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俺氏、一流の詐欺師になりたくて

俺は、宮本浩平(みやもと こうへい)


絶賛、就職活動中だ。


七三分けの髪型と、黒スーツ以外特筆すべきところはない。


一部、『汝が本体は眼鏡なり』などとほざく愚か者もいるのだが。


そんなことは、海にでも投げ込んでおこう。


さて、今日も今日とて就活中なのだが。


「君、不採用ね」


俺のどこに文句があると言うのだ、人事の三下よ。


まだ、まともな志望動機しか話していないじゃないか。


だが、俺も良識人。


大きく息を吸って、気持ちを落ち着かせよう。


「どこが問題だったのか、後学のために教えていただけませんか?」


「君、志望動機の一文字目から復唱できる?」


「はい、『御社のような詐欺グループに入り、一流の詐欺師を目指すこと』と申し上げましたが?」


「どこに、我が社が君を採用する理由があるというのだね?」


「全てにおいてですが?」


「その根性だけは、見上げたものだな」


何を言う。


どこに非難されるべき要素があると言うのだ。


それにしても、これでちょうど記念すべき100社目か。


今日も今日とて、即日不採用の言い渡し。


いつになったら、俺は詐欺師への道を開くことができるのだろう。


自分で勝手にやれ?


ノウハウなくして務まるわけがなかろうに。


やれたとしても、数日後には檻の中と相場は決まっている。


さて、駄目なものは仕方ない。


さっさと諦めて、次を探すか。


まずは、事業の不透明な会社から検索をかけて、と。


「はい、それでは宮本さん。 志望動機は何ですか?」


探せばそれなりにあるもので、もう次の日には面接だ。


「えー、御社が、世間で『極悪非道な詐欺集団』だとの噂があり、一流の詐欺師を目指す私と致しましては、ぜひご一緒に仕事をさせていただきたいと……」


「あー、はいはい、わかったわかった。 じゃあ、そこの契約書に適当にサインしといて」


何1兆円の借用証書にサインさせようとしてんだこら。


だが、俺も詐欺師を目指す者。


これしきのこと、常識だ。


「終わりました」


軽く偽造するなど、造作もない。


名前を、知らないやつに変えてやった。


ジョン・スミスと。


そして、不思議なことに不採用通知が来た。


何が悪かったのか、今でもよく解らない。


やはり、一流の詐欺師への道は遠い。



今日も今日とて、就職活動。


だが、今日は何だか様相が違っていた。


「お婆さん、どうしましたか?」


醜悪な面をした老婆が、玄関の前で踞っていた。


「足を……足を痛めてしまいまして……」


泣きそうな顔をするな、気持ち悪い。


「それは大変ですね。 (闇の)救急車お呼びしましょうか?」


俺とて詐欺師の端くれ。


チャンスがあるならば、積極的に詐欺へと誘導していかなければ。


「いえ……そこまで大層なものではありませんので、少し休ませていただけると……」


……俺の企みに気づいたのか?


やはり、俺はまだまだか。


修行しなければ。


鞄から詐欺師必須の貸金証書(1000万円)を取り出してボールペンを添え、醜婆に差し出す。


「では、これにサインお願いします」


「いえいえ、少し中で休ませてもらうだけで十分ですので……」


チッ、引っかからなかったか。


……と思ったが。


何だこの醜婆、俺を杖にして立ち上がりやがった。


「それでは、少しお邪魔させていただきますよ……」


その顔は、獲物を捕えた獣のような目で……やりやがったな。


こいつ、足の痛みは嘘か。


俺の家に居座り、何かを強要……ほう? 詐欺か!


一流の詐欺師を志願するこの俺に、詐欺を以て勝負を挑むだと?


いいだろう、やってやろうじゃないか!!


「おや、このまま病院(臓器売買所)まで歩いていかれますか?」


「いえいえ、それには及びませんよ」


「しかし、大事に至らないか私は心配でして」


「おや、それなら願いが叶うブレスレットがありまして……」


「なぜそれをご自分で使われなかったのですか?」


「他人の願いしか叶えられないのですじゃ」


「ほう? それは大変でしょう。 私の願いを叶えてくれるネックレス、お一つ1000万でどうでしょう? まともに売ると5000万円もしますが、今回は特別に、ご老体だけに特別価格でお譲りしますしょう!」


「いやいや、老い先短いこの老婆には必要のないことですじゃ。 このブレスレットを使って、どうぞ周りの人も含めて幸せにしてくだされ。 600万円でお譲りしましょうぞ! 本来これは、あなたのような心の優しい方がつけるとのですじゃ!」


白々しいことをほざいてくれるじゃないかこの醜婆。


これじゃあ永遠に埒が明かないな。


さて、どうしたものか……。


「支払い方法などもありますし、ここでは話がし辛いですな」


ほぉ?


強引に既成事実を作ろうと言うか。


いいだろう、その醜悪な面を絶望に変えてやるよ。


「えぇ、そうですね。 『私の』ネックレスは大変高価なものですし、契約書も必要ですからね」


「……えぇ、そうですな」


醜悪な面を微かに歪めた老婆は、吐き捨てるような口調でそう言った。


あぁ、素晴らしきかな詐欺話術!!


これだ、これこそが詐欺の醍醐味だ!!


同業者を詐欺にかけるなど、至高中の至高ではないか!!


心の中でほくそ笑みながら、俺は表情を変えずに醜婆を引っ張って家の中に招き入れ。


俺の交渉(狩り)が始まった。



「うっ……」


失礼な奴だな。


玄関入るなり口元を押さえやがって。


「この家、危険な霊が住み着いております……」


なるほど、早速勝負開始か。


「除霊致しますので、少々お待ちを……」


やらせるか。


これに引っかかると思われたのなら、詐欺師としての俺のプライドに関わる由々しき問題だ!


誰に喧嘩売ったのか、教えてやるよ!!


「もちろん、無料ですよね?」


「はい、もちろんですじゃ」


「この件に関して、本日出会った時からにおけるすべての料金が無料ですよね?」


「はて? 何のことを仰っておるのか……」


「おや、認知機能に問題があると? 実は、私の知人に認知機能を改善する薬を作っている会社がありまして……」


「何を仰いますか、まだまだ若い者には負けやしませんわい!」


「まぁまぁそう言わずに1袋……」


「少々くたびれましたので、休ませていただいてもよろしいか」


……賢明な判断、ってところか。


泥沼やるよりも、仕切り直しの方が良いだろう。


耄碌した狡猾婆にしては良いこと言うじゃねぇか。


「えぇ、それではこちらにどうぞ」


詐欺戦第二ラウンドは、リビングになった。


「それでは、改めまして私はこういうものにございます」


あ?


一気に口調を……なるほど、埒が明かんと判断したか。


だが、それで脅迫に持ち込もうなどと甘いわ醜婆!


出された名刺を受け取って、俺は名前と電話番号を見ると。


「ほう? 警視庁の方でしたか! 見事な変装ですね!」


躊躇うことなくスマホを取り出して、名刺に書いてある番号とは違う、本来の警視庁の番号を打つ。


全国の警察署の電話番号を覚えることなど、詐欺師にとっては必須中の生命線!


一流の詐欺師を目指す俺に通じると思ったのが運の尽きだ!!


「えぇ、実はあなたに禁輸物違法売買の疑惑がかかっておりましてね!」


発信ボタンを押そうとする手を止める、その手を離せ!!


今すぐに豚箱に送ってやる!


「それは心外ですね。 どれが禁輸物なのか、教えていただきたいものですが」


今すぐ豚箱に送ってやる……と思ったのだが、ふと思えば俺も一緒に豚箱じゃないか。


こんなに将来有望な詐欺師を、ポリ共が放っておくはずがないものな!


あぁ、将来有望ってのがこんなに辛いものだとは思わなかった!!


「邪魔するでー」


あ?


誰だ今良いところなのに。


「おーい、みやこー」


……今西いまにしだった。


こいつは、県庁だったか国だったかで馬車馬の如く働く木っ端役人。


いつもいつもタイミングが悪いと評判の今西正人まさひと同い年。


彼女には振られ仕事にも振られかけてる独身貴族だ。


「あれ? その婆さん誰? 宮浩の彼女?」


「んなわけあるか!!」


……何だこの空気は。


もう何がしたいのか分からなくなったじゃないか今西よ!!


ほら見ろ、醜婆も困ったような顔してるぞ!!


「あー、お前さん。 ちょっと悪い気を感じる……」


やりやがったぁーっ!!


このババァ、猛者だ!!


「えぇー? 本当ですかー? 実は先程また女に振られまして……」


「やはり……」


乗るなバカ野郎!!


「おい今西、何しに……」


「あー、そうだ」


あ? 聞いといて何だが、今回は用があっただと?


いつも通り振られたから泊めてくれって話じゃなかったのか?


「この辺りで詐欺師が出てるみたいで捕まえてこいって言われたんだけど……誰か知らない?」


細かいことは、何も聞くまい。


「な……っ!?」


俺は、面白い顔をしている醜婆を黙って指差した。


「証拠ならそいつの荷物にたんまり入ってるから、持って帰れ。 不退去で鬱陶しい」


「んー? あ、本当だ。 じゃあ詐欺罪の現行犯……は難しいから、とりあえず県迷惑条例違反の現行犯で逮捕ぉー」


「貴様、騙したなぁーっ!!」


誰が何を騙したと言うんだ。


こうして、俺と醜悪な老婆との戦いは幕を閉じた。


一流の詐欺師への道は、まだまだ遠い……!!
















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