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ブラックサンタ、恩返し  作者: 社不旗魚
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新生活

X年、四月五日。

外の風もさわやかになる頃だろう。今日から私の新生活が始まる。私はミニマリストであるから引っ越しの準備もさほど大仰なものではなく楽に終わった。部屋の広さはならないからか少々手狭に感じるのに加えて、隣の部屋につながる壁が薄い影響で近隣住民とのかかわりにも気を使わなければいけないが、どちらにしても、新しい発見を期待している。


X年、四月十一日。

今日初めて隣人と顔を合わせた。片方は思っていたよりも親切そうな見た目の中年の男で(Kという名前らしい)、実際に礼儀正しそうな話し方をしていた。もう一方は一言でいえば無愛想な壮年人だった。こちらはひげを豊富に残し虚ろな目をした顔をしていて、どうも話しかけにくかった。この先共有された食堂などで会えたらもっと話をしてみたい。


X年、七月七日。

最近は夜になると外の様子が少し騒がしくなったように感じる。警察の人が訪ねていろいろと聞かれたことにはどうやら、近所の住人の誰かが行方をくらませたらしい。毎日夜になっても捜索を続けるので騒音だけでなくビカビカとライトの光が窓から差し込むせいで、しばらくはぐっすり寝れないだろう。今度厚めのカーテンを買っておこう。


X年、十一月三十一日。

今回の作品はうまくできた方だと思う。彫刻としてこれを売れば金になるかもしれないが、家の壁に施してしまったので管理人にバレるのはよくない。……タイトルをつけるなら、『希望の道』といったところだ。暗くなった部屋にあるこの作品は一見すると真っ暗で先の見えない未来のように見えるかもしれないが、そんなのは素人中の素人だ。未来なんて皆何もわからない暗闇のようなものなのだ。明るく先の見えた未来なぞ何が楽しいというのだ。


Y年、一月十三日。

寒さが本気を出してきた今日この頃、ここに住み始めてもうすぐ一年が経とうとしているが、いい加減今の仕事にも嫌気がさしてきた。いや、Kなど優れた友人にはたくさん恵まれて楽しく過ごせてはいるのだが、それを手放してでも成し遂げたい強い衝動が自分の心にまとわりつくような感覚に襲われるのだ。小さい頃は親に強要されスポーツや勉強の身に専念させられていたが、もとより自分は芸術の方が向いていると気づいていた。そう言えば、ちょうど半年ほど前に行方不明になった男が遺体になって発見されたらしい。銃で撃たれた跡があったそうだ。こんな治安の悪いところから出て、もっと広い世界へ旅立つその日も遠くない。



ーーY年、一月十七日。

「それで、現場はここですか」

到着した警官は、先に着いていた部下に状況の説明を求めた。

「どうやら、この穴から犯人は逃げて行ったそうです。現場に捨て置かれたスプーンで時間をかけて掘っていた、と推測されています」

「まるで映画だな、そんなのは。脱走した奴はどんなのだ」

「はい。誇大妄想で精神科病院に通っていた患者で、去年の四月にこの刑務所に収監されたそうですね」

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