第2話 悲しき双子に泣かされよう!
「あの、私なんでも信じるんで貴方達が一体何者なのか教えてください。」
何かを捨てかけている茜ちゃん。それはいったいなんだろうか…。
「ふーむ…良いだろう教えてやる。俺はルシファー、悪魔だ。悪魔といってもただの悪魔じゃねぇぜ?悪魔長、すなわちサタンだ。雄介は地獄にうっかり落ちちまった人間。んー一回死んでるから幽霊っていってもおかしくないかな。」
雄介の酸素不足地獄からどうにか逃げおおせた夜野は、自信満々に答える。
「中二病…。」
当然の反応です。
「理解してくれなくて構いません…。それが普通の反応ですよね下僕。」
さりげなく酷い雄介。
「そうだ。それで三谷落葉は何処にいるんだ?」
本題に戻る夜野ていうか、こいつにとってミカエル以外どうでもよかったりする。
西藤ちゃんは顎に手を当てて考え込む。
「部室…かなぁ…。」
そんなこんなで、
彼女に案内された部活とは、ファンタジー愛好会だった。
「何だこれ…。」
二人を好奇な目で暖かく(?)見守る部員達。
「秋月雄介が帰ってきたぞ〜!!」
突然誰かが叫びだした。
「雄介もしや生前はここの部に所属してたのか?」
「それが…僕の生前の記憶は曖昧で…。悪魔狩り用の鞭を磨く事が日課だったとしか覚えていなくって…。」
こいつ真性の変態か…。
西藤ちゃんは学級新聞を取り出す。
「いろいろな噂が飛び交ってましたが、私が聞いた情報では秋月先輩は一年生にも関わらずそのきれる頭と強靭な体力を用いこの赤薔薇白百合学園を占拠してたらしいです。」
雄介が…ねぇ…。ちらりと彼の顔を見る。
「そうですか。きっと僕は頭を打って人格崩壊してしまったのでしょうね。」
雄介は悲しそうに微笑んだ…ように夜野には見えた。
「雄介…俺は今の雄介が一番好きだぞ。」
夜野はそういうと雄介を抱きしめる。ファンタジー部女子部員は、はぁはぁしながらそれを見守っている。
「何なんですかいきなり…。気持ち悪い。」
雄介は困った挙句夜野の背中に手をまわす。そして背中に針を突き立てた。
「いて。」
部員達はかすかに笑っていた。
西藤ちゃんは顔を染めながら良いな…なんて思っていて…「べ、べつに羨ましくなんか///」とつぶやいていた。
「で、三谷さんって?」
もぞもぞと部屋の一角の塊が動いた。長く黒い髪が動くたびに揺れる。
茜が作っている途中のぬいぐるみが転がる中で、綺麗な顔の少女がむくりと起き上がった。
「三谷…それ、私の名前。」まだ眠いのか、立ち上がる事はなく床にぺたんと座って、冷たいながらも美しい声で答えた。
少し大人びた雰囲気を纏う彼女こそが三谷落葉だった。
「またミカエル〜とかいって抱きしめてはいけませんからね。」
雄介が冗談交じりに、ぼそりと呟く。
夜野は、恍惚状態に陥っていた。美しい……。雄介の声など聞こえていなかった。
ゆっくりと近づいていって静かに、手を差し伸べる。
「あなたは…俺の…理想の人だ…結婚してくれ!」
「私は三谷落葉。よろしく。」
彼女は興味なさそうに手を差し出してきた。社交辞令として…常識人として。というかのように。
雄介はただその様子を見守る。
夜野はいつまでも握っていたいと思ったが相手が不快そうな顔をしていたので手を離した。
「それじゃあ。私もやる事あるから。」
そう言い残すと彼女はくるりと回りもとの席へと戻っていった。
なんというスルースキル。部員全員が思ったそうだ。
「じゃあー夜野。そろそろ帰りましょうか?」
西藤ちゃんは部活に出るというので二人は寮へと向かった。
ここは全寮制なのである。
勿論部屋は雄介と二人部屋。
「でも予想外でしたよ。」
ふかふかの2段ベットに腰掛け、雄介は日課の鞭磨きをしながら言う。
「何が?ってかそれ置けよ。」
上を希望した夜野は、上から顔をのぞかせる。
「貴方がさらっと三谷さんの手を離した事ですよ。」
「…当然だ。俺は紳士だからな!」
「賢明な判断ですね。あの方はミカエルさんの生まれ変わりですがミカエルさん自身ではありませんから…。まぁ記憶なんぞあるわけもなくいきなり抱きついたりしたら…」
「最悪一生話せなくなるもんな。俺だって賢いんだからその位わかるもーんだ!」
「はいはい…。」
そうして1日目の夜は更けていった…。