15話【1日の終わり】
さて、ルメオさんが部屋を出ていった訳だが……………やっぱ少し物足りねぇな。
まあ、しゃーなしか。
てことでこれから
「メルルさん。今日から俺のパシり決定てことで」
「パシりじゃない!せめて世話係りと呼んでちょうだい!」
「へいへい。パシりさん」
「くそー、後輩のくせにー…………」
とりあえずどうすっかな。つか今何時か気になる………
この世界が向こうと同じかは知らんけど。
「こっちの世界じゃ、今の時間帯何て言うんだ?」
「夕方の、多分今は18時ぐらいね」
あれ、おかしいなぁ。
異世界なら文化も違えば、時間帯の呼び名も違うと思ったんだけど…
「まさか、時計とかあるのか?この世界に」
「ん?あるわよ?」
もしかして………
「今何月何日何曜日?」
「5月2日火曜日よ。年はシューテルト19年」
まじかよ。地球と全然かわらねぇ。
年の呼び名だけ違うのか………
まあ…いいや。
気にせずいこう…………分かりやすいのはいいことだ。
「それじゃあ、先に部屋に案内するわね」
「おう。頼むわ」
そして自分達が泊まる予定の部屋へと案内してもらう。
至って質素で普通の部屋だ。
部屋の右奥には普通の木製のベッドがあり、その反対側にソファー。そして扉の横にデスクと大きなタンスがあり、一人で使うにはすこし大きな普通の部屋だ。
電気はというと、魔光球とかいうものが天井についており、形は地球の電球と変わりない。
ただ違うのは、中身が光と火の魔力で出来てるということだ。スイッチはこれまた地球とは変わらず、扉のすぐ横にあるスイッチを押すと、光と火の魔力が反発して光る仕組みらしい。
これもまた、魔法陣によって出来ているとのことだ。
何というか、あまり地球と変わらないと実感する。
メルルさんが言うには、ギルドの部屋は本来SSランク以上じゃなきゃ貰えたり貸してもらったり出来ないって話だ。
ということは、俺たちは特別なのだろう。
とりあえず部屋を教えてもらった後は、飯を食うことになった。
ということで、現在俺とユキナとメルルさんは、とてもとても賑やかなこのギルドの食堂?飲み場?バー?的な場所にいる。
ていうかうるさッ!
ギルドっぽいけどうるさッ!!
特にオッサン達!まあほぼオッサンしかいないけど。
騒ぎすぎだろ………
という訳で、今は三人で空いていたテーブルに座っている。
「いつもこんななのか?このギルドは…」
「まあね。いつもこんな感じよ」
「ふーん……そういえばギルドって誰でも入れるのか?」
「いいえ。歳が十歳を越えないと入れないわよ。例外はいたけどね」
「例外?」
「八年前に天才児が現れたのよ。最年少で帝入りした、今大人気の帝。年はあなたと同じはずよ?」
へー、そりゃ大したやつがいたもんだ。
すると横から、知らない男が話しに割って入ってくる。
「おい、メルル。帝の歳は一応重要機密だぞ。言っちゃっていいのかよ」
見るとそいつは………………うん、ごついです。
えー、ちゃんと説明するとムキムキです……はい、すみません。これだと、わからないですね。
リュウゲンの言いたいことはこうだ。
身長二メートル越えに横幅二人分はあるだろう体格。どこをどう見ても鍛え上げられた筋肉しかなく、何故か上半身だけ裸だ。
さらに右目には古傷が縦についており、歴戦の猛者のような顔つきをしている。
そして何より坊主だ。
どうみてもどっかの筋肉ゴリラチャンピオンみたいというか、やーさんでも不思議じゃないくらいいかつい顔だよね。
そしてなんで裸………?
「あっ!エイダだ!もうお仕事終わったの?」
「まあな、俺にはちょろい仕事だったぜ。それより新入りかこいつは?」
「そうよ。ギルドマスター曰く付き少年。だから、この子の質問はなんでも答えなさいって指示」
あの人そんなこと言ったっけ?まあ、ありがたいからいいや。
ていうか誰だこの筋肉ダルマのオッサン。
「ほぅー………あいつが興味持つぐらいだ、なんかあるんだろうな確実に」
「あのー、あなたは?」
「おー、わりぃわりぃ。名乗んのが先だったな。俺はエイダ・ガリウス。ここの現副ギルドマスターだ」
「てことはこのギルドで二番目に偉くて強いんですか?」
「おう!そうなるな!というか俺に敬語は必要ねぇ。堅っ苦しいのは嫌いなんだ」
と言って、ガハハハッと笑いだす。
なんとも豪快である。
「メルルさん。この人が言ってること本当なのか?」
「まあそうなるわね」
エイダさんは笑ってて俺らの話してること聞こえてないっていうね。
「小僧!次はお前の番だ」
「んっと、俺はリュウゲン・カミヤ。リュウゲンでいい。んでっ、こっちは妹の………」
「…ユキナです……」
と、可愛らしく軽くお辞儀をする。
エイダの迫力に、少し押され気味のようだ。
「おう!そうかそうか。よろしくな二人とも!」
元気だなこの人。だがまあ、悪い人ではないみたいだな。
見てるだけで相当暑苦しくはなるけど。
「あぁ、こちらこそよろしく」
「ほら、もう挨拶は済んだでしょ?ちゃっちゃとマスターのところに行って!」
「そうだったな!ガハハハハハッ!すっかり忘れてたわ!そんじゃな、二人とも!」
そう言って、エイダは豪快に笑いながら去っていった。
「なんか、豪快な人だな……」
「まあね。あれでも実力は帝並みなのよ?」
「げっ…まじかよ。じゃあ、あのオッサン帝候補なのか?」
「いいえ。あの人は自分から帝になることを拒否しているのよ。一応正式に帝入りの誘いも来てたんだけど、帝入りしたら自由に市民を助けられないとかで、全て拒否し続けてるの」
「へぇー、いい人じゃないか。なりがあんなじゃなきゃな」
「確かに。普通の人なら見ただけで速攻逃げるわね」
考えてる事は一緒のようで、お互いに苦笑いしながら言う。
すると、ちょうどいい具合に夕飯が運ばれてくる。
運んできた人は、白髪のオールバックに黒いサングラス、執事のような服装となりをした、初老を感じさせる四十か五十代くらいの男だ。
「お待たせしました。本日の夕飯はこちらです」
そして三人の前に置かれた料理は、リュウゲンにとっては驚愕するものだった。
「かっ…かっ……カレー………だと………!?」
「はい。本日はカレーです」
なんだとぉー!
地球と同じ食べ物じゃねーかッ!
今思うけど、この異世界半分ぐらい地球と変わんねぇだろ!?
「どうしました兄さん…?」
「あっ、あぁ…いや、なんでもない……」
「ありがと、ライガさん。今日も美味しそうね」
「何かあれば、言って下さい」
そう言うと、ライガと呼ばれた男はカウンターの方へと戻っていく。
「カレー……なのか?」
「他に何があるのよ?……………もしかしてリュウゲン君の世界にもカレーが…?」
「ああ…あるぞ。普通にな」
「ほんとっ!?すごーい!案外リュウゲン君の世界と変わらないのかもね?」
まあ、馴染みがあるのはいいよな?……………………ハハハハハッ………
今になって異世界に来たという実感がなくなった俺でした。
「とりあえずいただきましょうか」
「そうだな。いや、そうしよう」
「それじゃあ「「「いただきます!」」」
早速一口食ってみる。
「おい…しい……」
そう言ったのはユキナだ。
そう言えば、ユキナがまともな飯食うのはこれが初めてなんだよな。
「でしょでしょ?」
作ったのはあんたじゃないぞ。
でも普通にうまい。さすが異世界か知らんけど、俺の知らないような具もある。
ユキナは余程美味しかったの腹が空いていたのか、一心不乱に目の前のカレー食べており、もうすでに皿の半分は終わっていた。
しかしおいしいな。
「ユキナ。もし足りなかったら、遠慮なく俺のも食っていいからな」
「うん!ありがと!」
と、満面な笑顔で言ってくれた。
ユキナと会ってから、初めて見たかもしれない満面の笑み。
「へぇー、あんな笑顔もするんだねユキナちゃん。さっきから無表情で無口だったから、少し心配してたんだけど…」
「こいつもいろいろあったからな。詳しいことは今度話してやるよ」
「まっ、話してくれるならいつでもいいわよ」
この人も、何だかんだいい人だな。
異世界に来てから、どうやら人との出合いに関してだけは運がいいみたいだな俺。
元の世界では、出会う奴らの大半が俺の事を嫌っていた。
まあ、大体奴が一緒にいるか関わってる場合がほとんどだけど………………
「その………兄さん……」
「ん?」
我が可愛い妹が、俺を呼んでいるのを聞こえたのでユキナを見てみると、もう飯を食い終わっていたようだ。
どうやらもの足りないらしいと判断。
ということで、半分残ってる俺のカレーを皿ごとあげた。
「ほら、食っていいぞ」
「うん!」
またもやまぶし過ぎる満面の笑顔。
心許せる人達との美味しい食事だからだろう。
まあ、青春時代の半分以上も地獄を見てきたんだしな。
天国かってくらい、残りの青春を謳歌させてやりたい。
俺と関わる事で、面倒事に巻き込まれる可能性は高いのがあれだけど……………………
ユキナは皿を受け取ると、黙々と嬉しそうに食べていた。
「コーヒーってあんのか?」
「あるわよ。いる?」
うっ………もう、地球感覚で過ごそう。
その方が問題なさそうだ。
「できれば…」
「ライガさ~ん!コーヒー二つお願いー!」
カウンターにいるライガはそれが聞こえたようで、こちらを向いて一回頷く。
「まあ、あまりメジャーじゃないんだけどね。10年ぐらい前に知られたばかりなのよ」
何故かは聞かないでおこう。長話になりそうなんで。
「へー、でもここにはあるんだな……」
「ライガさんが料理好きだから、色んな食べ物や飲み物を作ったりしてくれるの。それと、ここのコーヒーはウマイわよ〜」
「そりゃ、楽しみだ」
するとまたちょうど良く、ライガがコーヒーカップを二つ持ちながらやってくる。
「お待たせしました。コーヒー二つです」
そうして置かれたのは、本当にコーヒーだ。
もうすでに、リュウゲンは見知った物が出ても驚かないと心に決めていた。
ついでに角砂糖とミルクも置いてくれる。
リュウゲンはブラックでそのまま飲み、メルルは角砂糖を六つとミルクを多めに入れる。
うん、甘党ですねメルルさん。
「ほんとだ、美味しいですライガさん。これは毎日飲みたいくらいですね」
「お褒め頂きありがとうございます。話しは少し聞いております。良かったら毎日いつでもお飲みに来てください。無料で提供させて頂きます」
「いいんですか?俺は有り難いけど……」
「構いませんよ。美味しくコーヒーを飲んでくださる方が増えるのは、私としても嬉しい限りです。ご遠慮はなさらずに」
「ならお言葉に甘えてまた明日来ますね。ありがとうございますライガさん」
「いえいえ、では……」
そう言い、ライガはカウンターへと戻っていく。
「普通にいい人だなライガさん」
「まあね。何と言ってもライガさんは、このギルドに所属してる人の名前や顔は全員覚えてるし、相談事にも乗ってくれるのよ。ギルド内じゃ、結構みんなからの信頼が高いの」
「そりゃすげえ人だな。俺が新人ってのを知ってて、ああやって優しくしてくれたみたいだし」
そう言うと、そろそろ食い終わっただろうと思いユキナを見る。
リュウゲンの思った通り、ちょうど食い終わっていたようだ。
「ほら、飲むか?」
苦くないようにと、リュウゲンの飲んでいたコーヒーに砂糖を三つとミルクを飲んだ分入れてユキナに渡す。
「ありがとう兄さん」
「やっぱり、二人とも眺めがいいわね」
「何言ってんだ?……それより本。ちゃんと貸してくれよ?」
「わかってるわよ。ユキナちゃんがコーヒー飲んだらねー」
そしてユキナがコーヒーを飲み終わると、このギルドに図書室があるということで、3人はそこへ向かった。
図書室の中は埃だらけで本も地面に積むように置いてあり、あまり使われていないのが分かる。だがその代わり、本の量がリュウゲンの想像よりも遥かに多い。
「使ってない雰囲気が出てるな」
「まあ、使うのマスターだけだし。それに、昔の調べものをするときしか使わないけどね~」
とりあえずこれだけあれば退屈しないで済みそうだ。
「少しここで読んでいいか?」
「いいわよ」
自分の属性である闇属性の事について書かれてると思われる本が、積まれた本の一番上にちょうど置いてあるのを見つけると、早速手に取って近くに置いてあった椅子へと座った。
そして、一時間後。
リュウゲンは椅子に座りながら本を読みつづけている。
メルルは暇そうにしながらも、本をパラパラとめくって読んでいる。
ユキナはというと、椅子に座ってかなりウトウトと眠そうにしている。今にも眠りそうだ。
ユキナも眠そうだし、そろそろ部屋に戻るか。
「メルルさん。そろそろ部屋に戻るよ」
「そう。じゃあ行きましょうか」
リュウゲンはどうやら我慢できず眠ってしまったユキナをおんぶし、さらには本を三冊持って部屋に戻っていく。
メルルには、自力で部屋まで戻れることと、今日のお礼を言って途中で別れる。
そしてユキナを部屋のベッドに寝かせると、リュウゲンも隣の部屋へと戻っていった。
ということで、リュウゲンは今ベッドで横になりながら、眠くなるまで借りていった本を読んでいた。
しかしまあ、いろいろあったものだ。さらに明日はもっとやることがあるんだろうな。
ほんと精神的にもハードな1日だったな……………
今日は1日振り返って見ても、元の世界でもこれほど大変だった事があっただろうか?……いや、何回かあるな…………
どれだけ危険な目に合ってたんだ俺は………主にヒカルから始まるから、あいつの所為だなきっと。うん。
そういえば思ったけど、ほんとヒカルの野郎今頃何やってんだろうな。
まあ、だいたい分かってしまうからイラッとするわけだが…………………
多分お城だろうないるとしたら………今頃豪華な飯食い終わって、豪華な部屋で王女とイチャイチャして楽しんでるだろうな…………………そう思うとすげー腹立ってきた。
まっ、今さら言ってもしゃーないか。
やつは主人公、俺は脇役大魔王みたいなもんだしな。会ったら会ったで、殴って蹴って、間接技決めよう………よし!
一冊目が読み終わると、ちょうど読み終わってるのを見計らっていたかのように部屋のドアが叩かれる。
「入ってどーぞ」
そうしてもじもじしながら枕を持って入って来たのはユキナだ。さっきメルルから借りた白いパジャマを着ている。
一回起きるんじゃないかと思って、横にパジャマを置いておいたのは正解だったな。
「そっ…その……起きたら兄さんがいなくて……だから……一緒に………」
「……ん?」
「ねっ….寝てくれませんか……?」
はい、変なお願いされましたよ。
まあ、俺が断れる訳がなく了承するしかなかったとです。
決して変な事はしないんだからね!?ホントだからね!?…………………ゴホンッ。
大丈夫。巷で紳士だと有名な俺が(自称)そんな変な事をするはずがない。
何せ未だに〇〇だからな!何かはご想像にお任せしよう!
これ以上は言うな!自分が悲しくなる…………………
そして一緒に寝ることを了承されたユキナは、嬉しそうに満面の笑顔でリュウゲンの隣へと横になる。
もちろんリュウゲンと一緒の布団の中へと。
「たくっ…しょうがない妹だ」
「ありがとう、兄さん。お休みなさい」
「あぁ、お休み」
ユキナは右腕でリュウゲンを抱きながら、5分もしないで寝てしまった。
安心しきったような嬉しそうな、とても良い寝顔なのは確かだ。
「早すぎだろ。寝るの」
相当疲れてたみたいだな。
とりあえず残りの2冊を読んだら俺も寝るかな。
しかし明日は一体何が待ち受けているのか…………
なーんかものすごく嫌な予感がするんだよなー。
この予感がよく当たると分かってはいたものの、きっと1日無事でいられますようにと願うばかりであった。
そうしてリュウゲンの長き1日が終わりを告げた。
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夜。
もうとっくに太陽は下がり、二つの月が曇りなく散々と輝いている。
そんな夜に、蠢く集団があった。
数十人いるだろうか、全員が黒いローブを着ており、フードで顔が見えなくなっている。
その中でも、他の黒ローブとは違う見た目をした者が二人。
一人は腰に紅色の柄をした長剣を差し、血がべっとりとついた紅いナイフを片手に持って、薄気味悪く笑っている。
もう一人は他の者よりも体格が一回り良く、その者だけローブは着ておらず、執事のような服装をしていた。
どちらも男だ。
「首尾はどうだ?」
「誰に物言ってやがる。すでに必要な分の血は採取して、紙に摂取させたぜ」
「誰も見られてないだろうな?」
「オイオイ、それこそ俺が許す訳ねぇだろうが。狙った奴らの家族は全員殺したぜ。まっ、楽しませて貰ったけどな!ギャハハハハハッ!」
「ならば、あとは計画通り進めるだけだ。しくじるなよクリケット」
「ヒャハッ、こんな楽しい相手を俺にくれてありがとよ。今日は今までで一番楽しくなりそうだぜ!」
眠りについたリュウゲンの知らないところで、物語の歯車がすでに動き始めていた。
闇に潜む者たちの不穏な動き。
リュウゲンの長い1日は終わらない。




