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05 写真整理の憂鬱

 現場写真整理がやっと昨日終わった。

 総数四千枚近く。

 なぜこんなに時間がかかったかというと、写真のリサイズその他があったからだ。

 写真の入っている場所が階層が深過ぎてわからないというのは序の口だった。

 サイズは一(メガ)から二Mの範囲に収めないといけない。

 それなのに、五Mとか三Mの写真がごろごろある。

 日付もおかしい。

 いつも使うカメラではなく他のカメラを使ったら日付と時間の設定が間違っていて、昼間の写真なのに時間が午後八時とか九時になっていたり。

 極めつけはExifが消えている写真。いつ撮影したのか、まったくわからない。

 誰だ、こんな写真撮った奴は!

 そういう写真が一枚あるだけで、それまでさくさく進んでいた作業が止まってしまう。

 それでも一枚ずつ問題を解決し……。

 終わった時は、一人事務所で万歳と叫んでいた。

 時計は……もうすぐ日付が変わろうとしていた。




 本当はこの仕事は俺の仕事ではない。

 もう一人、同じ現場を担当している男がいる。

 この時期忙しいので、会社の他の出張所や支社から忙しい現場に応援が来る。そやつがやるべき仕事なのだが。

 なぜか「現場写真の整理頼むね。」の一言で俺にお鉢がまわってきた。

 おい、日報も他の書類も現場もあるんだぞと言いたかったが、あっちの方が俺より立場が上だ。

 なんたって社員だから。

 俺は地元採用の作業員だ。現場責任者の名前を持っていても、作業員。

 あちらは社員。

 給与体系から待遇からすべて違う。

 そういうわけで俺は昼間現場が終わった後、日報作って、さらに現場写真整理。

 その前にも、俺はこの男から仕事をまわされた。

 で始業前に事務所に行って書類作ったり、遅くまで残ってやったり。

 本来、こいつがするはずの仕事をする羽目になったのだ。

 なぜかと言うと、この男、信じられないくらい仕事ができないから。

 きょうび高校生(建築関係の)でも扱えるCADソフトだが、俺とほとんど同年代のこやつにはほとんどできない。CADソフトも種類が多くて、変わるとやり方がわからなくなるといっても、基本は同じはずなんだが。

 表計算ソフトも使えない。

 写真も印刷ができない、何ができないといつも事務所でぶつくさ言っている。

 できないと言えば誰かにしてもらえると思っているらしい。

 さすがに最近は皆それに気付いたのか、手伝いましょうかと言うのはいない。実際、皆自分の仕事で忙しい。俺もだ。

 だが、つい教えたり手伝ったりすると、「頼むね」の一言で仕事を押し付けられることになる。

 この現場写真整理もそうだ。

 この写真、一枚ないだけでも書類に大きな支障が出る。だから必死にやったのだ。やらないと俺も困るから。




 で、俺が土日もなく仕事をしているのに、あいつは昼間一体何をしているのか、全く不明だ。現場に出てこないから書類をやってるかというとそうでもない。

 とにかく、わけのわからん男だった。




 現場で働くモハメドも、彼のことを不審に思っていたようだった。そりゃそうだ。事務所に戻って来ると何もしないで人に仕事をやらせてばかりいるんだから。

 昼飯を現場で食っている時に訊かれた。あの人の仕事は何ですかと。

「監理技術者。」

「何の技術を持っているのですか。」

 俺は言葉に詰まった。まさかさぼりの技術とか言えないよな。

「人に仕事をやらす技術よ。」

 島さんが言った。モハメドは不思議そうな顔をした。

「自分は何もしないでですか。」

「じゃっど。人に仕事を押しつけて、自分はなにもせん。」

 モハメドは言った。

「それは給料泥棒と言うのではありませんか。」

 誰がそんな言葉を教えたのか。島さんだけでなくまわりにいた作業員が大笑いだった。 

「本人に言うなよ。」

 俺は念を押しておいた。モハメドはうなずいた。

「そういえば、写真管理ソフト、ダウンロードしたか。」

「はい。使いやすいですね。さすが浅戸さんのお薦めです。仕事以外でも使えそうですね。」

「だろ?」

 たぶんモハメドのほうが事務所の監理技術者よりも仕事ができるだろうと俺は思った。入れ替えたほうがまだましな気がする。




 事務所に戻ると、噂の男はもう帰っていた。

 俺も今日くらいは早く帰りたかった。事務所を出ると、二階からちょうど遠藤と江口が下りて来た。彼女たちも帰るところだった。

「知ってる? あの人、今度はX県の出張所だってよ。」

 江口が教えてくれた。どうやら噂の男は今の仕事が終わったら、X県の仕事をするらしい。あっちの出張所の人々の困惑が目に浮かぶようだ。

 久しぶりに見た遠藤は少し痩せたようだった。やつれたというか。

 だが、俺は何と話しかけていいかわからなかった。

「お疲れさん。」

 そう言って自分の車に乗った。ドアを閉める前に遠藤がお疲れ様ですと返す声が聞こえた。

 疲れているのは彼女なのではないか、そう思って振り返ったが、彼女はすでに自分の軽自動車に乗りエンジンをかけていた。

 一体、俺にどうしろと言うんだ、江口は。


 


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