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7話【勇者の力】

その女性はヒカルより少し年上だろうか、金色のワンピースみたいなものを着ており、腰まで長い綺麗な金髪を揺らしながらヒカルの言葉を待っている。


今まで出会った女性の中で、おそらくこの人が一番綺麗な女性なのでは?とヒカルが思うほどの美女だ。


「あなたは……?」


「初めましてヒカル。私はアリア。あなたが今持っている剣の自我……とでもいうべきところかしら」


剣…?今僕は剣なんて持ってる訳が…「あっ……」


何も持っている感覚がなかったはずの右手は、いつのまにか長剣を握っており、意識し始めた今ではその重量もきちんと感じられる。


これって……もしかしてさっきの錆びれた剣なのか?


最初にあった錆びれた剣と同じ柄の形をしており、違うのは一切の錆がないということ。

その刀身はとても綺麗で、ヒカルの知らない不思議な文字が描かれていた。

神々しいとはこのことを言うのだろう。


こんなに綺麗な剣を見るのは初めてだ…………


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」


「……!?どうして僕の考えを!?」


言葉に出さずにいた、内心で思っていたことを読まれたのだ。

驚くのは無理なかった。


「仮とはいえ、今私とヒカルの心は繋がっている状態よ。だからあなたの表面意識でぼやいた事ぐらいなら私でも分かるの」


『こんなふうにね』


するとアリアの声が直接頭に響いてきた。

流石のヒカルもいきなり頭の中で話しかけられ、さらに驚いてしまう。


『フフッ……ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったの』


そう女神のような微笑を浮かべながら直接頭の中へ語りかけてくる。

思わずその笑顔に、少し見惚れてしまっていた。


『これは念話といって、直接頭の中で話しができるの。本来は念話の魔術を使うのだけど、私とヒカルではすでに強力なパスが出来てるから、魔術なしに念話ができるようになってるわ』


なるほど………言葉を介さずに直接頭の中で会話ができるのか。

じゃあ、逆に僕からも喋ることができるってことだよね?


『こんな感じ……?』


「……!こんなに早く習得するなんてすごいわ!あなた、感覚だけでやってのけたのね!」


本来念話というのは、この世界でおいてはそれなりに難度の高い魔術だ。

精霊という存在の力を借りて、お互いの脳の間に魔力による糸のようなパスを作り、その魔力の糸からお互いの伝えたいことを信号として送る。

そのため距離が離れていても会話ができ、他の人に聞かれたくないような話しもできる便利なものになっている。

この魔術の難しいところは、細かい魔力の糸を作るという点と、きちんと念話のことを理解していないと表層意識と深層意識がごちゃまぜになり、当人自体何が言いたいのか訳が分からなくなってしまう事があるこの2点だろう。

一つ目の念話のパスにおいては、自動的に二人の間に糸が繋がれていたため大丈夫だ。

二つ目の問題については、普通に言葉で喋る感じで喋ればいいんじゃない?という軽い考えで念話をしてみたら普通に出来てしまったのだ。流石ヒカルと言える。


「そう……かな?でもありがとう。コツはなんとなく掴めたよ。そういえば最初に、ここは僕の精神世界だって言ってたけど……」


「えぇ、そうよ。実体のない私では、この姿のまま現実世界であなたに会うことができないの。だから実体のない世界、つまりあなたの精神世界に空間を作って、あなたごと呼び寄せてもらったわ」


「じゃあ他の場所に飛ばされた訳じゃなかったんだね。リーアがいないのもそういうことか………」


「そういうこと。この姿でないと、あなたとの本契約ができないのよ」


「契約……?」


「剣の力を100%引き出すために、私と勇者になるための契約をしてもらうわ」


本当に勇者になるのか僕は………

僕にそれほどの価値があるのが疑問に思うし……そんな大層な力があるとは思えない。

正直言って不安だ。


「僕に……やれるかな……?この世界に来たばかりでまだ色々と分からなくて混乱してるし、僕が勇者の力をちゃんと扱えるのかも分からない。そんな僕が……ん………ッ!?」


ここにきてそれは一番の衝撃だった。

なんと、突然アリアからキスをされたのだ。

これにはヒカルも、しばらくの間放心していた。


そしてアリアはゆっくりと唇を離すと、剣を持ってる右手を優しく掴みながら、少し頰を染めてヒカルのことを間近で見つめる。


「今ので契約成立よ。実はね……あなたには悪いけど、会う前にヒカルの記憶を全て見ていたの。その私が言うわ、ちゃんと自分に自信を持ちなさい。あなたにはこの力を使う資格、そして素質と才能もある。私が保証するわ」


僕にも………りゅうみたいに…色々な人を救うことができるかな?


「えぇ、できるわ。あなたが望むなら」


「……………よし!ありがとうアリア。お陰で少し自信が出てきた!」


そう満面の笑みでヒカルが言うと、アリアも例に漏れず、その純粋な笑みに顔を背け軽く頰を染めてしまう。


(この子、これで無自覚なのだから恐ろしいわね………私でもこの子の魅力に逆らえないなんて………)


「どうしたのアリア?」


「ん?……えっ、えぇ…なんでもないわ。そろそろ時間ね。このままここに留まり続けていては、戻れなくなる」


「分かったよ。でも、また会えるよね……?」


「フフッ……私の事、好きになってくれた…?」


「なっ……えっ……えと、その………….」


アリアはヒカルの慌てぶりを見て、どうやら楽しんでいるようだ。


「冗談よ。フフッ………ヒカルったら可愛いわ」


からかわれていた事に気付いたヒカルは、顔を赤くする。


「やっ、やめてよー………僕こう言うのには弱いんだって」


そう言うとアリアはまた顔を近づけ、今度はヒカルの額にキスをする。


2度目のキスに、額とはいえなんだか恥ずかしいと感じた。


「大丈夫。言ったでしょ?私はその剣、《エクスカリバー》の自我。あなたのおかげで目覚めた今、いつでも私はヒカルと一緒よ。だから、また現実世界でお話ししましょう?」


「うん、分かったよ。それじゃあ、また後でねアリア」


「えぇ、これからよろしくねご主人(マスター)。さあ、あなたを現実世界へ戻すわよ!」


アリアはそう言うと、指をパチンと鳴らした瞬間、ヒカルはもうその場にはいなかった。




笑顔で戻っていったヒカルを見届け一人残ったアリアは、ヒカルの記憶から見たものを思い出す。


(あの男は一体?どうしてヒカルとずっと一緒に?)


アリアが言うその男とは、一緒に巻き込まれてこの世界に来たであろうリュウゲンの事だ。

彼女はヒカルの記憶でリュウゲンを見た時から、ヒカルの前では一切悟らせなかったが本当はずっと彼の存在がちらついていて仕方なかった。

好意や興味とかではない。もっと逆の感情だ。


(あの男は間違いない……………あの男は……危険すぎる……!!)



彼女は世界の真実を知る者の一人。

その彼女にはこれから起こりうることの、先の未来が少し見えていた。



―――――――――――――――――――



現実世界へといつのまにか戻っていたヒカルは、周りを見渡すときちんと元いた場所にいる事に安堵する。


すると目の前にいたリーアが何事かと言わんばかりに詰め寄ってきた。


「大丈夫ですかヒカル!?突然剣が光って眩しいと思ったら、すぐに止んだようですが………」


どうやら精神世界へ行ってからほとんど時間が経っていなかったようだ。


精神世界だと、時間の流れが同一ではない………のかな?


『当たりよ』


先ほどと同じように、直接頭に話しかけてくるアリア。

少し気が緩んでいたところに突然話しかけられ、思わずヒカルはビクッと反応してしまった。


『…!?ちょ、いきなり驚かせないでよアリア……』


『驚きすぎよヒカル。こっちでも話せるって言ったじゃない………』


しかしリーアには突然ヒカルがビクッとした理由がわからないため。

何かあったのかと小首を傾げていた。


「ヒカル………?本当に大丈夫ですか?」


「あっ…あぁ、ごめんよリーア。何でもないから大丈夫」


「それならいいんですけど………あれ?ヒカルってそういえば金髪でしたっけ?」


「いや、黒髪だけど………?」


「ですよね?その………あのぅ……いま金髪になってます」


「……え?」


鏡のようになんでも写せそうなほど綺麗になった剣を掲げ、その刀身から映る自分の頭髪を見ることにしたヒカル。

リーアの言った通り黒髪だったはずの頭髪が、全て綺麗な金髪へと変わっていた。


「それにその輝くような剣とヒカルから流れ出る魔力…………成功したんですね!ヒカル!」


まるで自分のことのように、ヒカルの手を取って大喜びしている。


『へぇ……この歳で魔力の流れを見ることができるのね。この子それなりに才能あるわよヒカル』


『いや、それよりもこの髪とかどうなってるの!?僕の黒髪は!?』


『心配はないわ。ただ、今まで眠っていた大量の魔力が目覚めたせいで、頭髪にまで影響が出ているだけよ。似合ってるからいいじゃないの…ね?』


今まで染めずにずっとりゅうと一緒の黒髪にしてたのに……!そんなぁ………!


『それじゃあ、この子にも私の声が聞こえるように剣から喋るから、あ・な・た・は!驚かないように』


そんなヒカルの叫びを無視し、今度は頭の中ではなく剣から喋り始めた。


アリアが言うには、ヒカルの魔力を使えば普通に剣から喋ることができるらしい。


「初めまして、ヴァイゼンの子。私の名はアリア。この剣、エクスカリバーの自我のようなものだと言えばわかるわね?」


「……!剣が喋った…………」


うん、普通そういう反応になるよね?


「さっきビクッとなってたのは、突然アリアが直接頭に話しかけてきたからなんだ」


「なっ、なるほど…………確かに一部の伝説の聖剣や魔剣には、自我を持つものもあるというのは知ってはいますが、まさか本当に存在してたとは………あっ、あの…私はリーア・ヴァイゼン・クロスと言います。よろしくお願いします」


「えぇ、よろしくねリーア。ヒカルの魔力はちゃんと機能しているわ。今は私が魔力を制御してるから、暴走の心配もない。まだヒカルへの用は終わってないんでしょ?次のところへ行っても大丈夫よ」


「次……というとまだやる事があるの?」


「突然とこの世界に呼び出され、お疲れなのは分かってます。ですが最後に我が父でもあるルーエン国の王、ラルファス・ヴァイゼン・クロス王とのお会いしてもらい、その後ご一緒に会食の予定です」


「この国の王様と?僕……礼儀とか詳しくないから大丈夫かな…?」


「大丈夫ですよヒカル。ヒカルを紹介して今後どうするか話し、あとは一緒にご飯を食べる。それだけです。公的なものではないので、そこまで硬くなる必要もないですし!」


と言われても…………一国を背負う人に会うのに、気軽な態度はまずい気が…………………


『観念しなさいヒカル。本来あなたはお願いされる立場なのよ。勇者なんだから、もっと堂々としてなさい』


二人にそう言われては拒否できるはずもなく、なるべく失礼の無いように気をつければ大丈夫かな、と自分に言い聞かせる。


「うん、分かったよ。それじゃあ、また案内お願いねリーア」


「はい!任せてくださいヒカル!」


そしてヒカル達はこの部屋を後にし、国王のいる玉座へと向かうのだった。


玉座まではあっという間についた。

というのも、歩きながらリーアとアリアにこの世界の知識を教えてもらっていたので、さほど歩いたという感覚はないのだ。

大きな扉の前には二人の騎士が立っており、リーアを見るやその内の一人がこちらへと駆け寄ってくる。


「これはリーア様。こちらにはどういった御用で?」


「ラルツ、お父様はおいででしょうか?勇者様の召喚が終わりましたので、そのご報告と紹介にまいりました」


「左様でしたか。ではこちらの方が………」


その騎士は、珍しいものを見たかのような顔で僕の方を見ていた。


「初めまして。勇者として呼びだされたヒカルといいます」


「ハッ!失礼いたしました!(わたくし)国王親衛隊のラルツ・ケットマンと申します。お気軽にラルツとお呼びください。あちらにいるのは同僚のミナス・アートマンです。以後、お見知り置きください!」


とてもはきはきしており、元気な人というのが一番の印象だ。

さすがは親衛隊の騎士というだけあって、武術をやっていたヒカルから見ても、二人の騎士の動きに無駄が少ない。


「はい、こちらこそ宜しくお願いしますラルツさん」


「では、中へお入りください。お話しは聞いております」


そう言い、二人の騎士は扉を開ける。

中は映画か何かで見たことあるようなレッドカーペットが敷かれており、その奥には一人の男性が玉座と思われる椅子に座っていた。

王冠を付けているのをみると、この人が国王で間違いないだろう。

50代くらいだろうか、鍛えたであろう引き締まった身体、左目には大きな傷跡が残っており、漂う雰囲気は只者ではない。

確かにどこかリーアに似ているが、国王のほうはだいぶ厳格のような顔をしている。


普通に怖いんですけど…………


先に入ったリーアが、国王の下まで近づくとその場で片膝を付きこうべを垂れた。


「お父様、勇者召喚の儀が無事成功したため、ご報告にまいりました!」


「ふむ…….ご苦労だった。それではそちらの方が勇者殿で間違いないな?」


威嚇するような眼光で、ヒカルを一瞥する。


「はい!此度の勇者召喚に応え、いらしてくださいました、ヒカル・ユウラ様です」


「初めましてラルファス国王陛下。先程リーアに紹介してもらった通り、ヒカル・ユウラと申します」


本当はリーアのように片膝をついて言うべきなのではと思うのだが、先程からアリアが、『あなたは堂々としていなさい!間違っても頭を下げないこと!いいわね?』と、言うからだ。

理由は後で聞くとして、仕方なくアリアの言う通りにすることにした。


「よくいらしたヒカル殿。私の名はラルファス・ヴァイゼン・クロス。この国の王を務めている。これから宜しく頼むぞ。それでリーアよ、勇者の聖剣の方も無事成功したと見て良いな?」


「はいお父様。無事聖剣も抜き終わり、魔力の解放も終わっております」


「そうかそうか、それは一番何よりだ。ヒカル殿よ……我が娘から聞いたかとは思うが、そなたの力を我らに貸して欲しい」


「えぇ、もちろんです。リーアとはそう言う約束をしています。僕にできる範囲で、出来ることはさせていただきたいです」


「ハハハッ……その言葉だけでもありがたい。いずれきたる魔王との戦い、おそらくヒカル殿の力無くしては難しい戦いになるだろう。我らが勇者よ、期待しているぞ」


「はい!お任せくださいラルファス様。期待に沿えるよう頑張ります!」


「良い返事だ。心から礼を言わせてもらおう」


ラルファス王は玉座から立ち上がると、ヒカルへと軽くお辞儀をしながら礼を言う。


「そんな……わざわざ国王が頭を下げるなど…」


「私の頭一つで世界が救われるのなら安い方だ。それに、勇者であるヒカル殿とは対等でいたいのでな」


話していて王様のことが大体分かった。

厳格そうな見た目とは違い、とても礼儀正しく優しい人だと感じさせられる。


「それでは早速だが食事にしよう。ヒカル殿もお疲れであろう。ゆっくり食事をしながら、今後についての予定もお話ししたい」


そしてヒカル達は食事をしながらこれからについての話しをし、その後王宮内に部屋を与えられ、その日はお休みなった。


ヒカルにとっては初めての異世界。


彼はそこで何を見て、何を思い、何をするのか。


当面は力を使いこなすために強くなる。

そしてリュウゲンを探し、共に戦う。

その後一緒に元の世界へ帰る。

これがヒカルにとっての今後の個人的な予定だ。


波乱が待ち受けているかもしれない、だがそれと同時に異世界生活が楽しみだという思いとともに、ヒカルは眠りについた。



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