや疲れるだけだし。



 入学式は滞りなく進行した。まあ、いたって普通だな。(そうじゃないと困るのだが。)

 俺は欠伸をバズーカー砲のようにぶっ放しながら、校長の長い話を右から左へ受け流していた。(古いか?)だがその眠い目をこすりながら発見したことをお伝えしよう。校長はヅラだ。だって絶対浮いてるし。・・・俺以外にも、気付いている奴は結構いたが。

 

退屈になったので、校長から目をそらすと、ふと、俺の隣の席が空いていることに気付いた。入学式が始まっているのにまだ来ていないということは、不良か、休みか、はたまた登校拒否か・・・。まあ、俺にとってはどうでもいいことか。


 退屈だった入学式も終わり、保護者たちがぞろぞろと帰り始めた。だが、俺たちは次の行事のため、おとなしく体育館で待機するらしく、教室には返してもらえなかった。どうせ帰ってもすぐ家へ帰らされるのだが。

 辺りからはちらほらと話す声が聞こえてはいるが、近くに知っている顔がいないか、元々知った顔がこの高校へ入学してきていないかで、殆ど全員黙りこくっている。・・・俺もその一人であるが。全員俺と同じ状況下にあるんだな。

 体育館の隅にあるスクリーンには、『主決会(しゅけつかい)』と大きく映し出されていた。どうやら次に行われる行事のようである。主決会?全く何のことかさっぱりだ。まずはじめに、入学式の後に何かがあるなんてことを今はじめて知ったぞ。・・・・この学校独自の特別な行事なのだろうか?解からない・・・・さっぱりだ。


 俺がボケーっとスクリーンを眺めていると、ガチャッ。と、隣で何かつぶれるような音がした。少しびっくりして隣を見てみると、先程までからだったパイプ椅子が使われていた。

 少女が座っていた。

 急いで走ってきたらしく、息が乱れており、また、座っているので定かではないが、腰の辺りまである長い黒髪もボサボサで、ところどころピョンピョンと髪がはねていた。が、えらい美人さんだった。アイドルなんか普通の一般人に見えるくらいの。

 彼女は手櫛で髪をとかしながら言った。

「あ、ごめんな兄ちゃん。驚かしてしもうたか?ごめんな~。」

 関西弁だ。生ははじめて聞く。

「いえ、大丈夫ですよ。」

「ふふ。そう?ありがと。」

あれ?関西弁じゃない? ??

「私別に関西弁じゃないのよ?少しからかってみただけ。ごめんね」

美人だから許そう。・・・・それにしてもフレンドリーだなあ。初対面なのに冗談までかますなんて。

 俺の素朴な疑問を問う。

「なんで入学式いなかったんですか?てっきり俺は休みかと・・・」

他の可能性も考えてはいたが。

「ああ、私ね、別に方言は使ってないけど、生まれは京都なのよ。中学卒業したら急に父親が転勤だー っていうから、色々手続きして、引っ越してってやってたら、今まで時間が掛かっちゃって、入学式 のほうには出られなかったのよ。あ、でも、あの頭の残念な校長先生には伝わっているわ。」

 なるほど、それでいなかったのか。

 そしてあの校長はやっぱりヅラか。

「次は『主決会』だそうですよ。」

「私も来てびっくりしたけど、そんな行事があるのね。初耳だわ。」

 やはりみんな知らないらしい。

「でも、間に合ってよかったですね。」

「そやな。危なかったわ~」

 また関西弁だ。

 彼女は小鳥のように可愛らしくクスクスと笑っていた。

「何だか楽しみですね。」

「そうね。ランドセルを始めて背負った小学一年生みたいな気分だわ。」

 すると彼女は手を差し出していった。

「ここであったのも何かの縁ね。私、井伊野奈津(いいのなつ)()。よろしくね。」

「阿坂雄一です。よろしくお願いします。」

「そんな敬語じゃなくてもいいのよ?」

「いえ、こっちのがしゃべりやすいので。」

 そう言って俺は握手をした。

 美人を目の前にして恐縮しない奴なんているはずが無い。

「そう?ならいいわ。」

 奈津美さんは、ヒマワリのような笑顔をこちらに向けてくれた。ふわっと、シャンプーかなにかの甘いの匂いが漂ってくる。笑った顔も全国の男子高校生を瞬殺できそうなくらい可愛かった。

 俺がこうして幸福な時間に浸っていると、次の行事の始まるを知らせる鐘がなった。もう少しそのままでいたかったのだがしょうがない。このままほっておかれると、逆にいつ終われるか解からなかったからまあこれでよかったのだろう。

 入学早々、女の子の友人(しかも美人)ができるのはツイているのかもしれないな。



 今となって思えば、全部ここから始まったんだよな。不運か幸運か解からないうちに。




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