時間を浪費するだけの想い
「好きだよ」
本から顔を上げて、そんな言葉を吐いた本人の顔を見た。
私は無表情を崩さずに溜息を吐き出す。
何度このやりとりをして来ただろうか。
もう思い出すのも面倒だった。
「飽きませんね、貴方も」
チラリと壁に掛けられている時計を見れば、後十分くらいで殆どの部活が始まる時間だ。
だけど彼は未だに私の目の前から立ち去る気配を見せよとはしない。
「お互い様だろ?」
彼の言葉にそれもそうだと頷く。
それから本に栞を挟んで閉じると、タイミングが良いのか悪いのか、教室の扉が開かれる。
私も彼もそちらに視線を向ければ、そこにはやはりと言うか何と言うか見知った顔が二つ。
片方は彼の部活の先輩。
もう片方は私の姉。
ぴったりと先輩にくっついている姉を見て、私は静かに眉を寄せる。
「そろそろ部活、始めるぞ」
溜息混じりにそう吐き出す先輩に、彼は肩を竦めてから笑って返事をした。
次のキャプテンになるんだからしっかりしろ、なんて言う先輩に対して、彼は分かってますよと返す。
へぇ、次のキャプテンなんだ。
本を鞄に仕舞い込んでいると、今度は姉の方が声をかけてくる。
「今日は、手伝ってくれる日だったよね」と。
毎週一、二回程姉のマネージャー業務を手伝っていた。
勿論始めのうちは下心あり。
今となっては面倒だし苦痛だけれど。
「今から行くところ」
鞄を持とうとすれば、彼が私から鞄を奪って「じゃあ、行きますかー!」と、先輩達を押し出す。
ヘラヘラとした笑顔が羨ましいような、うざったいような。
私は教室の電気を消して追いかける。
先輩と姉は付き合ってて、姉はきっと私の気持ちになんか気付いていない。
私が姉だったら良かったなんて、何回考えたか分からない。
彼も同じように先輩だったらって考えたことあるに決まっている。
私は先輩が好き。
先輩は私の姉と付き合っている。
彼は私が好き。
でも私はそれに答えられない。
「……不毛だわ」
ポツリと呟けば私を待っていた彼が笑う。
意地の悪い笑みは私の神経を逆撫でる。
「お互いにな」と笑う、嗤う。
「好きだよ」
「……大嫌いよ」
なんて不毛な想いを抱いているのだろうか。