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プロローグ

「殿下っ!申し訳ありません」

 怒ってる。

 当然だ。

 皇太子は、こちらを振り向くことなく、私の手を引き、ずんずん廊下を進んでいく。

 いくら軽い生地を使ってもらったとはいえ、ドレスでは足がもつれそうだ。

 

「殿下。本当に申し訳っ…」

 急に手を引かれ、大きな柱の影で、強引に唇を重ねられる。

 皇太子の息が上がっている。

 私も苦しくて、口を開ける。

「あっ」

 柔らかく、熱いものが押し込まれた。

 驚いて目を開けると、熱を帯びたアメジストの瞳に見つめられていた。

 水音を立て、どんどん深くなっていく。

 何てか弱いの、エイヴィル。

 見た目以上に固い皇太子の胸板は、押してもびくともしない。

「ふぁっ」

 何とか顔を逸らすも、顎を持たれてしまう。

 皇太子は、息を整えるようにゆっくりと、だが、怒りを込めて呟く。

「その顔。ノア・ウェールズにも見せているのか」

「なにをっ…」


「公女様!」

 軽やかな足音に、金属の擦れる音が混じっている。

 皇太子はピタリと動きを止めた。

 私は、振り返りたい衝動を必死に抑え、皇太子を睨みつけたままでいる。

 瞬きをしたら、安堵で滲んだ瞳から、涙がこぼれ落ちるのが分かるから。

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