サバイバル飯1
火の起こし方で一番メジャーかつ難易度が高いのは恐らく火錐だろう。
柔らかい木の板に硬い木の棒を錐のようにゴリゴリと当て回す。
しかし、やったことがある人は分かるだろうがそうそう簡単に火が着く事はない。
磯場の岩場のカゲで、まさに今、隆一はその事実を実感していた。
慣れてる人は10秒もあれば火が着くらしいのだが・・・。
諦めかけた隆一は、ふと思い付いてズボンのポケットに手を突っ込んだ。一番深いところに少したまった糸埃を摘まんで取り出し、少し焦げた板の窪みに入れる。
再び木を回し・・・
「来た!」
煙と焦げた臭いが立ち上がる。すかさず脇においてあった枯れ草を板の上におき、細く長く、息を吹き掛ける。
小さな炎がチロチロと沸き上がった。
ほっとしながら流木と、倒木の枝を交互に火に置く。
やっと火が安定したのをみて、すぐ近くの岩の窪みを使って、集めた岩や石でカマドを組んでいく。
簡単なカマドはすぐに組めた。太めの流木を置き、その上に木屑を撒き、木の皮や枝を重ねて行く。
焚き火から火のついた枝を抜き取り、焚き火の下に放り込んだ。
やがてカマドに火が落ち着く。
「「凄いね、道具も魔法も使わないで火を起こせるんだ」」
スマホの中のリシャックが感心したように声をかけた。
「まぁ、ギリギリだけどな」
かろうじて暗くなる前に食材と火の確保ができた事に、隆一自身、心底ほっとした声で答えた。
「「でも鍋もないのにどうやって貝を湯がくの?」」
「ああ、やり方があるんだ」
言いながら別の岩の窪みに木の葉を敷き詰め、次いで海水を手ですくってきて、そこに入れていく。ついでに海草もカサ増しを兼ねて足し入れた。
採ってあった貝や亀の手をこの中に放り込む。
「「??」」
頭の上に盛大にクエスチョンマークを浮かべたような顔で、リシャックが隆一の作業を眺める。
隆一は最初の焚き火の中から拳大の石を木の棒で掻き出した。出てきた焼け石を二枚の木の板を使って挟み、海水の窪みに放り込んだ。
ジュワァァ
盛大に水蒸気を上げながら海水が一気に沸騰する。中の海草も鮮やかな色に変わった。
「「へぇぇ!!凄いね!!」
リシャックの歓声をドヤ顔で聞きながら、湯がかれた貝や亀の手を箸代わりの木の枝でつまみ上げる。
先ずは亀の手。柔らかい袋の部分を摘まんで外し、中のプリンとした身を取り出す。
「はふっ、美味っ!」
いつの間にか、降るような星空が頭上に広がっていた。
アウトドア好きの隆一には、最高のシチュエーションと感じただろう。
人心地ついた様子で、隆一はこの陸にきて最初の食事に舌鼓を打つのだった。