22話【買い物】
すみません。終わってない状態で一度投稿しちゃいました。
大変お待たせしました。投稿再開です。
メルルの話しは、受付の仕事もやったりするということで、さすが説明するのが上手であった。
なるべく分かりやすく、さらにはたまにこの世界での豆知識っぽいことも言ってくれるので、さすが伊達に受付嬢やってるだけあるなー、とか思いながらリュウゲンは歩いていた。
そのおかげか、目的地までの10分間は余り距離を感じられずに着いてしまう。
ここからリュウゲンは、一人行動の予定だ。
この二人の買い物が終わるまで、どこかで暇を潰しながら自分の服もついでに買わなくてはいけない。
正直言って、時間が余るのは明白だ。
なんたって、女性の買い物はとても長いのだから。
「着いたわね」
「それじゃあ、ユキナとメルルさんはここでじっくりと服でも選んでてくれ。俺は自分で自分の服を、探険がてら買いにいくよ」
「そう?一応リュウゲン君に合いそうな店とか、あとで連れていく予定だったんだけど……」
「さっきいくつか気になる店を見つけたから、そこで買うよ。ありがとなメルルさん」
「兄さん……どっか行っちゃうのですか………」
悲しそうな顔をするユキナ。
一緒に服を選んでもらいたかったのだろう。
「悪いなユキナ。ユキナの服を買うのは、少し時間が掛かるだろうし、それならその合間に自分の物を買っておいた方が効率的だと思ってな」
ほんとは長いだろうから、散歩していたいだけなんだけど……………そんな事は流石に言えんなぁ。
「兄さんがそう言うなら……」
「ありがとな」
リュウゲンはユキナの頭をくしゃくしゃと撫でると、照れたような顔をするユキナ。
「いえ。兄さんにはいろいろと助けてもらってるので、私が我が儘を言うのもおかしいですし………」
「そんな事はないさ。我が儘ならいつだって言ってくれた方が、兄としては嬉しい」
と、もう一回くしゃくしゃに頭を撫でる。
「リュウゲン君。別行動する際に、これ…渡しておくわよ」
そう言ってメルルが差し出したのは、昨日ルメオがエイダと連絡する際に使っていた白いお札のような紙だ。
そのお札には、よく見ると薄く魔法陣のようなものが刻まれている。
「これは?」
「これに魔力を流すと、同じ魔法陣が刻まれた紙と会話できるようになってるの。だから、何かあった際に連絡できるように渡しておくからね」
なるほど。つまり携帯みたいなもんか。
そりゃあ、便利だな。
「ちなみに、一枚に付き一回しか使えないからよろしく〜。使うのはすごい簡単なんだけど、作る方は結構面倒みたいで、そんなに量産してないの。だから慎重に使ってね」
「へぇー……これもルメオさんが開発したとか?」
「当たり。他にも連絡手段はあるけど、やっぱりこれを使うのが手っ取り早いのよね…」
ほほう。てことは、これ以外の連絡手段は今まで何を使ってたんだ?
一応何か他にも術的な連絡手段はあるんだろうな。
帰ったら調べてみよう。
「なるほどな。なら、使うときは緊急の時だけだな」
「そういうこと。まあ緊急の時だけって言っても、リュウゲン君の場合あまり意味ないかも知れないわね。なんか、自分で全部解決しちゃうだろうし。逆にこっちが連絡しちゃうかも」
「おいおい、俺はそんな万能じゃねぇって。メルルさんだって一応SSSランクなんだから大丈夫だろ?」
「一応ってのは気に入らないけど、まあそうよね。大体のことなら何とかなるかな」
「まっ、とりあえず受け取っとくよ。何かあった際は連絡する。そっちも何かあったら連絡してくれ。すぐに駆け付けるからよ」
「ふふ…ありがと。それと相手から連絡が来るときは、その紙が勝手に振動する仕掛けになってるから」
マナーモードかよ!?
てか、よくそんな設定できたな!魔力を感じたり、熱くなったりとか、もっと魔術的なそれっぽい感じの方法とかじゃね?
なんで何となく機械っぽいんだよ!
向こうの知識をルメオさんに教えたら、絶対賞とか取れるレベルの開発やら発見とかするだろあの人………
まさに天才。恐ろしい!
「あっ、あぁ……了解」
「それじゃあ、行きましょうかユキナちゃん」
「はい」
「終わったらこの店の前にいるからな」
「うん、お願いね。それじゃあリュウゲン君もまたあとで」
「おう。ユキナもまた後でな」
そう言うと、ユキナは一回頷いて答える。
さて……今日の本当の目的を達成しに、この街を徘徊でもしますかな。
リュウゲンはユキナとメルルと別れ、街のさらに奥へと向かっていく。
メルルさんには、さっき通った道に見つけた店に行くと言ったが、実を言うとあれは嘘だ。
今日の俺の本来の目的は、日用品はあとであの二人と一緒に買うとして………一人行動の際の目的は、服と護身用の武器と、このくそでかい王都の大体の構造の把握と、鎮痛剤かそれに似たものを探すことだ。
護身用の武器は、最悪いいのがなければサバイバルナイフでも充分だ。
問題はあとの二つ。
鎮痛剤だが、この世界に飲み薬の概念があるのかどうか……それがわからない。
そしてあったとして、まったくどこに売ってるのか検討がつかない。きっと探すのに一番苦労するはずだ。
そして二つ目はこの王都全体の把握。これは誰もが無理だと思うはずだ。実際ずっと走って探検しても、一日じゃ終わらないだろう。
しかも、時間は2人の買い物が終わるだろう一時間ぐらいしかない。俺がいないせいで、2人に心配はさせたくないからな。
ならどうするか?
簡単だ。空から全体を見ればいい。
俺がこの案を思いついたのは、闇の魔術書の原典に空を飛ぶ?ための魔術が書いてあったおかげだ。
おそらくは、闇の魔術の中で唯一の飛行魔術ではないだろうか。
いやー、あの魔術書。最初に読み終わらしといて正解だったな。最後らへんのページにあった内容だし。
まあとりあえず、空でも飛んでこの街をぐるっと一週でもしてきますかな。
ついでに気になる店とか探しながらがいいな。
薬屋があるとは思えないが、怪しい店には大抵いいものが揃ってるのがセオリーのはず。
怪しい店を発見次第、適当なところで降りて徒歩で探すのもありかもな。
リュウゲンはなるべく誰にも姿を見られないようにと、裏路地へとこっそり入っていく。
これは、他人にリュウゲンが飛ぶところを見られないようにするためだ。
空にいるのがバレて、注目を浴びるのは嫌だからな。
「さて……やりますか」
リュウゲンは目を閉じ静かに息を吐くと、体内の魔力を身体中に練り上げ、魔術を行使することに集中する。
詠唱を始めるか。
「我求めるは、空を渡る大いなる力。混沌たる人の心より想像し、顕現せしは己自信の闇と渇望の姿なり。天を裂き、地を見下ろし、掌握するは世界の想像。今宵、我が肉体に空を駆ける力を。《イマジネーション・スカイ》……」
魔術名を言うと、背中に突然黒い翼が2本生え始める。
鳥のような普通の翼ではなく、黒い光りのようなものでできた翼だ。
飛ぶ前に、この魔術について少し説明しておこう。
実はこの魔術は、この黒い翼を出す事を目的とした魔術ではない。
ただ単に、翼があるほうが飛ぶのをコントロールしやすいと考えたら、勝手に背中に生えたものであり、実際なくても飛ぶことが可能らしい。
ただその場合、コントロールが難しくなるという事だ。
そしてこの魔術の本来の能力を説明すると、簡単に言えば翼を使うのではなく、自分が空を浮遊している姿を想像すると、それが現実に起こるというのがこの魔術の本来の力だ。
そのため、翼がなくても飛べるというわけだ。ちなみにスピードや性能も術者の想像力で変わる。
この世界の魔術を使用する際に、一番重要であるのが想像力となっているが、その想像力をフルに使わないと使えないのがこの魔術だ。
他の魔術はまだ知らないが、おそらくはそれなりに難易度が高いほうだろう。
条件は地から離れている姿を想像をしていれば発動可能だということ。
空中に見えない地面を想像すれば、その想像した空中の地面に乗るという事も可能だ。
ここまでおさらいしておれが想像した飛び方は、自分が架空の天使のように空を自在に飛ぶことだ。
その補整で翼が生えたしまったのだろうと考えられる。
その魔術書には、人によっては飛び方が実体として具現化することもあると書いてあったしな。
カッコいいのでこれはこれであり!
「さっそく飛んでみるか……」
リュウゲンは、自分が実際にこの翼を使って飛んでいる自分の姿を想像する。
最初はゆっくりだ。
背中の翼を本物の実体として見なし、さらには自分の身体の一部だと認識し、想像しやすくする。
そして、ゆっくりと自分が浮いていく感じを想像する。
すると背中の翼が少し羽ばたくだけで、自分が真っ直ぐに宙へ浮いていくのが分かる。
「……うぉ……っ!まじで浮いてる………」
自分自身の力で空を飛ぶという向こうの世界では決して体験できなかったことが、今はそれを直に体験していることに、リュウゲンは猛烈に感動していた。
「このまま上昇だ!」
背中の翼の感覚がよりはっきりしたものに感じたリュウゲンは、一気に黒い光りの翼を大きく羽ばたかせる。
そして空へと真っ直ぐに飛んでいくと、いつの間にか王都全体を見下ろせるような高さまで上昇していた。
リュウゲンは高さを維持しながら、器用にぐるりと身体を回転させ、空から周りの景色を眺める。
「ハハッ………最高じゃねぇか!」
この街は大きな城を中心とし、丸い円形を造るようにして、高さ十メートルはあるだろう壁に囲まれている。
全体的に見るとかなり大きいのが分かる。流石に王都と呼ばれているだけはある。
そしてさらに、この王都の周りは森と山に囲まれており、城の天辺からから見れば絶景と言える景色と言えるだろう。
しかしなるほど………たしかにここに大きな都を作れば、そうやすやすとは攻められないな。
なかなかいいところに作ったもんだよ。
それよりまずは、予定通りこの街を一回りしないとな。飛行の慣れも会わせて、5分で一回りはしたいし。
あっ、そうだ!
あの魔術をやらないと、一般人じゃない奴に俺が見えちまう。
あぶね、忘れるとこだった…………
「我は陰。陰なる我は、光りより遮らし者。何者にも触れられず、何者にも現されず、何者にも察せられず、何者にも聴かされず、あまねく影に潜み、力を内包せす。我が身全てに闇の衣を纏いて、全てを遮断する。《シャドウ》」
そう唱えると、身体全体から黒いもやもやしたとしたものが溢れ出る。
その黒いものが全身を包むように覆っていき、視界もなにもかも全て黒くなっていく。
おそらく他から見れば、真っ黒な人間にしか見えないだろう。
だが、まだこの魔術の発動は終わっていない。
全身を包んだ黒いもやもやは、だんだんと透明になっていくと、最後には全ての黒いもやもやが消えていく。
これはリュウゲンの体に溶け込んだということだ。
この魔術は、自分の気や魔力といった気配などを全て遮断する魔術だ。
これを使えば、どんな強者相手でも感知はできなくなっている。普通の人間なら、隣にいてもまったく気付かないほどに。
はっきり言って、暗殺するのにこの魔術はかなり向いているんじゃないか?
能力だけ見たら、暗殺し放題だし。
原典にしか書かれていなかったのが救いだろうな。
まだそういうのに使う気はないが…………
ともかく準備は整った。行くか。
リュウゲンは背中の翼で自分自身が飛んでいる事を細かく想像し、城を中心としてこの王都を一回りする。
飛んでる合間に街を見ていくと、どこも人が盛んで賑わっており、少し不自然なくらい平和に見える。
不謹慎かも知れないが、こういうでかい所はどこかに一ヶ所ぐらいは貧しい人たちが住んでいる地域があると考えられるんだが…………それが見当たらないので平和としか言いようがない。
俺には関係ないことだから、どうでもいいけど。
さらに途中で、ヤンキーみたいな男に絡まれている女の子も見つけたが、そういうのは俺の役目ではないので無視。
ユキナの時はあれだ……うん……なんとなくだよ…助けたのは…………
まあ、ユキナという存在に出会えたのだから万々歳という事で。
一周してスタート地点まで戻ってきたリュウゲンは、一旦空中で立ち止まり城の方を見る。
さて、この城はどうすっかな。
この国にヒカルが召喚されたのがほんとなら、この城に一時的に住んでるはずだ。
侵入して奴の行動探るのもいいけど………そんな時間は今はないしな。
なら、俺の代わりの監視役を作るか。
そう考えた俺は城に近づく。
「………ッ!」
するとリュウゲンは突然飛行を停止する。
勝手に身体が城の上空に入る事を拒んだのだ。
停止した場所は丁度城の門が真下にあるところ、つまり街と城の境目より少し前のところだ。
なぜかこれ以上は近付くなと、俺の体や頭が言っているような感じだが………
「まさか……結界かなにか張ってあるのか?」
リュウゲンはそう考え、右手を差し出してそれを確かめてみる。すると案の定、丁度門の境目らへんでリュウゲンの手が弾かれたのだ。
これは………おそらく空からの侵入用の魔術結界か障壁だろう。
…………………………………
そしてリュウゲンは、弾かれるのが分かっているにもかかわらず、もう一度右手でその結界を触ろうとする。
何故だか分からないが、この結界がなんなのか理解出来るのだ。
そして、無意識のうちにこの結界と同じ性質の結界を自分の右腕に纏わせており、そのおかげで弾かれずに、さらには右腕だけ通り抜けることができた。
これは一体……………
一番分からないのは、どうして俺がこの結界について、一体どういったものなのか分かることだ。
これは無属性魔術の城塞用障壁魔術で、物理的なものや魔術も全て弾く鉄壁の障壁だということが、何故だがその結界を見てるだけでリュウゲンには理解できた。
さらにはその性質や性能、弱点なども分かってしまう。
そのせいで無意識に右手に結界を張ったんだろうな。
この城塞用障壁魔術……魔術名は知らんが、どうやらこれと同じ性質のなら通り抜けるらしい。
なんというか、ほんと俺自身謎過ぎるよな…………
まじ、何なんだろうか俺は………………今は気にしてもしょうがないんだろうけどよ。
リュウゲンは右手に張ったのと同じ結界を全身にやると、飛行しながら城へと侵入し、城の屋上のような場所に着地する。
ここに着地した理由としては、単純に人の気配を探ってみたら、ここが一番人の気配がなかったからだ。
とりあえず侵入成功っと………あとは俺の代わりの監視役を呼び出すだけだな。
「我が従順なる闇の僕よ。我が目となり耳となり、付き従え。冥界より出でよ!《リムド》!」
唱えたリュウゲンの目の前に、サッカーボールほどの大きさの黒い闇の渦が現れる。
そこから出てきたのは、親指と人差し指でわっかを作ったぐらいの大きさの、蜘蛛のような真っ黒い生物が数十匹だ。
自分で出しといてあれだが……はっきり言って少し気持ち悪いな。
虫は苦手じゃないけど、好きと言うわけではない。さすがにこの大量の蜘蛛は、おれでも『うわっ…』てなるわ。
まあつべこべ思わず、とりあえず指示を出してこの城からおさらばしよう。
「第一優先は勇者ヒカルの監視だ。他は国王やそれなりの権力のあるやつの監視も頼む。さあ、散れ…」
リュウゲンがそう言うと、蜘蛛たちは一斉に城全体へと散らばっていく。
よし。ここまでは順調だな。
ヒカルの行動の監視という目標も達成したことだし、あとは必要なものの買い物だ。
蜘蛛たちがいなくなったのを確認すると、リュウゲンはまた空へと飛び立ち、難なく城を後にする。
そして、空を飛び回りながら次の目的のお店を探し始める。
おっ、あそこの店なんか怪しい気配がプンプンだな。
空から見つけたお店は、窓全てが黒いカーテンに閉められて中が見えなくなっており、看板には何でも屋と書いてある。
その時点で、胡散臭すぎるのがわかる。
そしてその店に行くと決め、近くの人気のないところで着地して目的の店へと向かった。
店の前の周りには人っ子一人おらず、どうみても客がいるような雰囲気でないのが丸わかりだ。
路地裏的な場所にあるため、お客に余り恵まれていないというのもあるのだろう。
こういうお店は掘り出し物がありそうだか!
中がどうなっているのか楽しみだ。
少しわくわく感を持ちながらドアをそーっと開けると、中は予想通り薄暗く、懐中電灯がほしくなるぐらいの暗さだ。
「おじゃましまーす……」
中へと入っていきゆっくりとドアを閉めると、また一段と暗くなる。
中の様子は、リュウゲンの身長よりでかい棚にぎっしりと大きな荷物なども置かれてあるせいで、せっかくある二つの通り道がさらに狭くなっており、さらに暗すぎて奥まで見えない。
棚には、リュウゲンの知らないような植物や動物の一部分が入った瓶詰めなども置いてあり、かなり不気味と言えるだろう。
これはまた、王道な不気味さだな。
でも、暗いと何だか落ち着くんだよな。
だからって、俺は陰険じゃないぞ?確かに暗いのは好きだが、決して引きこもりの才能なんて持ってないからな?ほんとなんだからな?暗いのが好きというだけなんだからな?
ということで、まずはこの店の店員でも探さないと。
とりあえず抗えない好奇心を抑えずに、さらに奥へとリュウゲンは進んでいく。




