∞とgのお話 ~集会所での一幕~
うどんは小麦粉があれば家庭でも簡単に作れます。
材料は『うどん粉』と明記している製品か中力粉がお勧めです。
なければ薄力粉と強力粉を半分ずつ混ぜても作れます。
霜月透子様主催の「ひだまり童話館」「開館8周年記念祭」参加作品です。
お題「8の話」からタイトルを決めました。
別の小説『ランコ推参! ~キャンプ場での一幕~』等の登場人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
「ソヨカちゃん。小麦粉をそのボウルにいれようか。ダマにならないように、ザルでふるいをかけてね」
「うん。わかった、ランコさん」
ソヨカちゃんがボウルにザルを重ねて、あらかじめ量っておいた小麦粉を入れていく。
ザルをゆすると、ボウルの中に粉が落ちていった。
ランコちゃんが、オレのほうにビーカーをさしだした。
「ミキオくんはこれに水をいれてきて。この線までで200ccだよ」
「オッケー。ランコちゃん。オレにまかせといて」
水道のところまで行って、言われた通りに線のところまで水をたぷたぷにいれた。
あれ? 200ccって言ったよな。
オレは水をくんできて、ランコちゃんとソヨカちゃんのいるテーブルにもどってきた。
今日はオレたちは町内会の集会所に来ている。
手作りのうどんのイベントなんだ。
会場にはテーブルが8こあって、それぞれ3~4人のグループに分かれている。
オレとソヨカちゃんは小学生で同じクラス。
ランコちゃんは大学生だそうだ。
「ランコちゃーん。水くんできたよー。この線でいいんだよね。ビーカーには200mlって書いてるけど」
オレがきくと、ランコちゃんはクスッとわらった。
「200ccと200mlは同じだよ」
「そうだっけ。なんで言い方がちがうんだろう。っていうかccってあまり言わないな」
オレが言うと、ソヨカちゃんもうんうんとうなづいた。
「ランコさん。あたしも学校でミリリットルでならったよ。でも、お父さんやお母さんは水とか牛乳の量をccっていうの」
「そうだね。ccはあまり使わなくなったかな。昔の呼び方かもね」
「ランコちゃん、なんでccを使わなくなったの?」
「手で書いたときにcとゼロをまちがえることもあるみたいだ。続けて書くと8を横に倒したみたいに見えるかもね。ところでミキオくんとソヨカちゃんは、立法センチメートルって習った?」
「うん。知ってる」
「1つの辺が1センチのサイコロの形が1立法センチメートルだと思う」
オレにつづいてソヨカちゃんが答えた。
ランコちゃんは「そうだよ」と言って、話をつづける。
「ccっていうのは立法センチメートルのことだ。これとミリリットルは同じなんだよ。1リットルは1つの辺が10センチメートルの立法体、つまりサイコロの形だ」
「あ、そっか。1リットルだと1つの辺が10倍になって、体積は1000倍になるんだ」
ソヨカちゃんが言った。うん。オレも同じことを考えてたよ。
「で、ミリが千分の一だから、ミリリットルとccが同じなんだね」
「そういうこと。ソヨカちゃん、頭がいいね」
「えへへ……」
ランコちゃんにほめられて、ソヨカちゃんは少してれてる。
オレもおなじ計算ができてたよ。ほんとだよ。
「じゃあ、ふたりとも。小麦粉が入ったボウルに水を入れようか。水は少しだけいれて、粉をよくまぜよう。様子を見ながら少しずつ水を入れていくよ」
「「はーい」」
オレが水を入れて、ソヨカちゃんがまぜていく。
小麦粉が小麦ねんどみたいになっていく。
作り方の紙を見ると、耳たぶぐらいのかたさにするらしい。
「あれ? ランコちゃん、変だよ。さっき入れた水だけど、この紙には水が200gって書いてる」
「あ、ほんとだ。グラムって重さだよね。計りを使った方がよかったかな」
「あれ? ふたりとも知らなかった? 1ミリリットルの水の重さは1グラムなんだ。だから同じだよ」
「あ、そういえば聞いたことあるような……」
ソヨカちゃんは知ってたのかな。
ランコちゃんが説明を続けた。
「グラムという単位は、摂氏4度での水の重さで決められたんだ。じっさいは温度によって少し変わるけどね」
「ふうん」
そういえば、前にキャンプでごはんを作った時に言ってたな。
水をあたためると上にあがるって。
「ランコちゃん。水はあたためると軽くなって、冷やすと重くなるんだよね」
「正しく言うと、あたためると少しふくらむんだ。ということは、同じ大きさで考えると軽くなるってことだね」
「あ、知っている。密度っていうんだね。ふくらむと密度が低くなって軽くなるんだ」
ソヨカちゃんが答えた。
うん。オレも知ってた。
「じゃあ、ふたりにクイズ。0度の氷と4度の水はどっちが重い? 同じ大きさの場合だよ」
「ランコちゃん。氷の方が温度が低いから重くなるよね」
「うん。あたしもそう思う」
「じゃあ、ちょっと考えてみて。コップの水に氷を1こ入れました。氷はうく? しずむ?」
氷が水にしずんでいるのを見たことないな。
「そりゃ、うくだろ」
「ミキオくん。水にうくってことは、水より軽いってことだよ」
「あれ?」
「何か変だね?」
オレとソヨカちゃんは首をかしげた。
ランコさんは少し笑った。
「たいていのものは冷やすとちぢむけど、水と氷だけは例外。氷になるとふくらむんだ」
「あ、そういえば……ペットボトルのお茶をこおらせたら、ふくらんでた」
オレがいうと、ソヨカちゃんも続けた。
「前にニュースでやってたけど、雪の日に水道管の水がこおらないようにタオルをまいてたよ。こおったら水がふくらんで水道管がこわれるのかな」
そういう話をしながら、オレたちは小麦粉の生地をコネるのを続けていた。
ランコちゃんに教えてもらって、大きなビニール袋にいれた。
ランコちゃんは床に新聞紙をひいて、生地の入った袋を置いた。
「おうちでやるときは、ビニール袋はぶあついものを使ってね。お米の袋がいいかも。じゃあ、ミキオくん。これをふんでみて」
「よし。まかせてっ」
オレは言われた通り、ビニール袋をよくふんだ。
しばらくして平たくなった生地を袋から出してたたむ。
袋にもう一度入れて、今度はソヨカちゃんがふんだ。
それを何回かくり返した。
「このぐらいでいいだろう。じゃあ、15分ぐらい生地を休ませるよ。おうちで作るときは最低で2時間。もっと言うと、ひとばん休ませると、さらにおいしくなるんだ」
「オレたちも15分休憩だね。ランコちゃん。外の公園で遊んでていい?」
「ランコさんも行こうよ」
「そうだな。じゃあ、外に出てよう」
生地の袋の口をしっかりとじて、テーブルに置いておく。
オレたちは集会場の前にある公園に出てきた。
「あれ? ランコちゃんだ。こんにちはー」
公園にいた小さい女の子がランコちゃんに声をかけてきた。
赤いぬいぐるみを持っている。テントウムシかな?
「やあ、レミちゃん。それに山田さんも、こんにちは」
ランコさんは女の子とその子のお母さんに挨拶している。
この子、前に町内会のイベントに来てたかな。
「ランコちゃん、あそぼ?」
レミちゃんはランコちゃんの手を引っぱってる。
その子のお母さんは「ムリいわないの」ってたしなめてるな。
「十分くらいならつきあえるよ。ミキオくんとソヨカちゃんもいい?」
「うん、オレはいいよ」
「あたしも。よろしくね、レミちゃん」
オレたちは公園の小さいすべり台で遊んだ。
すべり台はランコちゃんには小さすぎたので、ぬいぐるみをあずかって見学してる。
レミちゃんはすべり台にあがると、ランコちゃんとお母さんに手をふってからすべりおりた。
「いい時間だな。ミキオくんとソヨカちゃん、そろそろいくよー」
しばらく遊んだ後、ランコちゃんが公園の時計を指さしていった。
レミちゃんはランコちゃんからぬいぐるみを受け取り、母さんと手をつないた。
これからお買い物に行くみたいだ。
「ランコちゃん、ソヨカちゃん、ミキオくん、またねー」
レミちゃんはぶんぶんと手をふっている。
オレたちはレミちゃんたちとわかれて、集会所に戻った。
「いよいよ。うどんづくりだ。生地を伸ばして切っていくよ」
ランコちゃんが大きなまな板に小麦粉をパラパラとふりかけた。
すりこ木みたいな丸い棒にも小麦粉をかけている。
「この粉は『打ち粉』っていって、生地がくっつかないようにするものだ。今回は小麦粉だけど、家でやるときは片栗粉の方がいいかも」
「ランコちゃん、片栗粉の方がおいしいの?」
「打ち粉はゆでるときに落ちるから、味はかわらないよ。小麦粉だと生地にくっついてベタつくことがあるんだよ。じゃあ、ミキオくん。この棒で生地を伸ばしてみて」
ランコちゃんは袋からだした生地を半分に分けて、まな板にのせた。
オレは生地の上で棒を転がして伸ばしていった。
まな板ぐらいの大きさになったところで、打ち粉をふりかけて半分にたたんだ。
もう一回、棒を転がして伸ばす。
オレが伸ばした生地をどけて、まな板にもう半分の生地をのせた。
こっちはソヨカちゃんが伸ばしていった。
「じゃあ、切っていくよ。手を切らないように気をつけてね」
「わかっているよ。ネコの手だろ?」
オレは左手をグーにして生地を軽くおさえて切っていった。
もう半分はソヨカちゃんが切った。
「よくできました。じゃあ、打ち粉をかけてほぐしていこう」
ランコちゃんが切り終えた麺に小麦粉をかけた。
オレとソヨカちゃんでほぐしていった。
「はい。できあがり。ふたりともよくがんばったね。今回は少しだけ味見して、残りは家で食べてね。なるべくたっぷりのお湯でゆでた方がいいよ」
ランコちゃんは出来上がった麺をとって、台所の方に持って行った。
他のグループのうどんもちゃんとできたみたいだ。8つのグループの作品をまぜるのかな。
しばらく待っていると、ランコちゃんがおわんをのせたおぼんを持ってきた。
「はい。ゆであがったよ。できたて手打ちうどんです。めしあがれ」
ネギとワカメが少し入っていた。
「「いただきまーす」」
オレとソヨカちゃんは出来立てうどんを食べた。
しばらくして、ソヨカちゃんはワリバシで一本の麺をつまみあげた
「ミキオくん。この形がヘンなのは、もしかしてミキオくんが切ったやつじゃない?」
「ほんとだ。あ、オレの方に入っている細いのってソヨカちゃんの切ったやつかも」
自分たちの手作りうどんはとてもおいしかった。
おなかも心もぬくぬくになったかも。
企画のテーマの1つに『8の話』があったので、タイトルに8に似た字を使っています。
童話ジャンルですが、小学校低学年には難しい内容かも。(汗)
漢字は小学五年生以上のものは、ふりがなをつけてます。
ランコさんの登場する別の小説や、「ひだまり童話館」企画の参加作品はこの下の方でリンクしています。