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72.助けてくださいとは書きません

 私の書いたお手紙は封をしないまま、国王陛下の検閲を受けます。内容を確認した上で、王家の封蝋を押して発送されました。それぞれに護衛まで付いた緊急連絡です。手紙を書くのに徹夜してしまい、欠伸をしながら朝食へ向かいました。


「ヴィー、今日は寝ていた方が」


「アレクシス様との朝食が優先です」


 ここは譲れません。妻として、夫が一人で朝食を摂る状況を認めるわけにいきませんから。しっかり決意表明すると、アレクシス様は困ったような顔をなさいました。でも存じておりますのよ。アレクシス様は私が寝ていないからと、隣の部屋で起きていらっしゃったでしょう?


 妖精達が教えてくれました。でも知らないフリをしておきます。一緒に朝食を食べて、今日の予定をお伺いしました。アレクシス様は鍛錬と書類のみ。アントンに確認すると、急ぎの書類はないそうです。


「私の我が侭を聞いてくださいませ」


 上目遣いがポイントで、確か手を口元に持ってきて。シベリウス侯爵夫人に教わったお強請りのポーズで、アレクシス様をじっと見つめました。真っ赤な顔で固まったアレクシス様に近づき、お膝の上に座ります。まだ動けないみたいですね。


 このお強請りポーズは、とても効果的です。ただ効きすぎるようなので、多用はやめることに決めました。


「アレクシス様、お願い。こちらへいらして」


「ああ」


 素直に手を引かれて立ち上がる彼を誘導し、私室へ入ります。扉を閉める前、アントンがしっかり一礼するのが見えました。ええ、分かっておりますとも。寝不足で鍛錬したらアレクシス様がケガをなさるかも知れません。しっかり休ませるのが妻の仕事です。


「こちらです」


 ぽんとベッドを叩くと、ようやく気づいたようで足を止めました。むっと唇を尖らせ、体重をかけて腕を引っ張ります。これでお兄様は転がったのですが、アレクシス様は抵抗なさいました。びくともしません。悔しいですわ。


「一人では怖くて眠れないので、隣で寝てください。ダメ、ですか?」


 肩に耳が付くほど傾ける。このお強請りも、シベリウス侯爵夫人直伝でした。夫人の教えは実戦的で助かります。


「昨夜の手紙はどこへ送ったんだ?」


「一緒に眠ってくれたら教えます」


 ようやくベッドに引き込むことに成功しました。寝るのに邪魔なので、ワンピースを脱ぎます。顔を逸らさず見てくださってもいいのに。でもアレクシス様らしいですね。


 並んでベッドに横たわり、さり気なく出された腕を枕に距離を詰めました。下着姿なので、素肌の触れる面積が多くて嬉しいです。胸元についた傷を手でそっと覆い、温めるように撫でました。


「あのお手紙は、各国の元求婚者様へ送りましたの。人妻になった私を、手籠にしようとする極悪非道な男がいると……お別れの挨拶です」


「お別れ?! いや、それはどういう」


「助けてくださいと書いたら、何かを要求する方が出るでしょう? ですから、海の向こうへ連れ去られたら二度と会えませんね、と書きました。きっと地下牢に監禁されて、二度とお日様を拝めないで死ぬのね。そう嘆いたら、皆様が助けてくださいますでしょ」


 確信を持って言い切れる。私が自分で選んだ方と添い遂げる分には、皆様も諦めがつくでしょう。私が幸せなら……そう言ってくださった王族もおられます。でも強引に拉致されて監禁されるとしたら? それは話が別ですわ。


 皆様、王族や高位貴族だけあって、戦力や財力に権力もございます。ぜひ私のために使っていただきたいの。それでも足りなければ、妖精王様にお願いするとしましょう。


 眠くて最後まできちんとお話しできた自信はありません。でも温かな腕枕と優しい抱擁の中、私を否定するお言葉は聞こえませんでした。

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