序章
人生が早送り出来ればいいのに。
一人になるといつもそんなことを考えてしまう。今振り返れば僕の人生の選択は失敗ばかりだったように感じる。我ながらよくもここまで裏目を選んだものだと感心してしまう…勿論他人事ではないのだが。
しかし、それなら望むべきは早送りではなく巻き戻しなのではないか、と言いたくなる人もいるだろうが最早僕にはもう一度人生をやり直す気力など残されていない。そんな発想が出来る奴にはまだ生きるということに希望を持っているのだろう、羨ましい限りだ。
そんな訳で僕は今とあるビルの屋上の、柵の外に一人立っている。そんな訳とはどんな訳かという質問は受け付けていない。とにかく、どんなに願っても神様は人生を早送りするなどというトンデモ能力を授けてくれる気は無いようだ。ならば自らの力でこの駄作にいい加減エンドマークを書き込んでしまおうというわけだ。
しかしドラマなどの飛び降りるシーンが流れる度にわざわざ靴を脱ぐ意味はあるのだろうか、と疑問に思っていたのだがこちら側に立ってみるとそうする理由がわかった気がする。早い話、これからあの世は僕の家となるのだ。家に入るのに土足で上がる人は少なくとも日本にはいないのでむしろこれは当たり前の事だったのだ。
これから自分のする事はわかっているが、不思議と気分は落ち着いていた。恐怖もほとんど無いと言っていい。この世への未練も、全くない。それでも、自分の体が傾いていくとともに、僕は自然と目を閉じた。