第30話【解放】
視点は変わり、リュウゲンがユキナの魔力を解放する直前の現実世界。
ルメオとメルルは、リュウゲンの体調の変化に忙しくしていた。
リュウゲンが眠りについてから15分で、突然と吐血したのがつい10分前の事だ。
吐血してから1分ほどで左肩から血が滲み始め、メルルがそれを確認すると、知らない大きな裂傷が浮かび上がってきたのだ。
そして回復魔術を掛けながら、塗り薬と共に包帯を巻き終わった後である。
ちなみに、椅子に座ったままでは治療も出来なかった為、手を繋がせたまま二人を地面へ横にして寝かせている。
「マスターこれって…………」
「どうやら夢の世界で起こった事が、現実の身体にも影響を与えているようですね。メルルはそのまま傷の処置を」
ルメオに言われるよりも早く、先ほどから回復の魔術を掛け続けている。
「えぇ、わかってます。でも、このままではまずいのでは?」
そうメルルが言うのも仕方なかった。
肩の傷程ではないものの、身体中のあちこちに小さな傷が次々と現れるのだ。
さらに顔色も悪く、あまり良い状態とは言えなかった。
「えぇ、危険ですね。しかし、無理矢理起こす手段はありませんし、出来たとしてもリュウゲン君が自分の身体に戻れる保証はありません。このまま二人が戻ってくるのを待つしかないでしょう」
「歯痒いですね………」
「こればかりは当人達の問題です。私達に出来ることは限られています」
「マスター…………」
珍しく励ますような事を言うルメオに、意外感を感じるメルル。
「何ですかその目は?」
「え、あっあぁ、いえ………なんか珍しいと思って…」
「……?まあ、いいです。それよりも、傷の具合はどうですか?」
「あまり良くはないですね………何かしらの力が働いているのか、回復魔術の効果が遅いです。一応傷は少し塞がったのですが、まだあまり油断は許さない状態です」
そう言い、リュウゲンの体温を測るために額を触ろうとしたその時、二人を驚かせる程の巨大な魔力を感じ取る。
「…………!なにこの魔力はっ!?」
二人はその魔力を解き放っている張本人であるユキナを見る。
魔力の量があまりにも多すぎて、それが事象として具現化し、小さな風を巻き起こしていた。
魔力を抑える為に、ルメオは慌てず素早くユキナの周りに魔方陣を展開。
それによって風は消え、ユキナから感じる魔力も安定し始める。
しかしリュウゲンは別であった。
魔法陣の展開をしている合間に、リュウゲンの具合が著しく変わっていた。
今は全身に激しい痙攣を起こし、とても苦しそうな顔でジタバタしている。
「まっ、マスター!?今度こそリュウゲン君がやばいんですけど!?」
「これは……たしかにまずいですね………」
ルメオはユキナとは別の効果を持つ魔方陣をリュウゲンこ周りに展開し、何が起こっているかを調べる。
(これは…………妹さんの魔力が混じっている……?まさか………他人の魔力を取り込んだというのですか?一体彼女の精神世界で何が…………)
もし、ユキナの魔力を取り込んでこの状態になったのであれば、自分達ではもう何も出来る事はない。あとは確率の問題であり、それが成功する事を祈るのみ。
そうルメオは考え、二人の無事を信じ見守るしかなかった。
――――――――――――――――――――
そして精神世界の方では、光の柱があったと思われる場所で倒れ動かなくなったリュウゲンと、それを目の前で見下ろし、立っているアテナがいた。
光の柱は消え、ユキナの魔力は解放された。
だが、解放されただけであり、アテナに関する問題は何も解決出来ていない。
「終わり…………ですね。人間にしては、最後まで厄介な相手でした」
「お兄ちゃん……っ!」
ユキナはリュウゲンの元へと駆けつけると、目を閉じ動かなくなったリュウゲンの頭を抱き上げ、膝枕をしながら様子を見る。
「まさか、あなたが出てくるとは予想外でした。それほどこの男が大事だったようですね。ですが、魔力の取り込みに失敗した以上、もう死んだのも同じです。もう、諦めなさい」
「諦めないよ。お兄ちゃんがどうにかしてくれるって約束してくれたから…………」
「魔力が開放されてしまった以上、私の予定も変更されました。貴方には悪いですが、この身体を使わせてもらいます」
そう言い、持っていた大鎌の刃をユキナの首へと当てる。
「もうどうにも……できないの?」
「もう他に方法はありません。私の目的の為にも、ここで貴方とはお別れです。さようなら、ユキナ…………貴方という存在を奪う事を、私は一生後悔するでしょう」
しかし、ユキナの首が刎ねられる事はなかった。
刃を引こうとした時、突然現れたいくつかの鎖によって、大鎌が微動だにせずに止まっている。
「…………!?」
「おっと、流石にそれは見逃せないな……」
意識を失い、死ぬ直前だと二人に思われていたリュウゲンが、目を開け右手に鎖を持ちアテナの大鎌を止めている。
アテナだけではなく、ユキナもこの状況に驚いていた。
「成功したというのですか…!?ありえない………血の繋がりもない貴方に、ユキナの魔力と同化など……!」
「はっはっは。どうやら俺は運が良かったらしい、こうやってユキナに膝枕してもらえるし、中々悪くないな」
「おっ、お兄ちゃん………」
リュウゲンが生きていた事にホッとし、涙目になるユキナ。
「悪いなユキナ。心配させちまって」
「ううん……生きてて良かった………」
「そんな………そんな奇跡が起こる訳が…………」
今までで一番感情を露わにし、ありえないものを見るかのような表情をするアテナ。
「はっ!その奇跡が起こった訳なんでね。とりあえず賭けは俺の勝ちってことで…っ!」
リュウゲンはそう言いながら、グレイプニルのスキルで魔術で作られた大鎌を消し立ち上がると、ユキナを素早く抱っこし、アテナから一瞬で離れる。
「さて、さっきの話しを聞いて、もう一つ聞きたい事ができた」
「聞いていたのですか………」
ユキナを地面へとゆっくりと下ろし、自分の後ろに下がらせる。
「お前、ユキナに同情してるのか?」
「同情……ですか?そう……ですね…そうかも知れません」
「本当はユキナを消したくないんじゃないのか?」
「出来るのであればそうしたいです。ですが、私の目的の為にも彼女の肉体は絶対に必要です。大罪を犯してでも、手に入れなければならない………」
目を伏せながら、悲しみと後悔を感じさせる表情をする。
「元々は器として見てなかったユキナを、ずっと彼女の人生を見ていくうちに、ただの器と見れなくなったんじゃないのか?ユキナを消さなくてもいい方法はあるんじゃないのか?」
「分かったような口を……………分かったような事を言うなっ!あるはずがない!そんな方法が!一つの時代の魔術を極めた私ですらわからないのです!貴方に一体何が出来て……!」
「わからねぇよ。だから聞く、身体を手に入れてお前は何がしたい?」
「………………………」
「言いたくないのは分かった。なら、ユキナを消さずに済む方法を探す気はないのか?もう、ユキナを消して身体を手に入れるしかないのか?」
「ありません…………魔力が開放された以上、私がここに存在できる時間も限られている。もう他に………ありません………」
アテナはまた大鎌を出現させ、それを構える。
「これ以上話す気も、解決策を探す気もなくただユキナを消すと言うんだな………」
「えぇ、邪魔をするのであれば、先ほどと同じように容赦なく殺します」
だったら俺が強制的に話し合いの場にしてやる。
その為に俺は賭けに出たんだ。
もう一つの新しい力も、すでに発現済み。
「来いよ。おれも容赦はしない…」
そのリュウゲンの宣言と共に、アテナの頭上だけでなくリュウゲンの頭上にも氷塊が大量に出現する。
さらにそれだけでなく気温も一気に下がり、凍りつきそうな程の寒さへと急激に変わっていく。
俺の動きを鈍くさせる為にか………いよいよ本気って事だな。
「まだこの領域は私のものです。先ほどと同じように、この物量をどうにかするなど今の貴方では不可能」
「それはどうかな。さっきまでの俺と思うなよ」
「その言葉は、これを防いでから言って下さい」
その言葉と共に、大量の氷塊が四方八方から降り注ごうとしている。
ただ魔力を多く練り込んだ魔術障壁だけでは、これを全て防ぐのは不可能な量だ。
だが、リュウゲンはユキナの魔力を取り込むのと同時に、もう一つの武具を創り出していた。
この状況にこそ相応しいもう一つの新たな力。
「来い!《アイアスの盾》!」
その叫びと同時に、リュウゲンとユキナの頭上に六つの黒い盾が現れる。
六つの盾は二人覆うようにして移動し、高速に回転し始める。
ただ盾を頭上に置くだけでは、降り注ぐ氷塊を全て防ぐのは難しい。
その為、一つの盾を頭上の中央に置き、他の五つの盾を花びらの花弁のように並ばせ、高速回転させたのだ。
これならば、氷塊が盾の隙間を抜けて降ってくる事はない。
「天からの攻撃は防げても、前方の攻撃はどうでしょうか?」
今度は前方にいるアテナから、いくつもの氷塊がはなたれる。
「俺の世界じゃあ、アイアスの盾ってのは有名な話しでね。元々は牛革7枚を重ねて作られた盾なんだよ。そして、英雄同士の戦いにおいて唯一最期の7枚だけが貫通されなかったって話しがあるんだけど………さて、この意味が分かるかな?」
「6つの盾………もう一つ…!?」
「正解。この盾は、他の盾とは比べものにならない頑丈さなんで」
リュウゲンは自分の目の前に最期の盾を出現させる。
その盾は他の盾と比べ、リュウゲンを丸ごと隠せる程の大きさをしており、頑丈さを感じさせるほど分厚くなっている。
これが《アイアスの盾》。
自由自在に強固な七つの盾を動かす事ができる。
「いくぞアテナ……!」
その盾を前方に展開したまま、アテナに向かって歩き始める。
寒さで素早く動かないのであれば、ゆっくり歩いて着実に進めばいい。急ぎ、焦る必要はない。
降り注ぐ氷塊が、ユキナではなく自分に未だ矛先が向いているのを確認し、残りの盾も自分の頭上へと呼び戻した。
「効いていない……!ならばこれはどうでしょうか…!」
物量で氷塊をぶつけているのにも関わらず、一切動じる事なく進み続けるリュウゲンに、今度は建物と同等以上の大きさの氷塊を三つほど作り出し、それをリュウゲンへと放つ。
「流石にそれは面倒だな。だが忘れてないか?俺は盾以外にも使えるものがあると」
放たれたはずの巨大な氷塊は、宙を浮いたまま未だ動かずにいる。
「あの鎖ですか……!」
それぞれの氷塊に4つずつ鎖を放ち、大量の鎖を使ってスキルで消すのではなく、その場に繋ぎ動かなくしたのだ。
要は使いようだ。
いちいち大量の鎖と魔力を使っていてはキリがない。
少量の鎖で無効化できる方法を考えてやれば、魔力にも余裕ができる。
ただでさえ二つの武具を同時に使っているのだ。
魔力の消費も激しく、ユキナの魔力を取り込んだ影響で身体も万全とは言いにくい。
『それはそうだ。一日に二つ武具を創り、あまつさえ他人の魔力と同化しようしたのだ。こんな事をした奴など、小僧が初めてだ。呆れさえ通り越す思いだぞ』
「ちょっと、普通にしんどい状態で突然話しかけんなよ!?褒めてんのか貶してるのかどっちかにしてくんない!?」
『しかし、元の肉体に戻った時が大変であろうな』
「それ今話す事じゃないよねぇ!?もっとなんかアドバイスとか欲しいんだが!」
『簡単に死ぬなよ小僧』
「使えねぇんだがこいつ!?」
そんなコントをしてる合間に、アテナとの距離が縮まっていく。
他にも大きな氷塊を作るアテナだが、その全てをリュウゲンのグレイプニルに止められ、他に為す術がない。
「チッ………何故……何故ここまでして……!?」
「そんなのは簡単だろ!ユキナが大切な俺の家族だからだ…!お前にだって大切な人がいたはずだろ!?」
「そんなの……当たり前です…!」
「なら、俺がここまで諦めずに戦い続ける理由が分かるはずだ!お前はユキナをどう思ってるんだ!?本当にただの器としか見てないのか!?」
「えぇ、そうとも、貴方の言う通りです…!私はいつのまにか彼女に共感してしまっていた。私のせいであんな人生を送る羽目になってしまったユキナに、罪の意識を感じてしまっていた!ですが……もう、彼女か私のどちらかが消えるしか方法はないのです!」
悲痛な叫びをあげるように、もうどうしようもないと言うアテナ。
あぁ、これがアテナの本心。
彼女は悪い奴ではないのだ。むしろユキナの事を大事に思っている。
でも、諦めてしまっている。元々器としか見ておらず、本人がどうなろうと考えていなかった。
だが、ユキナの中で過ごしていく内に、その考えが変わっていったのだ。
そしてずっと疑問だったんだ。
普通なら、俺が魔力を解放して自分の肉体に戻ってから、ユキナの身体を奪おうとすれば良かったんだ。
なのにそうせずに俺の前に顔を出した。
他に方法があるのではないかと心の底で思っていたのではないか?
俺に何か出来るのではないかと縋りたかったのではないか?
本当は誰かに止めて欲しかったのではないか?
「俺が何とか出来るとは言えない。その方法も正直分からない。けど、だからと言ってこのままにする気はない。お前次第だ……!このまま本当にユキナを消すって事でいいんだなっ!?」
「もうそれしか、方法がないのなら……!!」
「だったら最初に言った通り、もう一度ゆっくり話しをするために、強制的に話し合いの場を作る!」
そう言うとリュウゲンは走り始めると、一つの鎖を出現させ手に取る。
そしてアテナの目前へと迫り鎖を鞭のように振るう。
それをアテナは大鎌で捌き、盾に防がれるのを分かりつつも氷塊による攻撃を緩めない。
「悪いがチェックメイトだ」
リュウゲンはアテナの左右の足元から鎖を出現させる。
「こんなものに捕まる訳が…………」
アテナはその鎖から逃れる為に後ろに飛ぼうとする。
「……………なっ!?」
しかしその行動は叶わなかった。
自分の背中にいつの間にか知らぬ間に盾が置いてあり、そのせいで後ろに飛べなかったのだ。
「これで終わりだ……!」
避けられなかったアテナは、左右の足を鎖に繋がれ、さらに頭上にも同時に出現させていた鎖で両手も鎖で繋ぐ。
これでアテナは身動きは取れず、鎖の力によって魔力を練る事さえも難しくなった。
「…くっ……!」
そのおかげか、周りの気温も通常に戻り、空一面に浮かんでいた氷塊達が消えていく。
リュウゲンは盾を消し、アテナの前に堂々と立つ。
今は諦めたように大人しくしている。
「さて、これでやっと俺の勝ちだ。後ろの盾に気付かなかった時点で、お前の負けは確定してた」
「私に話し掛けてる合間に、移動……させてたのですね……」
「あぁ、そうだ。あんな話しをしといて、悪いとは思ってる」
「いいえ、動揺してしまい、周りが見えなくなっていた私の落ち度です。もうこの状態では何もできません。煮るなり焼くなり好きにすれば良い………」
「ハァー……………んじゃあ、お言葉に甘えて……ニヤリ」
リュウゲンは両手を肩まで上げ、無防備な姿のアテナの………………両脇をくすぐり始めた。
「…え、なっ…何を………くっ、やっ….やめ………う…あっ…くっ…ハハ………くっ……やっ、やめて下さい……!?」
「ふむ、仕方ないのう。やめてやろう」
「はぁ……はぁ……はぁ………あなたは……一体何を………」
意外な弱点を見つけ愉快そうなリュウゲンと、突然とやられたせいで、顔を上気させ息も絶え絶えのアテナ。
「いやー、リラックスしてもらおうと思ってな」
そんな理由でくすぐられて許されるはずもなく、アテナはリュウゲンを鋭く睨む。
「いや、まじでごめん。なにもそこまで睨まなくても。まあ、そんじゃ平和的な話し合いをしようか」
「今さら何を話すと言うのですか」
「お前の本当の目的を喋る気はないのか?」
「………誰にも言う気はありません。なので「なら、俺がその目的を果たす手伝いをしてやる」………今なんと?」
「そのままの意味だよ。俺と盟約を結べ。お前の果たすべき事の手伝いをしてやる、その代わりにユキナを守って欲しい」
「…………無理です。元々私は魂だけの存在。この子の魔力の封印に、自分の魂も一緒に封じ込めて存在していたのです。それが解放された今、あとは時間経過と共に消えていくだけ………」
「なら、もう一度ユキナの魔力を封印すればいい」
「はぁ?貴方は何を言っているのか分かって「全部じゃない。一部だ」………………」
「こんな無限のような魔力。今のユキナじゃ扱えない。だから、半分封印すればいいと思うんだが、出来ないか?」
「………………可能……ですね」
「なら、どんな魔術かは知らんが、今お前が言ったように半分の魔力を封印するのと同時に、自分の魂も封じ込めて定着出来るって事でいいな?」
「えぇ、大丈夫です。ですが、この盟約にあなたのメリットがない。破綻しています」
「メリットならあるさ。この先ずっとユキナを守れる訳とは限らないし、俺一人じゃ無理な場面も出てくる。でも、ユキナの事を大事に思ってるお前がユキナを守ってくれるなら、俺も安心だ。ちゃんと俺にもメリットがあるだろ?」
「そんなので……………第一にそんな簡単に私を信用出来るのですか?私の目的も分からずに、盟約を交わそうと何故言えるのですか…!?」
こいつは悪い奴じゃない。
それに、こいつの目的が何であれ、俺達に害を与えるような悪い事ではないんじゃないかと気がしている。
「そりゃ、信用できるからだ。確かに、目的が分からないんじゃあ、手伝うのは難しいかもな。それでも、何も手伝えない訳じゃないだろ」
即答するリュウゲンに、驚きを隠せないアテナ。
「どうして…………私には…あなたがわからない………」
「今は分からなくてもいい。これから、俺達を見ていれば分かってくる」
「分かり……ました…………貴方はそれで後悔しないのですね?」
「あぁ、しない。今からお前は俺の味方であり、ユキナを守る為に互いに協力し合う。ユキナ、これでいいだろ?」
「うん。私に問題はないよ。ありがとう、二人とも」
「それじゃあ盟約を交わそうアテナ」
「いいでしょう。負けた私に、どちらにしろ選択権はありません」
リュウゲンは鎖を解き、アテナを自由にさせる。
まさか鎖を外してくれるとは思わなかった為、少し驚いていた。
「落ち着いて平和的に話せるなら、鎖なんていらないさ。もう、争う気はないだろ?」
「まったく………貴方は………」
「それで、盟約は結んでくれるんだろ?」
「えぇ、先ほども言いましたが私に選択権はありません。それに……私にとっては悪くない話しですし。では、貴方の血を」
そう言い、どこから取り出したのかアテナはナイフを一つリュウゲンへと渡す。
「えっと、たしかお互いに手を切って、切った手で握手すればいいんだよな?」
「いえ、手を切るのは貴方だけで大丈夫です」
「えぇ?俺だけ?」
「はい。それを言霊と共に私が貴方の血を飲めば終わりです」
「えっ?そうなの?…………ま、いっか」
ルメオさんの時と違うけど、この人確か昔の人だし、やっぱ今と昔じゃあ血の盟約のやり方が違うのかもな。
リュウゲンは自分の右手の手の平をナイフで切り、その手をアテナに差し出す。
「ここに盟約を誓う。我が名はアテナ。誓いを立てるは、彼の者の名はリュウゲン・カミヤ。我が願いは協力、彼の者の願いは守護者。絶対たる盟約により、誓いは命へと繋がれる。ここに主の誓いを」
アテナはリュウゲンの手を取り、溢れ落ちそうな血を全て飲み干す。
ん?………まてよ、最後におかしな単語なかった?
え、主の誓い?
「これで盟約は完了しました。我が主よ、これからよろしくお願いします」
って、はぁぁぁぁぁあ!?
そうして俺は、未だよくわからない奴と、勝手に主従関係にされた。




