持続可能な星
これは、遥か彼方の砂漠に囲まれた惑星の話
「言っとくけど、あんた達のじゃないからね。大人は何食べても死なないんだから」
「もちろん承知しています。本当に、ありがとうございます」
風に舞う砂ぼこりに紛れて火薬のにおいが漂う町で、男女が一組。その二人は老人に向かって頭を下げていた。家に戻る男の手には小さな巾着を持ち、家に入ると女にそれを渡した。
二人にはこどもがいた、一人は男、もう片方は女の双子だった。その母親は持っている巾着を開いて、中から木の実のような餅のようなもの(どちらにしろ、食べ物であった)を二つ取り、こどもたちに与えた。
「良いですか。これはおなかが空いたときだけ取って食べてくださいね。わかりましたか」
そう言うと、こどもは言葉ではなく元気よく頷くことで返事をした。
果てのない銀河のどこかにあるこの星では、長らく戦争が続いている。豊富な石油資源ゆえの過度な工場開発による砂漠化、資源の不足が招いた、起きて当たり前の戦争だった。地球よりも重力が小さいこの星の住民は非常に体がもろく、数世代前にある科学者が発明した光線銃を防ぐ手段がなかったので、犠牲者は今までの戦争とはまるで比にならなかったのだ。
「おとうさん。あっちにあったお山さんはどこにいっちゃったの?」
食事を終えて、妹が窓を見つめながらそう父親に尋ねた。戦いが長期化したときに、この一帯を丸ごと吹き飛ばすための核兵器を打ち出す為にやむなく整地されたのだろう。
「大丈夫。きっと、お前が成長期から覚める頃には森が広がっているよ」
この星のほとんどがこんな始末だ。逃げる場所などない。
「おかあさん、いつ家のテレビはまた見られるようになるの?」
砂嵐の止まなくなったテレビのリモコンで遊びながら、兄が母に聞いた。子どもにとって、つまらない軍事報告しかされなくなってしまったラジオや新聞など、決して面白いものではない。
「あなたが大きくなってから、またテレビを発明したらいいじゃない。それまで、忘れないでね」
そんなやり取りをしているうちに日が暮れてしまった。父親が暖炉につけた火が、穏やかに燃えていた。
「ほら、お前らもそろそろ成長期だろう。早く寝なさい」
父親は二人のこどもを急かして床に付いている引き戸から地下室へ入らせた。
「あとこれ。食べ物もすべて持っていきなさい。……少しだけなら、欲張っても良いですからね」
母親は最後に二つの巾着をそれぞれに持たせ、二人をぐっと抱きしめた。
それが終わるとこどもは同じタイミングで『おやすみなさい』と言って、床下の階段を下って地下室へ入った。
引き戸を占めた後、静かになった部屋で、夫婦はそれぞれ向かって椅子に座った。
「あの子たち、大丈夫ですかね。ちゃんと眠れたのか……」
「いずれ寝るさ。俺の時もそうだったけど、まだ小さな子供だからな。一か月もすれば疲れて寝るよ。大丈夫。酸素が無くても成長睡眠の時は生きていけるのは知ってるだろう」
「そう、だといいですね……」
それだけ言って、母親が暖炉の火を消した。外で銃撃戦が始まったらしい。
「これから私たちはどうなるんでしょうか」
「多分新しい油田開発地まで連れていかれて、殺されてしまう」
月明りだけではよく見えなかったが、夫はきっと悲しげな表情をしていると察した。対して妻の方はと言えば、安堵のため息を吐いていた。
「それなら、大丈夫ですね。あの子たちが大人になるころには資源には困らないでしょうね」