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24話【ユキナと魔力】

最近忙しくなり、投稿が遅れてしまいました。


3人が買い物を終え、ギルドへ帰宅したのは夜の七時。

ちょうどお日様も完全に傾いている時間帯だ。

大量の荷物を先に部屋に置いた後は、酒場へと再度集まり夜ご飯を3人で食べ、その後ギルドマスターが呼んでいるということで、3人揃ってルメオのいるギルドマスター室へと向かっていた。


俺もちょうど頼みたいことがあったため、お呼ばれしたのは好都合だ。


ギルドマスター室と書かれたドアの前に着くと、メルルはノックを叩いてたから中へと入っていく。

リュウゲンとユキナもそれに続き中へと入ると、部屋の中はリュウゲン達が使っている部屋よりも一回り大きい部屋で、壁に二つの本棚と中央にテーブルとソファーが向かい合うように二つ置いてある。

窓側の方には、ルメオが使っているであろうデスクがドアの方を向いて置いてあった。

整理整頓されており、質素で綺麗な部屋という印象が持てるだろう。


「ルメオマスター、二人とも連れてきましたよ」


自分のデスクの椅子に座っているルメオにメルルはそう言うと、何かの本を読んでいたルメオが3人の来訪者の方に顔を向ける。


「ご苦労ですメルル。リュウゲン君も妹さんもお元気そうでなによりです」


「おう。んで、何か用なのか?」


「ギルドカードが出来上がったので、お呼びしました」


「あぁ、なるほど」


「要望通り、Aランクのギルドカードです。魔力量と属性のことも書かれていますが、魔と邪の属性は書いていません。そのため、闇属性としか書いていません。あと、一応魔力量も少なめに書いときましたよ」


「ありがとルメオさん。これで明日から依頼が受けられる」


「なくさないで、しっかり持っといてくださいね。作るのが面倒ですし…」


ちゃっかり本音言ってますねこの人。


ルメオはそう言って引き出しから黒いカードを取り出し、それをデスクの上に置いた。

リュウゲンはそのカードを手に取り、書かれている内容を確認する。

一番左上には、この世界の文字で“ギルドカード“と書いており、そのすぐ下に大きく“所属ギルド名 《黒鴉》“、そしてそのまた右下に“ギルドランク《A》“と書かれている。

カードの中央には、このギルドの紋章が描かれていた。

さらに裏にひっくり返すと上から順に、

“名前 《リュウゲン・カミヤ》“

“性別 《男》“

“年齢 《15》“

“魔力量 《5千万》“

“属性 《闇》“

と書かれていた。


なんというか、まるで偽造パスポート作ってるみたい。作ったことはないけど。


「5千万か………これっておれの歳じゃあやっぱり多いのか?」


「まあ、そうですね。リュウゲン君の歳だと、平均魔力量は百万ほどでしょうか。ですが、あなたたちの行く学校は五百万を越える人が多数いますので、そこまで心配する必要はないと思いますよ。それに、近年のレイノルズ魔術学園には、才能のある学生が増えていると聞いてますし、あなたが心配するほどそこまで目立ってしまうような魔力量ではないと思われます」


なるほど。あんまり目立ちたくないってのはバレバレか………


「なるほどなぁ。まあ、なるべく目立たないようにはするけど、やっぱりちょっと不安かな」


「あまりギルドカードを見せつけなければ、魔力量は知られませんし、怪しまれることはないはずです」


「でも、リュウゲン君なら落ちこぼれ扱いはされないでしょ」


「そうか?これでも向こうの世界じゃ、似たような扱いされてたぞ」


「兄さんが……?」


ユキナは信じられないという風な顔をしている。


「おう。まあ、向こうのことだからユキナが気にするのことはないさ」


そう言いながら、ユキナの頭を優しく撫でる。


「でも、兄さんは落ちこぼれじゃないです。そう言う人がいたら、私が許しません!」


「ハハッ、ありがとなユキナ」


「でもリュウゲン君の事情知ってる人なら、そんな事は言えないと思うけどね」


「天才でもないけどな」


「なら、変人ね」


「どこがだよ!?」


「え?違うの?」


「俺は至って普通………のハズ」


「そこまで言ったなら、ちゃんと言い切りなさいよ」


「まあまあ、それよりリュウゲン君。私に何か言いたいことがあるんじゃなかったんですか?」


「あー、そういえばそうだったー……って、なんで俺がルメオさんに用があるってわかるんだよ!?俺、一回も言ってないけど?」


「そんな顔をしてたので、なんとなくですよ」


「いや、なんとなくで分かるものなのか?まあ、いいけど………」


「それで、私に用とは?」


「ちょっと今からユキナの魔力の封印を解きたいから、俺がルメオさんと闘った部屋を貸してもらいたいってだけなんだけど………」


「いいですよ。常時空いてますから、好きに使ってください。今遠征でかなりのギルド員が遠出していて、使ってる人はいないですしね」


「なら、良かった。遠慮なく使わせてもらうよ」


そこでユキナがリュウゲンの服の袖をいつのまにか強く握っている。

それに気付いたリュウゲンがユキナを見ると、不安と驚きが混じったような表情をしていた。


「兄さん……私には本当に魔力があるんですか…?」


「あぁ。絶対100%とは言えないけど、俺の考えが正しければユキナの中には魔力が眠っているはずだ。大丈夫……少し危険にはなるけど、俺がきっちりなんとかするさ」


そうリュウゲンが言うと、先程と変わって少し安心したような顔をするユキナ。

リュウゲンの言葉には、かなりの信用を持っているようだ。


「兄さんがそう言うのなら、全部兄さんに任せます。この命は、兄さんから貰ったようなものですから……」


「おそらくリュウゲン君の言った通り私から見ても、妹さんの中には魔力が存在している可能性の方が高いです。そこは安心しても大丈夫でしょう」


「ルメオマスターがそうお墨付きで言ってるし、なおさら大丈夫よユキナちゃん」


「いえ、私にそこまでの発言力はないですよ。それより、私も同行してもいいですかね?」


「おっ!ルメオさんが一緒にいてくれるなら、それはそれで有難いな」


「ならば、早速行きましょうか」


言われた通りにリュウゲンとユキナは部屋から出ようとするが、何故かルメオがそれを止める。


「二人共、動かないでください」


どういうことだ?

もう行くんじゃなかったのかよ?


とりあえずリュウゲンとユキナは、ルメオに従ってその場をじっとする。

メルルは何が起こるのかすでに分かっているようで、先程から動かずじっとしている。


「それでは……」


ルメオが指をぱちんと大きく鳴らすと、突然体が空中を浮いたような感覚と共に、リュウゲンの周りの景色が一瞬にして変わる。

そして目の前に広がるのは、見覚えのある景色だ。

そこは昨日リュウゲンとルメオが闘った訓練室に他ならない。


もしかしてこれが転移魔術か……?

確か魔方陣なしでの転移魔術は最上級の中でも上位に位置する難易度だったはず………詠唱なしで指を鳴らすだけでこんか簡単に出来るものなのか?

しかも四人もの人間をあんな簡単に…………………


「あ~、リュウゲン君。今君が言いたいことはなんとなくわかりますよ。何故、無詠唱で転移魔術が成功したかですね」


「あぁ、まあな。無詠唱で魔術を行使することも出来るのは知ってるけど、転移魔術は最上級の中でも難易度はかなり高いほうだったはず。それを簡単に余裕で使うから驚いたよ。見たところ魔方陣も使ってないしな」


「さすが、よく勉強してますね。リュウゲン君の言った通り、転移魔術を使って世界を行き来できる人は指で数えるほどしかいないでしょう。ちなみに私は出来ますが、転移させられるのは私一人だけですね。二人以上は失敗して死ぬ可能性があります」


まじか………そんな危険なもんだったのかよ転移魔術って。

使えるたらすごい便利だなとは思ってたけど…………


「ということで、さすがの私でも四人全員を一気に転移させるのは難しいです。そこで今使った転移魔術ですが………実を言うと、このギルドの地下にある魔方陣を使用してたんです。まあ、使用というより利用しただけですが」


「やっぱ魔方陣を使ってたのか」


「はい。それとその魔方陣ですが、大きさはこの街……王都全体になります」


はぁあ!?


そのことはメルルも知っていたらしく、驚いてるのはリュウゲンとユキナだけだ。


「なんでそんな大規模魔方陣が地下に?」


「それが……私にもわかりません。魔方陣を施したのは私ではないですからね。何十年も前からあったそうですが、今となっては王族関係の者しかその魔方陣の事を知らないでしょう。調べようとは思いましたが、地下に行って警備隊にでも見つかったら面倒ですし………」


なるほどな。

その地下の魔方陣ってのは、おそらくこの国にとっては曰く付きの場所なんだろう………それも、国での警備が必要なほどの場所だ。

この国の秘密が眠っているのかも知れん。

今のところ興味はないが、そこら辺のこともあいつら(蜘蛛たち)に調べさせるか。

知っておいて損になることはないしな。いざって時の交渉材料にもなる。


「そういうことで、私にはあの魔方陣がどういった能力を持つのかは未だわかっていません。ですが、一つだけ分かったことがあります。それは、大量の魔力が地脈のように、王都中を枝分かれして流れていたということです」


大量の魔力が地脈のように…………どういうことだ?

魔方陣に魔力が流れているということは、魔方陣が発動しているという証拠だ。

ということは、今までその魔方陣はずっと発動していたということか?

だが、魔方陣が発動しているというのに、今この王都ではどんな現象も起こっていない。

結界は王宮だけであり、王都全体には張っていない。他に魔方陣の恩恵らしきものは見当たらない。

なら、何のための魔方陣だ?

いや、これもあいつらに調べさせとくか。


「地脈のように流れていたね………その魔方陣の魔力でも使ったのか?」


「まあ、三割当たりですね。確かに転移する際に使う魔力は、魔方陣のおかげで本来の10%以下ですが、他にも魔方陣の恩恵はちゃんとありますよ?ということで、ここで少しクイズをしましょう。転移魔術を使う際に必要なものを知ってますか?」


「多大な魔力と高度な空間把握能力?」


「正解です。転移するのにその場所の情報を知らなければ、転移することはできません。しかし魔方陣の場合は、あらかじめ転移するその場所の情報がすでに記されているため、自分がいる魔法陣をA点として、転移する場所の魔方陣B点にそのまま転移することが容易になります。では、B点の魔方陣が存在しないこの地下のA点の魔方陣には、なんの情報が流れていると思いますか?」


なるほど……………てことは……


「地下の魔方陣の範囲内の情報すべて…………つまり王都全体がすでに一つの魔方陣で囲まれているから、その魔方陣がある王都全体の中なら、どこでも転移できるってわけか!?」


「簡単に言えばそういうことですね。さらにプラスして、地下の魔方陣にはもっと転移しやすいように私が少しいじらせてはもらいましたが………」


「結局地下には行ったんだな……」


と、リュウゲンが呆れ声で言うが、「少しいじっただけですよ」と何の反省もなさそうな返事をされる。


「まあ、まったく空間把握能力を使わないというわけではありませんが、その場所をある程度知っていれば、一般人でも数回転移するのは可能です。一つだけ条件があるとすれば、この石が必要になりますが……」


そう言って白衣のポケットから取り出したのは、銀透明の不思議な力を感じさせる小さな石だ。


「私が作った特別製の石です。これに魔力を流して、何かきっかけになるような刺激……まあ、私は音で刺激しましたが、衝撃でもいいので与えると、自分が思ったところへと飛べますよ。もちろん、この王都内のみですがね」


「でもちょっと待てよ…………その石ってかなりやばくないか?だってそうだろ?そんなもんがどっかの不良とかに使われたら、いろいろとまずくね?」


犯罪し放題じゃねぇかこれ………


「無理ですね。まずこの特別製の石、今のところ二つしかありません。一つは厳重に保管庫に、もう一つは私が持っているので、乱用される心配はありません」


「へぇ……なるほどな。なら安心か………?ルメオさんなら、犯罪のための乱用なんて下らないことしないだろうし。それじゃあさ、戦闘の時とか使えないのかこの石?」


だって強くね?バンバン転移すりゃ、移動してるんじゃなくて、転移してるわけだから気配なんてわかんないし、普通に瞬間移動するより速いし疲れないからよくね?

そうすりゃ、何の気配もなしに突然相手の後ろにつく的なことも簡単じゃね?


そう考えてると、ただのチートだな。


「戦闘では使えませんね」


ありゃりゃ………残念。


「王都内限定ですし、発生速度も早くありません。それに、何度もすぐに連発すると、壊れてしまう可能性があります。逃げることになら使えますけどね」


「なるほどな。戦闘に使えなくても、便利は便利だな」


「今度、リュウゲン君にもう一つの方をあげますよ。生憎、持て余してましたし」


「え~!!?マスター、私にはあげないって言って、リュウゲン君にはあげるんですか!?」


突然今まで静かだったメルルが、横から不貞腐れたような声で話しに入ってくる。

不満そうな表情で、顔を膨らませている。


「あなたは別です。仕事のさぼり癖を治したら考えると言っているでしょう。もう一個作ってほしければ、真面目に働いて下さい」


「うっ………それはつらいかも……」


いやつらくないだろ、おい。

いつもサボってるのかこの人…………


「さて、本来の目的とは脱線した話しになりましたが、そろそろユキナさんの魔力をどうにかしましょう」


「そうだな。じゃあ、メルルさん」


「何?リュウゲン君」


「椅子を二つほど持ってきてくれないか?」


「りょうか~い。ちょっと待っててね」


そう言ってメルルは一度訓練室から出ていく。

一分もしないですぐに椅子を二つ持ってきたメルルは、その二つの椅子をリュウゲンの前に置いた。


「はい。この椅子は何かに使うの?」


リュウゲンはその椅子が向かい合うように置き直し、メルルに返事をする。


「サンキューメルルさん。この椅子はそのまんまユキナと俺を座らせるためのものだよ。それじゃあユキナ、これを飲んでくれ」 


そう言って渡したのは、先程謎の爆乳美人魔女ことレオナからタダで貰った飲み薬だ。

リュウゲンはその薬を三錠渡し、ユキナを椅子に座らせて自分もその向かい側に座る。


「にっ…兄さん………これは………?」


何が恥ずかしいのか、リュウゲンから目をそらし顔を少し赤くして照れたような表情をするユキナ。


「ほら、肩の力を抜いてリラックスだユキナ」


「はっ、はい……!」


「ルメオさん。万が一魔力が暴走した時用の魔方陣かなんかあるか?」


「一応、大量に噴出した魔力を処理する魔方陣……ならありますが?」


「さっすが。ピンポイントで俺の求める魔方陣だな」


「魔力の暴走って……どういうことなの?」


「封印される程の魔力量。突然解放された大量の魔力を、体が耐えられなくなって拒絶するかもしれないからな。念には念をだよ」


「なるほどね。それなら納得」


「それじゃあルメオさん。頼むわ」


「わかりました」


ルメオが指を鳴らすと、ユキナのいる地面に一つの魔方陣が現れる。

大きさはユキナがすっぽりと入る大きさだ。


「ありがと、ルメオさん。それじゃあ始めるぞユキナ」


「はい……!」


「今から俺は、闇の原典書にあった魔術を使う。その魔術は、他人の精神世界へ行くことのできる魔術だ。その魔術を使うと、俺とユキナは気を失うことになるだろうから、倒れそうになった時はメルルさん…頼むよ」


「わかった!倒れないようにすればいいのね?」


リュウゲンは黙って頷く。


「そして、ルメオさんには俺とユキナの体に異常があった場合、無理矢理ユキナを起こした後に俺を起こしてくれ。ルメオさんなら俺の魔力を感じただけでわかるはずだからな」


「わかりました。しかし、なるほど……相手の精神世界へ行く魔術ですか…………それは便利な魔術ですね」


「まあな。昨日あの原典を読んでて、精神世界なら魔力が封印された核が見つかるんじゃないかと思ってな」


「何故、思ったのです?」


「根拠はないし、まったくの憶測なんだけど、もしかしたらユキナは産まれた時からかなり大量の魔力を持っていて、無意識のうちにそれを体が拒んで封印したんじゃないかって考えたんだ」


魔力が産まれたときからないって設定の奴は、大体こんな理由だろうし、元貴族のユキナならこの理由が妥当だろう。

それに、この世界に置いて魔力がないというのは異常な事だ。

マナを吸収する受け皿がないということは、そのまま死を意味する。


「確かに、理にはかなってますね。ですが、気を付けてください。ユキナさんの精神世界があなたを追い出そうと排除しないとは限りません」


「えっ……?それってどういう……」


それを聞いて真っ先に驚いたのはユキナだ。

リュウゲンが危険な立場になるとは思わなかったのだろう。


「それも計算済み。自分でなんとかするつもりだし、ユキナは心配しなくていいぞ」


「兄さんに危険があるなら……やっぱりやめた方が…「ユキナ」………はい…?」


「ユキナは悔しくないのか…?魔力がないというだけで、周りの奴らや家族にさえ拒絶され、虐げられて。憎んではいないのか?」


「それ…は……確かに…今でもあの人たちのことを憎んでいます……自由以外にも奪われたものはありましたから……」


ユキナの目には、確かに憎しみのような感情を持っているのが見える。

何か、大切なものを目の前で奪われたようだ。


「ユキナちゃん……」


メルルはそんなユキナを見て、心配したような顔をする。

詳しいことはわからなくても、ユキナの目を見れば何となくメルルにも感づいたのだろう。

ルメオも場の空気を読んで静かにしている。


そしてユキナは、おそらくこう心の中で思っているのだろう。

憎しみという感情は周りを不幸にし、心の中にあってはならない感情だと。

きっと、この優しい少女はそう少なからず思っているハズだ。


「だからユキナは、その感情はあってはならないものだと思ってる……違うか?」


リュウゲンよ言ったことが的確に当たっていたのか、その言葉を聞いたユキナが目を丸くさせ驚いている。


俺はユキナがどんな境遇にあってきたか知っている。だが、何を具体的にされてきたかは詳しくは知らない。

それでも、言えることはあるはずだ。


「はっ、はい…………そういう感情はやっぱりよくないものですし……兄さんたちにも迷惑をかける可能性があります…」


「そうかな?少なくとも、俺は思わないよ。だってその感情を、ユキナはただ持ってるだけだろう?」


「……………」


リュウゲンの言ってることが少し分からなかったのだろう。

少し戸惑ってる様子だ。


「だからユキナはさ、その感情をただ持ってるだけで、行動に移そうとはしてないだろ?」


「……確かに…………ですが、いつか復讐したいと思う時が来るかもしれません。そしたら、その矛先が兄さんに向かないとも限りません………なら、兄さんが危険な目に遭うぐらいなら、魔力がなくてもいいです。私には兄さんさえ傍にいてくれるならそれだけで……」


うっ………まずい。まじ……泣いていいですか?

ほっ、ほんとにいい子過ぎるよこの子はッ!

なにこの子、人を泣かせるプロにでもなれるんじゃね!?

だっ、だがいかん………俺はまだ言いたいことを全部言っていない!


「嬉しいことを言ってくれるなユキナは。でもよ、俺は悔しいんだ。こんなに優しい子が、拒絶されて辛い目に遭うことがよ。俺はそれが堪らなく許せないし悔しい。だってそいつらにもっと見る目があればさ、もしかしたらユキナは辛い目に遭わなくて済んだかもしれないんだ」


「兄さん………」


「だから、見返してやってもいいんじゃないかな?お前を苦しめた全員に、お前たちは人を見る目がなかったって。辛い目に遭わせたから、お前らの所には戻らないって感じでさ……俺はいいと思うんだよね。それって、人が普通に持つ一般的な感情なんだからさ。そうだろ、ルメオさん、メルルさん」


「えぇ、妬み恨み憎しみなどの負の感情は、感情を持った全ての生物が持っているものです。ですから、そういう感情が必ずしも不要なものだとは言えないでしょう」


「そうね。そういうのって人それぞれで難しいかもしれないけど、相手に勝ちたいとか、相手を見返したいっていう気持ちは悪くないんじゃないかな?」


二人とも、俺の言いたいことを察し、それに同意してくれる。

だが、俺の言いたいことはまだ終わってない。まだ、言っておきたいがあるからだ。


「……………………」


リュウゲン達の言葉を聞いて、無言で俯くユキナ。色々と言われ、少し考えているのだろう。


なら、ここであと人押しだ。


「そうだな。せっかくだし、俺が気付いたら持っていた持論を教えてやるよ。これは、ルメオさんとメルルさんにも聞いてほしい」


その言葉にユキナがピクッっと反応すると、興味津々な目がこちらを見てくる。


「兄さんの持論……ですか?」


「おう。ちょっと恥ずかしながら、言わせてもらうとするよ。言っとくが、そんな大したことじゃないからな」


「よっ!リュウゲン君!」


メルルは大きく拍手をしながら、わざとらしく場を茶化してくる。

周りの暗い感じの空気を変えたいのだろう。いつも通りの人だとリュウゲンは思う。


「感動して泣かないように。まあ、一つも感動する要素ないけど」


「えー、てっきり恋愛の教訓かと……」


「誰も言ってねーよ!……とまあ、メルルさんに対するツッコミはここまでにして……」


「えーっと、何故地下に魔方陣があるかって話しだっけ?」


いつの話だよ!……とツッコミたいとこだが、ここはスルーだ。話が進まない……………


「とまあ、誰かの茶々で雰囲気が一気にぶち壊しだが……」


「テヘッ♪」


………もはや無視の域だな。

うん、そうしよう。ルメオさんも呆れてる様子だし。


「というわけで、改めて俺の持論だが……ユキナ。ユキナは光と闇、どっちがいい?」


「光と闇……ですか…?」


「悪い。この質問じゃあ、ちょっと分かりにくかったな。なら、質問の仕方を変えよう。ユキナは光と闇のどっちが好きだ?」


「………一般的には光…でしょうか?今まで暗いところにいたせいか、暗闇に慣れてしまって、光がなんなのかまだ余り分かってないですが……」


「質問に答えてくれてありがとう。ユキナの言う通り、光を好むのが人間だ。俺もその通りだと思う」


それで終わりじゃないだろ的な雰囲気に包まれ、そこまで聞き耳立てなくてもいいだろうと思いながらも、リュウゲンは話を続ける。


「さて、ここで色々と言う前に、俺の持論を先に言っておくぞ。俺の持論はな、『闇と光は結局は一つのもの。なら、自分の思うままにやればいい』……それが俺の持論。俺という人間を知る上で、知っておいて欲しい」


「つまりー……どゆこと?」


ルメオさんは俺の言いたい事を理解したみたいだが、メルルさんとユキナには余り伝わっていないようだ。


「つまり兄さんは、光も闇も同じもの。だから、復讐する事が悪い事じゃないと…?」


「少し違うな。俺にとっては、正義も悪も同じで重要な事ではない。なら、大事なのは正しいか間違いかじゃない。自分の本心で何をしたいか、それが俺の考えだ」


「………兄さんの持論は……なんとなくですが……わかりました。ですがそれを聞いて……私のせいで兄さんを傷付けていい理由にはなっていませんし、だから何が言いたいのかもわかりません………ただ私は…兄さんを失いたくないだけなんです……!」


涙目で必死に言うユキナ。

無理もない。おそらくただ不安なんだろう。

今まで一人ぼっちでいたのに、突然兄という繋がりができ、ユキナはそれを突然と失うのが怖いのだろう。

そして今のユキナは、大事なものが傷付くだけでも嫌なのだ。


危険と言っても、死ぬ気はないんだけどな……まいったねー。

それにユキナの言ってることはその通り。最初の話しから結構話しが脱線してるからな。

他から見れば、だからなんだ?的な感じのはずだ。


リュウゲンはユキナの両手を自分の両手で優しく掴み、彼女の目を見つめる。


「俺はな………偽善者とか正義や悪だのほざく奴らが嫌いだ。ユキナにはそんな奴らみたく、人の為なら自分の心を押し殺すような、そんな俺の嫌いな偽善者になって欲しくない。それに、ユキナはこの世界にきて一番最初に自分の身を顧みずに守りたいと思った大事な存在なんだよ。まあ、俺は自分が大好きだし、死ぬ気もなければ苦しいのも痛いのも嫌だから、そう簡単にくたばるつもりはないけどな。ユキナとこれからずっと一緒にいるのが俺のやりたいことでもあるし」


そうだ。俺は俺の為に生きる。

そして、俺はユキナと一緒に楽しい人生を送りたい。

その為の努力なら惜しまない。


「だからユキナ、俺はお前の本心を聞きたい。わがままを言って欲しい、それが兄としての俺の務めだし、もう充分ユキナは苦しんできたろ?なら、今度はユキナが幸せになってもいい番だと思わないか?」


「……ッ!……………」


ユキナはその言葉を聞いて何かに気付き、リュウゲンを無言で見つめ始める。


今のユキナの中にあるのは少しの迷いだけみたいだ。

今まで魔力がなく、見捨てられていた自分が、本当にワガママを言ってもいいのか……そんな感じで悩んでいるのだろう。

ヒカルとの昔の件で、なんとなくユキナの気持ちが俺には分かるのだ。

だからこそ見捨てられなかったんだろう。


あの時俺が助けたのは………


「もう一回聞くぞ?……ユキナは魔力が欲しくはないのか?」


「私は…」


リュウゲンは、まだ少し悩んでいるユキナの頭にポンと右手を乗っけると、そのままいつものように優しく撫でる。


「俺はなユキナ………決めてるんだ。お前がやりたい事全部叶えさせて、一緒に生きてやるって。俺はユキナの兄さんだ。だから、甘えてくれ。俺にユキナの魔力を解決させてくれ」


そのリュウゲンの言葉をきっかけに、ユキナの感情がついに爆発する。


「わっ、私は……魔力がほしい…です…………だっでもう、まりょぐがなぐでみずでられのはいやだがら…!」


途中から涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、初めて自分の本音を言ったユキナ。


「馬鹿だなユキナは。魔力がないだけで、見捨てるわけないだろ?それに、魔力は俺が何とかしてやるから大丈夫だって」


「そうよユキナちゃん。たまには私にも甘えていいからね!なんならお姉ちゃんと呼びなさい!」


いきなりだな、おい。


「いや、メルルさんに姉なんて務まらなそう」


「うわっ!ひっどー!ねぇ、聞いたユキナちゃん?本物の妹を持つお姉さんキャラな私に向かってこんなこと言うんだよ!?」


「自称だろ」


「自称じゃないーー!ムキャー!」


猫が威嚇するように、メルルさんはムシャーっとリュウゲンを睨む。


はっきり言おう……怖くない。


「…プフッ……」


「あー!笑うなんて酷いなーユキナちゃん」


さっきまで涙で溢れていたユキナの顔は、気付いたら笑みを浮かべていた。


今のやりとりが面白かったかどうかはさておき、我が妹が泣き止んでくれてよかった。


「でもよかった。どう?決心はついた?」


メルルさんが優しく尋ねる。


「はい!お願いします、兄さん!」


今度のユキナは迷いのない決心がついたような顔をしていた。





















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