1+i 話 職業
…目を開く。
ここはもう現実世界では無い。
私、アヤは今この虚数世界の住人になったのだ。
転送された先はどうやら森で、鳥のさえずりなんかも聞こえて来る。
近くにあった池の水面に映った自分の姿を見る。
(え、まって、可愛い…。これ女子が惚れるレベル…やった、勝ち組!)
自分の転送後の姿に見とれ、胸の大きさに満足していると、タイミングを見計らったかのようにあの声が聞こえた。
『やぁ、転送は成功だ。その姿は気に入ってくれたかい?そしたら、君の前にある宝箱を開けてほしい。』
(これかな…)
上部にタッチパネルが付いた宝箱を開けようとする。
「…開かない。」
(…いや、たしかにお決まりのパターンだけど、まだチュートリアルにも入ってない感じだよね?もっと簡単に開かないの?)
どうにかして開けようとしてパネルに触れると…
《虚数世界ノ適合者診断ヲ行イマス》
(宝箱が、喋った…?)
喋ったと。言っても、口がついているわけでもなく、スピーカーなども付いていない。
(どうなっているんだろう…)
《気ニシタラ負ケデス》
(なんで?心読んでるの?)
原理は分からないが、こっちの思考が宝箱に伝わるらしい。流石虚数空間、はじめからなんでもありだ。
《デワ、以下ノ問題ヲ解イテクダサイ》
宝箱がそう言うと、タッチパネルにいくつかの問題が映し出された。
①1・1・2・3・5…34・A
Aに当てはまるものは何か
②31415926535897932384626433A
Aに当てはまるものは何か
③上記の問題の解答の共通点は何か
ちょっとした数学の問題だった。
(この世界って数学いっぱいって感じなのかな…だから私が必要だったのか…)
私はすぐに答えを入力して「回答」をタッチした。
《回答二、カカッタ時間:8.29秒。クラスAノ適合者トシテ職業ガ与エラレマス。》
(クラスA?なんか良さげじゃない?。職業か…何になるんだろ…)
《…職業ガ決マリマシタ。アナタノ職業ワ
・上級獣使い
デス。コノ箱ヲ開ケルト、ソノ職業二ナリマス。》
(……はい、フラグ回収お疲れ様でーす…困ったな、猫以外の動物は苦手なんだよ…)
文句を言っても仕方ないので、仕方なく宝箱を開けた。
別に中から煙が出たり、正義のヒーローみたいな演出もなかったが、気づいたら服が変わっていた。手元にはΦみたいな形の杖がある。
(それにしても…露出が激しい。)
《コレニテ、新転送者ナビゲーションシステムヲ終了致シマス》
そう言って、宝箱は消えてしまった。
なんだか、少し寂しい。
『君の職業は獣使いだね。しかしAランクとは…やはりぼくの見込んだ転送者だ。ここから僕は干渉しないから、自由に過ごしてくれ。』
「あの、ひとつ聞いていいですか?」
『なんだい?』
「いつ現実世界に戻れるんですか?」
『僕が消えた時か、君が転送者としての役割を果たした時だよ。』
「あなたが消えた時、というのは…?」
『詳しいことはいい。とりあえず今はこの世界を楽しんでくれ。』
「は、はい…」
これを期に、その声は聞こえなくなった。
残ったのは、多大な不安だけ。そして…
「私獣使いで本当に大丈夫なのかなぁ…」
…こうつぶやく彼女は、獣使いの凄さをまだ知らない。
(とりあえず、人を探そう。そしたら何か分かるかもしれないし…)
こうして、駆け出しの上級獣使いアヤは、人を探すべく、森の中をさまようのだった。
(あ、人が見つかっても日本語通じるのかな…)
またひとつ、心配事が増えた。
本文中の問題の答えは、
①55 ②8 ③3を法として合同
です。③に関しては考えたらいくらでも出てきそうですがそこら辺は…はい。
あと、今考えたら駆け出しの上級獣使いってかなり矛盾してますね…
まぁそこは多めに見てください。
もし良ければ次話もよろしくお願いします。