12話【黒鴉】
メルルの言った通り2時間くらいで都についた。
その間情報を引き出すためにとリュウゲンはメルルと話していた。
それで分かったことがいくつかあった。
まず今向かっている場所がルーエン国の王都 《ベリアス》ということ。
さっきまでいた森がそれなりに危険な森だったということ。
メルルがギルドの中でも高ランカーだということ(自慢しながら)。
最近では魔物の異常な増加により、先程のような魔物の群れによる移動が多いそうだ。それにより外での移動が昔より危険となっている。
メルルが来たのも、街道に魔物が現れたという報告が入り、ギルドマスターに様子を見に行けと言われたからだそうだ。
さらにベリアスには二つのギルドがあり、もう一つが六大ギルドの一つ《騎士の剣》というところらしい。
もしヒカルがこの国にいるとしたら、主人公タイプのあいつは十中八九そっちにいるだろう。
今から行くのはもう一つのギルド《黒鴉》なので、初っ端から会う率が低そうで助かる。
まだ、会いたくない。会ったら、つい手元のナイフでうっかりテヘ、しかねないからな。
そして今リュウゲン達は王都の裏門にいた。
正門の方だとさらに歩かないといけないのと、裏門から入る方がギルドへは近いらしい。
それだけこの王都が大きいということが伺える。
「さあ裏門に着いたわよ」
「裏門でかいな」
裏門というからにはそんなにはと思っていたリュウゲンだが、大きなトラックが横に二つ並んで入れるくらいの大きさはあった。
その門には槍を持った見張りの衛兵と思われる人が、二人ほど裏門の前を並んで立っている。
「そりゃ王都だもの。他の国と比べても、結構栄えてる方なんだから」
と、何故か自分のことのように自慢気だ。
「ほほう………そりゃ、中に入るのが楽しみだ」
メルルが衛兵に話し掛けると、顔パスのように承認され、3人とも問題なく入れそうだ。
魔物の群れに襲われたのはあれだが、この人に出会えたのは運が良かったと言えるかな。
俺とユキナだけだと、服装とかでまず怪しまれてすんなり通れなさそうだし。
「それじゃあ、二人共ようこそ王都ベリアスへ!歓迎するわ!」
そう言われながら裏門を通ると、その先の光景にリュウゲンは下を巻く。
周りは昔の中世ヨーロッパのような建物で出来ており、予想通りと言うべきか機械というものがなかった。
俺が入った場所は商業が盛んなのか、それなりに大きな通り道で、色んな露店がずらりと並び、人もそれなりにいて騒がしい。
一番驚いたのは城だ。裏門から左方向を見ると、なんとも馬鹿でかい城が建っている。
本物の城というものを見たことがなかったリュウゲンには、まるで観光地に来たような感覚になる。
改めて実感する。ほんと異世界に来たんだな俺…………
ユキナもリュウゲンと似たような感じだったが、人混みの多さに気付くと、怯えながらリュウゲンの背中に張り付くように隠れている。
「大丈夫かユキナ?」
「はっ、はい……その……人が……」
その反応だけでリュウゲンは、ユキナが人混みに慣れてないのにすぐに気付く。
人混みへの対処として、リュウゲンはそっとユキナの右手を握りしめた。
「人が多いし、離れるなよユキナ」
「…!はっ、はい…!」
どこかホッとしたような嬉しそうな顔をするユキナに、この対処で良かったと安堵するリュウゲン。
「仲いいわねあなた達」
「いくらユキナが可愛くても、あげないからな」
と、ユキナの身をメルルに遠ざけながら言う。
「いや、確かに保護欲唆られるけど、何でそうなるのよ!」
「じゃあ行こうぜー」
「スルー!?まあ、いいけど…………じゃあ、私に付いてきて。そんなに遠くはないから」
そんなやりとりをしながらも、3人は目的のギルドへと向かった。
向かってるその間、「メルルちゃん、その子達は新顔かい?王都に来た歓迎とそこの嬢ちゃんの可愛さにプレゼントだ。持って行きな!」と、突然青色の林檎のような果物を、露店のおっちゃんがお約束とばかりに一つ投げ渡して来たりしたので、「俺は腹減ってないから、ユキナが食っていい」と言い、歩きながら食べてもらってる。
思った通り腹が減っているのか、齧り付くようにして美味しそうに食べていた。
そしてメルルの言った通り、裏門から五分もかからずに黒鴉書かれた看板のある建物に着く。
やっぱり普通に知らない文字も読めるのか………………
メルルさんやユキナと普通に喋ってたからあんまり気にしなかったけどさ。
異世界の現地語が喋れるこのお約束。
まあ、楽できるからいいんだけどね。
ちなみに、騎士の剣は正門側にあるとのこと。このギルドの倍の大きさはあるらしい。
そうは言っても、黒鴉も普通に大きなお屋敷並みの大きさはある。
これより倍とか学校かよ、とリュウゲンが心の中でツッコミながらも、メルルを先頭に中へと入っていった。
中は特にアニメとか漫画で見るような、食事出来るようなバーと、カウンター、掲示板、休憩用のソファーが所々置いてあるような普通のギルドだ。
人もそれなりに多く、マッチョのおっさんや今から依頼を受けて旅立とうとするパーティで賑わっている。
普通っぽくあっても、こういうのを間近で見るのはリュウゲンにも初めてなため、興味深いのは確かだ。
「ちょっと先に報告してくるから、二人はそこら辺空いてるところテキトーに座っててね」
「あいよー。大人しく待ってる」
二人は言われた通り、誰も座っていない空いているソファーに座り、メルルを待つ事にする。
ここで、普通の主人公なら『ギルドでおっさんに巻き込まれるの巻』が集まってもおかしくないが、とりあえずその心配はなさそうだ。
自分達を物珍しげに見るだけで、特に何か話しかけようとは誰もしてこない。
10分程待つとメルルが階段から降りてきて、リュウゲン達を見つけるや駆け寄ってくる。
「お待たせ二人共。ちょっとうちのギルドマスターがあなた達と話したいそうよ。無理強いはしないけど、どう?」
ギルドに来て初っ端からギルドマスターか……………
まだこの世界での知識が不足してる状態で会うのは、手玉に取られて良いように使わされる心配がある。
さらに異世界人だとバレれば、戦いたくもない戦いに巻き込まれて、ユキナの身まで危険に晒す可能性があったりと、リスクが高かったりする。
しかし、交渉が上手くいけば一気にこの世界での安全な生活を勝ち取り、今後も安定してユキナと暮らせるようになる。
早くユキナに普通の生活を送って欲しい俺からすれば、上手く交渉するしか道はない。
覚悟を決め、会うことを決意する。
「是非、会わせてくれ」
「わかったわ。ギルドマスターが奥の訓練室で話しがしたいそうだから、私に付いてきて」
そして訓練室と書かれた部屋まで着くと、中は分かりやすく言えば体育館くらいの大きさがあり、家具のない殺風景な部屋だ。
奥にこんな大きなスペースがあるとは思わなかった為、リュウゲンは若干驚いていた。
「どう?広いでしょ?」
「まあ……思ったより広いな……」
「何よその反応。薄いわねーなんか」
「でっ、そのギルドマスターとやらはいないのか?」
「さあ?もうそろなんじゃない?」
「普通、先にいるもんだろ?そう思わないか、ゆき……誰だッ!」
ユキナの名前を呼ぶ前に、突然近くに人の気配を感じたため、警戒して叫んでしまった。
「またですかい……」
「…?どういうことだメルルさん?」
「おそらくこれは……」
メルルが言い終わる前に、また突然今度は後ろからさらに俺に触ろうとする気配を感じてしまい、武術をある程度やっていた人なら分かる通り、突然後ろから気配がすると攻撃してしまうように、俺も一瞬で振り向きながら、触れようとしてくる手を思い切り振り込み払った。
「……ッ!?誰もいない………」
確かに人の気配や、誰かの手らしきものの感触はあったんだが………………
しかし、周りを360度見回しても、俺とユキナとメルルさんの3人以外誰もいない。
気配も先程からない。
いや待て、ここは異世界だ。何が起こっても問題はない。
つまり相手は、俺達からは姿が見られないような、魔法のようなもの、もしくは能力を使っているだけなのでは?
気配をここまで消せる程の、おそらくかなりの手練れなのは間違いない。
まあ、何か知ってるらしいメルルさんに聞くのが早いかもな。
「メルルさん。さっきの気配は…「ルメオさん!もう…またですか!?」………ルメオさん?」
「そう、ここのギルドマスター」
と、メルルは何か困ったような顔をして言う。
すると、今度はメルルの後ろの空間が突然歪み、男が一人突然と現れる。
腰まで伸びた長い赤髪に黒縁メガネを掛けていて、その妙に整った顔にはメガネがとても似合っており、研究者のような綺麗な白衣を着ている男だ。
しかも、いかにも胡散臭い笑顔をしている。
「いやー、すみませんね。つい、やってしまうんですよ」
「うわぁっ!!」
もちろん、突如自分の後ろから出てきたことに驚くメルルさん。
「ちょっとルメオさん!?いきなり後ろから現れるのはやめて欲しいって、いつも何回も言ってるじゃないですか!」
「あぁー…そういえばそんなことを言ってましたね。忘れてました」
「嫌がらせじゃないところが、ほんとたち悪いですよね」
俺達のこと忘れてないだろうな?この人たち…………
「まあまあ、とりあえず今は彼への用事を優先にしますよ」
「それは良かった。忘れられてるかと思いましたよ。とりあえず、あなたがここのギルドマスターでいいですね?」
「そうです。いかにも私は、黒鴉ことブラック・レイヴンのギルドマスター、ルメオ・フォルカスです。よろしくお願いしますね」
ルメオは意外にも丁寧にお辞儀をする。
「こちらこそ、俺はリュウゲン・カミヤ。でっ、こっちが妹の…「ユキナです」…」
そう言うと、ルメオはリュウゲンとユキナを交互にじろじろと見る。
「ほぉ……血縁関係はなさそうですが」
「ちょっ!!マスター!?」
「いや、大丈夫だメルルさん。確かに言われた通り、血は繋がっていないです」
「まあ、君がそう言うなら…」
「やはりですか。リュウゲン君……と言いましたね。敬語、メルルと同じ様に使い慣れてない様子なので、私には遠慮しなくて良いですよ」
「では遠慮なく……そういえばさっき透明になってた時、俺のことを触ろうとしたよな?なんでだ?」
「あれは失礼しましたね。実は私、これでも根っからの研究者なんですが、私は知らない人と会う時は、生で会うまでに相手を調べることが癖でしてね。だからいつも相手から見えなくなる道具を使って、下調べしてるんですが……いや、まさか気配を感じられたのには驚きました。それにあの瞬発力……なにか武術を?」
「嗜む程度には………」
「嗜む程度……ね………」
と、話している最中に横からメルルが入ってくる。
「ルメオさん、先にやる事やっちゃいましょう。二人共お腹空いてるので、何か食べさせてあげたいですし」
ナイスタイミングだ!メルルさん。
ルメオさんさっきから只者じゃねぇ雰囲気出してやがる…………
この人、俺の動きまで一つ一つ観察してやがるし、異世界人だってすぐにバレそうで怖いんだが。
それにしても、さっきのユキナの果物を食べてる姿を見てさすがに気付いてたのか………安直に考えたくはないけど、やっぱりメルルさんが今のところ少なくとも良い人なのは間違いないか…………
「それもそうですね。では、二人は旅をしている最中に荷物をなくし、さらに魔物の群れに襲われた…で良かったですね?」
「あぁ、それで合ってる。あんた達さえ大丈夫なら、このギルドに入って当面は資金集めしたいと考えてる」
「なるほど。では出身を聞いても?」
早速一番難しい質問がきたな…………テンプレ通りに答えるか……
「遥か東の方にある、日本という隠れ里から来たんだ。ユキナとは旅をしている最中に、魔物に襲われていた所を助けてな。身寄りもないって言うから、それからずっと一緒に旅をしているんだよ」
この時点でリュウゲンが嘘を言ってるのを、勿論ユキナは気付いている。
リュウゲンに全て任せて自分は邪魔しないようにと考え、ユキナは何も言わない。
「そうでしたか。それは大変でしたね。では、もう一つだけ質問を」
「どうぞ」
「素手で魔物達を倒していたようですが、何故魔術を使わないのです?」
そうきたか。
そりゃ、魔術のある世界で素手で当たり前のように魔物吹っ飛ばすとか、効率とか危険性を考えても使わないという選択肢はない。
それに魔法じゃなくて魔術かこの世界は。
ふむ……仕方ない。俺の設定を作ろう。
「実はな。俺のいた里だと、魔術を使うことが禁じられててな。あまり詳しくは言えないんだけど、基本的に自分の身体と武術の強さが全てで、さらに外との交流も禁止っていう変わった里なんだよ。だから、魔術を一回も使ったこともないし、ほとんど知らないようなもん。まあそれが嫌になって、里を出て旅をする事にしたんだ」
「そんな里が存在してるのは初耳ですが、東洋の国から来たというなら可能性はありますね。あの国は未だに他国との交流が少ないので、情報があまり入って来ませんし」
本当にあるんだなそんな国。
お約束の東の、東洋の国で通じちゃうとは………
「だからあんなに素手でも強かったのね。内心かなり驚いてたのよ私」
何とかこの設定が二人に通じた事に安堵しながらも、未だ油断はできない。
ルメオさんが何を考えているのか分からないというのもあるが、こっちのを事をずっと観察するように見ていて油断ならない。
「では、貴方達の事は分かりました。ギルドに入るのであれば、ここで魔力量と属性の検査、並びにランクテストをやりたいのですが、宜しいですか?」
「構わない。むしろ助かるよ」
「では、まずは魔力量からですね。ユキナさんの方は、どうしますか?」
「ユキナは今日はいい。俺だけ今日先にギルドで仕事できるようにしてくれるとありがたい」
「兄さん……」
ユキナについてだが、こういう世界で魔力がないのは異常ってのがセオリーだ。それはユキナの話しを聞く限り、そう思うのが妥当だろう。
魔力が生まれた時から封印されてたか、未だ力が目覚めてないか、そういった理由のはずだ。
もしかしたら、俺が助けなかったら力に目覚めてたのかもしれない。そして、復讐するなり世界の為に戦うなりしてたかもしれないな。
それでも俺は、ユキナを助けた事を後悔しない。
それは俺が選んだ選択で、覚悟でもある。
身勝手と思われても良い。ユキナは何があっても守る。
その為に、この世界に来たのかもしれないのだから。
「分かりました。では今日はリュウゲン君だけにします。それではこの水晶を持ってください」
いつの間に持っていてどこから取り出したのか、サッカーボールくらいの大きさの水晶を渡してくる。
「これは……?」
「魔力と得意属性を計るための水晶です。魔力を流す事によって計る事が可能になります。まずは魔術を知らないというリュウゲン君に、軽く説明をしましょう」
そう言って、魔術というものについて、得意属性、属性の種類などの簡単な説明を受ける。
「なるほどね。しかし魔力ねぇ………どうやって流せばいい?」
「今から私の魔力を一瞬だけ流し、リュウゲン君の魔力回路を活性化させます。そうすると、眠っていた魔力が放出されるようになり、何かしらの流れを体に感じる事ができるはずです。それが魔力になります」
「なるほど。じゃあいつでも頼む」
そう言うと「では…」とルメオはリュウゲンの肩を掴む。
すると身体から、今まで感じた事のないような力が全身に流れるのが分かる。
痛みや違和感はなく、あるのは溢れ出るような力を感じるのみ。
これが魔力…………すごいな。
今なら何でも出来るような気がしてならない。
「成功ですね。魔力が放出しているのがちゃんと分かります。しかしこの魔力…………」
「ルメオさん、なにかリュウゲン君に問題でも?」
「いえ、水晶を見れば私の疑問も分かることでしょう。それでは、掌の上に今感じた魔力を集めるようにイメージし、それを水晶に流して見てください」
「分かった」
言われた通りにイメージして魔力を流す。
すると水晶の色が変化する。先ずは黒に近い銀色と赤黒い色が半分ずつ別れた状態の色に変わり、そして数秒後全部が黒へと変わる。
その後水晶の色は戻り、何の反応もしなくなった。
それを見ていたルメオは難しい顔をし、メルルの方は何これと言いたげな顔をしている。
「なる…ほど…………水晶を一度返してもらえますか?」
「あっ、あぁ……はい」
水晶をルメオに渡し、結果を待つ。
「先ずは貴方の魔力量ですが………一億あります」
「いっ、一億ぅぅぅぅッ!?」
そう絶叫して驚いてるのはリュウゲンではなくメルルの方だ。
ユキナも声には出さないものの、驚いている。
この反応を見る限り、数字の量から見ても多分多いって事だろうな…………
「そんな多いのか……?」
「多いわよ!大人なら80万から120万、学生なら50万から100万が一般的な平均なのよ!?SSSランクの私でさえ2500万の多い方なのに、リュウゲン君はルメオさんも超える所か現全帝と同じ魔力量なのよ!?」
わお、まじか。
全帝?帝?
それってもしかして、この世界だとめちゃくちゃ強い集団の事か?しかも名前を聞く限り全と付くからにはそのトップの事か?
脇役の俺に対して与えるような魔力量じゃないと思うんだが……………
「そりゃ……すごいな…」
「ルメオさん、属性の方はどうだったの!?後に出てきた色が闇属性ってのは分かるけど、最初の二つに分かれた属性が全然分からないんだけど?」
さっきまでルメオに敬語を使っていたはずが、余りの驚きに敬語を使うのを忘れてしまっているようだ。
「うるさいですよメルル。それに普段は敬語を使うのとギルドマスターとちゃんと呼ぶように言ってある筈ですが」
「あー、もう!今はそんな事いいでしょうが……!」
「まあ、確かに今は許しますが、普段からしっかり使っていないと公共の場でうっかり素が出てしまうかもしれないので気をつけてください」
「分かってますぅ!分かってますってば!だから、早く続き!」
リュウゲンはそのやり取りを苦笑いで見るしかない。
何となく二人の関係が分かったリュウゲンであった。
「では続きといきましょう。メルルの言った通り、後に出てきた色は闇属性で間違いないです。では最初に出てきた二つの色ですが………赤黒い方が魔属性、銀色の方が邪属性です。おそらくですが………」
「魔属性と邪属性?ルメオさん、そんなの私聞いたことないわよ………」
さっき説明を受けた時には出てこなかった属性だ。
何か訳ありの属性なのは間違いないとリュウゲンは考える。
「それもそうでしょうね。説明する前に、リュウゲン君。もう少し貴方の身体を調べてもよろしいですか?」
「構わないけど………」
「ありがとうございます。それでは…」
そう言うと、ルメオはリュウゲンの方向に手を伸ばしながら腕を水平に交差させる。
「ルメオさん、もしかしてそれは………」
「『八応陣・八式』……」
すると8つの魔方陣らきものが、空中にリュウゲンを囲うように等間隔に展開される。
「ルメオさん!その魔術を生きてる人間にやったら「展開!」……」
生きてる人間にやる?
それってどういう…………
「索敵開始………我慢してくださいね?」
と、笑顔で言われる。
「なにを…ッ!なっ、ぐっあぁぁぁぁあ゛…!!」
突然体が動かなくなったと思ったら、今度は全身に激痛が走った。それも尋常ではないほどの。
まるで内側で何かが破裂していってるような痛みだ。
「…ぐぁぁぁあ………!」
そしてあまりの痛みに膝が地面に着く。
「兄さん!!………ルメオさん、なにをやってるんですか!?このままじゃ兄さんが…!」
「そうよ!普通、生きてる人間相手に使うようなものじゃないわよそれは!」
「ぐッ、あぁあぁぁあ゛!」
「兄さん!」
そう言ってリュウゲンに触れようとする。
「痛っ…!」
しかし、触ろうとすると見えない何かに手を跳ね返されてしまう。
「触らないほうがいいですよ、その魔方陣には。大丈夫です。私の考えが正しければ、多分彼が死ぬことはないでしょう………そろそろですね…」
すると痛みがどんどん消えていくのが分かる。それと同時に周りの魔方陣が消えていき、痛みが感じられなくなった頃には、すべての魔方陣が消えていた。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
「兄さん……大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。これぐらいはな」
ユキナ、悪い…ほんとは大分きつい……
いや、普通に鬼だろこれ…………
普通は人間相手には使わない魔術………
ちっ……そういうことかよ。
普段、人間相手には使わないものを俺に使ったってことは、少なくとも俺の体はまともじゃないってことか?
そういうのは俺の役じゃないよな…………?
おそらくその二つの属性、魔属性と邪属性が何か特別な属性なのだろうか。
下手すれば死んでいたかもしれない魔術を使ってきたんだ。耐えられたとはいえ、とりあえず話しを聞かなければ納得できない。
そう思い、今は多少の怒りを我慢することにした。




