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和を以て明王を制す  作者: ラー油


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25/27

25.

 「行ってきます」

 夏休みが終わって少し経った頃、僕は学校に向かっていた。

 葬儀の関係で家に戻ってきた頃には学校が始まっていた。

 だからみんなよりも少し遅いタイミングまで学校に復帰することになる。

 夏休みで一ヶ月の空白期間があり、加えてタイミングのずれた復帰なので若干緊張する。

 遠回りな通学路を通って裏門をくぐり、僕は教室に入る。

 遅めの時間に来たのでクラスメイトはほとんの教室にいる。

 「お、やっと来たな楓真」

 教室に入るとすぐに近づいてきた康誠が笑顔を向ける。 

 「久しぶりだね康誠」

 「四人で集まってから会ってないからな。それはそうと、合格おめでとう」

 「ありがとう、これでやっとスタートラインだ」

 僕がそう答えると康誠は顎を引いて鋭くて楽しそうな目を向ける。

 「大人っぽくなったな楓真」

 「そ、そうかな?」

 僕に自覚があるわけではないが、しばらく会っていないのに加え、他でもない康誠がそう思うなら本当なのだろう。

 それに僕にも心当たりがないわけではない。

 奨励会試験に加え、じいちゃんとの対局の二つによって僕の精神は多く成長した。

 「ちゃんと修羅場を潜ってきたんだな」

 「康誠が想像する修羅場とは違うかもだけどね」

 僕がそう答えると康誠が首を傾げて聞きたそうにしていたが、周りの女の子の香苗(かなえ)に介入される。

 「楓真も康誠も楽しそうに何話してるの?」

 「ん、内緒だ。男同士の秘密だからな」

 「えー、何それー」

 康誠が答えないと思っていなかったのか、露骨に不満そうな顔をする。

 「何話してたのよ楓真」

 「それは秘密だよ康誠とのね」

 僕がそう答えるとさらに不満そうな顔をされる。

 自分の思い通りにならないのと、康誠に隠し事をされるのが嫌なのだろう。

 かなり険悪な空気に黙ってしまう。

 「遅いぞ楓真、進化した俺の姿を見せようと思ったのに」

 浩一が沈黙を破るようにそう言うと、僕の肩を組む。

 あまり口にしたくない事だと思うが、空気を読んで行動してくれた。

 「なーんだ、サッカーの話か」

 どうやらサッカーそのものには興味がないらしく、重い空気が消える。

 「ありがとう、助かった」

 浩一にだけ聞こえるようにそう言う。

 「気にするな。それに俺は本気で言ってるしな」

 「それは楽しみだね」

 僕がそう言うとチャイムが鳴って、一条先生が入ってくる。

 夏休みが終わって、いつも通りの授業が始まっているが、異なる点もある。

 それは鎌倉への校外学習についての事前指導がある点だった。

 班決めや行動するルート決めなどの授業が行われる。

 既に班決めは行われていたらしく、僕は康誠と浩一と同じ男子六人班になっていた。

 ありがたい限りである。

 ルート決めでは鶴岡八幡宮から銭洗弁天に行くルートに決まった。

 テキパキと決まって暇な時間がかなりできる。

 「どうだった試験は?」

 「相手を殺す気で勝ちにいく真剣勝負って大変だなって。一瞬も気が抜けないし、努力を怠れば一気に離されていくんだと直感的にわかった感じかな」

 「怖かったか?」

 「いや、どちらかと言うとワクワクしたかな」

 「いいね、真剣勝負を楽しめないと、この先やってられないからな」

 「それは……そうだね」

 竜王を目指す道の中で、生死を分ける真剣勝負は少なくない。

 その度に怖がっていたら勝てるものも勝てないだろう。

 「これからは楓真に追い抜かれないようにしないとな」

 「油断してたら追い抜いてくから」

 「はは、それは楽しみだ」

 康誠は心底楽しそうにそう口にする。

 和奏と違って僕は圧倒的な才能も成長も待ち合わせていない。

 康誠もどちらかと言うと、才能もあるが積み重ねているタイプだ。

 そう言った意味では僕達はちょうどいいライバルと言える。

 どこかで開花するタイミングがあっても、それはずっと先のことだろう。

 少なくとも小学生の内は明確な差は出ないように思う。

 康誠も和奏とわだかまりを解消してから、すごく前向きになっている。

 今でここまでガッツリ話した記憶はない。

 競技が違えど、本気でやっている仲間というのは僕にとっても心強く、負けたくない相手だ。

 「本当に仲がいいのね二人共!」

 後ろの席に座っていた香苗は僕と康誠の様子を見て嫌味のようにそう口にする。

 香苗が康誠のことをどう思っているのか知らないが、どうして僕が康誠と仲良くしているの気に入らないのだろう?

 転校生が仲良くしているのが気に入らないか、康誠と仲がいい人間が気に入らないのかわからない。

 少なくと恋愛面で僕が障害になることはないのだが。

 聞いてみたい気持ちもあったが、聞いたら反感を買うだろうし、ろくに答えないのは分かりきっている。

 「まあな」

 康誠はそう言うとピースを作って見せる。

 誰が見ても嫌味なのは明白だが、康誠は普通に受け答えしている。

 ここまで直接的だと反発しそうなものだが、普段通りな対応すぎで逆に驚いてしまう。

 「どうかしたか?」

 「なんというか……慣れてるなと思って」

 「慣れてるってか、反応するのが面倒なだけだな」

 康誠はそう言うとため息を吐く。

 その動作で康誠の今までの苦労が察される。

 僕が邪魔者扱いされるなら女子相手なんて想像したくない。

 「ま、慣れたからこの対応ができるようになったんだろうな。そして被害を受けるのは周りなのがさらに面倒だ」

 「大変だね、本当に」

 この話をして僕は不意に疑問が生じる。

 和奏の場合はどんな対応をするのだろうか?

 西田とのいざこざの件で余裕そうだったことから、康誠と似たような対応をしそうだ。

 それとも攻撃的な一面を見せたりするのだろうか?

 僕がしばらく沈黙していると、康誠が含みのある顔を向ける。

 「……どうかした?」

 「なに、気になるなら本人に直接聞くんだな」

 康誠にそう言われて僕は急激に顔が赤くなるのがわかった。

 「な、何でわかったの!?」

 「いやいや、相当分かりやすかったぞ。言葉にしろって言われると難しいけどな」

 それを聞いて耳まで赤くなっていくのがわかる。

 「そんな恥ずかしがることないと思うけどな」

 「僕にとって思考を読まれるのは赤っ恥なの」

 僕はそう言って顔を隠すように伏せる。

 「はは、奨励会員に言われたら説得力があるな」

 康誠はそう言って愉快そうに笑う。

 夏休みが終わって日常に変化があるのではないかと不安だったが杞憂だった。










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