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19話【戦闘後の休息】


そしてギルド黒鴉(ブラックレイヴン)のカウンター付近。


わたくしことリュウゲン君は、現在カウンターのそばまで吹き飛ばされていた椅子に座りながら、自分の足に塗り薬を付け、さらに包帯を巻いている最中でございまーす。テヘッ♪


言っておくけど、おかしくなったわけじゃないぞ?

ほんとまじで足痛い。いや、嘘じゃないよ?くっそ痛いですよ?


そこまでふざけられるなら大丈夫だろ?


ノンノン。こちとらふざけてられないと、痛みでどうにかなりそうなんですわ。


なんでルメオさんと闘った時は足が痛まなかったのかだって?


まあ、あれは距離もそこまで遠くなかったし、それに一回しか使っていなかった訳ですよ?まあ、そのお陰か目で見える外傷はなかったけど、そん時も多少の痛みはちゃんとあったからね?


べっ、別に違うんだからね!?やせ我慢してたとかじゃないんだからね!?


はい、すいません。少しおふざけが過ぎました。


ツンデレねぇ…………

前の世界じゃ現実(リアル)で見たことなかったから、もしかしたらこの世界では見られるかもな。

そしたら、ヒカルサイドの人間だろうから、それを横からつっついてやろう!


えっ?別に悪い顔はシテナイヨ?


ただ横から、ツンデレの実らない恋にちょっかいだして、ちょっといたずらしようかなーってダケダヨ?


理由?面白いから!


というわけで、

「ルメオさん。あんたもうわざとだろもはや」


「あら、またばれましたか」


すると目の前にあるカウンターのテーブルに、ルメオがすでに座ってる状態で突然と姿を現わす。


この人絶対俺が気付いてるのに透明になってただろ?

なんかの嫌がらせ?


「もう手当ては終わったようですね。回復魔術をかけてあげたかったのですが、生憎私は使えませんし。それにあなたの自然回復力がどの程度か見たかったので」


「たくっ………まっ、俺自身が自分のことよく知らないから、俺の事を外から研究するのは別にいいけどさ。まじ、死ぬかと思ったからな?あんたは屋上から俺を監視するみたいに戦いを見てるだけだし…」


そう、魔法……じゃなかった、魔術が存在するような世界で、知識が少ない状態の俺が、あんな死闘を繰り広げて勝てたのは、はっきり言って運がよかったと言える。

その理由は、初めて使う魔術がぶっつけ本番で成功したのと、最後に武器をを借りられることができたからだ。

あとは、意外と冷静に対処できたのもあるだろう。


「あなたの戦闘は、とても面白いものでしたよ。最後の魔剣を避けたのは、素晴らしかったと言えるでしょう。気付いていたのですか?」


「いや、まあ………あんなあからさまに自分の剣を捨てたまんまだったしな。そりゃ、なんかあんじゃね?って推測するわ」


最後に自動で動き頭部を狙って飛んできた剣に関しては、実は序盤から警戒していたリュウゲン。

剣が近くにあったにも関わらず一向に拾おうとしない為、何かあると読んでいたのだ。

そのため、いくつか相手の取りそうな策を考え、その一つに遠隔操作による剣の攻撃を予測していた。

他に一番可能性がありそうだったので、剣を爆発させる策だ。


まあ、剣の見た目が全部赤色とかいう時点で、普通の剣じゃないわじゃないかとは、少し疑問には思ってたけどな。


「良い状況判断です。それに………原典の魔術を一回で成功させて見せるとはさすがです」


「えっ?まじ?あれって、原典だったの?」


「えぇ、原典ですよ。この世界の歴史のなかで、一番最初に作られたと言われる闇の魔術書です」


「………………ならもしかして、俺に分かりやすい位置にあの本が置いてあったのって、ルメオさんの仕業?」


「鋭いですね。貴方の言う通り、リュウゲン君に闇の魔術書を読んでもらうために、あの本を分かりやすい位置に置いておきました。もしかしたら、あなたになら原典の魔術書を読めるのではと思いまして」


「そりゃ気付くだろ。本の山積みの一番上に、ちょうど俺の属性について書かれた本が置いてあるんだぞ?何となく出来すぎてるとは思っちまうわ。つか、読めるのではって………普通に読めたけどなんかあるのかあれ?」


「はい。まず、普通の人間なら頭が狂って死にますね」


おい。俺が普通の人間だったらどうすんねん………

いや、待て。これじゃあ、自分が自分を人間じゃないと思ってるのと一緒じゃないか。


俺は普通の人間だ!…………と、思えなくなってきた今日この頃………………


「はぁー………結果的に頭も体も異常なかったから別にいいか。そういえば、ほんとにルメオさんと俺とユキナ以外誰もいないんだなこのギルド」


「言われたとは思いますが、現在このギルドでは遠征祭というイベントをやっています。その名の通り遠征する依頼をこなすだけのイベントなんですが、一応ギルドランクの昇格にも関わるんで、ほとんどの人が遠征でいないんですよ」


「もしかして、一定以上の成果をあげなければ昇格できないとか?」


「おしいですね。正確に言うと、一定以上の成果をあげなければ、昇格試験を受けるための資格をもらうことができない、です。他のギルドでも、内容はそれぞれのギルドで様々ですが、大体は何かしらのギルドイベントで昇格試験の資格がもらえます」


なるほど。ここでは遠征の依頼の成果で昇格試験の資格を獲らせてるのか。


「ほとんどってことは、当てはまらないの人もいるのか?」


「えぇ。あなたが知るなかでは、メルルやエイダなどがそうですね。SSSランク以上になると、その上は帝だけですからね。それ以上上げようがないんです。そして、あと二人ほど同じSSSランクの人がいます」


そういえば言ってたな。

あのお喋りお姉さんがSSSランクねぇ………………もしや意外と楽勝?


「ふーん…………イベントって、遠征以外にもあるのか?」


「うちではあと3つほどありますよ。その中でも竜玄君が興味持ちそうなのが一つあります」


「へぇ………一体どんなイベントなんだ?」


リュウゲンが興味深けに言うと、ルメオは眼鏡の位置を直しながら、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「精霊杯への出場権を賭けた、全ギルド最大のイベントです」


「せいれいはい?なんかの大会か何かか?」


「はい。全国のギルドから選ばれた猛者達を集め、自分の力を試す……いわば魔術のギルド版世界大会です。この世界で一番盛り上がる、全国共通のイベントですよ?」


それを聞いた途端、自分の心の中で何かが暴れ出すのを感じると、勝手に顔がニヤリとする。

何故か、不思議とニヤニヤが止まらない。


「ほほう………それは面白そうだな。退屈しのぎにはなりそうじゃないか」


「えぇ、それはそうでしょう。幸い、このギルドは前の精霊杯で良い成績を残したので、精霊杯の出場権は持っています。魔術を覚えたあなたなら、問題なくその出場権を獲得……さらには精霊杯で勝ち上がるのも難しくはないはずです。どうです?面白そうでしょう?」


「あぁ、折角こんな世界に来たんだ。その精霊杯、あんたの目論見通り出てやるよ。それで、いつなんだ?その精霊杯の出場券を賭けたギルドイベントは?」


「四ヶ月後です。そしてそのまた二ヶ月後に、精霊杯があります」


6ヶ月後か…………充分だ。

それだけ時間があれば、他にも色々とできる。

この世界の勉強も充分できるはずだ。


そう考えていくと、他に自分がやりたいことが次々と頭の中に出てくる。

この世界に来た甲斐があったと、この世界に来てから初めて思った。


「なあ。それってもしかして、メルルさんやエイダさんも出れるのか?」


「えぇ、もちろん出れますよ。ギルドマスターでなければ、誰でも出れるルールとなっています。エイダとメルルが出場権を賭けたイベントに出るかどうかは分かりませんが、残りの同ランク二人は出ると思われます」


「ふむ……もしかしたら、そいつらともやれるかもしれないのか………そりゃ面白い……」


えっ?今までの平和主義みたいなのはどうしたのかって?

知らん!『楽しい、面白そう』の前じゃ、そんなもんちっぽけなもんだぜ!

人間楽しむために生きてるってのが、俺の持論だ!

それは俺の辛い過去が言っている!多分!


楽しめるときは楽しむ。それが一番。

うん、素晴らしきかな俺理論…………


と、リュウゲンがそんな阿保みたいな事を考えていると、階段から誰か降りてくる音が聞こえる。


あれ?他に誰かいたっけこのギルド?


「に……兄さん……………」


「ん?もしかしてユキナか………?」


リュウゲンは椅子から立ち上がり、静かにそう言う。


そう、階段から降りてきたのは我が妹ユキナだ。

しかも目をうるうるとさせて、じっとこちらを見ている。

てか、今にも泣きそうな顔なんですが。


「兄さん……!」


ユキナはそう言いながらリュウゲンの下まで走ると、そのまま走りながらタックルするかのように抱きつく。


「ぐっ………」


さすが俺の妹、それはただのタックルだ。


「おっ、起きてたのか。つかどうした?大丈夫かユキナ?」


「だって、起きたら兄さんが……隣りにいないから…………兄さんと出会ったのが夢かと思うと、突然怖くなって………うぅ……」


ユキナはリュウゲンの胸に顔を思いっきり押し付け、泣き始めた。

相当怖い思いをしたのが分かる。


そうか………それは悪いことしたな。

書き置きでもなんでもしとくべきだったかな。


「一人にして悪かったなユキナ。次からはなるべく一人にはしないから許してくれ……」


リュウゲンは優しくユキナの頭を撫でながら、安心させるかのようにそう言う。


「はい……もう、一人にはしないでくださいね……?」


ユキナは顔をあげて、涙目でそう言う。


これが俗に言う上目遣いというものか!

ユキナがやるとかなり保護欲が半端無い……………


「あぁ、わかってるよ。悪かったなユキナ……」


と、そこでリュウゲンにとっては否定したい言葉が第三者、というかルメオから発せられる。


「ロリコンですか………」


「違う!シスコンだ!」


「なるほど。ロリシスですか………」


「だからロリコンじゃない!シスコンだ!しかも混ぜるな!」


ユキナは何の話し?と言いたげな顔だ。

おそらくその単語を知らないだけだろう。


言っとくが、俺は決してロリではないぞ!?

あくまで妹が大事な一人の兄貴………!そう…………つまりシスコンでお願いします………………


「まあ、どちらでもいいです」


「良くないわ!おれにそんな特殊な性癖はねぇ!」


「言いきりましたね。まあ、いいです。さっきまで漂ってた変な兄妹愛の空気を壊したかっただけなので…」


おい、はっきり言うな。


「まっ、そうだな。さっきまでルメオさんが少し空気みたいな感じになってたし………ほら、ユキナ。この椅子に座りな」


俺は近くに倒れていた椅子を立てると、ユキナを椅子に座らせる。


「…うん、しょ………」


どうやら俺の隣りが良いらしく、なんとも可愛らしい声でリュウゲンの横まで椅子を移動させる。

まるで、か弱い小動物を思わせる行動だ。

他の男が見れば、可愛すぎてイチコロだろう。


「ふむ………そうですね。一度アイドルグループをこのギルドで作るのも、悪くないかも知れません」


「俺の妹を見ながら言うなよ!んなもんに、入れる気はないぞ!?」


「頑固親父ですね…」


「なんだよ、このうちの娘はやらんぞ状態は!?」


「くれないのですか?」


「あげないよ!?何を言ってるの!?」


「金になると思うんですが……」


「それは心の内に閉まっといて!あなたが言うと、ほんとに金になりそうで怖いから!」


ふぅ……ここまでツッコんだのは、いつぶりだろうか…………?疲れたわ!

あれ?俺ってツッコミキャラだっけ……………


「さて、冗談は置いときまして………精霊杯はまだ先ですし、とりあえずはこの世界に慣れることが最優先になるかと思われます」


「その通りだな。先にこの世界を知ることから始めるよ。つまり、お勉強だな…………」


「兄さん、お勉強するんですか?」


「あぁ、お前も一緒にな。それにもしかしたら、お前の魔力も何とかなるかもしれないし」


それを聞いたルメオが怪訝な顔をしながらユキナをジッと少し見つめると、何か納得をしたような顔をする。


「魔力……?あぁ、なるほど。そういうことですか……」


「ん?もしかしてわかったのか?」


「いえ、はっきりとは。ただ、妹さんの中には、どうやら面白そうなものがあるということだけはわかりました。魔力が感じられないのはそのせいでしょう。何かの力で封印されている形跡があります」


さすがはルメオさん。やっぱり侮れないな。ほんと敵にはしたくないよ。

この世界では魔力を持たない生物はいない。どんな生物だろうとだ。

魔力の源……つまりマナが大量に漂うこの世界では、体が勝手にマナを吸収し魔力の器を作ってしまうからだ。年齢によって魔力が上がっていくのはそのせいだ。

ちなみに魔力の器がないと、この世界では生きられない。昔に器をなくした実験をした例があるらしい。

つまり、ユキナがこの世界で生きていられているという事は、魔力の器がちゃんとある証拠だ。


では、何故魔力がないのか?正確にいうと、何故魔力が感じられないのか。

推測できるのは、魔力がなにかしらによって封印されているか。

もしくは、なにかしらの理由で魔力を放出できなくなっているか。

俺の中ではこのふたつが考えられた。

まっ、魔力に関しちゃ例外な人間が二人いるがな。それは俺と多分ヒカルもだ。

魔力が溢れるような世界で育った訳でもないのに、最初から何故かある膨大な魔力。

そして主人公っ気が強いヒカルも俺の何倍はあるはずだろう。これにも何かしら理由があるはずだ。この世界の人間とは違う何かがな。


以上が昨日の夜に本を読んで俺が思った考えだ。


それに、というかそれ以前にユキナが貴族生まれで魔力がないって言ったら、お話し的にはそうだろうって思ってたし。

おそらくユキナは、この世界で主人公をやれる人間なのだろう。

あのとき俺が助けなければ、また違う人生を送っていたはずだ。

その人生も少しは気になるが、やはりユキナが妹になってくれたのは、俺のなかではかなりでかかった。


この世界で孤独に暮らすのはやっぱり寂しいからな。

まあ、ラノベ脳で考えるとぶっちゃけこんな風にも予測できちゃう訳だが……………

やっぱりすごいね!元の世界の文化は空想力に溢れてるや!

哀しいのか素晴らしいのかわからん…………………


「まっ、ユキナの魔力は今日か明日には何とかしてやるよ」


「えっ?ほんとですか……!?」


まさかそんな近いうちになんとかなるとは思っていなかったのだろう。かなり驚いている様子だ。

生まれてからずっと抱えていた自分の問題が、こうもあっさり何とかなると突然言われれば、無理もない反応だろう。


「あぁ、ほんとだとも。だから、もう自分の魔力について悩まなくてもいいんだ」


「はい……!ありがとう、兄さん…!」


満面の笑顔でそう言うユキナを見ていると、反射的に何故か頭を撫でてしまう。

これが男の性と言う奴だろうか。


なので、これは仕方のない事。


「はふぅー…………」


ユキナは自分の頭を撫でられて、気持ち良さそうな顔をしている。

それがまた、さらに保護欲を唆り何とも可愛らしかった。


そしてまたもやルメオが、横からこの場の雰囲気をぶち壊すために口を開く。


「ロリ「言わせねぇよ!?」……」


久しぶりのツッコミに慣れてきたリュウゲンは、何となくルメオの言いたいことが予想出来ていた為、最後まで言わせずに済んだ。


「もうそのネタは止めようかルメオさん。俺がもたない…………」


「そうですね。ここらへんで私も本題に入るとしましょう。本当は数時間後の朝に提案するつもりだったのですが………とりあえずこれをどうぞ」


そう言うとルメオさんは立ち上がり、何処から取り出したのか分厚い本と小冊子を一つずつ、あわせて2冊をリュウゲンとユキナに渡した。


「これは?」


「パンフレットと過去問です」


リュウゲンはふたつの本の表紙をよく見ると、小冊子の方は《レイノルズ魔術学園》と書かれており、もうひとつの分厚い本には《レイノルズ魔術学園・過去問》と書かれていた。


「学園……?あー、学校すか…」


「はい。実はその魔術学園に、あなたたちを通わさせたいと思いまして。どうでしょうか?行ってみませんか?」


「学校かー………俺はともかく、ユキナは行くか?てか、ユキナは行った方がいいかもな」


今まで青春らしい青春してないだろうからな。

ユキナには行かせてやりたい。


「私は兄さんが一緒ならなんでもいいです。少し興味はありますけど……兄さんが行かないなら私は行きません。兄さんと一緒じゃなきゃ……嫌です…」


そう、少し恥ずかしがりながらもユキナは言ってくれる。


何度も言うぞ?かわいーな、ちくしょーめ!


まあ実を言うと、俺はあんま行きたくないんだよな。

理由?めんどくさいから…………いや、ほんとに。

だってだるくね?朝早く起きて、毎日勉強とか俺はもうやだね。

それに、必ずしも楽しい学園生活が待ってるとは限らないし、俺の場合良くトラブルに巻き込まれるから、異世界の学校なんて行ってたら百パー絶対何かしらに巻き込まれる。

そして、俺は平和で安静した生活を送れない。


だから俺は行きたくない……


「んー……いろいろやりたいことあるからなー………んー、どうしようか…」


しかし悩むなあ。

ユキナは俺も一緒じゃないと本当行かなそうだし……でも、行かせてやりたいし………………

久しぶりに優柔不断になってんなーおれ。

さて、どうしましょうか…………


「そう悩むと思っていました。なので、今から私が面白い話しを聞かせましょう。私が学校に通わせたい大きな理由です。聞きますか?特にリュウゲン君には重要な話しになります」


「ほんとか?なら話してみてくれ」


「わかりました」


ルメオはそう言って、また受付のカウンターテーブルの上に座った。

おそらくそれなりに長話しになるからだろう。


















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