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『DRL』機皇退魔陣  作者: 拾捨
地上光臨編
27/58

転校生は巨大ロボ!?

「ねえ、真っ暗よ…照明つけちゃダメなの?」

「刺激したら逃げるヤツかもしれないし。私は夜もバッチリ見えるから大丈夫」

先生わたしが大丈夫じゃないんだけど…」

先頭に立ち改めて職員室の隅々を探索する舞。

その後ろに続く基と光に、真心がおっかなびっくりついていく。


「ひっ!な、なにか足を撫でた!?」

真心が精一杯の小声を保ち悲鳴を上げる。

「見せて見せて……ただのケーブルじゃん。」

彼女の視線の先を確認した舞が、デスクの端末からはみ出した電源コードの端を振り子のように揺らした。


「まこせんせー、ホント怖がりなんだね」

「うう…先生からせんせーに戻ってるし…」

「片桐先生、もうちょっとで終わりですから」

基に励まされ、真心はいよいよ自身の頼れる大人像が崩壊していくのを感じた。

「頼りない顧問でごめんね…」


目的地である壁のホワイトボードまでは、僅か数メートルの道中。

その間、真心は紙束の擦れる物音やペンに反射した月明かりなど一つ一つに怯えていた。


「糸が無い……」

舞が目的のホワイトボードの裏側や周囲を目を皿のようにして確認する。

「み、見間違いだったんじゃないの……?」

「舞に限って、見間違えることは無いと思いますよ」

「絶対、ここにあるハズだよ。私、諦めない」


舞の大きな目が潤んでいる。

なにもないのであればそれに越したことはないと思っている真心だが、舞の純粋さも出来る限り尊重せねばと葛藤した。

暫しの沈黙を破ったのは光である。


「マイ、君は夕方に糸を発見したときも、動いていると言っていたじゃないか」

「はっ!そういえば!」

大袈裟な動作で反応を返す舞。これが彼女の自然体だ。

「移動しているなら、いつまでも同じ場所にとどまっているとは限らない。問題は、それをどうやって探すかだが…」

「ひぁっ!?」

光の言葉を遮り、真心の悲鳴が暗闇の職員室に響く。


「今度は何、まこせんせー」

舞が呆れ気味に真心を見やった。

しかし、悲鳴をあげた真心が気を失い倒れそうになっているのに気付き血相を変える。


「マイ!あの辺りに“何か”がいないかッ!?」

仰向けに倒れる真心の身体を抱き止めながら、光が一メートルほど先の床を指差す。

舞は、指し示された床材の隙間に白い『糸』が吸い込まれるようにして引っ込んでいくのを見た。

「い、糸!糸が逃げていったー!!」


光が糸の存在に気づけたのは、精命力オーラの流れを察知したからだ。

突如として片桐真心の精命力が足下そっかに流出し始めたのである。

舞が発見したくだんの糸の仕業であることは明らかだ。

光は、怪異の正体は『魔族』であると確信した。


「ど、ど、どどどどど」

ついに見つけた怪異の主、そして倒れた教師。

二つの一大事は舞の許容量を超え「どうしよう」の一言すら口に出せない。


(まずい、かなり精命力を吸われている!)

光は腕の中で気絶している真心の状態を確認。

いずこかへと逃げ去った『敵』を討ち果たさねばならぬ。

だが今は守るべき人間の生命の危機を取り除くことが先決であった。


「舞、落ち着いて。礼座君、まずは先生を保健室へ運ぼう!」

怪異を目の当たりにしても冷静さを保つ基が、状況を判断し光に声をかける。

「ああ、案内してくれ!」


「まこせんせー、しっかりして!」

保健室のベッドに寝かせた真心に舞が涙目になり呼び掛ける。

「先生、どうして突然倒れたんだろう」

取り乱してはいないものの、基の表情からも緊張がにじみ出ている。

二人の注意が目を閉じたままの女教師に向いていることを確認し、光は密かに真心の足首に触れた。


光の指先から、真心の径絡に精命力が流し込まれる。

やがて蒼白だった真心の頬に血色が戻り、眼鏡の奥の瞼が開いた。


「せんせー!大丈夫!?どっか痛くない?気持ち悪くない?」

大きな瞳からついに涙をこぼしながら、舞がすがりつくように問う。

「え、と、鍔作さん?どうなってるの?え?」

覚えなく保健室のベッドで目を覚ましたかと思えば、胸に顔を埋めぴいぴいと泣く生徒の姿。

真心の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。


「先生、職員室で気を失ったんですよ」

「ええ!?」

「僕達にもよく判りませんでした・・・・・・・・・・が、何か強いショックを受けられたようですね」

光の曖昧な言葉に、怖がりの女教師は再び卒倒しそうなほど青ざめる。

「やっぱり、何か“出る”ってこと…?」

「いえ、そういう訳では…いたずらに不安を煽るようなことを言ってすみませんでした」

「あなたが頭を下げなくてもいいのよ、礼座君。本当にごめんなさいね。あなたたちの足を引っ張っちゃって」

謝罪の言葉は、特に胸元でようやく泣き止みつつある舞に向けられた。


「マイ、ハジメ。これ以上は本当に危険だと思う」

光の言葉に、基が頷いて同意する。

あれほど調査に拘っていた舞も、目の前で真心が倒れたことにショックと責任を感じ、何度も首を縦に振った。

「そうだね、じゃあ今日はもう帰ろうか。舞も、それでいいよね?」

更に首を縦に振る舞は、ちょっとした眩暈を感じている。頭を振り過ぎているせいだ。

「ハジメはマイと一緒に帰るんだな?それでは、俺が先生を送っていきます。まだ少し体調が悪いでしょう?」

「えっ、ええ、そうね、まだちょっと調子、悪いかも!」

精命力の流れを読み取りながら問いかける光に、真心は上ずった声で返事をした。

体調がすぐれないのも実際である。しかしどちらかといえば、思いがけず美少年のエスコートを受けられることに僥倖を感じていた。


朝とは逆の道のりで舞を自宅へ送り届けた基は、自分の帰途につく。

そして朝と同じように、途中で金髪の少年を見かけた。異なる点と言えば、光は迷う様子なく走っていることである。

「礼座君、まさか」

夜闇に駆けていく転校生は、学校へと引き返していた。

基は、成り行き上付き合っているのかと思いきや積極的に調査に参加していた光のことを思い起こす。


彼は、危険の中へ身を投じようとしている。

そう直感したとき、基も駆け出していた。


学校に戻った光は、敷地の四隅に次々と走り、掌から生じさせた光球を“埋めて”いった。

『敵』を逃がさぬ為の結界を張ったのである。

「さあ、出てこい…『土蜘蛛つちぐも』よ!」

教師・真心が糸に襲われた職員室へ再び侵入し、何処ともなく呼びかける。

同時に、自身の体内を巡る精命力を活性化。

精命力オーラ誘引かれて出てこい!)

魔族は精命力を喰う。光は自らを囮として敵を呼び寄せようとしていた。

その蜘蛛捕りの罠に、もう一つ“精命力の塊”が闖入してきたのは光の誤算であった。


「礼座くん!」

「ハジメ!?どうして…」

息を弾ませながら職員室の扉を開いた少年に、思わず驚きの声をあげる。

結界の中に自分と共に“閉じ込めて”しまったこともさることながら、目の前の少年から先刻には感じられなかった精命力の滾りが見られるのだ。


舞の『千里眼』と同じく、基も無意識に何らかの『力』を発現させているのかもしれない―――

そのような分析の思考は、密室の隅々から伸びてきた『糸』の襲撃によって打ち切りを余儀なくされた。


「ハジメッ!」

自身へ迫る糸の先をかわすと同時に、突然身に迫った怪異に立ち尽くす少年を抱きとめ廊下に飛び出した。

「ちょ、ちょっと…!」

目の前に糸が現れ、意志を持つように動いたかと思えば、少年に突然抱きしめられる。

基はさすがに戸惑った。

「走るぞ!」

二人は勢い余ってそのまま床に倒れるが、光が受身をとり即座に逃走体勢を整える。


糸は数を増し、廊下を埋め尽くさんばかりの束になって二人を追ってきた。

「い、糸が!?」

「あれが“学校の怪談”の正体だ!」

廊下を全力疾走しながら最低限の言葉を交わす。

「ハジメ、外へ出るぞ!狭い場所では“奴”の方が有利だ!!」

基が言葉の仔細に疑問を持つ暇もなく、二人の少年は校庭まで走り抜いた。


光は月明かりが照らすグラウンドの中央に陣取り、息を切らせる基を背に庇う。

校庭のど真ん中で、何かを警戒して後者の方を睨む転校生に、ようやく喋れる程度にまで呼吸を整えた基が疑問を口にする。

「礼座くんはあの『糸』が何なのか判ってるの?」

「……ああ」

ためらいつつも光は頷く。

「教えてよ。あの『糸』が何なのか。それを知ってる“君”は一体―――」

少年の言葉は急激な地震に遮られた。そして、地表から這い出してきた異形の怪物の姿に二の句も呑み込んだ。


校舎の二階に届くほど巨大な蜘蛛。それが目の前に現れたモノの姿だ。

魔族『土蜘蛛』。糸を自在に操り、人々の精命力を喰らう異類である。

光は姿を表わした土蜘蛛を睨む。

「奴は君を狙っている。君の精命力を吸い取るつもりだ。片桐先生のように…!」

背中越しに、呆然と見上げる基へ告げる。

基に内在する精命力は通常では在り得ないほどに練り上げられており、それを喰らう者にとっては甘露を差し出されているようなものであった。


「僕が、狙われている…」

「そうだ。だが、君は俺が護る!」

「護るって…“あんなの”から…」

「ああ。必ず護ってみせる」


基がそれ以上何かを言おうとする前に、光は“守護者”としての行動を起こす。

両手を胸の前でしかと組み念じると、校舎の四隅に埋められていた光球が線へと変じ、光の壁―――『結界バリヤー』で学校の敷地全体を囲った。

この時、結界の外側からは何の変哲も無い夜の校舎が佇んでいるようにしか見えていない。


「今からここで見ることは忘れた方が良い」

光の纏う雰囲気が、いっそう只の少年のそれではない『何者か』の気配に変わってゆく。

「覚えていれば、君は“こちら側”へ身を投じることになるだろうから―――」


その時、辰間基は見た。

目の前に立つ少年の全身から、眩い閃光が放たれるのを。

少年が、閃光と共にしろがねの巨人へと姿を変えたのを。


「我は…光鉄機こうてつきアイエン」

輝く鋼鉄の鎧。闇夜にあってもなお、輝く。

「悪鬼、ことごと催滅さいめつせよ!」

空にある筈の月光が、今は此処にある。


銀の巨人・光鉄機アイエンが戦闘の構えをとるや、土蜘蛛は跳躍。

頭上を跳び越し後ろへ回ろうとするが、アイエンの鋭い回し蹴りに胴を打たれ、結界の壁に激突する。


「ハジメ、校舎の影に身を隠すんだ!」

アイエンが足元の少年に呼びかける。

基はと言えば、目まぐるしく展開していく非日常の光景を呑みこみ切れていない。

避難を呼びかける声が礼座光のものであったため、辛うじて応ずることができた。


土蜘蛛が大きな壺のような腹の先をアイエンに向ける。

細い孔から空気が噴出す音と共に、幾条もの糸が吐き出された。

糸はそれぞれが意志を持つかのように動き、瞬く間に巨人の両腕を拘束する。


「ムォ!」

巨人が気合を発声すると、両腕が光を帯びる。熱量を生じる精命力により、蜘蛛の糸は焼き切られた。


「ハ!」

糸を焼き切ると同時に、アイエンが左の掌底を打つ。

土蜘蛛との間合いは数歩分離れており、掌の先が対手に触れる筈が無い。

巨人の掌底が空を切った次の瞬間、蜘蛛が悶絶。腹の先端、『糸』の噴射口が何かで焼かれたように潰れている。


アイエンが間合いを詰めぬまま、同様に右の掌を突き出す。

掌底から放たれたのは光弾。いわば精命力オーラによる遠当てである。

発射して即着弾し、今度は土蜘蛛の複眼を半分焦がした。


怒り狂った土蜘蛛が、光鉄機に圧し掛かろうと空高く跳躍する。

光鉄機アイエンは既に青白い閃光を両腕に蓄えていた。

「オーラ・フラッシャー!!」

掛け声と共に両腕を天に掲げる。

夜空に立ち上った光の柱が、魔族・土蜘蛛を跡形もなく焼き払った。


閃光の飛び交った校庭に、夜の静寂が戻る。

天を灼いた巨人の姿は既に無く、代わりに裸身の少年が校庭の中央に立っていた。

「礼座くん!」

もう一人の少年が駆け寄るのを、礼座光―――またの名を光鉄機アイエンは右手を前に出し制止する。

「いいね、忘れるんだ」

言うや否や光は跳躍。夜闇の何処かへと姿を消した。


辰間基は、本当に誰も居なくなった校庭にひとり立ち尽くす。

「舞が居たら、追いかけられたのかなぁ」

未だまとまらない思考の中、その一言だけが口をついて出た。

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