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10話【勇者誕生】

『やるわねあのおじさん。おそらく英雄級の強さは間違いないわよ』


それは同意見だ。

何の知識のない僕でもわかる。


あの威力の魔術を簡単に反射してみせ、なおかつ息一つ乱さず相手の剣を避ける。そして一瞬で無傷で無力化した技量は圧巻の一言。


ここに来てから自分の身体能力がかなり上がっている事には、昨日の時点で気付いていた。

だが、それでもいい勝負ができるような気がして来ない。


『魔術を知らない僕でもすごいと思ったよ。そういえば混合魔術って何?』


『別々の魔術を融合させて、威力や性質を変化させより強力なものにする高等魔術よ。あの子が使ったのは、光と雷の上級魔術を融合させた魔術になるわね。言っとくけど、属性別での混合魔術は更に難しいわよ。それも上級レベルの魔術をね』


『もしかして魔術の強さに階級とかあるの?』


『あるわよ。下から下級、中級、上級、最上級の4段階になってるわ。さらに別で古代魔術というのもあるけど、まず常人には使うことすら無理ね。あとはいろいろと代償を必要としたり、危険過ぎたりとかで禁止された禁術もある』


リーアは上級を使ってたのか……たしかに凄いな…………


『まあ、あの子も良くやったほうよ。それよりも問題はあのおじさん!無属性魔術の最上級を普通に使いこなしている………』


『無属性?』


『簡単に言うと、そのままの無の属性。つまり自分の属性を一緒に練らないで、純粋な魔力だけを使った属性………実は混合魔術より難しいわよ』


聞く限り凄いようにしか見えない。

やっぱりルーカスさんは強いんだ。


「ヒカル!次はお前の番だ!」


「あっ、はい!よろしくお願いします!リーアは大丈夫?」


「はい、大丈夫です!それよりもヒカルは頑張って下さいね?」


「うん、ありがとうリーア」


ヒカルの満面の笑顔を見て、何故か少し頰を赤くするリーア。

一瞬熱かと心配するヒカルだが、アリアに『熱じゃないわよ。まったく、そこらへんのところはダメダメね』と呆れながら言われてしまった。


「そんじゃ、リーアはさっきヒカルがいた所まで下がってくれ」


「わかりました叔父様」


そして、先程のリーアと同じ試合のような配置になる。


今度は僕が気合を入れる番だ。

勇者として召喚されたからには、無様な真似だけはしたくない。

僕が取れる戦法は先手必勝。得意の接近戦で相手に余裕を与えずに攻め続けるのみだ。


「ルールは同じ。だが、さすがにまだ魔術を使ったことないヒカル相手に、俺が魔術を使うのは酷な話しだ。ということで、魔術も身体強化も使わないから安心して全力できてくれ」


それではダメだ。

今の時点で僕が、この世界最強の人相手にどこまで通用するかを知りたい。

だから僕としては、ルーカスさんに遠慮なく全力で相手をしてもらいたい。


「いえ、それには心配ありません。この剣に全て教えてもらいます」


ヒカルはそう言って、右手から光輝く剣を出現させる。

そう言われたルーカスは、ヒカルが出現させた剣を静かに見ながら何かを考えている。

そして、何かを察したかのような反応をした。


「なるほどな………やはりその剣はあの種類のものか。よし、いいだろう……ならば魔術は使わせてもらう」


『私のこと気付いたわね』


『みたいだね。もしかしたら、アリアみたいに喋る剣が他にもあるのかも』


『あるわよ。まっ、私と違ってそこらへんは魔剣って呼ばれるものが多いけど……』


なるほど、もしかしたらルーカスさんは魔剣持ちなのかもしれない。


「よろしくお願いします」


「あぁ、お前の力を俺に示してみろ」


「それでは、ランクテスト試合を始めます。両者構え」


そう言われ、ヒカルは剣を軽く構える。

ルーカスの方はというと、ヒカルと同じように右手を光らせながら、黒赤色の長剣を出現させる。

そして先程とは違い、雰囲気がガラリと変わっていた。今度はしっかりと剣を上段に構えている。


『魔剣ね……それも結構上物よ。それにあのおじさんの気迫。気を付けなさいヒカル』


そう言われ、僕は改めてルーカスさんを見る。

物凄いプレッシャーを感じる。

いつぶりだろうか……こんな感覚は…………………


今でも思い出す、昔のりゅうも同じくらいのプレッシャーを放っていた。

初めて試合で対峙したあの時も、気迫で押し返されるようだった。


「それでは戦闘……開始!」


流れをもらうため、合図と同時にヒカルから先に動いた。

一直線のダッシュでルーカスの下へと駆け抜ける。


そしてあっという間にルーカスの間合いまで近付いたことに、ヒカルは改めて自分の身体能力が上がっている事を実感する。


『先ずは相手の接近戦での力量を確かめなさい。それからよ』


『分かってるっ!』


まずは右から剣を横に一閃。

リーアとは違い、無駄な動きなくコンパクトに斬る。

しかし、ルーカスは剣を左手に持ち替えヒカルの攻撃を剣で弾き、そして次は一瞬で右手に剣を戻し、今度はルーカスの方から剣を振るう。

ヒカルは一歩下がって避けると、一旦相手から離れる。


ここまでの死闘は、ほんの数秒の出来事でしかない。


『やっぱり強い……両手ききのスタイルは厄介だ』


『確かにそうね。でもヒカルも負けてないわよ』


『ありがとう』


次の攻撃もヒカルから突っ込んでいく。

今度は斬り合いの攻防だ。斬っては避けるか、防ぐかの攻防がハイスピードで行われている。


速いし強い………無駄な動きがなく、なおかつ洗練されたような太刀筋。


間違いなくこの人は僕が今まで闘った中でダントツに強い…………


一分ほど続けられたハイスピードな攻防は、ルーカスの大きな一振りによって終わり、互いにもう一度距離を置く。

これでお互いの技量はある程度把握された。


ここから勝負が動く。


『ヒカル!まずいわ!』


『どうしたのアリア?』


『あの人、剣に魔力を集めてる。おそらく魔力で出来た斬撃が飛んで来るわよ』


『わかった。まかせて』


「さて、ちゃんと避けろよヒカル」


するとアリアの言った通り、ルーカスが物凄いスピードで剣を連続で振るうと、透明な風の刃のような斬撃がヒカル目掛けて放たれる。

その数は全部で六つ。


『来るわよ………って、何やってるのよ!?』


アリアがそう言うのも無理はない。

ヒカルは腰を低く保ち、中段で剣の切っ先がルーカスさんに向けるようににして剣を構え、その魔力の斬撃を斬る気満々の体勢なのだから。

おそらくアリアは、何故避ける準備をしないのかと言いたいのだろうということはヒカルには分かっていた。


無理だ。あの斬撃は避けられないようにちゃんと計算して放たれている。


ならやる事は一つ………

『全部斬り落とす』


『はぁーっ!?無理よ!かなり高度の魔力が凝縮されてるのよ?身体強化もしないでやるなんて、無茶にも程があるわ!』


『なら、今からその身体強化を教えてよ?』


『えっ?………あー、もうー…分かったわよ!好きにして』


『ありがとうアリア』


『一度しか言わないからちゃんと聞いてね。身体強化というのは、名前の通り自分の身体能力を上げることよ。これは唱えることはせず、イメージでやるものなの』


『なら、何をイメージすればいい?』


『魔力の感覚は分かってるわね?体全体に魔力を薄くコーティングするのよ。それが出来れば勝手に身体能力が上がるはずよ。時間がないから仕組みの説明は後ね』


なるほど、体全体に魔力のコーティングをイメージか…………簡単に出来るようなものじゃないな。


『一発で出来た人はいないから、一か八かの賭けになるわよ』


『分かった!』


ヒカルは言われた通りすぐに魔力のコーティングを始める。


体に魔力をコーティングするイメージ………………こんな感じかな?


イメージが出来上がると、体が一瞬だけ軽くなった。


『凄い……出来てるわ…』


身体強化は中級に位置する魔術だ。

だが、この世界の常識で中級クラスの魔術一つの習得には、最低でも四日、天才クラスの人間でも一日はかかる。

それを一瞬で成し遂げたヒカルの才能には、流石のアリアでも驚くのは当然だろう。


アリアと同調してるおかけで思考が加速してゆっくり会話ができていたが、もうすでにルーカスが放った斬撃は目の前まで来ている。


やるしかない……


「………はぁぁあっ!!」


ヒカルは尋常じゃない速さで剣を何度も振るう。

全てを叩き斬ると、斬撃は全て一刀両断されて消えた。


『まさか、ホントに全部斬るなんて………』


「おいおい、まじかよ……」


アリアだけではなく、ルーカスも驚くようにして唖然としている。


「ふぅ………はっ!」


ヒカルは一呼吸して、また自分からルーカスの下へと駆ける。


驚いてる間に手数勝負といきたいけど、どうすれば……………………そうだ!

リーアが使っていたあの魔術。光りの剣があれば、二刀流が使える!

りゅうほど二刀流はうまくはないけど、今の状況ならいけるはず!


ヒカル先ほどのリーアと同じように唱えると、左手に先程リーアが使っていたのと同じ光りの剣が現れた。


「魔術だと!?」


まさか魔術まで使うとは思わなかったため、さらに驚くルーカス。

身体強化のおかげでさらにスピードが上がったヒカルは、先ほどよりもはるかに速く間合いまで詰めていた。


「何っ…!さらに身体強化まで!?」


ルーカスは驚きながらも冷静に両手を前に出し、リーアの時と同じく《リフレクト》の魔術を発動する。


やっぱりかそれを使うか……でも、ここまで来て止まれない!!


ヒカルは今ある力を全力で振り絞り、二つの剣でその不可視の壁を目にも止まらぬ速さで幾度も斬る。


「……はぁぁぁぁぁああっ!!」


諦めることなく剣を振るってると、少しだが不可視の壁にヒビが入った。

それを見逃さないかったヒカルは、手を休めることなくさらにスピードと手数を増やし、叫びながら全てを出しつくす。


「ちっ…!」


そしてついには壁が壊れ、あとはルーカス本人だけ。


そのまま続けて二つの剣を振るうが、ルーカスは剣を盾にしてヒカルの攻撃を防いだ。


「まだだ!」


防がれても、僕は攻撃を止めない。

あと少しだ!!


「まだ上がるのか!?」


ルーカスは驚きながらも、きちんと全ての攻撃を見切り防いでいる。


やっぱりすごいよルーカスさん………………


そしてついに、ヒカルの剣が一瞬だけ止まる。集中力が一瞬途切れたのだ。

今までルーカスが反撃をしないのは出来ないからじゃない、ヒカルの集中力が切れたこの隙を狙っていたから。

そしてルーカスはその隙を見逃さず、すかさずヒカルの喉元へ剣を振るう。


まだ………間に合うッ……!


なんとかヒカルは光りの剣でそれを防ごうとする。


「ちっ…これを防ぐか…!」


防御されると読んだルーカスは、即座に剣を弱め次の動作に移ろうとする。


来た!この瞬間を待っていた!!


すると、魔剣とぶつかるはずだった光りの剣が突然と消える。


「消え……ッ!?」


予想だにしない状況に、ルーカスの剣は一瞬だけ止まった。

魔術の剣が突然消えたことへの戸惑い。そして弱まった剣のスピード。その一瞬の隙を最初からヒカルは狙っていたのだ。


これが最後のチャンスだ!!


ヒカルは足に魔力を集める。


一瞬でいい………一瞬でルーカスさんにもわからない速さで後ろに回る!


ヒカルは足に溜まった魔力を一気に爆発させ、一瞬でルーカスの背中へと移動する。


「…ッ!?」


いきなり目の前から消えたのに驚いたようだ。


成功だ!後はがら空きの後ろを狙うだけ!


ヒカルはすかさず無防備な背中へと剣を振るった。

ルーカスはヒカルが後ろにいることに気付くが、もう遅いかった。


終わりだぁっ!!


トンッ…………………


「えっ……?」


何故か、振るったはずの剣が空中で阻まれた。

まるで何か硬い壁に当たったかのような手応えと音だ。


まさか……………


そしてヒカルが放心してる所へ、ルーカスはゆっくりと剣を突き立てる。


僕の負けだ……………

生まれて初めての敗北かもしれない………


「戦闘止め!これでランクテスト試合を終わります」


その言葉で、ルーカスは剣を降ろす。


「ふぅー……危なかった……」


ルーカスさんはそう苦笑しながらそう言うが、僕から見たらまだ余裕そうにしている。

今の僕じゃ絶対勝てないのは明白だ。


「今、俺が余裕だったとか思ったろ?」


「えっ…?何で分かったんですか?」


「顔にでてるよ。言っとくけどな、こっちはギリギリだったぞ。お前の戦闘能力というか身体能力は最低でも帝並みかそれ以上。しかも接近戦じゃ、俺と同等かそれより上の技術。最後のはマジで危なかったよ」


「最後の僕の後ろからの攻撃は予想してたんですか?」


「いや、ただの勘だ。お前が魔術を使った時に、一応保健として前と後ろの両方に魔術を張ってたんだよ。まあ、最後のお前の手には普通に乗っちまったけどな………」


2人で会話をしていると、リーアが目を輝かせながらこちらに走ってくる。


「ヒカル~!凄かったですよ!!」


「ありがとう、リーア。でも、まだまだだよ」


「あぁ、そのとおりだな。だから、明日から俺が直接お前に魔術を教えることになる。今後の予定は誰かから聞いてるか?」


「今日のことですか?」


「ちげぇよ。もっと先の事についてだ」


「一ヶ月後に学園に通う事ですか?」


「ちゃんと聞いてるなら話しが早い。その1ヶ月後までに、魔術を一通り覚えて貰う。言うなれば修業だ」


「わかりました。頑張ります」


ルーカスさんに教えて貰えるのならば、こちらとしても願ったり叶ったりだ。


「あと、ヒカルは二つ名決定だからこっちで決めてもいいか?」


「……!凄いですよヒカルっ!二つ名ですよ!?」


「ごめん……その二つ名って何?」


「二つ名とは、SSSランク以上が貰える称号みたいなものです。本名を隠したりするなど便宜上いいので、SSSランク以上は二つ名を付ける事が義務付けられてるんです」


「へぇ~……そういえばギルドに階級ってあったんだよね」


「そういえばまだ説明してなかったですね。下から、E・D・C・B・A・S・SS・SSS・Zの11個に別れてます」


「説明ありがとう」


「いえいえ!何でも聞いてくださいね!」


今度は自分が説明出来たことに嬉しいそうだ。


それにしてもいきなり高ランクか………

そのランクに恥じないよう頑張らなきゃ。


「ということで二人共、明日から毎日ここに来るように」


「「わかりました!」」


「いい返事だ。それじゃあ、一旦俺の部屋に戻るぞ。今回は特別に特急でギルドカードを作ってやる」


そして闘技場での用を終え、ルーカスの案内で先程の転移魔法陣の部屋に戻り、ギルドへと転移した。

そのあと階段を3階まで上がる。3階は3つしか部屋のない。

客室と会議室とギルドマスター室の三つだ。

ギルドマスター室と書かれたドアの前に着くと、ルーカスはドアを開けてヒカル達を中に招き入れる。

中は以外と片付けてあるというよりは、物が少ないという感じだ。

窓側奥にドアと向かい合うように大きなデスクが一つ置いてあり、その前には向かい合うようにしてソファーが二つと、その間にテーブルが置いてある作りだ。


ルーカスは自分のデスクに座ると、ヒカルとリーアをソファーに座るよう促し、その反対側にレイテルが座った。


「悪いがギルドカードを作るのに10分ぐらい時間がかかる。適当に話しててくれ」


そう言われ、10秒程沈黙が走る。気まずいような気まずくないような空気だ。


何となくする事がなくレイテルさんを見ると、見てるのに気付いて優しく微笑んでくる。

思わず見惚れてしまっていると、横からリーアが機嫌悪そうに僕の腹をつねってきた。


「痛っ…!?えっ…と……リーアさん?」


リーアを見ると、頬を膨らませて、プイッと顔を横に反らされる。


あれ?もしかして怒ってる?

やばい、どうしてか全然わからない…………


とにかくここは何か話題を作って逸らそう。


「あっ、あのレイテルさんは彼氏とかいるんですか?」


そしてまた横からつねられた。しかもさっきより強く……………


えっ?悪化させた?なんで?


そしてレイテルさんはというと、突然の質問で困惑している様子だ。


「えっ?……いっ、いませんよ?そっ、その…実はそういうのには疎いもので……」


それを聞いたリーアが、興味を持ったのか目を輝かせる。


良かった。とりあえず覚えてたら後で帰りに、なんで怒ってたか聞こう。


「レイテル様の話し、もっと聞かせてください!」


「いっ、いいですけど……そんなに面白くないですよ?」


「いえ、そんなことないです!レイテル様は勿論誰かとお付き合いしたことはありますよね?」


「…えっ….?あっ、えと、もっ…もちろん…………(こんな歳にもなって、ないとは言えない……)」


今までレイテルにもそういったお話しはあったのだが、修行と任務しかしてこなかったため、恋愛というものに慣れていなかった。

さらに、強者しかいない集団に所属しているのもあるせいか、自分より弱い人に身を預けるということに抵抗を感じていたため、あまり本気になれなったというのもあるだろう。

いつまにか、恋愛とはレイテルにとって一番遠い物になっていた。


だが、今更ながらの恥ずかしさと、自分を尊敬した目で見てくるリーアにそんな事を言えるはずもなく、嘘を言ってしまったレイテル。

横目で聞いていたルーカスも嘘には気付いていたが、あえて何も言わなかった。


「さっ、さすがです。じゃあ今好きな人はいるんですか?」


「そっ……それは………」


レイテルは何かを思い出したかのように、顔を赤くして下を向く。


リーアってこんなに好奇心旺盛な感じだっけ?

エルザ様といい、お姫様とかってみんなこんな感じなのかな?


「いるだろー。気になってるのが」


作業をしていたルーカスが突然そう言い出す。


「なっ…!…ばっ………!…………」


まさか言われるとは思わなかったのか、顔を赤くして驚いたような仕草を見せるレイテル。


それがなんとも可愛らしいと思ってしまう自分がいた。

へ〜………レイテルさんに思われるなんて、どんな人何だろう?


「そうなんですか!?誰ですか!?どんな人なんですか!?」


畳み掛けるように言うリーアに、流石のレイテルも身を引いて構える。


「そっ、それはその……」


「夜中お前らが寝てる時に、もう一つのギルドで事件があってな。そこでレイテルちゃんが応援に行ったんだが、その時に会ったそのギルド所属の変わった男が気になってるらしいぞ」


「こっ…殺します…!!」


やっ、ヤバい!


黒オーラ丸出しのレイテルが、武器を持って今にも斬りかかろうとしている。

狙いは勿論ルーカスだ。


「まずはその口を………」


「うぉーいッ!?どうして武器を俺に向けてる!?いや、ごめん!もう言わないから!ストーップ、まじでストーップ!」


「よくもべらべらと!……許しません!」


ホントに不味そうだ。

ルーカスさんがホントに必死な顔で叫んでる。

これは助けるべきなのか……………


「こっ、今度名前聞いて来てやるから落ち着けって!」


すると、レイテルは静かに武器を下ろす。


「本当…ですか?」


「えっ?……あっ、あぁ。絶対ルメオに聞いて来てやる」


どうやら、名前を聞いてくるだけでまさか落ち着くとは思わなかったようだ。


「わかりました……絶対ですよ?」


その目が笑っていない笑顔に「もっ、もちろん!」、と答えるルーカス。


レイテルは武器を背中にやり、ソファーに座った。

そしてルーカスは、「マジ、死ぬかと思った…というかガチだったんだ……」とか言いながら作業に戻っていく。


「乙女ですね…」


隣でリーアが目を輝かせてそう言っているが、ヒカルには理解できていなかった。


なんか苦笑しか出来ない……

でもすごいな、ここまでレイテルさんに思われるなんて。


「そっ…その……見苦しいものをお見せしました。すいません…」


「いえ、大丈夫ですよ」


「レイテル様……その人とまた会えるといいですね」


「きっ…気になるというよりは、助けて貰った礼をもう一度言いたいというだけなんですけどね…………」


そのまま少し雑談をしていると、ルーカスが「出来上がった」と言って、ヒカルには金色のリーアには赤色のカードを渡す。


「それがギルドカードだ。そこに自分のギルドランクが書いてある。ヒカルの場合は二つ名も書いてあるから読んでみろ」


リーアは自分のカードを見ると、「ついに私にも……やりました!」と子供のようにはしゃぎだす。


それを見ていると僕まで何故か嬉しくなる。

いや、実際は僕自身も作って貰えた事にすごく感動していた。


「光!見てください!私Aですよ!」


「それってすごいの?」


「はい!自分で言うのもあれですけど、普通の学生の平均がCなんですよ?」


「それはすごいね。さすがリーアだよ。えっとー、僕のは…………X?」


「…??Xなんてありませんよ?」


「それは今から説明してやる。そのXランクは今までにない新しいランクだ」


「マジですか…!?新しいとして、どの位の階級なんです?」


「今あるランクの最高ランクになるな」


「「最高ランク………………てっ……えぇぇぇぇえ!!」」


あまりのことに、二人して絶叫する。


「つか、驚きすぎだろ…」


「だっ、だって最高ランクってルーカスさんより上ってことじゃないですか!?」


「まあ、そうだが……一旦落ち着け。ちゃんと説明する」


「わ、わかりました.……」


「いきなり最高ランクって、普通驚きますよねヒカル」


「うん。まさかだよね……」


僕がいきなり最強の座なんて、いくらなんでも驚くよ。りゅうだったらこういう時冷静だろうけど。

そういえば、りゅうがこうも言ってたかな。

「きっとお前は、異世界じゃすぐに最強の座に着くだろうな」って…………

まさか本当に当たるとは……………恐るべし僕の親友。


「言っとくが、お前に最高ランクのギルドランクを授けることは、最初から決まっていたことだ。この世界じゃ、いずれ選ばれた勇者は必ず世界最強の人間になると言われてるからな。それに俺が見る限り、ヒカルならたったの1ヶ月くらいで魔術の勉強をすれば、俺とタイマン張ってもおかしくないくらいに強くなるだろうし」


「つまり、どうせ世界最強の人間になるのなら、最初から最強の座を渡しておこうってことですか?」


「まあ大体はな…………俺の予測だが、本当の理由は魔物に怯えた今の民衆たちのために、希望の光ってのを早めに作っておきたいってのが理由だろうな。つまりお前は民衆の正義の味方ってことだ」


そう、ばつの悪そうな顔に苦笑いしながら言うルーカスさん。


つまり僕は最後の…いや、唯一の希望……


「そんな……それじゃあ全責任はヒカルにいくじゃないですか!?」


僕はここに来てから、初めて怒ったような顔をしたリーアを見た。


「あぁ……俺もそこらへんは納得いってない。だが、これを決めたのは紛れもなくリーアの親父、つまりこの国の国王陛下だ」


「そんな……そんなの…!「リーア…」…ヒカル…」


「僕は大丈夫だから。多分国王陛下は、 僕に責任を負わせるとか、そういうことは考えてたかもしれないけど、だけどそれはこの国と、この世界を助けたいっていう一心なんだ。それは王様としては当然のこと。だったら僕も、少しでもみんなの希望になれるんなら頑張りたい」


こう言ってみたものの、リーアの顔はまだどこか悲しげだ。


「大丈夫。一人で全部背負うまねなんてしないさ。僕はリーアを頼りにしてるからね」


「ひかるぅぅぅぅ゛~~ッ!!


すると、リーアは突然涙を流しながら、僕の腰に抱き付いてくる。

それに僕は思わず笑ってしまう。他の二人も一緒にだ。


「あはは…リーアったら大げさなんだから」


「だって……ヒカルが………」

と、泣きながら言う。

まるで小さい子どもだ。

僕は改めてふとギルドカードを見る。

良く見ればまだ読んでいない部分があった。


「…『聖賢の白き勇者(ホーリーブレイバー)』………」


「SSSランクから貰える二つ名だ。どうだ?気にいってくれたか?」


どこか照れ臭そうに言うルーカス。


「はい…」


白…か……昔りゅうが「お前は白が似合うな」って言ってくれたっけ?

うん、いい名だ………


僕は未だに泣いているリーアを見て決意した。


僕がみんなを守る……このもらった力で…僕の力で守ろう。

誰も失わないように、あんな思いを二度としないように。


あの時の僕は力がなかった。でも今はあるんだ。

やってみせるよ。


そして、りゅうと一緒にこの世界を平和にするんだ。










またもや編集間に合わず………

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