夢で逢ってるから
「へ、変な夢……ですか?」
「はい。今朝お聞きした時は覚えていないとおっしゃっていましたが、先程PCで夢の事について調べてましたよね?
あ、失礼。覗くつもりは無かったのですが、たまたま目に入ってしまいまして。
それに、今朝の態度も何か隠し事をしている風でしたので……」
来小野木さんには隠し事出来ないな〜
ってか良く見てるな、と言うより俺に嘘が付けないだけか。
まあ、来小野木さんになら話しても大丈夫か、変にバカにしたりはしないだろうし。
「じ、実は来小野木さんの言う通りです。最近少し変わった夢を見ています」
「それはどんな?」
来小野木さんには二日続けて見た夢の内容を包み隠さず話した訳だけど、その間茶化すでも無く、呆れるわけでも無く寧ろ凄く真剣な表情で聞いてた。
「こんな感じです……来小野木さん?」
「あ、失礼……成程、正直に話して頂き感謝します」
「あ、あの〜何故夢の内容がそんなに気になったのでしょうか?」
フゥ……
ん? 何だろ、なんか考え込んでる?
でも何だって夢の話しなんか聞きたがったんだろ。
「ちょっと失礼します」
「え! ちょ何を!」
「動かないで」
こここ来小野木さん、顔が近いです!
しかも俺の顔を両出で挟んで……う、動けない!
ままままさか、ちゅちゅちゅチューとかですか!?
ここ会社ですよ! 真昼間ですよ!! ムードもへったくれも有りませんよ!?
って、あれ?
来小野木さん俺の前髪を上げて顔を凝視してる……
「やっぱり……貴方……“ライト”なんですね?」
「へ? あ、はあ。そうですけど」
どゆこと? って普段は上の名前しか呼び合わないから、俺の名前が来斗って忘れてた?
でも今の言い方って……もしや来小野木さんと昔会った事が有るとか?
「失礼しました」
あ、来小野木さん離れちゃった、少し名残惜しい……
「あ、あのどう言う事でしょうか? 俺には全然話しが見えないんですが……」
「これで……分かりませんか?」
おお! 来小野木さんがアノ野暮ったい眼鏡を外した!
やっぱり思った通り、眼鏡を取るとすげー美人だ。
うんうん、俺の目に狂いは無かった……
ん? 何処かで見た事が有る様な……?
「まだ分かりませんか? 意外と鈍いですね。
私のフルネームは覚えていますか?」
「え、えーと……」
御免なさい! 正直覚えていません!
最初の自己紹介で聞いた様な気はしますが、初対面で女性の下の名を覚えるなんて、そんなハードルの高い事俺には無理です!
「覚えていませんか、少し残念です。
では改めて自己紹介させて頂きます。
私の名前は来小野木麗夢、貴方の夢に出て来た“レム”です」
「……あーーーーーー!!!!!」
た、確かに!
髪や目の色は違うし、当たり前だけど耳も長く無いけど、来小野木さんの顔は間違い無くレムだ!
ってじゃあ何か? 俺は来小野木さんを自分の夢に登場させて、クソ恥ずかしい勇者様ごっこに付き合わせたって事!?
ぐあー何やってんだ俺、つーかこんな事知られて明日から来小野木さんとどんな顔して合うってんだよ!
「落ち着いて下さい。それと話しはまだ終わっていません」
「は、はひ……」
これ以上何が有るんですか? もう俺のライフはゼロですよ。
いっそ殺して下さいよ……
「落ち着いて良く聞いて下さい。貴方の見ている夢……
実は全く同じ内容の夢を私も見ています。
貴方と同じ日から」
「……え? それってどう言う……」
「私も正直な所良くわかっていませんが、どうやら貴方と私は夢を共有しているようなのです」
いや、全く意味が分からないんですが?
夢を共有? 映画やラノベじゃ有るまいし、そんな非現実的な事が有るわけ無いじゃん!
でも、これで今朝、突然夢の事を聞いて来た理由は分かった。
きっと来小野木さんも奇妙な夢を見て、誰かに相談したかったんだろうな。
「正直私も混乱していますし、起こり得ない事だと思っていました。
しかし他人と同じ夢を見ると言う現象は、なくも無い様です。
実例ではもっと親しい間柄で起こる事が多い様ですが……例えば双子や兄妹、それに恋人同士とか……」
こここ恋人!?
俺と来小野木さんが!?
い、いや落ち着け。来小野木さんはあくまで、例として挙げただけだ。
決して俺と恋人同士になりたいとか言ってる訳じゃ無い!
それより、そうかー他人と同じ夢見る事って有るのか。
だとしたら、そんなにおかしな事じゃ無いって事なのかな?
「実際の所科学的根拠は無いようですし、この手の話しは当人同士の思い込みと言った側面が大きい様です。
しっかり話しを聞いてみると、食い違う所も多々有るようですし」
「は、はあ……えーと、来小野木さんは……俺の話しを聞いてどうでしたか?」
「寸分違わず全く同じ夢でした」
「じゃあやっぱり珍しい事なんですか?」
「私も専門家では有りませんから、断言は出来ません。
でもやはり有り得ない事、と私は思います」
う、うーん。
何だか良く分からないけど、不可思議な事が起きてるってのは何となく理解した。
来小野木さんが嘘を吐いてるって可能性もなくは無いけど、そんな事する理由も特に無いだろうし。
「そこでこの奇妙な現象が、ただの勘違いなのか或いは実際に起きている事なのか確かめる為に、チョットした実験をしてみたいと思います。協力して頂けますか?」
「は、はい、勿論です」
「では先ずこの紙に1から100の、いえこの際縛りは無くしどんな数字でも良い事にしましょう。とにかく好きな数字を一つ書いて、お互い相手には見えないように交換します。
もしまたアノ夢を見た際、夢の中で自分の書いた数字を言い合い、起きたら書いた数字と照らし合わせて確認する。
如何でしょう」
成程、書いた数字は書いた本人じゃ無いと分からないから、本当に夢を共有してるとしたらお互い数字は合う筈って訳か。
割と簡単に出来て、そこそこ信憑性も高いように思える。
手品とかではたまに見るネタだけど……来小野木さんマジシャンとかじゃ無いよね?
「分かりました、やってみましょう。
でもそれだと、事前に相手の数字を見ちゃうかも知れないですよね。
見てしまうとその数字が夢の内容に影響を与えて、えーと上手く説明できないですけど……」
「言わんとしている事は何と無く理解しました。
ではお互いズルが出来ない様にこうしましょう。
これは私の手帳です、この手帳には鍵が掛けられるようになっています。
お互い書いた紙をこの手帳に挟んで鍵を掛け……手帳は秋月さんにお預けし、鍵は私が。
逆ですと、私の手元に予備の鍵が有る可能性が残りますから」
来小野木さんの私物を預かるってのはちょっと緊張するけど、これはあくまで実験の為だからな!
それにこれで格段に信憑性が上がった……と思う。
と、言うかこれ以上の案も今の所思い付かないし、更に信憑性を上げたいってなら、その方法を考えるのは次回以降の課題って事で。
「……分かりました、それで行きましょう」
「はい、それとなのですが……」
「はい?」
どうしました来小野木さん。
なんか言いにくそうにモジモジしちゃってますが……
「そ、そのですね? もし万が一何か不足の事態が起きた場合、連絡が取れないと困ると思うんです」
「え、あ、はあ……」
不足の事態って……なんか起こる可能性有るのか?
いやまあ、実際訳分からん事が起きてる訳だから、更に何か起きないとも限らないけど。
えっと、来小野木さんがスマホを出して来たんですが……
もしかして……
「れ、連絡先を交換して頂けたらと」
こ、来小野木さん。そんな怯えた小動物みたいな顔して頼まれたら、断れる奴なんかこの地球に存在しません!
「お、俺のなんかで宜しければいくらでも!」
「! 有難う御座います」
そして、そこでその笑顔ですか!
良い加減惚れちゃいますよ!
そうなったら責任取って下さいね!