6話【勇者誕生】
竜玄→リュウゲン、雪菜→ユキナ、光→ヒカルと、書かせてもらいます。
あと、数ページ主人公の出番なしです………
ヒカルは気付くと、自分が別の場所にいる事に驚いた。
今いるのは屋内のようで、学校の教室くらいの広さだろうか。壁から床まで白色で統一されており、家具さえ置いてない部屋だ。
あるとすれば、ヒカルが立つ地面には知らない文字で埋め尽くされた円形の陣のようなものが描かれているくらい。
そして周りには、腰におそらく本物の剣と鎧を着た昔の騎士のような出で立ちの者達が数名と、さらに目の前にはヒカルと同い年くらいの綺麗な白いドレスを着た青髪の少女が祈るようにしてこちらを見ている。
どこかのお姫様だろうか?まるで時代を超え、昔のヨーロッパ文化に来たような錯覚さえする。
そういえば前にりゅう(リュウゲン)が、「お前みたいな奴はいつか穴に落ちて、異世界で勇者になって世界を救うかもな」って……もしかしてそれって今の状況なんじゃ…………………
ヒカルも馬鹿ではない。気付くと突然知らないところにおり、目の前には仮装とは思えない騎士やお姫様らしき人達、ドッキリにしては手が込みすぎている。
いっそ、本当に異世界に呼び出されたと言われた方が納得がいく。
というかりゅうが一緒にいないのは何でだろう?
あの穴に僕と一緒に落ちたはず………
「あっ、あのー………大丈夫…ですか?」
そういえばさっきから黙ったままだった。
「あっ、うん。大丈夫。ここは?」
「そう…ですね。まずは少し説明してからでいいでしょう。この世界の名は【ベルトリア】。そしてここは《ルーエン》という国の王都、《ベリエス》の王宮です。あなた様は、国の秘術である召喚魔術を使い、異世界からお呼びさせていただきました。単刀直入に言います……私達の世界の勇者になってくれませんか?」
「えっ………」
本当にりゅうの言ってることが当たっちゃったよ……………
それに召喚魔術?
じゃあ、前にりゅうが言った「お前が異世界の人に呼ばれたなら、多分勇者になってくれって言われるだろうな。さらに言えば魔法とか使える世界なんだろうな」って言ってたけど……………
「ここは僕にとって異世界なんだよね?」
「うっ………そうです」
あれ?顔を見ただけなのに目を逸らされたよ。嫌われてるのかな?←鈍感スキル発動
知っての通りヒカルはかなりのイケメンだ。
さらにヒカルには、魅了スキルでも持ってるんじゃないかというほどの、人を寄せ付けるようなオーラか何かを持っており、彼の顔を見て一目惚れしない者の方が少なかった。
そのためこの少女も例外ではなく。先程から直でヒカルの顔をずっと見ていたため、すでに少女も一目惚れ状態。
先程目を逸らしたのは、うっとりしていた目でヒカルを見ていたのを気付かせないためだ。
「じゃあ、魔法とか使えるの?」
「はっ、はい!魔法ではなく魔術です!その様子だと、あなた様の世界では魔術はないようですね」
「うん、僕の世界ではなかったよ。あっ、そうだ!まだ僕の名前言ってなかったね。僕は勇羅光。それとも光・勇羅のほうが良かったかな?まあ、光って呼んでよ。君は?」
「ごめんなさい。私も自己紹介を先にするべきでしたね。私はルーエン第二王女リーア・ヴァイゼン・クロスです。私の事も、リーアと呼んでもらえればかと……」
やはりヒカルの予想通り。
「本当にお姫様だったんだねリーアは……どうりで綺麗な女の子だと思ったんだ…」
そう笑顔で言うと、リーアは顔を赤くして顔を背けてしまった。
何でだろう?熱かな?
いつもこういうときりゅうが「歩く自動フラグ機か!?」って言うんだけど、いまだに意味がわかんないんだよね。
「大丈夫?熱なら無理しない方が……」
「だっ大丈夫です!そっそれより勇者になってくれませんか!?」
あれ?何か急に話題を逸らされたような気がする………
「まずは理由を聞いてもいいかな?」
「はい……別のお部屋を用意してます。長話しになるのでそちらへ行きましょう」
拒否する理由もなかったため、ヒカルは無言で頷いてリーアの後ろを付いていくようにして歩き始める。
先ほどいた部屋は、どうやら召喚魔術を専用で行うための部屋だったようで、今ヒカル達がいるのは来客用の部屋だった。
来客用の部屋は、中央に大きなソファーを2つ向かい合うように置いてあり、その間にガラスのテーブルがあるだけの質素な部屋だった。
だがソファーの触り心地や、綺麗な細工が施されたガラスのテーブルを見る限り、安物ではないのは確かだ。
今座っているのはヒカルとリーアのみで、この部屋の周りの壁を張り付くようにして、十数名の騎士が乱れる事なく直立している。
監視されているようで落ち着かないが、おそらくリーアの護衛なのだろうと考えられた。
「それでは説明します。質問はいつでもお願いします」
「うん、わかったよ。それじゃあ、お願いします」
「はい、まずはこの世界をさっきよりも詳しく説明してから、本題に入らせていただきます」
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マナと呼ばれるエネルギーが溢れる世界【ベルトリア】
マナを自分自身の身体に取り込み、そして魔力へと変化させ、人々はその奇跡を使い生活へと浸透させた。
人々はその奇跡を『魔術』と呼んだ。
しかしこの世界には、マナの急激な増加により、人間だけではなく、他の動物にまで影響を及ぼしたのだ。
マナにより突然変異したそれらは『魔物』と呼ばれ、魔物達は突如人間を次々と襲うようになった。
そして300年に一度起こると言われている、マナの異常なまでの急激な増加。
それは『世界の恩恵』と呼ばれ、マナの影響により魔物供をさらに強化し増加させる。
そしてその魔物の中から生まれると予言されている。
魔物の頂点に君臨するもの、魔王と呼ばれるものが。
その力は他の魔物とは一線を画す力を有しており、その絶対的な力で幾度も世界を滅ぼしかけた。
その魔王に対抗するために生まれたのが勇者召喚システムだ。
勇者召喚の儀で呼び出される勇者の全員が、魔王に匹敵するだけの力を持つとされ、勇者の力を頼りに幾度も魔王を討伐していたのだ。
そして一年ほど前、世界の恩恵が起こった。
予言通り、魔物の急激な大量発生と被害率が増加し、おそらく魔王も誕生していると予期された。
いち早く世界の危機に気付いたルーエン国は、他国との協力を下に勇者召喚を行なった訳である。
この世界で歴史的に有名で、現在最古の書には、勇者が魔王に敗れた時、人間は皆殺しにされ、地上は魔物の住む世界になるだろうと書かれているそうだ。
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「というわけですが……質問はありますか?」
「なるほどね………大丈夫。丁寧に説明してくれてありがとね。とりあえず大まかな事はわかったよ」
大体の話しを聞き終えたヒカルは、頭の中を整理することにする。
まずはこの世界では魔術と言われる超常現象が使えること。
世界は今魔王と魔物によって危機を迎えており、滅ぼされる可能性があること。
その魔王を倒すのに必要な者…………それはおそらくヒカルなのであろう。
話しを聞いた限りでは、リーアの顔に嘘を言っているような気配はなかった。
とりあえずリーアは信用できると信じて、話しの続きを聞くことにした。
「改めてお聞きします。この世界の勇者になってくれませんか?今はまだ、各国並びにギルドの協力で被害も少ない状況です………ですが、それもあと何年続くかはわからない。必ずや数年以内に、魔王が人間の地に厄災を振りまくでしょう。そうなってからでは止められないのです!私個人からのお願いでもあります!この世界を!全ての人々を!あなたに我々人類を救って欲しいのです!!……報酬並びに必要な物は全て用意できる準備はございます。私も含め、あなたのための力になる事も厭わない。どうか……お願いします……!!」
リーアは立ち上がると、頭を精一杯下げて言う。
周りの騎士達は、一国のお姫様でもあるリーアが頭を下げるとは思わなかったようで、お姫様の行為に騎士達全員が動揺している。
お姫様が自ら頭を下げ、自分以外の人のためにこんなにもお願いしてるんだ。
僕に見捨てられるはずがない。
きっと、りゅうも同じ気持ちになるはずだ。
「うん、わかった。やるよ…」
「えっ…今やるって………」
リーアは頭を上げて僕を驚いた顔をしながら見る。
「こんなにも言われて、見捨てるなんて事はできない。だからこれだけは約束する。僕にその魔王を倒せるかはわからないけど、リーアのため、この世界の人々のために、僕にできることはしたいんだ」
「ヒカル様………………」
リーアは涙目になりながらも、僕をまじまじと見つめている。
「本当にありがとう……ございます……」
「あははっ、どういたしまして。後、様付けはなしにしてほしいな。あんまり歳も離れてないだろうし、敬語もできればね」
「はっはい!でも、本当によろしいのですか?半強制的な気がして………」
「大丈夫。大切な友達を助けるのは当たり前でしょ?ニコッ」
あれ?なんかリーアが僕を見る目がやばいような気が………
(あぁ……なんて優しい方なんでしょう。私を助けるために闘ってくれるだなんて…………これでは私……まるでヒカルに恋をしているようです……)
言わずもがな、ヒカルの純粋なスマイルを受けた時点で完璧に惚れてしまったリーア。
すでにヒカルの事を美化し、うっとりとした目で見てしまっている。
出会って1時間も掛からず、異世界で一人目のヒロインが出来上がっていた。
ヒカル本人にその自覚はないのだから恐ろしい。
この勇者召喚の儀は、リーアの父でもあるルーエンの国王からの直接の命ということもあり、今までにないくらいとても重要なものだった。
もちろん失敗は許されず、呼び出された勇者を人類のために戦ってもらうよう説得し、これからの世話をするのがリーアの仕事だ。
さらにどんな勇者が召喚されるのかわからないというのもあり、もし横暴な人ならどうしよう、自分の説得が失敗し逆に敵対してしまったらどうしようと、召喚するまでとてつもなく不安でいっぱいだったのだ。
しかし呼び出された者は、リーアが思っていたよりもかなり優しい人で、自分に気を使い魔王と戦ってくれると約束してくれた。
そういう心境だったということもあり、リーアがヒカルに惚れるのも致し方ない部分はあるかもしれない。
「だからこれからよろしくねリーア」
「はいっ!こちらこそ宜しくお願いしますヒカル!」
ヒカルに敬語は使わなくていいと言われたリーアだが、彼女にとって敬語は日常的に使うものだったため敬語のままだ。
「とりあえずこれからどうしたらいい?」
「まずは来ていただきたい場所がありまして………そこでヒカルの勇者としての力を、早速ですが覚醒してもらいます。よろしいですか?」
そういうのはもう少しこの世界に慣れてからだと思っていたヒカルにとって、この状況の早さには若干驚いてしまう。
召喚された直後にと考えると、それほど世界は切羽詰まってるのか。それともこの世界では、自衛できるだけの力を持っていないと生きにくいのか。
どちらにせよ、早い段階で戦う力を手に入れることができるのは悪いことではない。
その分勇者としての力を扱う技術を磨くことができる。
「分かった。そしたら案内をよろしく頼むよ」
「では、私の後についてきてください。場所は王宮内なので五分ほどで着きます」
そして来客用の部屋を後にした二人は、談笑しながら目的の場所へと向かった。
もちろん、数名の騎士達もご一緒だ。
そして五分ほど歩き着いた場所は大きな門の前だった。王宮内にさらに大きな門があるのも驚きだが、その門にはとても綺麗な装飾や紋様が付いており、神秘的なものを感じさせる作りをしている。
不思議と何故か、この場所から安らぎを感じてしまうヒカル。
「着きました。ここは代々受け継がれてきた勇者様の剣を保管している神殿になります」
「この中に勇者の剣が…………」
「ここからの出入りは勇者様と一部の王族関係の者しか入れません。貴方達には、私達が戻ってくるまでここの警備をお願いします」
リーアがそう言うと、後ろにいた騎士達はまるで示し合わせていたかのようにそれぞれの配置に着く。
そして、二人の騎士が門をゆっくりと開けてくれた。
門の中は学校の体育館くらいの広さをしており、神殿のような柱が並び立つその中央には、ポツンと一つの錆びれた長剣が地面に刺された状態で置いてある。
何故だろうか。ヒカルにはその長剣の周りの空間が、神秘的なまでに輝いているように見える。
すぐに直感でこの剣だと分かった。錆びれているのにも関わらず、何か強い力を感じさせられる。
「それではヒカル。一緒に中へ…」
「うん………」
二人は中へ入ると、門はすぐに閉められた。
そのまま中央まで進み、二人は錆びれた長剣の前で止まる。
「おそらくヒカルにはこの剣の力を感じるはずです。これが代々受け継がれている勇者の剣となります」
「やっぱり……これが………」
「ヒカルが本当に勇者であれば、この剣を抜き、本来の美しい剣へと戻すことが可能なはずです」
「なるほどね。剣を抜くだけでいいのかな?」
「それだけではダメです。言霊を用いて、ヒカルの本来の力も一緒に目覚めさせなければなりません。それで初めてこの剣の主であると認めてもらうことができます」
「分かったよ。なら、やり方を教えてほしい」
「はい!ではまず、剣の束を掴んで、ゆっくりと深呼吸をしてください」
言われた通り剣の束を両手で掴み、ゆっくりと深呼吸をする。
「私の後に続いて詠唱をお願いします。『我、勇者たる器なり。我が言葉に答え、力を解き放て。我の名はヒカル・ユウラ』」
ヒカルは復唱する。
『我、勇者たる器なり。我が言葉に答え、力を解き放て。我の名はヒカル・ユウラ』
「………ッ….!?」
詠唱を終えた途端、突然と剣が眩しく輝く。
「リーア…!大丈夫!?」
この光は一体…!?何も見えなくッ……!
さらには音や視界は謎の光に奪われ、何もかも分からなくなっていった。
数秒待つと、徐々に光も収まり視界が回復していく。
ヒカルは突然の事に戸惑いながらも、落ち着いて周りの状況を確認する。
またもや気付けば、先程とは違う場所にいた。
そこは一言で言えば真っ白な空間。白い部屋ではなく空間だ。
果てしなく続く先には壁は見えず、見上げれば天井もなく空もない。ただ白いというだけ。
先程までずっといたリーアはどこにもおらず、どう考えても異様な光景だ。
「ここは一体…………」
「ここは貴方の精神世界よ」
その声はヒカルの背後からだった。
気配を感じなかったため驚いて振り向くと、そこには一人の美しい女性が微笑みながらヒカルの事を見ている。
その美しさに、数多の女性を見てきたヒカルでさえも一瞬見惚れてしまうほどだ。
そしてヒカルには、何故かその女性にどこか懐かしさを感じているが、こんなにも美しく綺麗な女性には見覚えがない。
とりあえず心を落ち着かせ、この女性が自分がここにいる事情を知っている可能性が高いと考え、ヒカルは彼女に自分から話しかけることにした。




