魚釣り
ある程度まとまった量の食料を確保するには、やはり魚は必須だ。
隆一はそう考え、ポケットの中の物を出して岩の上に並べた。
何種類かのハリスと釣り針。
釣りが好きで海に行くときには必ずポケットに入れている。
道糸は流石に入っていないが、フロロカーボンハリスの6号が一巻き入っていたのは幸運だ。本来は夜釣り用だが、これなら十分に道糸代わりになる。
一番よく使う1.5号のハリスを取り出して、6号ハリスに直結仕掛けて止めた。
ふと思い付いて直接6号ハリスに釣針を結ぶ。
竿はないが、岩場のすぐ下の海の中はそれなりに切り立った感じで、足元でも3~5ヒロ(4.8~8m)程度はありそうだ。
これなら竿無しでも何とかなるだろう。
そう判断し、手のひらサイズの平べったい石を拾ってくる。
次に岩場でヤドカリを探す。小さな巻貝に紛れて、スーっと移動するヤドカリは簡単に見つかる。
10匹ほど捕まえると、先ほどの石でヤドカリの貝殻を割ってヤドカリ本体を出して行く。
一匹を針にかけ、平らな石の腹に当て、針に続くハリスを石に巻いていく。
巻きながら、他のヤドカリも糸に巻き込んで行く。8mほど巻き、取手代わりに輪結びをつくる。最後に仕掛けをナイフで切り離したら完成だ。ハリスは結構重要なツールだ。なくさないように、残りをポケットにしまい込む。
完成した仕掛けを持って岩場の端に立ち、輪結びの所を握る。
そして糸を巻いた平石を海に落とした。
平石は回転しながら海中に落ちていく。時おり糸に巻き込んだヤドカリを撒き餌として撒き散らしながら、餌のついた針は海底付近まで一気にたどり着いた。
マキコボシと言われる釣り方だ。
船や切り立った岩場等で有効な"伝統漁法"の一つである。オモリもなく仕掛けの沈みが悪いと、本命の深ダナ(魚のいる、または魚か、餌を補食する水深域をタナという)までなかなか仕掛けを沈められない。餌取りをかわしながら一気に、しかも撒き餌を同時に海中で行えるこのマキコボシは、今回の場合なかなか有効だった。
事実、アタリはすぐに来た。
周りに、釣人が来れるような環境ではないのだから、魚もスレてはいないだろうと思ったが、やはり警戒心は低めの様だ。
狙い通りとばかりに、アワセると、グンと手応えがかかった。
ここで、予想外の事が一つ。
「い、痛たたたっ・・・!!」
ハリスが手に食い込んだ隆一の口から悲鳴が上がる。
どうやらそれなりの型の魚が食い付いたらしい。
あわてて足元の木の棒を取り輪結びに通す。
ゴボウ抜きするのを諦め、やり取りしながら弱らせる。
やがて、弱ったチヌが、水面に顔を出した。
しっかり空気を吸わせ
「エイ!」
最後は波のタイミングに合わせて海から引き抜くのだった。