14話【音帝】
更新お待たせしました。
一応二日に一回、忙しい場合は三日に一回の更新になるかと思われます。
模擬戦をやる前に、異世界から来てギルドについてまだよくわかっていないだろうということで、先に色々な説明をリュウゲンは受けた。
「だいたい、こんな感じでしょうか」
「ありがとうルメオさん。分かりやすい説明だった」
「それは良かったです。では模擬戦といきましょう。さっきも言った通り、私が相手になります。遠慮はいりません」
フハハハハハッ!遠慮?最初からするわけなかろう!
ギルドマスター=最強ではないはず。
しかもランクテストなので、向こうはこっちの実力を見るために最初は手を抜くはず。
先程の激痛の痛み、一発顔面に華麗な拳をめり込んでやろうじゃないか!
「おっけい、おっけい。つまり、俺の戦闘力がどんなもんか調べるだけだろ?」
「えぇ、それで合ってます。本来なら魔術も使うんですが………」
あ……………そういえば魔術とかあったんだったわこの世界!
あれ、一気にピンチ?
「俺、この世界に来たばかりだから魔術は使えないんすけど………」
「そうよルメオさん!流石にリュウゲン君に最初から魔術戦を強いるのはきついと思うんだけど……それも帝であるルメオさんを相手に!」
……………………………………………
はい?帝?俺が考えが当たりなら、要するにトップクラスです?
「メルル………口が軽いですよ?」
っと、全く目の笑っていない恐怖の笑顔でそうメルルに言う。
「あっ…やば………機密情報だったわ……」
いや機密情報って………てことは、ギルドマスター=最強の方程式になるんじゃないか…………
「はぁ………まあいずれ知るだろうですしいいでしょう。しかし、次なにか許可なく機密情報を言ったら強制実験体ですよ?」
「はっ、はいぃ!もう言いません!!」
メルルは自分の身体を庇いながら、大分怯えながら言う。
そこまで恐怖させるほどの実験ってなにされんだよ………………
「帝はご存知ないですよね?」
「しっ、知らないかな………」
「でらさらっと説明しますと、帝とはこの世界で魔術を一定まで極め、単体で国の一軍と渡り合える程の実力を持つ者達の事を言います。世間では『十一人将』と呼ばれることもあるみたいですが」
てことは11人いるのか……まあ、ヒカルがすぐに12人目になるか、もしくはそれ以上の地位をもらうだろうな。
「そしてメルルが先程バラしたように、私も帝の地位を頂いています。音帝、二つ名は《旋律(戦慄)の指揮者》もしくは《コンダクター》と呼ばれています」
しかも確かこの人、一国の軍と渡り合えるとか言ってたよな?
「え、ていうかそんな人とやれと?」
「安心してください。メルルが言ったように、魔術の使えないリュウゲン君を相手に魔術を使うのは流石に酷でしょう。なので、今回は魔術の使用は禁止させて貰います」
「いいのか?」
「えぇ、構いません。トロルを素手で何体も倒してるのをメルルから聞いていますし。Aランクの魔物を個人で撃破できる時点で、魔術を使えなくてもさほど問題はないでしょう。これから覚えればいいだけなので………必要であれば武器の使用もどうぞ。私はハンデとして使いません」
「そう言われても、武器なんて持ってないしな……」
「なければ貸しますが?」
「いや、いい。拳でいくよ」
さっき一発顔面に入れてやるって考えてたし。
やれるだけのことはするさ。それでだめなら仕方ない。
また次に、魔術を覚えて挑戦してやろう。
「わかりました。メルルは審判をお願いします。ルールは私が止めと言うか、どちらかが戦闘不能になるかです。気絶まででいいですよ」
「了解ですよマスター。それじゃあユキナちゃんは壁際まで離れてて見ててね」
「はい。そうしときます」
ユキナが言われた通りに離れるのを確認し、リュウゲンとルメオは互いに距離をとった。
「ルメオさん」
「なんです?」
「格闘戦にはそうとう自信があったり?」
「ふむ……そうですね……私と互角以上に闘える人のが少数なのは確かですが」
「そうかい。なら、本気を出しても良さそうだな」
「えぇ、存分に。期待していますよ」
久しぶりに本気でやるか。
もしかしたらあの技が、今の身体能力なら結構使えるかも知れん。
「兄さん。ケガだけはしないでください」
「任せろよ。避けんのは得意なんだ」
リュウゲンはそう笑顔でユキナに答える。
まあ、実際ケガしないのは無理があるかもな。
気軽に話していても、ルメオさんから感じる圧がさっきから尋常じゃない。
互いに距離を取ってから、ルメオさんも俺も相手の動作を見て、お互いにどう動こうか考えている。
ユキナは何も感じていないみたいだが、メルルさんは少し冷や汗をかいていてさっきから無言なのがその証拠。
「メルル。いつでも始めてください」
「はっ、はい。それじゃあ、リュウゲン・カミヤのギルドマスターによるランクテスト試合を始めます。両者構え」
二人は腕を胸あたりにまで上げ、軽く構える。
「戦闘………開始!!」
すると、開始と同時にルメオが先に動いた。
人間離れした速さで、ほんの2、3秒でリュウゲンの間合いに入る。
そしてリュウゲンは相手から先に攻撃してくるのを動かずに待つが、そのまま前から来ると思っていたルメオが、リュウゲンの視界から突然と消える。
だがリュウゲンにはわかっていた、一瞬で自分の後ろに移動していることに。
「後ろか……!」
そしてそのまま首に手刀をいれようとしてくるが、リュウゲンはそれを右にずれて避け、一回のバックジャンプでルメオから距離をとる。
さっき戦った魔物とは比べるまでもないな。
本当にやばいな………いやーまじで強い。
「察知は一流ですね。たしなみ程度を越えていますよ?」
「そりゃどーも……」
「さあ、あなたの力を見せてください……!」
またルメオの方から仕掛けてくる。
今度は後ろに回らず、正面から攻撃を繰り出してきた。
拳だけでなく、足技も使って打撃を与えようする。
そのスピードは常人が横から見たら、ギリギリ分かる程度だろう。
リュウゲンはその繰り出される攻撃をただ避けるだけ。
まだ、全然本気じゃない。
俺が仕掛けるのを待ってるのか?
十数回繰り出される打撃が全て避けられると、今度はルメオの方から距離をとった。
「なるほど………少し本気を出す必要がありそうですね」
「そのまま手加減してくれててもいいんですけど?」
「ご冗談を」
その言葉と同時にルメオは駆け出す。それも先程よりも圧倒的なスピードのうえ、放たれる無言の威圧感がさらに増している。
明らかに先程と雰囲気が違う。
くそっ、まじかよ……
リュウゲンはもう一度距離を取ろうとするが、それよりも先にルメオの拳が真横から来る。
それをとっさに両腕でガードするが、受け止めきれず2、3メートルほど吹き飛ばされた。
そして吹き飛ばされてる間にさらに追撃をするためにルメオは詰め寄った。今度は左からのハイキックだ。
このまま戦いの主導権を取られるのはまずい……無理矢理にでも攻撃に転じる……!
リュウゲンは左から来るハイキックを右手の前腕で受け止める。そして吹き飛ばされる前に左手でルメオの足を掴むと、身体を右に少し回転させながら左足の裏でルメオの顔面を蹴ろうとする。
ルメオはその攻撃を両腕で防ぐと、お互いに数メートル吹き飛ばされる形となった。
僅か数秒の出来事。
お互いに床を滑りながら着地をすると、すぐさま同時に駆け出す。
今度はリュウゲンの攻撃が先だ。
右手で顔面目掛けて掌底を打ち、左に綺麗に避けれられた所を次は右腕の肘で叩く。
それも後ろに移動する事で避けられ、すかさずリュウゲンに拳を振るう。
何とかその拳を捌くが、さらに間髪入れずに先程とは比べ物にならない威力とスピードの打撃が次々と飛んでくる。
リュウゲンは何とかギリギリで受け流し避けるものの、隙が見当たらず攻撃に転じにくい。
(良く躱しますね。一応それなりに本気でやっているのですが………)
「避けるだけでは、どうにもなりませんよ?」
息一つ乱さず、攻撃しながら喋り掛けてくるとかどんだけ余裕あるんだよこの人!
チッ………賭けだが、あれをやるしかないか………
「流石、余裕そうだな!だったら、お望みどおり仕掛けてやるよ!」
リュウゲンはそう言うと、一旦距離を置くために避けられるのを承知で大振りな蹴りを入れる。
避けたのを確認し、素早く後方へと跳躍する。
これで距離が空いた……!
「距離を取って何をするつもりで?」
両足のつま先を相手に向けながら両足の踵を地面に付け、地面を抉るようにイメージしながらゆっくりと力を入れると、姿勢を少しだけ低くしてクラウチングスタートに似た体勢になる。
クラウチングスタートと違うのは、両足の踵がどちらも地面に付いている。
「この世界に来て、何故か上がった身体能力を試すチャンスだからな。こっからは本気でいくぜ?」
そう言うのと同時に、誰も見えないほどのスピードで一瞬にしてルメオさんの目前に迫った。
これぞ俺の編み出した技!というか移動方法。
具体的な説明は後にするとして、元の世界でこれを使うと、足に負担がかかりすぎて良くて1メートルくらいを移動するのがやっとだった。さらに、使えても一日一回か二回。
だがその代わり、テレポートを使ったんじゃないかと思われるほどの誰にも追いつかれないスピードで直線距離を移動することができる。
10倍以上に身体能力が上がったこの世界でなら、移動できる距離、使える回数が増えている訳だ。
弱点として、超絶なほどの負担と激痛を味わう訳だが…………今の俺なら、一日一回使うくらいなら何ともない気がしている。
「えぇっ!?はやっ!?」
そう叫ぶのはメルルだ。
ルメオはいつの間に目の前にとでも言いたげな顔で驚いている。
(私が捉えられなかった………!?)
「喰らいやがれッ…!」
リュウゲンの全力の掌底が、誤差なくその心臓を狙う。
しかし流石は帝と言われるほどのことはあり、ルメオの身体は思考するよりも早く両腕を交差させて防御する構えを作っていた。
だが、この状態ですでに引くという選択肢はリュウゲンにはない。
その腕ごと吹き飛ばすつもりで、掌底を全力で放った。
「…クッ……!(身体強化なしで、この威力ですか……!)」
あまりの威力に受け止めることは出来ず、ルメオは十メールほど吹き飛ばされる。
何とか壁にぶつからないよう体勢を整え、多少転がりながらも着地をした。
「チッ……まじかよ。壁まで吹き飛ばすつもりだったはずなんだけど……」
そんなに甘くはないか…………
悔しいな。一応全力で打ったつもりなのに、この程度のダメージしか与えられてない。
これが帝。世界のトップに立つ者の実力。
さて、となるとどうするかな…………まだ試してみたい技はあるけど………
綺麗だった白衣を少し汚しながらも、何ともなかったようにルメオは立ち上がる。
「ふぅ………いやー、今のは危なかったです。なかなかやりますね」
「そんなピンピンした状態で言われても、あんまり嬉しくないんだけど……全然効いてないし」
だが、それは違うとルメオは考えていた。
あの時ルメオは、使わないと言っていた魔術……身体強化を腕限定で咄嗟に使っていた。
身体強化で腕の強度を強化していなければ、両腕とも使い物にならない程のダメージを負う事が分かったからだ。
(そんな事はない。今、私は身体強化を使わざるを得なかった。でなければ今頃は……………フフッ……やはり、面白い子ですね)
「んじゃあ、続きといこうぜ。今のがダメなら、別の手を使う」
しかし、ルメオはどこか満足したような笑みで、一向に構える様子がない。
「……ん?どういうつもりだ?」
「いえ、ここまでにしましょう。これ以上はお互いのためになりません。それに、貴方の戦闘力はある程度把握しました」
まじか。
まだ暴れ足りない……………けど、確かに言う通りか………
この世界に来てまだまともに飯も食ってないせいか、腹減ってきたし。
「まあ別にいいけど………ランクテストの結果はどうだったんだ?」
「それについては明日の朝、ギルドマスター室に来てください。異世界に来て疲れているはずですので、詳しいことはまたそこで話しましょう。ギルドの空き部屋を二つと食べ物をご提供します。今日はもうゆっくり休んで下さい」
流石に気が利くな。
まあ、盟約で協力関係になった以上、当たり前なのだろうけど。
「………確かにそうだな。頭ん中を整理する時間も欲しいし、そうさせてもらう。ありがとうルメオさん」
「そういうことですからメルル。空いてる部屋を2つと、ギルドの食事でいいんで2人に用意してあげてください」
「はっ、はい。それは構わないけど………残ってる受付の仕事……他の人に頼んでいいですか?」
「仕方ありませんね。リュウゲン君の方が優先度は高いので、許しましょう。その代わり、きちんと2人の面倒を見るように」
「……………………しゃッ!」
メルルは聞こえないように小さく言ったつもりみたいだが、全員に普通に聞こえていた。
なんかもう、だいたいこの人のキャラを分かってきた気がする…………
「それでは先に失礼させてもらいますね」
「ちょっと待ってくれ。何かこの世界について書かれてるような本とかないか?歴史書か初心者用の魔術書とか貸して貰えると嬉しいんだけど……」
とりあえずこの世界を少しでも知るために、少しでも知識が欲しい。
この先突然何に巻き込まれるかわからないからな。少しでも対応できるようにしないと、やっていける気がしない。
それに、自分よりも圧倒的に強いであろう人物が目の前にいるのを考えると、少しでも生存率を上げるために必要な事だ。
俺は、この世界を平和な日本と同列には見ていないのだから…………………
魔物が存在してる時点で、日本より遥かに危険なのは確かだ。
「なら、食事をした後にでもこのギルドの書庫に案内してもらってください。元に戻して貰えれば、好きに借りて頂いて構いません」
「助かるよ」
「他何かあれば、メルルに言ってください。このギルドでも、それなりの権限を与えていますので、大抵の事は大丈夫でしょう」
「そうそう、この頼れる美人なお姉さんに任せない!」
と、自信満々に胸を張りながら言う。
本当に頼りになるのか怪しい………
「それでは、また明日の朝お会いましょう。今日は2人ともゆっくり休んで下さい」
「ありがとうルメオさん」
そして、ルメオは先に部屋を出て行った。
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部屋を出たルメオは、転移の魔術を使ってギルドにある自室へと一瞬で移動する。
その部屋の壁は全て本棚となっており、ぎっしりと隙間なく本が並べられていた。
そして窓側には、ギルドマスター専用と思われる大きなデスクが置いてあり、そのデスクの上には『勇者召喚の儀』と書かれた書類が置いてあった。
それをルメオは手に取り、中身を確認する。
暇があったときにでも読もうと思っていた書類だが、リュウゲンという異世界人と会った事により、今すぐに読まなくてはならないものとなった。
「なるほど………そういう事でしたか……」
デスクに座りながらその書類を全て読み終わったルメオは、現状起こっている事をある程度把握した。
そして、一つの真実に行き着く。
彼がこの世界に来た経緯がどうであれ、偶然などではなく何かの意思による必然。
この読んだ書類には、ヒカル・ユウラの事に関する報告が載っているのだが、実は一つおかしな点があるのだ。
勇者ヒカルが召喚されたのが今日、リュウゲンがこの世界に来たのが昨日と時間が一日ずれている。
一度あの召喚魔法陣を見たことのあるルメオだが、2人同時に召喚魔方陣に入ったのであれば、リュウゲン1人が弾き飛ばされて別の場所に召喚されることはあっても、時間が一日ズレる事はない。
明らかに、何かの干渉による意図的なものだと断定していた。
これに気付いている者はおそらく犯人以外ではルメオ1人だけであろう。
そしてもし、勇者ヒカルもリュウゲン君と同じ神の属性を持つ者であるのならば……………
この2人は、これから遠くない未来で勃発するであろう戦争の、おそらくその中心に立つ人物になるのではと、ルメオはそう気がしてならなかった。
そんな事を思考したルメオは、リュウゲンとの協力関係を元にこれからどうするかを考える。
そして一瞬で思考をまとめ、白衣のポケットから白いお札を取り出す。
それに魔力を流しこむと、突然と雑音ような音がその札から聞こえる。
『もしもし、もしかしてルメオの旦那か?突然俺になんの用だ?』
この札は、遠くの人間と手軽に会話するために自ら開発し作った使い捨てのお札だ。
そのお札から聞こえてくる渋い声は、このギルド黒鴉のナンバー2であり副ギルドマスターも任せてるエイダ・ガリウス。
「少しお願いしたい事がありまして」
『たくっ……相変わらず人使いの荒いギルドマスターだ。んで何をすれば良い?』
「いま自室にいます。詳しくは会って話ましょう」
『了解だ旦那』
そう言われるのと同時に、札が突然と灰も残さず燃えていく。
神の属性と呼ばれる邪の属性。魔族の王のみが持つ魔属性。
そして、解析で分かったもう一つの力…………
神………ですか…………
本当に存在するのかどうか……ですね。
あの書物が正しければ、一歩間違うだけで全てが破滅するかもしれない。
いつまでも観戦者としていられる訳ではなさそうですね。ならば当事者として動きましょう……………
彼との協力関係が続く限り、私は彼を研究し続け、私の持ちうるものを全て彼に与える。
さあ、見せて下さい私が予測できないあなたの物語を!あなたの力を!
それが、私にとっての至福なのだから……………




