9話【全帝】
ということで城を出たヒカル達三人は、案内もかねて遠回りをしながらこの都市を歩いていた。
レイテルと打ち解けあった今では、様付けではなくヒカルと呼び捨てして貰えるようになっている。
今向かっているギルドは、この世界ではとても有名なところで、それが5大ギルドの一つとも呼ばれる《騎士の剣》という話だ。
さらに言うと、《騎士の剣》には帝が三人も所属していて、普通は大抵1人しかいないため、ギルドの中でも1、2を争う戦力を有している………と、そうレイテルさんが教えてくれた。
レイテルさんが話しをしている間のリーアなんかは、静かに真面目に話しを聞いていて、レイテルさんに向ける目が憧れの存在を見るような目をしていた。
帰ったらリーアに、レイテルさんに憧れてるのか聞いてみよう。
この感じじゃ多分そうだろうけど…………
色々と話している間に、あっという間に目的地に着いていた。
目の前には四階建てくらいの大きな屋敷がある。小さな学校並みの大きさだろうか。
そして屋上付近にある大きな看板には、誰でもわかるように、この世界の文字でナイトオブソードと書かれている……というか目立っている…………いや、かなりでかい。
思ったけど何でこの世界の言葉とか文字とか分かるんだろう?今思うけど不思議だ。
「あれ………また、でかくなってる…………」
「一度前に来たことありますが、あそこまで看板大きくなかったような………」
「えっ、えぇ…まあ。その通りなんですが…………姫も知っての通り、あのギルドマスターはすごい目立ちたがりやなものですから………その…すいません……………………後であいつ殺す……」
「えっ?レイテルさん今なにか?」
「いえ、何も?」
と、目が笑っていない笑顔を向けてくる。
「そっ、そうですか………」
突然恥ずかしがるかと思えば、突然僕に対してじゃないにしろ、一瞬ものすごい殺気を感じた気がするんだけど…………僕の第六感が気にするなと言ってる気がするし、そうしとこう。
「そういえば、ここのギルドマスターのことをリーアはおじさまって呼んでたけど………」
「はい、実はお母様の兄なんですよヒカル」
へぇー、そうなんだ。
エルザ様のお兄さんなら、少し変わった人かも?
でも良い人には違いないだろうから、少し会うのが楽しみかな……………
「それじゃあ中に入りましょうか」
この世界で一番強いかもしれない人と会うということで、ヒカルは多少の緊張感を持ちながらも、3人でギルドの中へと入っていった。
「……!うわあ、すごい広い……」
「一応、これでもこの国一番のギルドですから」
ギルドの中は広く、人がいっぱいいる。
なんというか、賑やかだ。
そんな驚きと感激に浸るヒカルに、レイテルはこの広場の説明をする。
入り口から見て右半分側が食堂とバーでできていて、ギルド員の大体はそこで食事をしている。
そして左半分側には、一番端にカウンターが2つほど並んで置いてあり、二人ずつ受付の女性が座っている。主に依頼の受注ができるようになっているとのことだ。
そしてヒカル達がいる入り口側は、所々ソファーやテーブルが置いてあり、ここがロビーとなっている。
他にも向こう側の奥の方には、色々な部屋と二階から屋上までの階段があるらしい。
これだけ見ても、どこかのホテルと思わせるほどの広さがあるのが分かる。
そして3人が向かう場所は、一階の奥の部屋にある『転移室』という部屋と言われ、2人はレイテルの後を付いて行く。
《転移室3番ゲート》と書かれたドアの前まで着くと、レイテルがノックせずにドアを開け、順番に部屋へと入って行った。
部屋の中は家具が一つもなく、ただ少し広いだけの部屋だった。
他に何かあるとすれば、部屋の中央に10人ほど入れるくらいの大きい魔方陣らしきものが地面に書いてあるくらいだ。
そしてその魔方陣らしきものの上に、白髪の30大後半ぐらいのがっちりした体型の男が突っ立ってこちらを見ていた。
この人隙がなさすぎる……………じゃあこの人が例の…………
「良かった……ちゃんと連絡した通りにいてくれてましたね。ではヒカル、この人が《騎士の剣》現ギルドマスターにして、2つ名はトリニティキングの一人《全王》。そして世界最強の証……全ての帝を統べる現全帝でございます」
この人が世界最強の人間。
おそらく、今の僕では手も足も出ないだろう。それくらいに隙が見えない。
「酷いなレイテルちゃん。俺だって言われればちゃんと来るさ。まあそれよりも……やあ、初めまして勇者君。ご紹介された通り、現全帝を預からせてもらっているルーカス・マルディだ。これからよろしくな」
そう優しく微笑みながら自己紹介をしてくれた。
どうやら最強だからと言っても、厳格な人って訳ではないようだ。
どちらかというといい人みたいだし。
「僕はヒカル・ユウラです。こちらこそお願いします!」
「おう!よろしくな。リーアも久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「はい、お久しぶりです叔父様。この度はよろしくお願いします…!」
丁寧にお辞儀をしながらリーアは挨拶をする。
「あぁ、任せろ。だがまあ…………思ったよりもいい男じゃないか。なるほどなリーア」
そうヒカルの事をまじまじと見た後に、ルーカスはニヤニヤとリーアを見ながら言った。
「おっ、おじ様!本人の前でやめて下さい!」
「おっと…わりぃわりぃ。もう、言わんよ。レイテルちゃんも相変わらずの美女で何より」
「口説きですか?奥さんに言いつけますよ?」
「相変わらず冗談もきついな~」
「殺しますよ?」
と笑顔で言った瞬間にはルーカスを殴っていた。
「ブホッ!……何故お怒りに!?というか、いきなり!?」
「もう一発欲しいんですね?」
と同じく笑顔で今度は言う前には殴っていた。
ちなみに目は一切笑っていない。
「すいませんでした!!」
そして今度は恐怖で、完璧な土下座をして謝る。
この世界にもあるんだ土下座………
この状況には、ヒカルもリーアも苦笑いしかできなかった。
「さて、ヒカルにはこれから闘技場で適正属性検査、並びに魔力検査。そして、ギルドカード発行のためのランク付けテストをやる予定だ。何か質問はあるか?」
いつのまにか土下座から解放されたルーカスが、さも何もなかったようにそう振る舞う。
「えっ?ここでやるんじゃないんですか?」
「違いますよヒカル。ちゃんとヒカルの為に借りた場所がありますから」
「そうだったんだ。それで、そこへはどうやって?」
「そりゃ簡単だ。転移魔法陣で転移する」
「転移…魔法陣………ですか……?」
転移………テレポートとかそういったSF類のものなのかな?
もしそうならすごい事だけど……………
「なるほど。転移を知らないってのを見ると、本当に聞いた通り異世界人なんだなヒカルって」
「はい、すみません………まだこの世界の知識には疎いもので………」
「なにも謝る必要はないさ。元はと言えば、なんの本人の許可なく召喚したこちらの世界の住人が悪い。まっ、なんでも聞いてくれな。俺に出来ることなら協力してやるからよヒカル」
僕は幸運だ。この世界に来てから親切な人としか出会っていない。
「ありがとうございます!」
「おう。じゃあ転移のことだな。転移魔方陣について簡単に説明するとだな……まあその名の通り、特定の別の場所まで一瞬で移動する魔方陣のことだ。一般に転移魔術ってのはあるが、魔力の消費が激しく扱いがとても難しいんで、それを一般の奴らでも簡単に扱えるようにしたのがこの転移魔方陣なんだよ」
「なるほど………特定って……どういうことです?」
「行きたい場所にこれと同じ魔方陣が書いてあるところのことだ。同じ魔方陣同士で道を作り、行き来を簡単にしてるんだよ。そうやって、術者の魔力や技量を支援するのが魔方陣って訳だ」
てことは本当に別の場所までテレポート出来るのか。
聞いてはいたけど、魔術っていうのはなんでも出来てすごいな………
「分かりやすい説明ありがとうございます」
「いいってことよ。それじゃあ全員魔法陣の中へ入ってくれ」
言われた通りに魔法陣に乗る。
そしてルーカスが「《転移》」と言うと、魔方陣が光り出した。
すると一瞬で視界がブラックアウトする。しかしそれはほんの一瞬で、今ヒカルが見てる風景はさっきの部屋となんら変わらない部屋だ。
「よし、着いたぞ。流石は勇者。初めての割には転移酔いもないみたいで安心だ」
「えっ?でもさっきの部屋と変わりませんよ?」
「なんならドアを開けてみな」
言われた通りにドアを開けてみる。
さっき入ってきたギルドの廊下と変わらないと思いきや、何故かさっきのギルドより綺麗な壁になっており、さらにここ以外の隣の部屋や他の部屋のドアが見当たらない。
確かに先程ヒカル達が通ったギルドの廊下とは別の場所だ。
「ほら、行くぞ」
ヒカルはおいてかれないよう、3人の後を付いて行く。
これが魔術……神秘の力…か…………
少し歩いたら、光が射し込む出口が見えてくる。
「ここが闘技場だ」
その出口を出ると、そこは外だった。
「広い………」
その広さにヒカルはただひたすら唖然としていた。
中央には地面より二メートルほど高くなった、縦横百メートル以上はあるだろうコンクリートのフィールド。そしてその周りには、円を描くようにして出来ている屋根付きの座席。
ヒカルの元の世界で言えば、ここはスタジアムみたいな場所だ。
そのまま僕たちはフィールドへ上がるための階段を上っていき、闘技場の中心まで行く。
「さて、ここらへんでやるとするか。まずはリーアとヒカルの属性と魔力量は計るか」
「そういえば、その属性と魔力量って何ですか?」
そう言うと、隣にいるレイテルがヒカルに説明をし始める。
人にはそれぞれ魔力と適正属性というものがあり。人は自分自身の魔力を消費することにより魔術が使え、自分の魔力の量によっては魔術の使える数を増やしたり、強い魔術を使うことができる。
言わば魔力とは、魔術を使うためのエネルギーだ。
さらに、自身が扱える魔力の量は増えることが可能なため、定期に計るのが習慣らしい。
そして魔術には大まかに種類が分かれており、それを属性と呼ぶ。
自分自身に合った得意な属性が最低でも一人1つ以上はあり、それが適正属性だ。
修行を詰めば、他の属性も使えるようにはなるが、他属性の修得は過酷な修行と多くの時間が必要なため、とても難しいらしい。
なのでこの世界では、普通は生まれた時に得意な属性を計るのだという。
「なるほど……属性には何があるんですか?」
「五大属性又は基本属性とも呼ばれる火・水・雷・土・風、二大属性又は特殊属性とも呼ばれる光・闇があります。他は……稀少属性と呼ばれるんですが、代表的なのは幻・音・重力などですね。他にもあると言われますが、まだあまり解明されてない属性が多いですね」
「なるほどなるほど……説明ありがとうございます」
属性って、いっぱい種類があるのか……多分相性とかもあるから、覚えるの大変そうだな。
「いえいえ、また何かあればどうぞ仰って下さい」
すると横からリーアが話に入ってくる。
「ずるいですよレイテル様。ヒカル、私にもなんでも聞いていいんですからね?」
リーアは頬を膨らませて、まるで拗ねているようだ。
「ごめんごめん。次から聞くね?」
「絶対ですよ!」
ヒカルとレイテルは思わず苦笑いする。
「とりあえず説明も終わったことだし。さっさとやるぞー」
そう言ってルーカスさんが僕に渡したのは、サッカーボールぐらいの大きさのただの水晶だ。
「それに魔力を流すと、魔力量と属性を同時に計れる最新の水晶だ」
「ルメオ・フォルカスから貰ったものですか?」
誰だろ?ルメオさんって?
「いや、買ったんだよ。かなりふんだくられたけどな」
「それ、ほんとに大丈夫なんですか?」
ルメオという名前を聞いてから、レイテルはなにか心配そうな顔をしている。
「俺から金を取るぐらいだし大丈夫だろ」
「あの、そのルメオさんって人は誰なんですか?」
世界最強の人間から金を取るなんてどんな人だろう?怖いもの知らず?
「あぁ、俺とレイテルちゃんと同じ帝の一人だよ。かなりの変人だが、魔術に関する研究や開発に関しては世界一とも言われてる。それでな、この街にはここを合わせて二つのギルドがあるのは知ってるか?そのもう1つのギルドのギルドマスターをやってるのが奴だ。まあ、あんま関わらないことをオススメするよ」
あぁー、同じ帝の人か……なら納得かも。
時間があったらそっちにも行ってみよう。こっちにいないなら、向こうのギルドにりゅうがいるかもしれないし。
「どうしたヒカル?」
「あっ、いえ……少し考え事をしてました」
「そうか。なんかあれば何でも言ってくれ。協力するからよ」
「ありがとうございます」
ルーカスさん…やっぱり普通にいい人だ。
「んじゃ、始めるぞ。ヒカルは魔力の流し方はわかるか?」
「ちょっと待ってください」
ヒカルはそう言うと、昨日アリアから教わった異次元に閉まってある《エクスカリバー》を想像するだけで召喚できるという、剣の出し方を思い出しながら右手に光り輝く剣を召喚する。
「ほう……それが例の聖剣か…」
「なるほど……これほどの業物は見たことありません」
2人はそう言いながら、興味津々にヒカルの持つ剣を見ている。
ヒカルはというと、魔力の扱い方を教わるため、アリアに話し掛ける。
『アリア、起きてる?』
『んはぁ~……ん?ヒカル?私に何か用なの? 』
『うん、ちょっとね。もしかして寝てたの? 』
『そうよ。久しぶりに誰かと喋ってたから疲れちゃって。で、どうしたのよ?』
道理でさっきまで静かだったのか…………
てか、剣なのに寝るのか…………
『魔力を流せる用になりたいから、僕に教えて欲しいんだ』
『いいわよ。一応私との契約で魔力は全部解放されてるから、後は魔力の感覚を覚えるだけになるわね』
『分かった。どうすればいい?』
『今からあなたの魔力を軽く暴れさせるから、何か体を駆け巡るものがあったらそれが魔力よ』
『じゃあ、早速お願い』
するとすぐに体の中を、とても温かい何かが流れだす。
これが魔力………なんて温かいんだ。
『すごいわね。ここまで純粋すぎる魔力は初めてだわ』
『というと?』
『そうね。簡単に言えば魔術が強いってことよ。魔力の質が純粋であればあるほどね』
『その逆は?』
『逆だと濁ってくるわ。そうね、イメージするなら黒くなっていくって思えばいいわ。濁ってるとあまり魔術が強いとは言わないわね。でも、逆に黒に近づくほど強くなるわよ。まるで、反転する光と闇みたいにね』
『分かった。ありがとね』
『ヒカルのためだから大丈夫よ。まっ、起きたからには私も手伝ってあげるわ。なんとなくヒカルの記憶から今までの事情は把握してるし』
『ありがとう』
そう言って、 一回剣を異次元へしまう。
この異次元への出し入れは、昨日アリアにいつも持っていては邪魔だからということで教えてもらったものだ。
理屈については知識がなさすぎてまだ理解出来ていなかったが、おそらくさっきの転移を見てそれに似たものだろうという事は今になって分かる。
「ルーカスさん。もういけます」
「ほう……突然と魔力の流れが活発になってるな。まあ、何があったかはわからんが、魔力の感覚は分かってるみたいだな」
「はい。大丈夫です」
「よし。それじゃあ魔力を流してみてくれ」
ヒカルは受け取った水晶を両手で持ちながら、ゆっくりと目を瞑り集中する。
『さっき感じた感覚を手のひらに集中させるのよ。見えない何かをゆっくりと放出するイメージをするの。でも放出させる量は少しだけよ。思いっきりやると水晶が壊れるから』
『分かった。やってみるよ』
僕は言われた通り、手のひらにさっきの温かい感覚を集中させ、見えない何かを放出するイメージをゆっくりとしていく。
すると、ほんの少しだが手のひらに集まっていた温かい感覚が、水晶の中へと流れ込む感覚があった。
おそらく成功だ。
「できました」
そう言うと、水晶をルーカスに渡す。
「さすがだな。まさか一発で魔力の放出ができるとはな。そうだな、まずは魔力量から見てみるか……えーっと、どれどれ…………はっ…!?」
その結果を見たルーカスが物凄く驚いた顔をしていた。
それに反応したレイテルも、後ろから水晶を見てルーカスと同じく驚愕する。
「100……億………だと………?」
この世界の価値観を知らないため、その数字がどういう意味を持つものなのかヒカルにはわからなかった。
しかし後一人まだ驚いていないリーアはこの世界の住民だ。今聞いた100億という数字の意味を勿論知っている。
ということなので勿論、
「てっ…えぇぇぇぇえ!?」
と二人が驚くなら、リーアもこう驚く訳だ。
「ひゃっ…100億っておじ様の100倍ですよ!?」
「ふぇっ?」
ちょっと待ってよ。ということは、ルーカスさんは1億なのか?
えっ?最強の100倍?
「信じられません。こんな数字初めて見ました」
「あぁ……帝の中で一番魔力の多い闇帝の10倍だぞ?俺もまだ信じられん…」
「えっ?ルーカスさんが一番多いんじゃないんですか?」
「いや、三番目だ。闇帝は天才と呼ばれていてな。魔力が約10億あるんだ。ちなみに二番目は光帝ことレイテルちゃんが約6億だ」
それを聞くと自分の魔力量がとてつもないのがわかる。
これが勇者の力なのか…………
「まっ、これ以上驚いていてもしょうがない。とりあえずさっさと属性も見るぞ」
そう言うと、ルーカスは水晶を一回軽く叩く。
すると持っていた水晶の色が、突然と金色に変わる。
「金だとッ!?」
そう驚くのはルーカスさんだ。
さらに続けて水晶の色が白に変わり、その後すぐに虹のように赤青茶黄緑色の5色に同時に変化した。
「基本属性すべてに、光と…聖なる属性………………」
「聖って…まさか、神の属性ですか!? 」
そう言って驚くレイテル。
リーアは聖と聞いて何か思い出している様子だが、ヒカルには当たり前のごとく話しについていけてない。
「聖ってまさか……!?」
すると、リーアが何かを思い出す。
それはルーカスもレイテルも同じことを考えているようだった。
「二人が思っていることは正解だ。ヒカルはおそらく、予言の子だろうな………勇者並びに予言の子の宿命まで背負うとはな…ハハッ…笑えねぇぜ…」
よくわからないけど、何か話しがすごいことになってるみたいだ。
「一体なんなんですか?その……予言の子と聖の属性とは?」
「そうだな。簡単に言えば、聖の属性は神しか持たない属性だ」
「かっ、神ぃ!?」
「そうだ。実はこの世界では二人の神が頂点に立っている。それが聖と邪の神だ。その二つの内の一つの属性をヒカルが持ってるんだよ」
「そして予言の子とは、『予言の書』に出てくる人物です。大いなる厄災が訪れる時、聖と邪の力を持つ者が現れる…と、書かかれています」
そうレイテルは付け足す。
なるほど。二人の説明でだんだん分かってきたぞ。
つまり、魔王を倒す以外にもやることがあるかもってことか…………
「ヒカル…大丈夫です!ずっと私が付いてますから!」
僕の考えてることを察したのか、リーアに励まされる。
「そうだな。流石に1人の子供に背負わせるには酷な話しだ。俺もいつでもお前の助けになってやるよ」
「私も微々ですが、助けになります」
『ヒカル!私もよ!』
うん……何があっても大丈夫だよね?だって僕の周りには、こんなにも優しい人たちがいるんだもの。
りゅう………僕は一人でも頑張るから。
「みんな…ありがとう!僕、頑張るから!」
「よしっ!その意気だ。そんじゃま、やることやったかし、ランクテスト試合を始めちまうか」
「試合……ですか?」
「おう。戦闘力はギルドで仕事する上では大事だからな。先ずはリーアからだ。まだ魔術を良く分かってないヒカルには、リーアの闘いを参考にしておくといい」
「わかりました。リーア、ケガしない程度に頑張ってね」
「ありがとうございます!ヒカルもちゃんと見てて下さいね!」
「レイテルちゃんには審判を頼みたい。俺が止めというか、危険だと思った時に止めさせてくれ」
「えぇ、わかりました」
「それじゃあ、ヒカルは少し離れた所で見ててくれ」
「あっ、はい!」
ヒカルは言われた通り三人から20メートルほど離れ、そこから見学する事にする。
やっぱ魔法を使うんだから、武術の試合とは訳が違うよね。
リーアの試合を見て、いっぱい参考にしないと。
「それでは、ランクテスト試合を始めます」
リーアとルーカスは、互いに5メートルずつ離れて向かい合う。
そしてリーアは、腰に挿してあった杖を取り出し構える。
「両者構えて下さい」
ルーカスは右手を前に差し出して、左は下げたままだ。どうやらルーカスはこれで構えらしい。
レイテルが2人が構えたのを確認すると、右手を上に上げる。
「戦闘……開始!」
右手が下がるのと同時に、試合が始まった。
先に動いたのはリーアだ。
指揮者のように杖を振りながら、何かぶつぶつと言っている。
「瞬くは閃光、輝くは雷鳴、古の光より裁きの鉄槌を《ボルテール・シャイン》!」
リーアはそう言うと、杖を上下に振るった。
そして二、三秒すると、雲一つない空からルーカスに向かって、物凄い速さと威力の雷が何発も落とされる。
最初の一発がルーカスさんの目の前に落ちると、凄い音をさせて地面をえぐる。それがこの雷の威力を物語っていた。
「ほう、混合魔術か……《リフレクト》」
そう言うと、ルーカスを覆うようにして、周りに薄い透明のような壁が現れた。
その後同時に何発かの雷が透明な壁に当たるが、その全てがリーア目掛けて反射する。
「聳え立つは光りの壁!《光り輝く壁》!」
それに対しリーアは、目の前に光り輝く大きな壁を展開する。光の壁は難なく雷を受け止めると、すぐにその壁が消える。
凄い……これが魔法、じゃなかった魔術…………
もしかしたらルーカスさんのあの構えは、魔術を使うための体勢なのかもしれない。
つまり接近戦はやらないようだ。
「流石ですね叔父様。一応私の最大魔術何ですけど………」
「悪くはなかったぞ。んじゃ、次はこっちからい………ッ!」
ルーカスが喋り終わるより早く、リーアは物凄い早さで突っ込むようにして駆けていく。
まさか突っ込んでくるとは思わなかったのか、少しルーカスの顔には驚きがあった。
「光りの守護者よ。輝きの剣にて闇を斬り裂く術を!《光の剣》!!」
そう叫ぶと、リーアの右手に光りの剣が現れた。
というより、杖が光りの剣になったように見える。
そしてそのまま懐まで一気に詰め寄ると、剣を両手で持ち横に一閃する。
ちなみに剣の大きさは、普通の長剣と同じくらいだ。
ルーカスはそれを前を向いたまま、後ろに一回跳躍して軽く避ける。
さらにそれだけじゃ終わらず、リーアは物凄い速さで同じく懐に入っていき、幾度も剣を大きく振るった。
しかし、リーアの全ての攻撃が大剣を扱うかのように大振りで単調なため、ルーカスは全て簡単に避けている。
あんまりリーアは剣を使うのが得意じゃないのかな………それにしては、かなりの身体能力だけど……
ヒカルの世界の一般常識からしても、リーアの身体能力は化け物と言っていいほどだ。
『あれは身体強化の魔術を施してるのよ。彼女の身体能力ではないわ』
アリアがそう教えてくれた事により、納得がいくヒカル。
「そろそろ終わらせるぞ」
ルーカスは10回ほど攻撃を避けると、もう終わらせるかのように一瞬でリーアの後ろに回った。
「えっ…!?」
あまりの速さのせいか、リーアにはルーカスが目の前から突然消えたと思ったのだろう。
「後ろだ。《インパクト》」
「…ッ!?」
右手の掌をリーアの背に向けながらルーカスがそう言うと、掌から見えない何かが衝撃を与えたかのようにしてリーアが吹っ飛ばされていく。
「…ぐぁっ…!」
そのまま2、3メートルほど吹っ飛ぶが、一瞬にしてリーアの下まで移動したルーカスが、地面に叩きつけられる前にリーアを抱き上げた。
結果はルーカスの圧勝だ。
「戦闘終了ですね」
「大丈夫かリーア?」
「あっ、はい…衝撃だけだったので、痛みはそこまでないです…でも……あっさり負けちゃいました………」
「いや、良くやったよ。その年で混合魔術ができるのは凄いことだ」
「ほんとですか!?ちゃんとヒカルの役に立てるでしょうか……?」
「あぁ、バッチリだ。それに、まさか突然接近戦でくるとは驚いたな。虚をつくいい作戦だ」
そう言いながら、ルーカスはリーアをゆっくりと地面に立たせた。
ルーカスに褒められたリーアは、とても嬉しそうな顔をしている。
そして次は僕の番だ。
果たして僕にリーアみたいに戦うことができるだろうか……………
そんな不安とともに、ヒカルは3人がいる場所まで近付いていった。
次からリュウゲン視点に戻る予定でしたが、やっぱり終われませんでした……………




