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和を以て明王を制す  作者: ラー油


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22/28

22.

 「じいちゃんはこれから元プロ棋士として指す。元とはいえプロはプロ、まだ六級の子供に負けるわけにゃいかん」

 僕が駒を並べているとじいちゃんはそう口にする。

 それは本気で指すことを意味し、今までの孫と指していた対局とは違うということだ。

 ばあちゃんや母さんを部屋から出したのも、真剣勝負にするためだろう。

 駒を並べ終えると、じいちゃんはゆっくりと身体を起こして姿勢を正す。

 正座をし、背筋を正す。

 こんな動作であれ熟練を感じる。

 心配で止めようと思ったが、一連の所作に品があり、目を奪われる。

 厳格で格のある姿勢、僕は心配すら無粋なものだと理解する。

 「よろしくお願いします」

 じいちゃんが落ち着いた低い声でそう言うと、僕も頭を下げる。

 そして一手目に角道をあける。

 最初から居飛車を指すと決めるのはもったいないと思った。

 じいちゃんはゆっくり右腕を上げ、飛車先の歩兵を人差し指と中指で挟み、手首のスナップを効かせ、一つ前に指す。

 じいちゃんからの居飛車の宣言に僕は一度じいちゃんを見る。

 表情と目線から感じることは途方もないほどの思考をしていることだった。

 目の前にスーパーコンピューターでもあるんじゃないかというオーラがある。

 僕は一度息を大きく吐く、そして飛車先の歩兵を突く。

 その瞬間、じいちゃんは右腕を上げる。

 「パチン!」

 じいちゃんは一手目と全く同じモーションで、さらに飛車先の歩兵を突く。

 これによって居飛車が確定する。

 僕も飛車先の歩兵を突いて居飛車を確定させる。

 「パチン!」

 じいちゃんは角の横に金を跳ねる。

 それから僕は角を右斜め前に置き、じいちゃんが角道を開け、僕は銀を角の後ろに跳ねる。

 この定石によって角が交換され、角換わりが成立する。 

 そしてスムーズに囲いを行なっていくと角換わり腰掛け銀の戦形になる。

 違いといったら、僕は玉を元々角のあった位置に移動させたのに対し、じいちゃんは角の横に置いた金の横に玉がいる。

 45手目、僕は桂馬を跳ねて攻めを開始する。

 頭の中にある二つの盤で高速で読みを進める。

 「パチン!」 

 即座に桂馬から銀を逃したのを確認すると、僕は飛車先の歩兵を突いて飛車先の歩兵を交換する。

 ただ、じいちゃんは歩兵を飛車からの守りに使ったので持ち駒はない。

 「パチン!」

 じいちゃんは逆側の六筋の歩兵を突いたので、僕はその歩兵を取る。

 「パチン!」

 じいちゃんは桂馬の先にある歩兵を突く。

 この歩兵を取ると手薄になった銀がタイミングによっては角で狙われて具合が悪い。

 取らなくても似た形になるが、じいちゃんが余計に一手指さないといけないから悪くはないだろう。

 この盤面になった以上、居飛車にこだわる必要もないだろう。

 行動を開始する準備として僕の飛車先にあるじいちゃんの桂馬の前に歩兵を打つ。

 「パチン!」

 じいちゃんは即座に玉の横の金で歩兵を取る。

 これによって玉の守りが薄くなる。

 そして僕は逆側の六筋の歩兵を突く。

 僕の方針は居飛車から四間飛車の位置に動かすことにしたのだ。

 「パチン」

 じいちゃんは飛車先の歩兵を突いてくる。

 僕の同歩に対して歩兵を打ってくる。

 これを取ると桂馬が跳んできて厄介なのでスルー。

 僕は飛車を四間飛車の位置に動かす。

 「パチン!」

 じいちゃんは即座に飛車先の歩兵で同歩。

 このまま進行を許すと玉の頭が狙われるので分が悪い。

 この盤面は手持ちの歩兵の多さで有利を取るのがいいだろう。

じいちゃんの飛車先に歩兵を打つ。

 「パチン!」

 僕は同飛車に合わせてもう一度歩兵を打つ。

 この意図としては――

 「パチン!」

 意図としては同飛車で取ると角を飛車に当てつつ、四間飛車の攻撃に繋げるが飛車を下げられて対処される。

 とりあえずこれで玉が狙われるのを防ぐことができた。

 地道な攻防じゃ僕が不利だ。

 だから現状を変える為に大きく攻める必要があるだろう。 

 僕は飛車先にある歩兵に角を打ち、じいちゃんの飛車に当てる。

 あれ?僕今――

 「パチン!」

 じいちゃんは僕の飛車の前に歩兵を打って、叩きの歩。

 何かしらの意図があるのだろうが、取らないと負けに直結するので取る。

 なぜじいちゃんが飛車を叩いたのかは不明だ。

 「パチン!」

 じいちゃんの次の一手は僕の予想外のものだった。

 さっき突いた桂馬の歩兵を伸ばしてきた。

 銀に歩兵が当たる形になるが僕は飛車を取れて、馬も作れた。

 僕の方が有利な気がする。

 「パチン!」

 じいちゃんは歩兵で銀を取って、と金で王手。

 僕は玉でと金を取る。

 「パチン!」

 じいちゃんの次の手は右側の四筋で、銀で桂馬を取った。

 僕は歩兵で銀を取って桂馬と銀の交換。

 「パチン!」

 じいちゃんは持ち駒の角を打つ。

 銀がいなくなったことで角道が開き、王手がかかる。

 僕はどう受けるか考えるが、思考がままならない。

 全て見透かされているような気持ちになる。

 じいちゃんの持ち駒と戦況を考えるに不用意に受けるより、上に逃がした方がいいと判断。

 「パチン!」

 じいちゃんは香車を取って馬を作る。

 このままだと下から迫ってくるので、僕は馬の後ろに飛車を打つ。

 「パチン!」

 じいちゃんは僕の飛車の横に桂馬を打つ。

 そしてこの一手から全てが繋がっていくのがわかった。

 歩兵を突くタイミング、持ち駒を考慮した指しまわし、全てが格上だった。

 そして指すスピードの速さに僕は自分がどんな手を指しているかわからなくなる。

 結果的に僕は127手で敗北した。


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