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23話【オリジンマスター】

さらに奥へと進んでいくと、カウンターのある広いスペースに突然と出る。ここだけ整理整頓されていて、他より広い。

そして、綺麗な水晶を両手で持ちながら、カウンターの中で椅子に座ってまるでこちらを待っていたかのように見ている人物がいた。

頭まで深々とフードを被っており、男性か女性かの区別が付きにくくなっている。見た目はどこぞの怪しい魔法使いのような感じだ。


「いらっしゃい、坊や。珍しいわね。貴方みたいな若い子がこんな怪しいお店に来るなんて」


若い女性の声だ。


なあ?普通こういう店の店員って、怪しいおばあちゃんとかじゃね?

まあ、いいけどさ。

それにしても、怪しいっていう自覚はあるんだな。


「あるものを探してるんだが、いいかな?」


「それでは何をご所望で?」


「なら、鎮痛剤というか……痛みを和らげる飲み薬とか置いてないか?」


そう言うと、呆気に取られたかのように無言になる。


「…………………………………」


「えーっと………やっぱりないか…………」


「いえ、あるわよ。ただ、意外と普通のものを頼まれたから、少しがっかりしただけ。ちょっと待っててくれるかしら?」


「あっ、あぁ……おっけ…」


その女性はリュウゲンの返事を聞くと、立ち上がってさらに店の奥へと消えていく。

おそらく薬を取りに行ってくれてるのだろう。


てか、がっかりしたって変なものだったら良かったのか?

いや、まあ、もしかしたらここの奴は変人なんじゃないかとは予想はしてたけどね?


そんか事を考えていると、数分もせずにフードの女性が戻ってくる。

フードの女性は一つの小さな瓶をカウンターに置き、また椅子へと座っていく。


「一応これが、今ある中で唯一の鎮痛剤よ。まあ、最近では飲み薬や塗り薬を使う人は少ないから、そこら辺では売ってないのは事実ね。この店を選んだのは、運が良かったと言えるかしら」


「ありがてぇ。それでいくらだ?」


「お代はいいわ。その代わり教えて欲しいことがあるの」


顔が見えないため、どんな表情をしているか分からず読みにくい。

何を言いたいのかは分からないが、余り油断ならなそうな気配をリュウゲンは感じていた。


「…………その質問によるな」


「それもそうね。なら単刀直入に言うわよ?さっき貴方が使ってた飛行魔術……あれは一体なんの属性の魔術かしら?」


それを聞かれたリュウゲンは、表情には出さなかったが実際内心ではかなり驚いていた。

まさかこんなに簡単に見られていたとは流石に思っていなかったからだ。


「へぇ………簡単に飛んでいる事が見抜かれて驚くと思ったのだけど……貴方、驚かないのね」


「いや、結構驚いてるよ。どうして俺が空を飛んでたなんてわかった?まさか、俺の魔術が失敗してたとか?」


「答えはいいえ。貴方からは魔力や気配が全く感じられないわ。どんな魔術かは知らないけど、これほどまでに自分の存在を消せる魔術は初めてよ」


「なら、どうしてわかった?」


そう言うと、フードの女性は水晶をリュウゲンの前へと出す。


もしかして……この水晶になにかあるのか?


「私が貴方を認識出来ているのは、この水晶の力よ。これは古代の遺跡で発掘された、世界に一つしかない特別な水晶。どんな魔術の影響も受けずに、私の望むものを透視することができる……と言ったところかしら」


「なるほど。俺がこの店に来るのも分かってたってことか」


「そういうことよ。それで、教えてくれるのかしら?」


「そうだな。その水晶のことを教えてもらったことだし、多少ならいいぜ。あの飛行魔術は闇属性の魔術だ。おそらく闇属性唯一の飛行魔術なんじゃないか?魔術名は《イマジネーション・スカイ》」


「………聞いたことない魔術ね。もしかして、あなたのオリジナルかしら?」


「いや、闇の魔術書の原典に載ってるぞ」


すると何を驚いたのか、突然とフードの女性がカウンターから身を乗り出し、リュウゲンの手を取る。


そしてそこで、リュウゲンはふとした事に気付く。


この人……かなり胸が…………でかいな………


まあ、さっきから何となく違和感があると思ったら、この胸のせいだったのか。

おそらく、これが爆乳というやつだろうか。

うん、でかすぎですね。


「もしかしてあなた、原典が読めるの!?」


「あっ、あぁ……まあな……」


「もしかして全部読めたとか?」


「一応全部読んだ」


そして今度は静かになる。


「……《原典解読者(オリジンマスター)》………」


「オリジン……マスター…?なんだそれは?」


「あっ、ごめんなさい。私としたことが取り乱したわね」


そう言って女性は身を戻し、また椅子へと座る。


しかしこれは……………別に巨乳が好きとかじゃないんだけど…………流石にこのでかさは予想外。

やばい………つい、胸に目が言ってしまうんだが!

これが男の性というやつなのか………!


と、一人煩悩と戦っているリュウゲンを尻目に、二人の話しは進んでいく。


「そうね。普通の人なら知らない言葉よね。見たところ、原典を読んだのはかなり最近ってところかしら?」


「まあ、確かに昨日だな。もしかして、オリジンマスターってのは原典を読める奴のことをそう呼んでるのか?」


「ふふ…頭のいい子は好きよ。貴方の言う通り、原典解読者(オリジンマスター)とは、それぞれの属性の魔術書の原典を全て最後まで読んだ人のことを言うわ」


「最後までって言うと、途中までは他の人でも読めるのか?」


「えぇ、途中まで読める者もいるわね。けど、それなりの精神力や魔力、素質がないと精神がやられておかしくなるわ。それも、自殺する程に追い込まれるという話しよ。逆にそれらの条件をクリアしてても、半分も読めないのがおちかしら」


なるほど。よくわかったのは、一歩間違えれば俺も人生終わってたってことか………………

そんなもんを平気で貸すルメオさんがほんと恐ろしいんだけど!


「でも、稀に原典を全て読める人がいるのよ。ほとんどが特別な才能持ってる人たちばかりだけどね。あなたもそうでしょ?」


ローブで顔は見えないが、不適な笑みを浮かべていそうだ。


「まあ、俺が才能に溢れているかどうかはさておき………あんたの言う通り、隅から隅まで全部読んだよ」


「あなたのような若い子が全て読んだというのは初めて聞いたわね。あなた、名前は?」


「リュウゲン・カミヤ。あんたは?」


別に特に減るもんでもないので、普通に答えてみた。


原典の事を俺より知っているのであれば、この人を利用して情報集めることも可能だと考えたのだ。

それに、こういう裏の知り合いはいないよりいる方が良い。


「私はレオナ・メルト。そうね……一介の魔女とでも思って貰えれば結構かしら」


そう言って女性はローブのフードを外し、その素顔をリュウゲンに見せる。


なるほど……………こりゃかなりの美人だ。夜中に会った金髪の美人さん並みといっても過言じゃない。

これほどの爆乳を持ってるのも頷けますわ。


「あら……見惚れてくれたのかしら?」


「イエス。とても綺麗なお姉さんに会えて感激中」


「フフッ……正直なのね」


そう言って綺麗な瑠璃色の自分の髪を手直しする。

それがまた絵になっていて、とても神秘的だと言えるだろう。


「ねぇ、リュウゲン君……お互い自己紹介も済んだことだし、私たち……親密な関係になったとは思わない?」


レオナはそう妖艶な笑みでリュウゲンに話しかける。


この人の場合、その一挙一動全てがエロく感じるんだが…………これが大人の女性か……………

ヒカルのあれで、女に耐性持っててよかったですほんと。

まあ俺の場合、少し耐性が固すぎるぐらいだけど。


「ハハハ……いや、俺は思わないぞ。どうみても、面倒ごとを頼む気だろ?」


「あら。まだ、面倒事とは一言も言ってないわよ?それとも、そっちの方が男の子としては刺激的なものの方がいいのかしら?」


「すんません、遠慮しときます。まあでも、聞くだけならタダだしいいぞ」


「そう………案外優しいのね」


「紳士で通ってる、カリスマですから」


全然違いますけどね!


俺が紳士的なのは、なにか裏があるのが基本。

はいこれ、テストに出ます。


「フフッ……面白いわねリュウゲン君って。そうね……ほんとはあなたが得た原典の魔術を教えて欲しいのだけども、嫌でしょ?」


「とてもとても面倒です」


「正直な男の子は好きよ。そこで違う話しになるのだけど、あなたも一応ギルドには入ってるわよね?」


「あぁ、一応ブラック・レイヴンに所属してる」


「そう……まさかあの研究バカがいるところに……」


研究バカって、もしかしてルメオさん?

うん、あの人しかいないな。


「知ってんのか?うちのギルドマスターのこと」


「そりゃあ、かなりの有名人よ。知り合いじゃなくても知ってるぐらいにわね……」


なるほど。この言い草だと、普通に知り合いっぽいな。

しかも、曰く付きと予想。あの人も、案外昔は青春してたんだろうか。


「まっ、深くは詮索しないでおくよ」


「フフッ……ありがとう。それじゃあ、話の続きといきましょう。続きと言っても、もう言うことは一つだけだけどね。あなたが今後ギルドの依頼を受けた時、私も連れて行って欲しいってだけなのよ。勿論、全ての依頼という訳ではないわよ」


「なるほどな。でも、俺にはあんたの目的が全く見えんのだが……」


「簡単よ。まずあなたを知るには、やっぱり近くの方がいい。ただそれだけよ」


またもやレオナは妖艶な笑みを浮かべる。


この人、一体何を考えている?


「そのオリジンマスターってのに興味があるのは分かった。だがそれ以外に、あんたに興味を引かせるようなものは俺にはないぞ」


「ほんとうにそうかしら……?」


そう言いながら、テーブルに置いた水晶を両手でかざし始める。


ちっ……そういうことか。

あの水晶で俺の体でも調べてたみたいだな。

てことは、最低でも俺が他に特殊な力を持ってるのはバレバレか。

厄介すぎだろあの水晶。

あーあ………なんで俺のまわりには、ほんとこう一筋縄ではいかないやつが多いのか…………


「俺の話しは一旦置いて、俺の利益についてはまだ聞いてない」


「そうだったわね。私があなたに差し出す利益は二つよ。一つは、この店のものは自由に無料で使っていいということ」


「ちょっと待てい!それは商売にならないだろ!?」


「いいのよ。私が頼んでる身なんだから。お金なら昔に稼いだものがいっぱいあるから、赤字とかは全然気にしてないのよ。ということで続き、いくわよ?」


「おっ、おう……」


「二つ目は私の知識。そうね………魔属性についてとかどうかしら?」


それを聞いて、今度はリュウゲンが身を乗り出す。


やはり普通にバレていた!すげえなこの水晶。


「ほんとか!?魔属性について詳しいのか!?」


「えぇ、昔に魔属性を持つ魔族と知り合いだったのよ。その時に私が教えてもらったことを、あなたに教えてもいいわ。その代わり、一ヶ月に二回は私を連れていくこと。そして、遠征の任務はなるべく私も同行させること。どう?悪くない条件だと思うのだけど………」


謎ばかりだった魔属性のことについて知っているのならば、答えは一つだ。


「仕方ない。その話し……乗ってやるよ」


まさかこんなに早く魔属性の知識を得られるとは…………

それに、どうみても俺が一番得する内容だな。

この店には、他にも面白そうなものがありそうだし。


「交渉成立ね。ということで、これからよろしくねリュウゲン君」


そう言って手を差し出してくるレオナに、リュウゲンは遠慮せずにその手を掴み握手に応じた。


「おう。こちらこそよろしく」


「あっ、そうそう。あなたに渡しておきたいものがあったのを忘れてたわ。もう、この店には出るのでしょう?」


「まだ買い物が終わってないからな。話しが終わったら出るつもりだったよ」


「なら、ちょっと待っててね」


レオナはその爆乳をプルンとさせながら立ち上がると、先程と同じように奥へと消えていく。


俺に渡したいもの?変なもんじゃなきゃいいけど………


すぐに戻ってきたレオナは、何やら箱のようなものを持っており、それをカウンターの上へと置く。

ずしりと音がして、箱にそれなりの重さがあるのが分かる。

どうやら胴のようなものでできた箱らしく、正方形の形をしていて、大きさは大人の頭ぐらいだ。


「これは?」


「とりあえず開けてみなさい」


リュウゲンは言われたとおりに、その箱の蓋を取る。すると中には、銀の腕輪のようなものが一つ置いてあった。

それを手に取り、よく見る。

どこからどうみても、何の変哲もないただの銀のブレスレット。


「んで、これは?」


「私が昔、遺跡で発掘したものよ。オリジンマスターにしか使えない魔導器らしいわ」


魔導器……確か、魔力で出来た武器のことだったな。


「オリジンマスター専用なのか?しかも魔導器らしいって……どういうことだ?」


「その遺跡に、オリジンマスターしか使えない魔導器……みたいな事が書いてあったのよ。それがほんとみたいで、他の者や私で実験してみたら、誰も何も起こらなかったのよね」


「なるほど魔導器か………ちょうど何か武器が欲しかったんだ。まあ俺が使えるかどうかは分からないが、貰ってってもいいのか?」


「えぇ。オリジンマスターなら、魔力を流すだけで使えるはずよ。もし使えなくても、あなたが持っていてもいいわ。私の所にあっても意味ないもの……」


「んじゃ、この魔導器に魔力を流すのは後にするか。何が起こるかわかったもんじゃない」


昔の武器みたいだからな。暴走しないとは限らないし、ちょっと使ってみただけで核並みの威力とかだったらまったく笑えない。


「そうね。危険な魔導器の可能性もあるから、広いところでやるのがオススメよ。最悪魔力を流して爆発なんてことも可能性がないわけではないわ。つまりは自爆ね」


「おし、ちょっと待とうか。爆発ってどういうことだ、おい」


「ふふ…冗談よ冗談。そんなこともあるもしれないから気を付けてねってこと」


ハァー…………使うには命を賭けなきゃいけないということでしょうか?

相変わらずの最悪な運ですね。

死なない悪運に期待しよう。


「色々とありがとな。また明後日にでもくるよ。状況報告に」


「ほんとに?それは願ってもないわね。なら、楽しみにしてるわ」


「おう。そんじゃ、ありがたく貰っとくわ」


リュウゲンはそのブレスレットを右腕に付けながら言う。

ちょうどいい大きさで、まるでリュウゲンの腕回りの大きさに最初から合わせていたかような感覚だ。

とりあえず、偶然だろうと考える。


「それじゃあ、また来るよ」


「えぇ。またね」


リュウゲンはその言葉を聞くと、出口へと向かっていく。


つか、入り口らへんをもうちょっと片付けようぜ。カウンターらへんとの違いがありすぎる。

普通に狭すぎだわ。


とりあえず何とか店を出たリュウゲンは、ユキナ達がいると思われる店へと徒歩で向かう。

もちろん服は、途中通る道に服屋がいっぱいあったため、適当に寄っては1週間分程の服を一気買いする。


ちなみにこの世界の服装は、俺が元いた日本のファッションとあまり変わらない。

そのため、自分の服を買うのにはそこまで苦労はしなかった。


さて、そろそろ着くな。あいつら終わってるといいけど…………


ユキナ達がいる予定の店に着いたリュウゲンは、自分の服が入った紙袋を二つ持ちながら店の中へと静かに入っていく。


「さて、あいつらはっと…………おうまじか……」


中へ入ると、目的の二人はすぐに見つかった。

見つかったのはいい。場所はレジカウンター、現在お会計中のようだ。


さて、問題のあの紙袋の量はなんだ?


1…2…3…4…………8つだと……?


いや待て、流石に多すぎだろそれは!

確かに金に問題はないけど、あれ絶対ユキナのだけじゃねぇな。

絶対メルルさんのも入ってるだろあれ。

しかもなんか店員さんと交渉してるし……………


「これ全部買うから、二割引でどう!?」


「しかしお客様、先程から何度も言っている通り、1割以上はこちらとしても…………」


「なら、しょうがないわね。三割引ならどう!?」


いや、さっきより割り引き増えてるし………


「ハァー…………私の負けです。三割引としましょう……」


しかも、三割引で負けた!?上がってから諦めるのかよ!?


「たくっ、どんだけ買ってんだよ」


「あっ、兄さん…」

「おっひさ~!リュウゲン君!」


「おう。とりあえず俺のものは終わらしてきたぞ」


「はい、これ」


そう言ってメルルは、大量の紙袋を全てリュウゲンへと渡す。

今まさにリュウゲンは、肩から手まで紙袋に侵食されていた。


つら!なにこの体勢!?歩くのさえ大変なんだけど!


「ごめんなさい、兄さん。メルルさんが私に似合うからって、どんどんかごに入れていったらこんなになっちゃいました…」


「まあ、大丈夫ではないけど別にいいさ」


「さすが、ザッ荷物係!」


リュウゲンの背中を笑顔で叩きながらはそう言う。


ちょ………こいつまじで覚えてろよ…………


「てか、そんな役職に就いた覚えないわ!」


「まあまあ。さっ、まだまだ買い物はこれからよろしく!次いきましょう!次!」


「まったく……」


何故かテンションの高いメルルは、スキップしながら先に店の外へと先に出てってしまう。

それを呆れながら見るリュウゲンであった。


どこの小学生だあの人は………


「兄さんも行きましょう」


買い物がそんなに楽しいのだろうか、ユキナもいつもより雰囲気が少し陽気に感じられる。

しかも、そう言いながらリュウゲンの手からいくつか紙袋を取ろうとしていた。

おそらくリュウゲンの負担を減らしたいのだろう。


ええこや!ええこすぎるでユキナ!

かわええすぎる!!


「ありがとな。今日は俺が荷物持ちするから大丈夫。ユキナは買い物だけ楽しんでていいからな」


「ありがとう兄さん…」


そう言って、和やかな雰囲気でリュウゲンとユキナも店を出た。


その後も俺とユキナとメルルさんの三人は、途中いろんな所を寄り道(特にメルルさんが)しながらも、生活に必要な日用品を大量に買っていく。

さらに、帰りもメルルさんのテンションが下がることがなく、ユキナもしばしばメルルさんの話しを聞いては少し笑ったりするところも見れたため、今日はとてもいい1日だったと実感した。





















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