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小心者と大胆家出少女(世界規模)

全力プロデュース!異世界美少女がアイドルになるまで。


ぽつぽつぽつ、ゴーゴーゴー。ぽつぽつぽつ、ゴーゴーゴー。ガー。

ヒロシの乗っている夜行バスがトンネルに入った。オレンジの明かりが超速でぽつぽつぽつと流れていく。

なんとはなしに見ていたカーテンの隙間の外の風景だが、そうなってしまえば面白味もないうえに眩しいだけなので顔をひっこめた。

時刻はわからないが、もうとっくに深夜だろう。

ヒロシが見ていた窓以外は外との気温差で真っ白に曇っている。もし窓に当たったらさぞかし冷たいだろうと感じて、カーテンをしっかりと閉めた。

一人1枚のブランケットをかけ直して貴重品の入った鞄を引き寄せる。一眠りしよう。どうせサービスエリアに停まるまですることはない。停まったらちゃんと起きられるのだし、バスで寝れない人間でもない。本当は今までも起きている意味なんて全然なかった。

鞄を抱き締めるようにしてヒロシは眠った。

トンネルをぬけようとしている。バスは恨めしいぐらいに従順にヒロシを地元まで運ぼうとしていた。



停車した感覚があって、意識が浮上した。前のドアにつながる通路はカーテンで閉められている。まだ降りるなということだ。ギリギリに起きたわけではないとわかって安堵した。

運転手がようやく通路のカーテンをあけた。すでに上着と鞄を身につけていたヒロシは足元に気をつけながらドアを目指す。まだ最初のサービスエリアだけれど、トイレは毎回行っておきたかった。むしろ眠っている人達がすごいと思う。気にしていないのだと思うと少し羨ましくもあった。出発前ギリギリまでトイレに行っていたヒロシとは大違いだ。おかげで移動の際はいつもバタバタしている。

停車したサービスエリアは、トイレと自動販売機だけの簡素な場所だった。売店がないので明かりも少ない。そして何よりやっぱり寒い。

こういうところはあんまり長居しない方がよいだろう。さっさと済まして戻ろう。真っ暗な駐車場側を見ながらそう感じた。暗いというのは、それだけで不穏だ。


「あれっ…。」

用を無事に足し、バスに戻ろうとしたとき。さっきは気づかなかったが暗闇に誰かがうずくまっている。女だ。せめて自動販売機の前なら明るいのに、あんなところで何をしているのだろう。

まだ時間、あるよ、な。

一度気づいてしまった手前、無視することはできなかった。うずくまっているのも気がかりだ。

わざと足音をたてながらゆっくりと近づいてみた。反応はない。

「あの。」

あと3歩でたどり着く。

「大丈夫ですか。」

2歩。

「あのー…。こんなところでうずくまっていたら危ないと思うんですけど。」

一歩手前まで近づいて、ヒロシはようやく相手が口元をおさえていることに気づいた。

サービスエリアで口元おさえ。

警戒させまいとしていたが、仕方ない。横に座りこんで鞄のポケットをさぐってみる。レジ袋ぐらいならでてくる自信があった。

と、そこでようやく女性がこちらを見た。

「あの…えっと吐きたいわけじゃないので。」

「えっ、あ、そうですか。」

「はい。」

驚いた。ぞんがいしっかりとした口調だ。なんなら少し気圧された。

暗いとはいえ、ここまで近づくと女の顔がしっかりと見えた。おやっと思う。綺麗な顔立ちだ。二重の線がパキッとしていて、目の周りはまつげがびっしりと取り囲んでいる。それだけだと派手な顔立ちに思えるのだが、鼻筋がスッとしていて、控えめな口と顎が清楚系として納めさせていた。

「あの、何か。ついていますか。」

しまった、のんきに顔の分析をしてしまっていた。知らない相手にこんなにじっくり見られるなんて不快だったに違いない。そう思うとヒロシはなんだかとてつもなく恥ずかしいことをしていたような気持ちになった。勝手に頬に熱が集まっていくし、目線は泳ぎだす。あぁ、またか。

「えっとそのあ、えっと。き、綺麗なひとだナァと…いやその、ヘンな意味じゃなくて、ですね。純粋にその…純粋ってのもおかしいですよね、ハハハ。あ、っと。つまりその、…すごくキレイですねっ!顔!!なんか、こんな暗いところじゃ、不審者がでたりしてもおかしくないかなァって思うぐらいには、アハ、き、綺麗なお顔ですね…。」

冷静になったときには遅かった。やってしまった。ほらみろ、ポカンとしてるぞ。ドン引きだよ。何やってんだ、ヒロシ。これじゃあお前が不審者だ。

「すいません、こんなこと言いたかったんじゃないんですけど…。バスの時間があるのでもう行きますね。でもここは暗くて危ないのも本当ですから。」

いたたまれない。どうして自分はいつもこうなんだろう。介助が必要かどうかだけ確認してとっとと戻れば良かったのに。

踵を返したときだった。「あ、えっと。ありがとうございます。」

今のは、お礼だろうか。…何に対して?そもそも自分にむけられたものなのか。思わず周りをみまわしたが誰もいない。

「僕ですか。」

「そ、のつもりだったんですけど。」

「なんで?」

「なんでって…。」

心配、してくれたでしょう?

驚いた。どうやら意図は伝わっていたらしい。しかも特に世話をやいたわけでもなく、気づかっただけなのに。

動揺のまま固まっているヒロシを見て、女は怪訝な顔を深くしている。

こんなことがあっていいのか?自分のしたかった事が伝わるだけでこんなに嬉しいなんて。なんだか凄く照れくさい。もしかしたら今後の運全部使ったかもしれない。むしろ今までだって今日のために不運だったのかもしれない。そう、あれだってこれだって…。

「あの…?」

…ハッ!

危ない危ない、トリップしていた。

「すいません、あの、本当にバスの時間なのでもどります。お姉さんも早く戻った方がいいですよ。」

「…戻れないんです。」

へ?

「…戻れないって…バスがわからなくなったんですか?一緒に探しましょうか?」

「そうじゃなくて。…実は私、この世界の人間ではなくて…。」


ヒロシは、やはり自分には運がないことを知った。こいつは、ヤベー奴、だ。

ありがとうございました。

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