20話【始まりの終わり】
「まずは、レイノルズ魔術学園について説明しましょう」
「よろしく頼んます」
「レイノルズ魔術学園とは、地理的には隣の国の《ウィンゼル帝国》との国境沿い近くにある学園です。生徒数、規模、すべてにおいて世界最大の魔術学園とも言われています。そのため、トップクラスの潜在能力をもつ生徒たちが最も多くいる学校です」
「つまりエリート校って訳か?」
「そうですね。しかしエリートと言っても、貴族のご子息ばかりという訳ではありせん。実力があれば誰でも入れますが、なければ容赦なく落とされます。それがたとえ七大貴族のご子息や、各国の王族もしくはそれに類する者であっても例外ではありません」
なるほど。独立していてなんのコネも通用しない、いわば実力至上主義の学校か。
そりゃすげぇや。
「そういえば、七大貴族ってのは初めて聞いたな。この世界で一番権力のある貴族とか?」
「えぇ。この国の貴族の頂点に位置する人たちですから、国王に近い権力を持っています。表でも行動はしますが、本来は裏の世界を取り仕切っているのが七大貴族です。国王が表なら裏は七大貴族……そう考えるのが簡単ですね」
「てことはだ………そんなすごい連中の権力が通用しないそのレイノルズ魔術学園ってところは、そいつら以上の権力でも持ってるのか?」
「いえ。権力が通用しないのはそこの学園長のせいですよ。名はメルアリア・ローテス。自身で帝制度を作り、そして一番最初に帝の頂点に座った魔女です。昔は《最凶の魔女王》とも呼ばれ、彼女一人で世界の半分は滅ぼせるのではと言われる程の化け物です」
待て………それは人間なのか?
はっきり言って、人間離れした化け物みたいなゴリラ女しか想像できないんだけど………
「歳はもうとっくに100を越えるとも言われていますが、未だにその力は衰えていない正真正銘の化け物です」
この人がこれだけはっきりと化け物と明言するほどとか、一体どんな人物なのか……………
「確かに……そんだけやばい人なら、権力とかは通用しそうにないな。なんか、全部を力でねじ伏せそうな感じ?」
「えぇ、その通りです。ですので、誰もメルアリア・ローテスには手出しができないですし、横から口を挟める者もいません。それが例え一国の王だとしても………傍若無人、勝手気儘とはあの化け物の事を指してると言っても過言ではありません」
なるほどな。
ほんとにそんな化け物ババアがいるなら、まじで相手にはしたくねぇな…………
ちょい待て……それだけ聞くと、行きたくなくなったんだけど?
よくそんなやつが学園長やってる学校に入ろうと思うな、この世界の奴らは…………
それにこの言い方から察するに、もしやその学園長が苦手なのではこの人……?
「まあ、そんな人がいる学園ですが、人気の理由はちゃんとありますよ?設備も世界一充実しており、何より全て寮生で遊べる場所もあります。そのせいか学園都市とも呼ばれ、大方の事は学園内の施設で事足りてしまうのですよ」
「そりゃあ、青春真っ盛りの人たちには夢の学園だなぁ」
「えぇ……ですので、お二人にもそんな楽しい学生生活を送ってもらうのもいいかと私は思った訳ですよ。それに、この世界をより知ることもできるでしょうし……」
研究ばっかやってるこの人でも、少しはそんな良心があったんだなー。
少し見直したように見えるけど、実はまだひとつ疑問が残ってる。
「で、それ以外の理由は?俺達に青春を送ってほしいとかよりも、もっと違う理由があるんだろどうせ?」
「えぇ。実はそんなことニ割ぐらいしか思っていません」
最後に笑っと付け足したくなるような言い方だ。
えっ、この人さらっと二割とか言ってるんですが……………
全然思ってなさすぎだろ!いやなんとなく分かってたけどさ………………まあ、いいか。
「そしてもうひとつの理由ですが、実はその世界最大の魔術学園に、あなたが持つ神の属性……つまり邪の属性のことについて書かれていると思われる書物が、その魔術学園に保管されています」
それを聞いたリュウゲンは、予想外の情報に目を丸くして驚く。
最大の謎と言っても過言ではなかった、自身が持つ神の属性について書かれた書が存在していたのだ。
さすがに邪属性について書かれた本はないと思っていため、あるのであればそれはリュウゲンにとってはとても嬉しいものだった。
もしかしたら、邪についての情報や魔術が載っている可能性もあるのだから。
それに、万が一何かのきっかけでこの神の属性が暴走しないとも限らないと考えていた。
謎すぎるこの属性について少しでも情報を知っておくことに、必ず損はしないはずだと。
そして色々なことも考えた結果、とりあえずは学園に通う方がいいかもしれないという結論あたる。
あとはその邪の属性ついて書かれた書物の在り処を聞くだけだ。
「それが確かなら、行く価値はあるな。それで、その邪の属性のことについて書かれた書物は、レイノルズ魔術学園のどこにあるんだ?」
それを聞くと、ルメオがいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
やはり、書物が保管されているところがまともな場所ではないと、その笑みを見てすぐにリュウゲンは思ってしまった。
「書物が保管されている場所は、学園が保有する図書館の地下奥深く……何重もの結界や罠が張り巡らされ、近付くことすらできないほどに厳重に保管されています。地下に入って生きて出られるかどうか………私でさえも難しいかもしれません…」
「ちょっと待とうか……まさか俺に、その罠やら結界やらを自力で突破して、書物を盗んでこいとか言わないよな?」
つまり俺に死んでこいと…………………?
そんなやばい場所を攻略なんてできるかッ!
「そこまではしなくていいですよ」
「なら、どうやってその書物を盗むんだよ?」
「なんか勘違いをしてませんか?なにも、最初から盗ませるつもりはありませんよ。自力で突破作戦は最後の手段にしとくのが得策です」
「じゃあ、どうしろと?」
「お金で解決出来るのであれば簡単なのですがね………そういう手合いが通じる相手ではないので無理でしょう。あれを相手にするのであれば、交渉するのが一番かと思われます。まあ、そこはあなたに任せます」
「現地で考えろってか………非常にめんどくせ!」
「まあまあ。とりあえず入学しといて損はないですよ。あそこの図書館なら、私の図書室より多くの本が置いてあります。それに学園でいろいろ学べば、きっとあなたの今後にも役立つこともあるはずです」
まあ…それは俺も思っていたしな。
ユキナが一緒って考えたら、別にいいか。
「わかったよ。俺の方でその学園長と話し会って何とかする。でも、ルメオさんもなんかあったら手伝ってくれよ?」
「もちろんです」
そういえばルメオさんって、そのレイノルズ魔術学園に通ってたりしてたのかな?
やたらとその学園について詳しいけど……………
「ちなみにルメオさんはその学園に通ってとか?そんなに情報を持ってるってことは、その学園に通っていたか、学園長と仲が良いのか、それとも情報力が凄まじいのかぐらいしか思い付かないんだけど………」
「えぇ。あなたの言った通り、学生時代に私はレイノルズ魔術学園に通っていました。そしてある日、学園長のに頼まれて地下に行ったときに、偶然その書物を遠くからですが見つけたんです。その書について学園長にしつこく聞いてみたら、その書が邪の神について書かれた書物だと教えてくれたんです。あのときは大変でしたね…………」
そう、ルメオさんが昔の余韻に浸っているのを見て、おれの中である疑問が残る。
「またちょっと待とうか………学園長に頼みごとされる=成績優秀=仲が良い………」
「えぇ、首席で卒業しましたよ。同期で有名なのは、現在全ての帝を束ねる全帝が一緒でした」
「ならルメオさんが直接頼めば良くね!?帝なら何とかなるだろ!?」
「嫌ですよ。私が会いたくない人間トップスリーの1人ですし。それにあの方は、自分の物は誰にも貸さない譲らないで有名ですからね。きっと、リュウゲン君の事情を話しても、何かしら無理難題で面倒な要求をしてくるのは明白ですから」
「確かに、今聞いた限りだとなかなか骨が折れそうなおばさんだしな。しゃーない……向こうで何とかするしかないか…」
「まあ、推薦状ぐらいなら私宛で送りますし、入学の色々な手続きもこちらでやっておきます。なのでリュウゲン君と妹さんはその過去問でも見て、試験対策だけしてて下さい。一応実技試験もありますが、あなたたちなら何とかなるでしょう」
みんな大好き試験テスト!……んな訳なく、それを聞いただけで憂鬱になりそう…………
けどまあ、魔術に関しての勉強ならまだ興味あるから、そこはかなり楽しみだしやる気が出る。
「了解。試験日は別にそんなすぐって訳じゃないんだろ?」
「はい。予定では三週間後に試験、その一週間後に編入してもらいます。その間の時間は、魔術やこの世界についての勉強をしてもらう予定でしたが……最初からやる気みたいで良かったです。お勉強というと、嫌いなのではと思っていたので……」
そういえばヒカルにもそんなことをよく言われてたな。
確かに俺自身、興味のないことを勉強するのは大嫌いだしな。
いやー、良く学校サボってた頃の俺が懐かしいわ………………ここに来てまだ数日だから、つい最近のことだけどね!気にしない気にしない。
「さすがルメオさん!分かってるじゃないか!まあ、自分が興味のないことには冷たいってのは、わかってるつもりさ。逆に興味のあることには無意識に探求しちまう」
「わかりますよ。私も似たようなものですから」
「いや、あんたは生粋の学者さんだろうに。そのせいか、変人だけど……」
「そうですか?一般人と対して変わらないと性格だと思っていますが?」
自覚ないんですねこの人は………
「しかし、一ヶ月もあるのか。そんだけありゃー、大体やっておきたいことはできるかもなー」
「ですから、これを渡して起きましょう。こちらの世界のお金です」
ルメオはそう言って、白衣のポケットから札束のようなものを取り出し、それを全てリュウゲンに手渡す。
リュウゲンはその札束から一枚を取り上げてお札を見てみると、上の両端に1の数字が一つに、そのあとに0の数字が四つ。つまり10000と書かれている。
その他にもお札の中央に人の顔が書いてあるが、もちろん当たり前のようにリュウゲンはその顔に見覚えなどない。
「この世界では通貨が一つに統一化されていて、単位は『ベル』です」
なるほど、通貨は全国で統一化されてるのか。
それはすごいな。おれがいた地球も見習えばいいのに。
その後のルメオの説明では、十万が最高で純金でできた大きな硬貨。
次に順に一万、五千、千までがお札。五百、百、五十が銀でできた硬貨。そして十、五、一が銅でできた硬貨だという。
ここまで聞いた上でまず思うことは……日本と一緒やないか!?……ということだが、まあ普通に使いやすいからいいだろうという考えがリュウゲンの心の中で浮かんだ。
ここまで来れば、日本と同じ感覚で買い物しても支障はなさそうだな。
それならそれで、こちらとしては楽だ。複雑な気持ちはあるけど……………
「なるほどな。なあ……でも、この札束の量はおかしくないか?どうみても百万は越えてるけど?」
「二百はありますよ。貸しにする気はないんで、存分に使ってください。それに二人分の服とか、生活に必用なものなど、それは今あなたたち二人に必要なものです。ですので、今日の昼に妹さんと買い物にでも行くのが宜しいでしょう。私があなたの協力者となった以上、これくらいは当然です」
金銭までは考えてなかったんだけどな……………
まあ、ユキナのために服とか色々買ってあげないとな、とか思ってたからな。貰っといて損はない。
「ありがとうルメオさん。無駄遣いしないように心掛けるよ」
「えぇ。あなたたちに役立てるように使ってください。それとですが、今日も…というより今日からあの部屋を、あなた方二人の部屋にしようと思ってます。ですから、この世界で一番最初の家…ということですね」
「それは……いいのか?まだ自分のランクはわかんないけど、確かSSランク以上じゃないとダメって聞いたんだけど?」
「その通りですが、今回は特例として、あなたたちにあの部屋二つを差し上げることにしました。いずれはSSランク以上の成果をあげると期待していますので。その投資だとでも思って下さい。それに、これも協力者として当然の事です」
「悪いな。助かるよ」
これで、当面の問題だった衣食住がなんとかなりそうだ。
まあ、この人に貸しを作るのが恐いっていう思いはあるが、気にしないでいこう。
ルメオさんの言う通り、盟約の事もあるし。
「それと今話しに出てきました、リュウゲン君のギルドランクについてですが、私としてはあなたに好きなランクを選んで欲しいと思っているんです」
「つまり、どのランクがいいか好きに選べってことか?」
「はい。私としてはSランク以上でもいいのですが、最初からSランク以上だとあなたが納得するかどうかわからなかったので、とりあえず聞いてみることにしたんです。Sランクを越えてしまうとギルドの外でも目立ってしまいますし、 あなたの場合は特にそうでしょう。なにせ黒髪黒目の人間は、この国では珍しいですから」
「確かに、あまり初っ端から目立つのは良くないな。異世界人ってばれるのも今は避けたいし………」
「えぇ。ですから、あなたが決めて下さい。選択肢は二つ、いっそ目立ってしまうか、もしくは低いランクで目立たないようにするか。SSSでもいいですよ?なんなら帝でもいいですし………その場合は私が推薦すれば済むことですので」
「いや、流石に帝はいきすぎだろ?」
「魔術を覚えたあなたなら、おそらく大丈夫ですよ」
「因みに聞くが、この世界の一般の15歳の学生の平均ランクは?」
「Cですね。最近になってBランク持ちが多くなりましたが」
それなら話しは早い。
「Aで頼む。Aなら学生にしては高い方みたいだからな。しくって本気を出したところを見られても、ギリギリ何とかなるレベルだろう……たぶん」
「わかりました。ではAで作っておきましょう」
Aランク。
となると、あの闇の魔術はなるべく人前では封印だな。
ルメオさんは例外だが、帝が知らない魔術となるとちょっと怪しまれるかも知れないし。
それにしても、帝はいきすぎじゃないか?いきなり最初から世界トップの仲間入りは、さすがに無理があるだろう。
まあ、本音はヒカルにはまだ会いたくないってだけなんだけど………
どうせ一週間以内に新聞か何かで、新しい帝!?とか、帝より上のランク!?とか流れるだろうしな。
なんせ、生粋の主人公だし。うんきっと間違いない。
「しかしAランクまでの依頼だけでは、最初は良くても、後々満足しなくなるかも知れませんね。もしAランク以上でやりたい時は、メルルが受付にいる時に彼女に言って下さい。メルルには言っておきますので」
「まじか?」
「この際、特例が一つや二つ増えようが変わりませんよ。ですが……あなたの事情については、同じギルドの人でも内緒でお願いしますね」
「それは、わかってるよ。元から内緒にする気満々だったし」
「それを聞ければ充分です。メルルはともかく、エイダや他SSSランク持ちの二人には話しても良いかも知れませんね。まあ、そこは任せます」
「そうだな………タイミングが合えば話してみるか」
Aランク以上の依頼でも受けていいとか、ラッキーだな。
ユキナを帝にして、そして高ランク依頼をユキナに受けさせてそれに俺が同伴する……って考えてたんだけど、帝になるのはちょっと先だったし、その前に受けられるのはありがてぇ。
おかげで学園に行く前にやっておきたいことが終わりそうかな?
ん?何をやっておきたいのかだって?
内緒にすることでもないから、教えようではないか。
一つ目、ルメオさんの図書室にあった闇の属性の魔術書の魔術を、最低でも上級まで覚える。
二つ目、なるべく多くの種類の魔物との実戦慣れ+魔術での実戦慣れ。
三つ目、この世界の勉強。特にこの世界の歴史や現代社会についてだな。
四つ目、ヒカルの動きを把握すること。つまり、あいつの今後の行動をばれないように確認。情報集めもかねてな。
そして最後に五つ目、俺のこの世界での立ち位置を決める事。つまり、俺のこの世界での立場…まあ目的でもいいけど、それを決めること。
最後のこれに関しては、この一ヶ月で決めらないかも知れないが、別にそれでも大丈夫だろう。
急いで無理矢理考えることじゃないが、早くに決められるならそれはそれで色々と苦労しないで済む。
良く考えたら、ユキナと平和に過ごすだけでいいような気がするけど…………………
まあ何か目的がないと、人生なんてつまらないだろ?何も決めずにただ生きてるだけなら、それはただ息をしてるだけなのと同じだ。
そんなのを人生とは言わない。
フム…………俺めっちゃいい事言ってね?
やばい。俺って名言で名を残すタイプなのかも………
えっ?それはないって?
どうせ、お前はトラブルに巻き込まれまくるただの脇役系主人公だって?
……………ついに言ってはならないことを言ってしまったな?
脇役ならまだいい。むしろ本望、モブキャラ最高だ。だが、脇役系『主人公』だと?
…………よしっ!その喧嘩買うぞ!
いいかよく聞け?俺は決して主人公ではない。
立場的にそんなポジションになってるが、俺は立派な民間人Aだ!
いや、ちょっと民間人はランクが低すぎたな。
なら、あれだ。主人公の敵役。やるなら魔王がいいなぁ。
そう俺は敵だ。そしてクライマックスに主人公である勇者ヒカルと直接対決して、ヒカルを顔面からボコボコにする。
え?それはもはや俺が主人公だって?
ちっ、違うぞ!別に決して主人公みたいなあいつをぶっ飛ばして、色々と発散したいだななんておもってないからな!
そうだ…!俺は主人公ではない!!
はい。さて、そろそろ俺の本音が出て来たところで、長くなってしまった心の独り言はひとまず置いておこう。
よしっ、そろそろ本編に戻ろう。
「そう言えば、さっきの何とかっていう犯罪組織の奴等のこと、今思い出したけど普通に完全に忘れてたな」
一番最初に話題になるはずだった話しじゃね?
普通に忘れてたわ!なんかすごい敵役っぽく出てきたけど、話しに一切出てこなかったのが可哀想だ(笑)
何かいまさらどうでも良くなってきたな、あの野郎二人………………
「その組織の名前なんでしたっけ?」
おい。あんたが忘れてどうすんねん。
「んー………確か、わんわんクラブだっけ?」
「あー、そうそう。確かにレクイエムって名前でしたね」
おい。俺のボケをスルーしたのと、今の俺のボケた答えから、一体どうやって真実の答えにたどり着いた?
絶対わざとだろ、覚えてないとか。
「あの組織について話すと、また話しが長くなってしまうのでまた今度にしましょう。妹さんも危ういようですし…」
リュウゲンはなんのことかと思いながらユキナを見ると、頭を何度もコクリとさせ、今にも眠ってしまいそうな状態だ。
それでも何とか起きようと頑張っている姿は、何とも儚さを感じさせる。
「ありゃりゃ。まー、しょうがないっちゃ、しょうがないか……なんせまだ夜中だしな」
「お二人とも。お昼ご飯にはメルルが起こしに行きますので、それまで休んでいて下さい。妹さんは特に疲れているようですからね」
「悪いなルメオさん。それじゃあ、俺とユキナは休ませて貰うよ」
「えぇ、お休みなさい」
「あぁ。お休みなさい、ルメオさん」
リュウゲンはルメオに別れを告げ、今にも寝そうなユキナを背中に背負い自分達の部屋へと戻っていく。
そして自分のベットへ先にユキナを壁側に寝かせ、その隣で俺が横になる。
ユキナが起きたとき、俺が隣にいなくて泣かれるのは困るからな。
本音?一緒に横で寝てあげたいだけです……………
「ほら、お休みユキナ」
「お休み……兄…さん…………」
ユキナはそれだけ頑張って言うと、すぐに寝息をたてて寝てしまった。
さて俺も少しは寝るかな。少しは休まないと。
そう考え、リュウゲンは目をゆっくりと瞑る。
いよいよ明日から、俺のこの世界での本当の生活が始まる。
この先きっと、そう遠くない内に俺にとって良くないことが多く起こるだろう。
だが、これから俺がどうこの世界で2度目の人生を送るか楽しみでもある。
そうだ………俺にとってはこれが2度目の人生。
だったら精々楽しむのみ。それが俺なのだから。
~第1章【異世界召喚編】終~




