やっぱり要るよね
リシャックとの会話で得た情報は隆一の頭を更に混乱させ、一周回って落ち着かせてしまった。
異世界転移・・・
最近特にブームようなのようにゲームや物語の世界で描かれるアレだ。
普通は転移者はチート的な何かを持ってるものだが・・・
「普通だな」
「「普通だね」」
普段から身体を動かすのが好きな隆一は、平均的な日本人よりは運動能力は高いものの、人間離れしているような身体能力はない。
試しに身体を動かしてみても、何か変わった事はない。
転移、妖精、ゴブリンときて、魔法は?と試そうとしても、そもそも魔法の概念がない隆一には試す事すら出来なかった。
「なに、このヘルモード・・・」
思わず呟く隆一にリシャックが追い討ちをかけた。
「「リューイチ、食べ物持ってるの?」」
「・・・ない」
「「僕は食べなくても平気だけど・・・」」
「・・・まあ、海だし何とかなるか」
幼い頃から磯遊びをしてきた隆一にとって、海辺はホームグラウンドと言っていい。
浜から岩場に移動して磯場を見て歩く。
異世界といっても磯の物は日本とそう変わらないらしい。
むしろ海のキレイさと、磯の豊かさは比べ物にならない位此方が上だった。
とはいえ、ゴブリンのようなモンスターがいる異世界なのだ。海の中にどんな危険な生き物がいるかわからない。
海に入らず磯際の小さな巻き貝を拾っていく。正式な名前は覚えていないが、確かイッコ貝と呼ばれていた。一見すると小さなサザエに見える貝だが、大きくなってもせいぜい3㎝位にしかならない。海水で湯がくとなかなか旨い貝だ。
一見アルマジロの背中に見えるような直径5㎝ほどのヒザラガイも、身は固いが旨味は強い。あとは簡単に取れる亀の手を幾つか採って・・・
そこでふと気がついてポケットとの中から100円ライターを取り出した。
カチッカチッ・・・
ガスはあるようだがスパークが飛ばない。
「げっ・・・」
そしてもう1つ・・・器もない
よけい強く感じる空腹に、取り敢えずヒザラガイを甲羅のような殻から外して海水で洗い口に放り込んだ。
磯の風味と歯ごたえを楽しみながら、しかし、すぐ飲み込んでしまった。二つ目はガムのように噛みながら、しかしこれもすぐ飲み込んでしまう。3つめをモグモグかみながら、ようやく少し落ち着いた。
「器はまあどうにかなるけど、まずは火だよな」
水を貯めれる器がなくても、別に岩の窪みでもあれば、煮炊き出来るやり方はある。
真水もリシャックの泉にいけば手に入る。ナイフもあるから、流木や倒木を削れば、時間はかかるだろうが器も作れるだろう。
その作業も火があれば全然捗るはずだ。
やはり問題は火の確保だった。