森の中へ
森の入り口が近付くにつれ、砂浜から芝生へと地面の様子が変わってくる。
少しは歩きやすくなるのだが、その先、森に一歩入れば片方が素足という状況はただの地獄だ。
見渡して入り口の樹の皮をナイフで大雑把に剥ぐ。
蕗のような大きな葉の草が生えていたので、何枚か採って、さらにその茎も抜いて・・・
「あくまで仮って事で・・・」
樹の皮を葉でくるんでインソールがわりにして、それごと別の葉で足をくるみ、茎を使って足首の所に固定する。
森歩き用の簡易シューズというわけだ。
耐久力は紙と変わらないが、ないよりましだろう。
森の地面は落ち葉に隠れて足を傷つけるようなものが混じっていることも、毒を持つ虫等も多いし、小さなキズから思わぬ菌が体に入ることも多いのだ。
足元に転がっていた割と頑丈そうな樹の棒を広い、杖代わりにしながら、隆一はゆっくりと森に入って行った。
砂浜と一転して、ひんやりした空気が肌を包んで行く。
足元は結構湿っているようだ。今朝の嵐の影響だろう。
しかし、砂浜に森から水が流れ出している様子はなかったし、水音もない。
隆一は暫く考えて辺りの気を見回し
「お、あれなら・・・」
天然の雑木林でちょくちょく見かける二又の樹を見つけて近寄った。
おそらく元は3又以上に別れていたが真ん中の樹が何かの影響で枯れ、倒れたのだろう。
「どうかな」
覗くと深さ10センチ程度のウロがあった。
野生の猿はこういった所に貯まった水を飲む事があると聞いたことがあったのだが・・・
「そう上手くいかんわな」
確かに湿ってはいたが、飲めるような量の水があるわけではなかった。
次の方法が無いわけではないが、器がいる。
「まあ試しだ。やってみるか」
先ほどの様な蕗を使って今度は杓を作った。
葉の部分を適当に折りながら茎の所に纏めて別の茎で結びつける。
勿論子供のオモチャ程度の物だが、今はないより遥かにましだ。
次いで、足元の水気を含んだ木の葉を掴んで絞ってみる。
ポタ・・・ポタポタポタ
お、行ける
流石にそこまでの量の水が絞れる訳ではなかったが、何回も繰り返すうちに杓の中には一杯程度の水がたまっていた。
濁った水が上澄みと沈殿ゴミに別れるのを待って、恐る恐る口をつけてみる。
「うま・・・」
蕗香りと仄かな水の甘さが、口腔を包んで行った。