表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神本くんの忍者稼業  作者: 忍者の佐藤
お嬢様編
13/39

13

私は帰りの車の中で、食事会であったことを思い出していた。




 ***




 神本くんのせいで私の計画はこれ以上ない程ぐっちゃぐちゃになった。当然ながら金山からは私と神本くんの関係を疑われ、私がどう取り繕えばいいのか困っていると


「俺は忍者だ。極秘裏に一条家から雇われている」


 と、私が一番言って欲しくない情報をカミングアウトしよった。しかもちょっと盛ってるし。


 もちろん金山は困惑したように笑うだけで信じていなかった。それを感じたのか神本くんは


「今から忍術を見せてやろう」


 と言った。忍術って何をするんだろう? と私も若干期待していると彼は自分の財布から十円玉を取り出し、親指と人差し指でつまんで見せた。


「今からこれを忍術で曲げてみせる」


 いやそれ忍術なの? 手品じゃないの? と思っているとにわかに神本くんのたくましい手が青筋立ち、十円玉がぐにゃりとお辞儀するように曲がった。ええ怖っ! 十円玉ってそんな簡単に曲がるの!?


「これが忍術です」


 いや腕力だろ! と私は思ったのだけれど金山は違ったらしかった。


「それだけじゃ信用できませんわ。試しに私の財布から取り出した十円玉も曲げてみてくださいませ!」


 疑っているようで彼女の顔は輝いていた。まるで芸能人にサインを求めるようだ。そして神本くんは易々と金山の十円玉も曲げて見せ


「忍術は奇をてらった技ばかりが注目されがちだが、実は筋力などの基礎体力を上げる術もあるのだ。名付けて筋トレの術」


 筋トレじゃんけ。食事後も彼は会場の外に出てトランプ手裏剣を披露したり(これは20mくらい離れた場所から的に当てていて結構凄かった)空き瓶を手刀で割ったりと神本くんのパフォーマンスが続いた。ねえ、忍術は? しかししらけている私とは対照的に金山はきらきらと目を輝かせていた。最後の別れ際になって彼女は


「私にも忍者を貸してくださらないかしら?」


 と私に耳打ちした。ああ、この子本当に忍者を信じてるんだ。ピュアだな。しかし、当然そんな事をしたら神本くんがポンコツであることは一瞬でバレてしまうので、私は丁重に断った。その時の心底恨めしそうな顔で私を見た金山の顔が忘れられない。ともあれ何とか無事に(無事ではない)食事会を終えることが出来た。だけど……。




 ***




 私は今日買ったバッグを見て溜息を付いた。改めて眺めてみると全然私の趣味と違う。大きくブランドのロゴが入ったデザインは私の趣味じゃないし、金色のラメも下品で好きじゃない。あれ? 私何のためにこれを買ったんだろう。こんなのもう一回も使わない。とんでもなく空しくなってきた。


 勝つためにどうでもいいものを買った。そんなの嫌いな金山のために買ったようなものだ。本当にバカみたい。私は誰のために生きているんだろう。私は本当は何がしたいんだろう。いつもはすぐに消えてしまう答えのない問いが、今日はいつまで経っても私の頭から退こうとしなかった。しかし、そんな悩んでいた私に追い打ちをかける出来事が直ぐに起こった。




 家に帰り部屋に入ってすぐの事だ。


「お嬢様、お入りしてもよろしいでしょうか」


 と幸枝の声がしたので不思議に思った。彼女は今日休みの日のはずだったからだ。


「どうしたの?」


 部屋に入って来た幸枝はいつにもなく神妙な顔をしていた。具合が悪いのだろうか、まさか何か大きな病気に掛かってしまって入院することになってしまったんじゃ……。


「どうしたの?」


 私は急かすようにもう一度同じ言葉を投げた。幸枝はしばらく黙っていたけれど、やがて顔を覆い、声を上げて泣き始めた。


「幸枝? どうしたの、何があったの?」


「ごめんなさい、お嬢様……。ごめんなさい。私、メイドを辞めることになりました」


 その言葉を聞いた瞬間私の視界は真っ白になった気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ