第6話 悲しき双子はケーキがお好き?
「・・・榊様・・・。」
「何?」
特別生徒会室でソファーを陣取っている少年は首だけ話し相手である彼の方に向けた。
「生徒会室でタバスコをお飲みになるのは止めてください。」
生徒会メンバーである二年の阿久津は淡々と言うと換気の為に窓を開けた。
昼間に榊が散らかしたタバスコを拭き終えたばかりだったからというのもあるが流石に辛いものばかりでは体に悪いと思ったからだ。
榊は少しむっとしたがすぐに瓶を置き生徒会長に課せられた仕事をこなしていく。
「いつも思うんだけどさ・・・阿久津はどうして傍にいてくれるの?」
それは純粋な質問だった。その質問に阿久津は驚きを隠せなかった。
いつも一人の彼が誰かの事を気にするなんて思っても居なかった。
いやそんなことはないか。秋月雄介・・・雄介さんの事だけはずっと気にしていたか。
「生徒会長の傍にいるのが務めですから。」
「アキヅキユウスケが生徒会長にまたなればいいって阿久津も思ってるんじゃないの?」
彼は雄介さんのことをフルネームで呼ぶ。それは過去に雄介さんのことが好きで恋人であった事もあったのに裏切られてしまったからだろう。
彼はただ雄介さんへの復讐の為だけでに生徒会長になった。
決して帰ってくるはずのなかった人間が帰ってきてしまった。
そのことに復讐心の他に恐れを感じているのだろう。
まぁなにがどうあれ阿久津の気持ちは変わらなかった。
「俺は生徒会長が誰であろうとその人の為に尽くすだけです。冬芽さん・・・決してあなただからということも雄介さんだからということもありません。俺はただ自分の持つ芯を崩したくないんです。」
下の名前で彼を呼んだのは初めてだった。いや彼が下の名前で彼の家族以外の人間から呼ばれたのも初めてだったのかもしれない。
「阿久津ぅ・・・。」
榊は嗚咽を上げて泣いていた。振り向くこともなく・・・。
「なんですか?」
その時阿久津は榊冬芽という人間がどれほど脆くて馬鹿な人間なのかということがわかってしまった気がした。
まじで子供だということを思い知った。
「そこ・・・掃除しておけ。」
彼の指したほうは赤く染まっていた。どうやらさっき置いたタバスコ瓶をひっくり返してしまったらしい。
「・・・分かりました・・・はぁ・・・。」
阿久津は盛大にため息をつきながら掃除に取り掛かるのだった。
もうすこしこの少年が素直になるのは一体何時のことやらと思いながら。
「やっと出来たぞ!!」
お祭り騒ぎの調理室。
どうやら夜野のケーキが完成したようです。
スポンジケーキを3回作り直してやっとなんとか食べれる代物になったので茜の作ったクリームを塗り、季節のフルーツを乗せとりあえず完成。
誰も味見していないかなりカオスな状態で落葉にプレゼント。
「まぁ茜のを味見したら美味しかったし大丈夫だろう。」
どんな自信だ・・・。
「料理は同じレシピでもその人のうまい下手で味が変わるのが醍醐味なんですよ。」
雄介はにこにこと微笑んでいる。
「言っとくけど・・・私味には煩いわよ?」
見た目からしてまずそうだと判断できるケーキにフォークを刺しすくうようにして口に運んだ。
ふわりと甘い香りが漂う。
ラズベリーの入った甘酸っぱいクリームとちょっと生か焼き過ぎのスポンジケーキ。
落葉は食べた途端顔をしかめた。
「・・・不味い。茜の作ったクリームは美味しい。」
感想はそれだけだ。夜野はショックだったが落葉はケーキを食べる手を止めない。
「・・・不味いなら無理して食べなくていいぞ?」
どんどん食べ進め、ついには完食した。
「不味いけど食べれないことはないから。」
「あっ・・・ああ!!」
夜野は落葉の言葉にガッツポーズをした。
ケーキ作戦・・・ひとまず成功?
茜ちゃんが作ったケーキはとりあえず美味しかったようです。