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神本くんの忍者稼業  作者: 忍者の佐藤
引きこもり少女編

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32/39

6

 ドアと窓に鍵をかけた。そして昨日と同じくバリケードも築いた。今日こそはあの忍者もどきを撃退して見せる。さあ、侵入できるものならしてみるがいい! 私が窓の方を見てほくそ笑んでいた時だった。不意に私の視界の先ですいーっと押入れの扉が開く。ぎょっとして視線を向けるといつもの忍者がいらっしゃった。

「来たぞ」

 来んな!! 

「っていうか何で押入れから出てくるの! ドラえ〇んなの!?」

「違うぞ。よく見ろ忍者さんだ」

「分かってるわよ! 私が聞きたいのはどこから入って来たのかってこと!」

 神本くんは私に目線を合わせたまま、人差し指で上を指した。

「天井だ。一番天井を外しやすかったのが押入れのある場所だったから、結果的に押入れから出てくることになった」

 さも当然のように言う神本くんを見て私は脱力してしまった。もう駄目だ。どれだけ防御を固めても容易く突破されてしまう。この人はどんな密閉空間を作ってもスライムのようにちゅるんと入ってくるに違いない。

「倉橋茜」

 突然忍者が私の名前をフルネームで呼んだ。

「一緒に外に出てみないか? 最初は人の少ない夜でもいい。何かあったら俺が守るから心配するな」

 今までの理不尽な侵入も含めて私の怒りゲージが一気に溜まり始めた。守る守るって、簡単に口にしないで。無責任すぎる。私がそんな簡単に外に出られるんなら半年以上も引きこもってない。

「帰って!」

 私は連日神本くんにツッコミを入れすぎて痛む喉を酷使して叫んだ。

「帰らない」

「帰れ!」

 神本くんに向かって近くにあるものを手当たり次第に投げつけた。彼は顔に飛んできたものだけを避けて、あとは当たっても意に介してすらいない。ただでさえ弱弱しい私の肩の筋力が、引きこもったことによって余計に弱くなっているからだ。相手に全くダメージが入っていないことを感じて余計に疲れてしまった。

「俺の知り合いに50を過ぎて定職にもつかず、実家に住んでいる人がいる」

 神本くんは私が肩で息をしているのを尻目に話し始める。

「その人は50歳を過ぎるまで『まだ大丈夫まだ大丈夫』と自分に言い聞かせながら毎年毎年過ごしてきた」

「50過ぎまで……?」

「その結果肌はだるだるになり、腹はタルのように出て歯は欠け、髪は木の葉のごとく散り失せた。そして高齢の父親からは毎日『早く死ね』と言われ過ごす毎日」

 何そのニートロイヤルストレートフラッシュ。

「しかも性格は子供みたいに拗ねやすいしワガママだ、俺は小学生の頃、その人にエロ本を買いに行かされたことがある」

「なんかもう王手飛車取りされる勢いで人生詰んでるわね……待って、エロ本買いに行かされるって、もしかして神本くんその人と交友があるの?」

「交友も何も俺の師匠だからな」

「どういうことなの!?」

 全く意味が分からない。何でそんな人生終わっている系のおっさんを師匠に選んだんだろうか。確かに神本くんは忍者服を着て外を出歩く変人のようだし、どうやっても部屋に侵入して来るあたり頭のネジ10本くらい飛んでいるようだし、うん、師弟関係でも全然おかしくないや。

「まあ師匠と俺がどうやって知り合ったかなんてことは関係ないから今は置いといてだな」

「待って! 置かないで、めっちゃ気になる!」

 しかし神本くんはぽりぽりと顎を掻き、一旦話を区切ってしまった。

「俺が何を言いたかったかというとだな、お前もそのまま引きこもっていると50過ぎのおっさんになるぞ」

「どう頑張ってもおっさんにはならないわよ!」

「だから外に出よう」

 結局そこに繋げるわけね。もし私が引きこもっていなければ、さっきの神本くんの師匠

 の話は笑い話だっただろう。しかし現状の私にとって、50過ぎて定職につかないおじさんの話は正直人ごとではない。私がこの半年間感じていた不安、焦燥感、寝ている時不意に流れる涙……それは紛れもなく将来に渡って引きこもり続けた、惨めな、それは惨めな自分の姿を鮮明に思い描くことが出来たからだった。それはもう50過ぎのハゲたおっさんに引けを取らない惨めな姿を。

「じゃあ俺は帰るぞ」

 おい、不安にさせるだけさせておいて帰るのか。

「もう帰るの?」

 不安でうつむく私を目の前にして、神本くんはおもむろに押入れの襖を開けた。

「ああ。天井から失礼する」

「ドアから出てって!」


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