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95.美女と野獣も悪くない――辺境伯

 驚いたことに、ヴィーの女主人としての教育は完璧だった。早朝から働く使用人が一段落する朝食前に、着飾り過ぎないワンピースで現れる。髪を結い上げていないのも、好感度が高かった。威圧感が少ないそうだ。


 執事アントンは、かつて領地の家令だった。息子のニクラスに跡を譲り、執事として俺について王都へ向かったのだ。その理由がまた、聞いて驚きだった。万が一にも俺が軽んじられることがあれば、その貴族と差し違えても倒す気だったと。


 年寄り一人、いざとなれば切り捨てなさい。そう言われた衝撃は今も胸にある。だから国王陛下の前に呼ばれても、堂々としていた。そんなアントンはもちろん、家令を継いだニクラスも。ヴィーの完璧な対応に満足げだ。


 問題があるとすれば、性的な知識だけが妙に足りないことか。小説や既婚のご婦人方の話で耳年増になり、おかしな理論を振り翳して騒ぎを大きくする。まあ、そんなところも可愛いと思うのは、さすがに俺も壊れているが。


 午後から寄子貴族や周辺に領地を持つ貴族との顔合わせがあったが、誰もが見惚れて彼女に絡め取られてしまった。あの美しさは暴力的だ。田舎の貴族が太刀打ち出来るわけがない。そこに加え、エールヴァール公爵家で鍛えられている。


 何人か意地悪な質問をする者が現れたが、彼女は平然と切り返した。俺の外見を揶揄し、美女と野獣扱いされたが、ヴィーは怒って機嫌を悪くする無様は晒さなかった。


「あら、この人が野獣なら私は最高の夫を手に入れたのね」


 笑って切り返したくらいだ。まあ、彼らが帰ってからクッションに穴を開けるほど暴れたのだが。やはり中央貴族の感情制御は素晴らしい。とても真似できる気がしないな。


 辺境伯家は広大な領地と、侯爵と並ぶ権力を持つ。今までは金がなくて狙われることは少なかったが、これからは違うだろう。ヴィーの実家がもぎ取った賠償金だけでも、数世代は遊んで暮らせる金額だった。


 彼女はその金で領地を豊かにしようと言い出した。牛や馬を増やし、田畑の開拓に支援金を出し、街へ商人を呼び込んで豊かさを得る。金さえあれば叶うが、あれはヴィーのお金だ。そう告げた途端、笑顔で言い返された。


「私のお金は、アレクシス様のお金よ」


 俺は天使か女神を妻にしたのだろうか。


 新しいベッドの納品予定を聞きながら、もう一晩我慢かと溜め息を吐いた。だが、逆を言えば今夜さえ乗り切ればいい。気合いを入れて、明日のために早く寝る方針を示した。


 早朝から騎士団と顔合わせを行い、お昼から街の住民との触れ合いが予定されている。隣の部屋で眠っている妻を思い、一人のベッドで寝返りを打った。狭いわけじゃない。十分広いのだが……俺とヴィーが使うには、確かに狭いな。断じて俺だけが悪いんじゃないぞ。ヴィーだって……!


 やばい、余計なことを思い出してしまった。興奮する熱を散らすため、難しい本を開いて読み始める。夜明けはかなり遠い。

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