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78.一騎打ちと呼ぶのも烏滸がましい

 アレクシス様からゾクゾクする寒気を感じ、肩を抱いて唇を引き締めました。これが殺気という感覚でしょうか。肌がぴりぴりします。


 忙しく走り回る妖精は、瞬いて何かを知らせてきました。でもごめんなさい。さすがに意味は分かりません。ただ危機感というより、喜びに近いような。


「いざっ、参る!」


 アレクシス様の声に、王子が慌ててスラリと細い剣を振り上げました。ですが、アレクシス様の一歩の踏み込みが深く、慌てて後ろに下がりました。それをもう一歩踏み込んで帳消しにし、大きな剣を上から振り下ろしました。


「王子殿下!」


 船上から慌てて叫ぶ将軍らしき人の声が聞こえます。重なって、ガキンと派手な金属音が鳴り響きました。


 受けようとした剣が折れて、後ろにひっくり返った王子の顔の脇に大剣が突き刺さっています。地面は派手に割れ、隙間から海水が吹き上がりました。ということは、海へ繋がる大きな亀裂なのですね。ドラゴンの鱗を貫いた剣技は健在でした。


「っ、ひ、ひぃいい!」


 情けないお声ですこと。凛々しいアレクシス様に恐れをなした愚者の叫びと思えば、悪くはありませんね。呆れ顔の国王陛下が額に手を当てて、大きく息を吐きだしました。本当に見苦しいですわ、と同意を求めたらお顔が引き攣っています。王妃殿下は「まったくよ」と頷いてくれました。


「王子殿下をお救いしろ」


 いえいえ、そちらから攻め込んだ挙句、一方的に決闘を申し込んだんですけれどね。護衛のマント男も何やら肩書きがあるようですね。彼が命じた途端、何かが風に乗って飛んできます。白い、粉でしょうか?


「妖精除けだ。妖精の加護がなければ、美しく非力な姫に過ぎん。行け!」


 将軍の号令で兵士達が接岸を試みます。ですが、この粉の正体を知る私達は苦笑いするだけでした。さっきから妖精達がそわそわしていたのは、この粉のせいだったのですね。


 ちらちらと窺う彼や彼女らに頷いて許可を出しました。大喜びで粉を回収し始めます。あれは妖精にとって嗜好品なのです。特殊な製法で粉にしたハーブですが、猫のまたたびに似た効果があると聞きました。私達ならお酒でしょうか。


『我が子らよ、粉の礼に奴らを送ってやれ』


 妖精王様のお姿は見えませんが、声が聞こえました。直後、強風が吹き始めます。帆を畳んでいるにもかかわらず、船は転覆しそうなほど傾いて移動を始めました。


「無事に着けばいいですね」


 微笑んだ私の言葉に、集まった他国の王族や貴族は顔色を青くして頷くだけのお人形でした。





 数日後、軍船は嵐に遭遇してほとんどが沈んだと報告が入りました。この季節は本来海が荒れる時期です。そこを強行して突破したのですが、帰り道の強風が寄り道をしたようですね。竜巻に激突したとか、幽霊船のようになった軍船が帰港したとか……噂に尾鰭が付いて届きました。


「帝国から、あれは属国の暴走であった故、公式に詫びが入った。王子の家族は国を没収され、平民落ちしたそうだ」


 国王陛下からの報告を受け、私は用意されたお茶に口をつけました。王妃殿下は嬉しそうです。


「妖精王様ったら、悪戯が好きなんですね」


 ふふっと笑って、近づいた結婚式に想いを馳せました。邪魔者も片付きましたし、素敵な結婚式になりますわ。

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