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11話【遭遇と出会い】

少し更新遅くなりました。

どれくらい経っただろうか。

空は徐々に明るくなっていき、朝になろうとしているのが分かる。


ユキナはリュウゲンの膝を枕にし、気持ち良さげに寝ている。

未だに森の中で留まっている理由は簡単だ。

暗い中森を歩くのは危険だとリュウゲンが判断したからだ。

先にユキナにゆっくり寝るように指示し、見張りも兼ねて寝ずにずっと木を背に座りながら、辺りを警戒していたリュウゲンだが、いつのまにか朝を迎えていた。


そろそろ移動するかな。

森は静かだけど、さっきのでかい奴の仲間とかいたら洒落にならんし。


そう考え、ユキナを起こすことにする。


「ユキナ。そろそろ起きる時間だ」


「……ん………にい…さん…?」


目を擦りながら、まるでリュウゲンがいる事が夢なのではないかと思いながら、ユキナは確かめるようにリュウゲンの手を触り始める。


お兄ちゃんと呼んでくれないのか…………でも寝惚けた顔も一級品に可愛いなあ、と馬鹿げた考えを振り払い、さらにユキナに言葉を掛ける。


「あぁ、お前の兄だよ。おはようユキナ。そろそろ移動するぞ」


「そっか……よかった………夢…じゃない……」


安堵するかのような顔を見て、まだ完全に起きれていないのが分かる。


「その通り夢じゃない。さ、起きれるかユキナ?」


「はい……おはようございます。大丈夫です……」


そう言いゆっくりと立ち上がる。

リュウゲンも立ち上がり、同じ体勢だった体をほぐすように、軽く体を伸ばしたりして動かす。


夜中もそうだったが、朝もほとんど気温が下がる事なく寒くはない。

毛布とかがない現状、森の中にいて気温が下がらないのはありがたかった。

俺のブレザー1つじゃ、ユキナを温めるのには不十分すぎる。


「日も明るくなったし、そろそろ移動しよう。歩けるか?」


「大丈夫です兄さん」


「よし、行こう。とりあえず近くにある街道を探すところからだな」


さて、ここからだな。

最低でも二日以内で街か村に着きたいところだ。

食料も何もない現状、俺はともかくユキナが保たない。

それにどこか近くに小川あるっていう話しだが、ユキナの足でそこまでの距離、あのデカいのに逃げられるとは思えない。

そう考えると、ここからでもそんな遠くはないはず。

小川さえ見つかれば、街道も近い筈だ。


とりあえず水分だけでも取るか。ついでに魚とかいればいいんだけど…………


そしてリュウゲンの推測通り、小川までは10分も離れていなかった。

そこで水分を摂取した2人は、近くにあるであろう街道も運良く見つける。

意外と綺麗に整えられた街道だった。車一台通る分には問題なさそうな程だ。


さっきの魔物を考えると、ここまで綺麗なのが謎だが…………


「川に食べられる程の大きさの魚がいなかったのは残念だが、街道がすぐ見つかったのは運がいい。もう少しの辛抱だぞユキナ」


「はい、私が通ったのもここ……です。このまま数時間歩けば、多分…王都ベリアスがある筈です…………」


自分の曖昧な情報に、申し訳なさそうな顔をしている。


「何、心配はいらないさ。その内どこかには着く」


ユキナの頭にポンと手を置き、心配ないとばかりに頭を撫でる。


「そう…ですね。兄さんが一緒なら、私も大丈夫です。この道なら、魔物避けの護符が一定間隔で貼られてるので、安全の筈ですし…」


成る程。街道が思ったより綺麗なのもそれが理由か。

ま、そうでもしないとこんな危険な森に街道なんか作らないか。


「そうだな。早速歩く訳だが、疲れたらちゃんと言えよユキナ。休憩は大事だ」


「ありがとうございます兄さん。その……….手を…握っても……良い…ですか……?」


と上目遣いで言われ断れる訳もなく、「仕方ないな」と、リュウゲンは照れ隠しにユキナの手を握り2人は歩き出す。



まだこの時2人が知らないのも無理はない。

街道の一部が魔物避けの護符が機能していない事を…………




3時間程歩き、最初に違和感に気付いたのはリュウゲンだ。

当初ユキナを見つける前の森で歩いていた時と同じ、周りが静まり返っており、先ほどまで飛んでいた鳥さえ見かけていない。


「妙だな。静かすぎる………」


リュウゲンの様子に少し不安になったユキナが、握っていた手に力を入れる。

そしてとある物を見つけると、それをリュウゲンに知らせた。


「兄さん……….あれ………」


そう言われてユキナが指差す木を見ると、その気には何かの魔法陣らしき絵が描かれていただろう紙が貼り付けられている。

それも、誰かに真っ二つに斬られたような状態で。


「まさかこれって……魔物避けの護符か?」


「おそらく……」


まじかよ。あれ、一気にやばい感じだぞ。

じゃああれか?この感じ、近くにさっきみたいな魔物がいるってことでおーけー?


すると、だんだんと何かが近付いて来るような地響きを足に感じる。


「ユキナは俺の後ろに」


すかさずユキナを後ろに立たせる。

リュウゲンの予想は的中した。森から勢いよく、昨日戦った魔物が現れたのだ。

それも一体ではなかった。全部で五体のトロルイーターが目の前を立ちはだかっている。


いや、五体だけじゃない。

他にもいるぞ。しかも囲まれてるのかこれ…………


未だに感じる地響きから、まだ他にもトロルがいる事が分かるが、その予想される数がリュウゲンの頭を悩ませる。

リュウゲンの言った通りに、全方向からトロルが次々と現れる。


数体どころの騒ぎじゃない!完全に群れだぞこれは。

運が良いだなんて自惚れてた!!クソッ!


「数十匹いるな………さてどうするか……」


「兄さん、私を置いて逃げて下さい!兄さん1人なら、この場を抜けられる筈です!」


そうリュウゲンの腕を掴みながら叫ぶ。


たしかにリュウゲン1人ならここを難なく抜けられるだろう。だがそれを許すはずがない。


「いいか、ユキナ。その選択肢は俺の中には一つもない。あるのは一つだ、ここを2人で逃げ延びる事だけ。絶対にお前を1人にはしない」


「兄……さん……ですが、このままでは……」


「奴らの薄いところを狙って逃げ道を作る。合図したら走れ。俺も後から付いていく」


しかし、ユキナの顔からは不安が取り除かれる事はない。

この数ではいくら身体能力が高くても、足手まといの自分を守りながら戦うのは無理だと思っているからだ。


「大丈夫、何とかなるさ。俺を信じてくれ、ユキナ……」


「わかり……ました。兄さんも、絶対死なないで下さい…」


「誰に言ってる。お前の兄だぞ。こんな所で死ぬ訳がねぇ」


不思議と心は落ち着いている。

やる事は単純。こいつらからユキナを守りきって逃げる。


「手加減は無しだ」


その言葉と共に魔物へと駆け出す。

結局一番トロルが少ないと思われる方向が、最初に出てきた正面の五体だった。

まずは武器を振りかぶってくるトロルの攻撃を避け懐へと入り、そのまま跳躍して思い切り一体目の顔面を殴る。


「邪魔だぁ!」


殴られた一体目は、後ろにいたトロル二体目を巻き添いにして数メートル以上吹っ飛んでいく。

そして今度は三体目が、未だ跳躍中のリュウゲンに棍棒を振るう。

流石に避けられずに交差した腕で防ぐが、さすがの怪力でリュウゲンは近くの木まで吹き飛ばされ、背中を木に叩きつけられる。


「兄さん!」


「グッ……くそっ…!大丈夫だユキナ!」


痛ってー!

異世界で初っ端からハードル高いな!

こりゃまじでやばいぞ………


思ったよりダメージがないものの、流石のリュウゲンでもダメージ受け続ければ長くは保たない。

三体目がユキナに狙いを定めようとしている。

急いで起き上がり、また駆け出していく。


「ユキナから離れやがれ!」


ついでに一体目が落とした棍棒を拾い、三体目の横から棍棒を顔面に叩きつけた。

棍棒がリュウゲンと力に耐えられずに壊れるが、三体目のトロルも顔面の原型を変化させ吹き飛ばされる。

すかさず近くにいた四体目の懐に入り、昨日の両手を使った掌底を食らわし、後ろにいた五体目も一緒に吹き飛ばしていく。


五体目!

これで正面突破でき………

「走れユキ…….いや、だめだ!」


嫌なプレッシャーだった。

この先に、まだ何かいる………


ユキナを走らせなかったのは正解だった。

倒した五体とトロルの先から、ゆっくりとこちらに歩いてくる魔物がいた。

おそらくこの群れのボスなのだろうか。

他のトロルよりも一回り大きく、顔や身体には所々傷の跡が付いている。

何よりも、そのトロルが持っていた武器が棍棒ではなくでかい大剣だ。刃こぼれしてボロボロとはいえ、腕でガードすれば一溜まりもない。

それにどこか人間と戦うことに慣れているよう気さえする。他のトロルより強いとは間違いないだろう,


「やっぱり兄さんだけでも……!」


「だめだ!こいつは俺が何とかする!」


この魔物の登場で、一気に逃げれられなくなった。

吹き飛ばされただけの二体目と五体目も起き上がってきており、左右後ろからとトロル達が囲まれ近付いてきている。


まさに絶対絶命ってか……?

ヒカルとかなら、こういう土壇場の状況で何かに目覚めて全部倒すんだろうが、生憎と俺にはその気配がない………


「何か手を考えろ俺………それが取り柄だろ…….何か…….何か……」


「兄さん……」


するとこの絶対絶命の中、誰か人が近くにいる気配を感じたリュウゲン。


「ん……?誰か…….来る…」


リュウゲンの感じた通り、その者は空から現れた。


「伏せなさい!」


その声を聞いたリュウゲンは、とっさにユキナを片手で抱き、指示通りに一緒に伏せる。

すると周りにいたトロル達が次々と頭部を斬り落とされ、それをやった本人が2人の横をゆっくりと空から降りていく。


あれが魔法なのか?

風の刃みたいなものが見えたけど………それに飛んでたし…………


「良く頑張ったね2人共。あとは私に任せなさい」


2人の元に降りた人は女性だった。

セミロングの茶髪に緑色のローブを着ており、右手には10センチほどの長さの杖と思われる物を持っている。


「あんた何者だ?」


「ギルド《黒鴉(ブラックレイヴン)》のメルル・ランチェスよ。街道の護符が機能してないみたいだから様子見に来たのだけど、来て正解だったみたいね」


ギルド……やはりあるのか。

ギルドに入ることが出来るなら、生活は何とかなりそうかな。


「あぁ、本当助かったよ。このままだと大分辛かった」


「それにしても…………」


メルルはリュウゲンが倒した三体のトロルを一瞥する。


「この三体のトロルを倒したのはあなた?」


「俺で合ってるよ。ただ、あの群れのボスみたいなのに逃げるのを邪魔されてな」


「なるほどね………(見た感じ武器もないし、魔術を使った形跡もない………まさか素手で?そんな馬鹿な……)」


「んで、あのボスは倒せそうか?」


「ふふん、お姉さんに掛かれば一瞬よ一瞬。でもまだ数匹取り巻きが残ってるから、任せてもいいかしら?」


「それくらいならお安い御用だ」


「なら任せる。じゃあいくわよ」


その言葉と同時にリュウゲンは駆ける。

先程のメルルの魔術で生き残っている通常のトロルは、全部五匹だ。

そいつらを一体一体素手で殴り、吹き飛ばしていくリュウゲン。


(はああ!?なにあの子?なんで身体強化なしで、素手で吹き飛ばしてる訳?意味が分からないんですけど………)


その尋常じゃないスピードの走りと、素手で簡単に吹き飛ばすリュウゲンにメルルは驚きながらも、目の前にいるトロルのボスへの注意は怠っていなかった。


「まあ、いいわ。こいつ倒してギルドに連れていけばいいし………」


言葉が分かるのか、それを聞いたトロルのボスが突然とメルルへ大剣を振り下ろす。

しかし風を纏ったメルルが、まるで羽を付けているかのように難なくと横に跳ね、避けていく。


「トロルの群れのリーダー格ね。Aプラスといったところかしら。その程度でやられるほど弱くないわよ」


さらにボスが大剣を振るうが、その攻撃は見えない障壁によって阻まれる。

事前に自分の体に風属性の障壁を張っていたため、メルルに攻撃が届かなかったのだ。


「時間を掛ける理由がないからもう殺すわね。《ウインド・スピア》」


そう唱えると、メルルの右手から風で出来た槍が出現する。

それをトロルのボスへ目掛けて放った。

一瞬だった。その魔術一つを守る術のないトロルには、ただその魔術を食らうことしかできない。

そして風の槍はトロルの巨体をいとも簡単に貫通し、ボスと思われるトロルでさえ一瞬で絶命させた。


「凄いな。ほんとに一瞬だ」


いつのまにか五体倒したのか、ユキナと共にメルルの戦いを観戦していたようだ。

これで数十匹いたはずのトロルイーターが全滅した。


「ふふん、私に言わせればこれくらい余裕余裕!」


そう得意気に話すが内心は別の事を考えいた。


(いやいやいや、ちょっと待って……この子倒すの早すぎない?全部素手でしかも一発で殴って終わらしてるし……何なのこの子達………)


「メルルさん……でいいんだよな。俺はリュウゲン。こいつは妹のユキナだ。助けてくれてありがとう」


ユキナもリュウゲンの背中に隠れながらも、一礼する。

まだリュウゲン以外の人と会話する事に少し抵抗があるようだ。

事情を知らないメルルには、人見知りなのだと思うだけだが。


「どういたしまして。それよりも聞いていい?あなた達はこれから王都に向かう途中で、護符が機能していない所にちょうどやってきたトロルに襲われたって事でいいかしら?」


「だいたい合ってる。お陰でボロボロだけどな」


「それじゃあもう一つ。あなた達の家は?」


「いや家はないんだ。妹と2人で遠くから旅をしてたんだが、途中で荷物を全部無くしちまってな。とりあえず王都に行って、ギルドとかで仕事でもしながら稼ごうかなって思って向かってたら襲われたって訳だ」


半分嘘だが、これで乗り切れるだろう。


「なるほどね。ならちょうどいいわ。私のギルドに来ない?まだ聞きたい事はあるし、今晩泊まる宛がないなら助けてあげられる。どうかしら2人共?」


至れりつくせりだな………右も左も分からない以上、この人に付いていくのが一番だが………

ユキナ以外の人と会うのはこれが初めてだ。

見た感じ信用はできるが、それも絶対ではない。


「兄さん…に任せます…」


クソッ………

バカだな俺も。この人の思惑とかよりまずはユキナを安静にさせるのが先だろうな。

どうせこの世界で行く宛も知識もないんだ。

何かあればそん時にどうにかすればいい。


「そりゃ願ってもないほど嬉しい話しだが、いいのか?こんな得体の知れない2人を連れて行って」


「そんな事ないわ。妹を大事にする人に悪い人はいないわよ。それに私の直感が、あなた達は大丈夫って言ってるし!」


そう微笑みながら、優しく言ってくる。


「なら、遠慮なくお願いしよう。よろしく頼むよ」


(よし我がギルドの戦力確保!私の給料もアップ!ギルマスに私もたまには役に立てると言えるし、ふふ………勝ったわ……!)


と、声に出したら残念な事を考えているのをリュウゲン達は知らないのは幸か。

この後メルルの性格を2人は知る訳だが……………


「じゃあ2人共付いてきて。あと2時間も歩けば王都に着くわ」


「この大量の魔物の死体はこのまま?」


「後で誰か送って処理させるから大丈夫よ。ついでに魔物避けの護符も新しく貼りにね」


「そっか……….」


「じゃあ、行くわよ」


そして3人は、何事もなかったように王都へ向け歩いていく。



リュウゲンは考える。

これから起こるであろう事、自分に何ができるであろう事。

これから出会う人達への対処、そして自分とユキナのこれからの目的を。


これから出会う人たちが、自分とユキナにとって良い人であれと、リュウゲンはただ願うのみであった。



































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