友達
『あんたもきっと変われるよ』
貴方があまりにも綺麗に笑うから。
体育館で行われたレクリエーションは思っていたより短時間で終わった。
生徒会長である従兄良里が壇上で歓迎の言葉を述べるのを下で見ながら改めて良里はすごいのだと思った。
体育館からゾロゾロと戻る新1年生たち。
エスカレーター式の学校な為中学からできているグループが引き継がれ入学初日だというのにもうグループが出来上がっていた。
そんな中奏は1人自分の教室へと戻った。
【席順は教卓に貼っています】
そんな張り紙に自分の名前を探し、1番後ろの窓際と言う漫画のようなベストポジションに内心ガッツポーズをしながら席に向かうと見慣れた顔が隣に座っていた。
「橘くん!?」
「さっきぶり。偶然だな隣って」
片手を上げながら笑う晴翔に奏は驚きいたが、それよりも嬉しさが勝っていた。中学からその性格が災いしなかなか友達と言う友達がいなかった奏にとってとても嬉しい事だった。
「橘くんが隣で良かった〜」
「なんで?」
「え?だって知り合いが隣だと安心するじゃない」
そういいながら鞄を横にかけ席に着く。
晴翔はふーんと頬杖をつきながら口を尖らせた。
少しして、2人の後ろの席に余った形である席に1人の女子生徒が座ってきた。
担任教師が来るのを待っている間静寂が2人の間を流れていたが思わぬ形で崩れる事になる。
「ねぇ。外部受験組?」
晴翔が奏の後ろの女子生徒に話しかけたのだ。
驚いて目を見開く奏を横目に晴翔は変わらず話しかける。
「うん。そうだよ。貴方も?」
「そー俺も。まだこの学園のことなにもわかんなくてさ。」
「そうなの。なんか周りにいろんな校舎があるからどれがどれか」
晴翔はだよねーと笑いながら奏の腕を引っ張った。
「この人初等部からこの学園通ってるらしいから道案内できるよ?」
「え!?ほんと!?」
何を考えてるんだと目で訴えるが晴翔はニコニコと笑うだけだ。一方女子生徒は目を輝かせながら奏の手を握る。
「助かるよー。もう寮までの道もわかんなくてさ!!」
「あ、うん。この学園ならもう長いから」
「私息吹梨乃。よろしく」
にこりと手を差し伸べてきた女子生徒。梨乃の手に奏は自分の手を重ねる。
晴翔はそんな姿を頬杖をつき笑いながら眺めていた。
「わ、渡瀬奏です。よ、よろしく」
「奏!名前で呼んでもいい?私も梨乃でいいよ!」
「あ、うんいいよ。じゃあ梨乃ちゃんで…」
奏も充分方向音痴気味だが話を聞く限り梨乃は奏以上の方向音痴であった。
地方から推薦で来たという彼女はこの学園の寮に住んでいるのだが敷地内にある寮の場所すらたどり着くのに1時間以上かかるという話には腹がよじれるくらいには笑ったものだ。
3人短時間でかなり距離が縮まった。そんな時梨乃がそんな時思い出したように晴翔に尋ねた。
「そういえばそっちの君は?名前は?」
「橘晴翔。お好きに呼んでどーぞ」
「そっかじゃあ橘だね」
よろしくと手を差し伸べた時ガラリと教室が開き教師が入ってきた。
担任教師の自己紹介が終え連絡等を伝えこれで初日は終了だと告げれば皆がはしゃいでいた。
そんな生徒たちの様子も御構い無しに担任教師は口を開いた。
「ただ、異能者の生徒たちはちょっとしたテストがあるから講堂にこの後集まるように。以上解散!!」
帰れると騒いでた一部の生徒からブーイングが出ていたが教師は気にもとめず教室を出た。
奏は入学式でもらったカードを取り出し講堂に行こうと立ち上がった。
「じゃあね2人とも。私講堂行かなきゃ」
「そっかー奏異能者なんだね。この後校舎案内してもらおうと思ったんだけど」
「ごめんね。明日なら空いてるから大丈夫だよ!」
「うんじゃあ明日!今日は大人しく寮に戻るよ」
「1時間以上かけて?」
クスクス笑いながら晴翔はそうからかえばうるさい!と真っ赤になった梨乃たちを見て微笑ましく見ていた。
「梨乃ちゃん途中まで一緒に行く?まだ時間あるし。橘くんも。寮だったよね?」
「ありがとうー橘と違ってあんたはいい子だよ」
「うるせぇ。女子寮と男子寮隣だし一緒に行ってやるよ」
そうして鞄を肩に引っ掛け立ち上がる。
梨乃は教室の外へと駆け足で早く行こうと手を振る。
晴翔も続こうと歩き出した瞬間奏は晴翔を呼び止めた。
「その、ありがとう。」
「なにが?あいつと友達になったのはお前だろ」
「でも橘くんがいなかったら私…」
「あんたは口下手なんかじゃないよ。きっかけさへあれば普通に会話できるんだよ。もっと自信持てよ」
コツンと奏の頭を小突いたあと手を振る梨乃のところまで歩いていく。小突かれた頭を押さえた奏は小さく笑い梨乃たちの方へと走っていく。
講堂に行く途中に玄関があり2人とはそこから別々だった。
じゃあここでと手を振り見送ろうとした時。
「あれ奏ちゃん?」
「桐生先輩に…良里くん」
声をかけてきたのは良里の友人であり、生徒会副会長の桐生弓弦だった。その傍には良里がいた。
梨乃たちは靴を履き出て行く際こちらに手を振る。
奏はそれに答えた後良里たちに向き合った。
「もうすぐ異能者テストだよ。」
「うん。わかってるよ」
「さっきの子達は?」
晴翔や梨乃たちの背を見ながらそう聞けば奏は満面の笑みで友達になったのと笑った。
良里は一瞬真顔になった後にこりと笑みを作った。
「よかったね。ところで奏。教室でグループ分けを配られただろう?何グループだった?」
「えっと…Cグループ。」
鞄から即座にプリントを出し目を通すとそこには大きな文字でCグループと書かれていた。
「俺の班だね。よろしく奏ちゃん」
プリントを覗き込みそう言ってきたのは桐生だった。奏は訳が分からず2人と一緒に講堂へと向かった。
講堂には数十人の生徒が集まっていてその場でテストの意図を説明された。
「なんでテスト〜?とか思ってるかもしれないけど君たち異能者の能力の勉強をする為には君たちがどういう力なのか知る必要がある。書類だけじゃわかんないからね〜」
軽いノリで桐生がそう説明している間奏は周りに能力別に貼られた印で自分の能力である音を探していた。
「そこで、今から実践室のカプセルに入って擬似戦争をしてもらいまーす。」
擬似戦争という言葉にざわざわしだす生徒たちに良里が一歩前に出て諌める。
「擬似戦争といってもバーチャルゲームと変わりません。実際に死ぬこともなければ、痛みを感じることもない。ただ目の前の敵を倒す。それだけでいいんです。」
そして再びマイクは桐生へと移り説明を続けた。
バーチャルゲーム形式の擬似戦争で自分の能力を図るのが目的であり、死ぬことも痛覚も感じない。ただ3つのステージに分かれ学校側がその人物の異能にあったステージを選ぶというものだった。
ちなみに奏はCグループ。桐生が監督を務めるグループだ。
「Cグループ諸君。今回監督を務める生徒会副会長の桐生弓弦です。よろしく〜。これ以上戦闘が無理だったり、体調面等でできないと判断したら勝手にこっちでテストを中断させてもらいます。場所は廃墟の街」
そうして奏達の前にステージになるであろう街が映し出された。
Aグループの監督をしている良里は説明を続けた。
「今から目の前にあるカプセルに入ってこのステージに行ける。ただ身体自体は眠っているから意識と能力だけがゲームとリンクしています。このステージに出てくる敵をどれだけ倒せたかがテストの評価につながるから頑張って下さい」
プシューと音がたちカプセルが開かれた。
「はい。前から徐々に入っていってね〜」
監督生徒である生徒会の生徒たちが微調整をしながらひとつひとつカプセルが閉められていく。
そして奏の番になる。
「奏ちゃん。もちろん初めてだよね?」
「はい」
「大丈夫だよ。危なくなったら止めるから」
コクリとうなづきカプセルへと入っていく。
扉が閉まると同時に目を閉じると先ほど映し出されていた街が目の前に広がっていた。