序章 ~アヤと虚数世界~
【数学】
…
それは人類が見出した最も繊細な学問。
絶え間なく続く時間の中で
今この瞬間
それは形を変えて動き出す。
「ねぇ、『虚数』って知ってる?」
「えー、何それー笑」
「存在しない数のことだよー」
「そんなのあるのー?笑」
いつもの学校、いつもの友達といつも通りの会話。
数学好きの私、升間綾はこんな日常を送っていた。
こうしてまた、1日が終わる。
「3.14159265358979…」
私は1人で帰る時、集中したい時によく、円周率を口ずさむ。
『3238462643383279…』
どこからが不意に声がした。
(怖い…)
円周率の続きを言っている…
(怖い怖い…)
まぁ世間一般でイケボと言われる類の声だけど、夜の街灯の少ない道だとこうも怖く感じるのか…
立ち止まってあたりを見渡すけれど、誰もいない。
私はホラーとかそういうのが苦手だ。はやく立ち去ろう。そう思ってまた歩き出
…せない。なんで?歩けない…というか動けない。
恐怖で心臓が締め付けられる。
(何がどうなってるの?)
『やぁ、こんにちは』
目の前に人が現れた。
ピエロのような独特な雰囲気だ。
幾何学的な模様がデザインされた服を着ている。
(怪しすぎる…)
『君、数学好きだよね?』
『君に協力して欲しいことがあるんだ。』
(…協力して欲しいこと?…いや、まず名乗ってよ…)
「まぁ、数学は好きですけど…あと…誰ですか?」
『協力してくれるのかい!?ありがとう!』
(いや、協力するなんて一言も言ってないんだけど…ってか、いい加減名乗ってよ…)
正直断りたいが、ここで断るとほんとに殺されるかもしれないから仕方なく話にのることにした。
「協力って、具体的に何をするんですか?」
『簡単に言うと、僕の創った平行世界の平和維持だよ。平和を乱すモンスターを倒してほしい。この世界のRPGみたいな感じかな。』
(何このマンガでありがちな展開…平行世界?)
平行世界と聞くと、心配なことがある
「そっちの世界にいる時こっちの時間はどうなるんですか?」
そう。浦島太郎的展開にならないか、だ。
『平行世界と言っても向こうは虚数空間だから、こっちと時間の関係性はないから安心してくれ。』
(まぁそれが分かったところで行く気はないんだけどね笑)
『あ、でも完全に独立している訳じゃないからもし向こうの世界が滅びればこの世界も終わるかもね笑』
(あーこれ、行かなきゃダメな流れですね…というか笑い事じゃないじゃん…)
「わかりました、協力します。」
『よし。決まりだね。じゃあ軽く向こうの世界について説明しようか。』
・向こうの世界を虚数世界と言う。
・街があれば自然もあるから自由に暮らせる。
・実数族や虚数族など、多種族が共存している。
『…こんな感じかな。あとは自分で行ってから確認してみてくれ。あ、あと君は向こうに行くとランダムで職業が決まるからよろしく。』
(職業?ほんとにゲームみたいだなぁ…)
「職業はどんなものがあるんですか?」
『えーっと…剣士、魔女、双剣使い、弓使い、あとは獣使いとかかな。他にもあるよ。』
(獣使いだけは絶対になりたくないな…)
『それで君が向こうに行くにあたってステータスを決めなくちゃ行けないから要望があったらいってよ。』
(ステータスか…別になんでもいいな…)
「とりあえず性別とか年齢とかは今のままでいいです。」
(おっと、1番大事な事を忘れるところだった…)
「あと美人で胸は大きくしてください。」
(ここ、テストに出るくらい重要です…)
『OK。それじゃあ「アヤ」として君を虚数世界に転送させるよ。頑張ってくれ。期待している。』
直後、その人は意味深な笑みを浮かべた。
目の前が光り出し、体が軽くなる。
これからついにゲームのような生活が出来る。
(え、家とかお金もないのに向こうでどう暮らしてけばいいの?)
こうして、アヤの虚数仕掛けのRPGが始まった