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20.婚約者と認めてもらえました

 レードルンド辺境伯は、元々存在している家名です。歴史は古く、我がエールヴァール公爵家と並ぶほどでした。ただ、事故や病などの不幸が続き、直系は絶えてしまったのです。


 先代の辺境伯閣下が、隣国の兵と睨み合いをしている間に、唯一の跡取り息子が病死しました。意気消沈しながらも隣国の兵を追い払った辺境伯は、帰還してすぐに火事で親族を失います。これで辺境伯閣下を残して、レードルンド家の血筋は絶えました。


 すでに老齢に差し掛かる辺境伯閣下は、養子縁組を王家に申し出られました。血は絶えても、辺境伯家の領地と名を残そうとなさったのです。国境を守る立派なお役目なので、当然、強さが求められました。着飾った令息が跡を継いでも、辺境では役に立ちませんもの。


 そこへ英雄が生まれました。絶妙のタイミングです。他国との戦が一段落したところへ襲いかかった災厄――ドラゴン。我が国の童話にも出てくる悪役。圧倒的な力と得体の知れない恐怖を連れて、辺境を蹂躙する恐ろしい生き物でした。


 このままでは国が滅びる。戦える者を募り、冒険者や騎士、一般市民に至るまで。誰かや何かを守る立場の方々が集まりました。その中で結果を残した英雄アレクシス様に、空席となる辺境伯家を預けた。国王陛下のご英断ですわ。


 ちょっとばかり、相談と称して口を挟みましたけれど。この程度は誤差です。アレクシス様は自らの才覚で、未来を切り開かれたのですから。


「愛しております。お願いですから、私を妻にすると仰ってください」


 祈るような気持ちで口にした言葉に、今までなら謙遜や否定が返ってきました。ですが、この時初めて……アレクシス様は真正面から私と目を合わせてくれた気がします。


「一度妻になれば、離縁は許さない。それでもいいか?」


「はいっ! はい、もちろんですわ」


 勢い込んで返答し、慌てて淑女らしさを装います。すっ飛んでしまった猫をかき集めて被り、微笑んで見せました。


「ならば、婚約者殿をエールヴァール公爵令嬢と呼ぶのはおかしいな。ロヴィーサ嬢辺りか」


「いいえ、ヴィーとお呼びくださいませ。一度は呼んでくださったではありませんか」


 お父様とお母様、お兄様しか呼ばない愛称です。それも家の中で、家族だけの時の呼び名でした。一歩外へ出れば、公爵家の体面があります。誰かに勝手に呼ばれるのも嫌なので、ヴィーの名は封印してきました。


「俺が呼んでもいいのか?」


「アレクシス様にこそ、使っていただきたいですわ」


 胸が高鳴り、笑みを作らなくても自然と浮かんできます。アレクシス様は気づいておられないでしょう? 辺境伯家を継ぐまで、あなた様はご自分を「俺」と称しておられた。それを「私」に改めています。


 私の社交辞令の微笑みと同じで、作られた言葉遣い。それが崩れて「俺」が顔を出しました。心を開き始めた証拠ですね。


 お父様、お母様、お兄様! ヴィーはついに愛する殿方の心を掴みましたわ!!

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