神こそがすべて……?
「と、とりあえず、座りませんか?」
というメイの一言で、イリスを除く全員がソファーに腰を下ろした。
メイと神が隣り合わせに座り、魔王と勇者がその向かい側に座った。
イリスはその側で――具体的には神の後ろに立っていた。
「さて魔王よ。……いや、元魔王と呼ぶべきなのかな?」
「あ、今はパッパァですよ?」
「ほう、君もずいぶんと丸くなったものだね」
「……うっさいわ」
本来の肉体を取り戻したことで、魔王の話し方が若干変化していた。
古めかしい口調から、若者のそれへと。
「しかし、勇者はとけこんでるよなぁ……」
この中で一番格下なのはおそらく勇者だ。種族の違いはあれど魔王は王だしメイも魔王、さらに神がいて、イリスも従者だがなにやら怪しい。
勇者と呼ばれてはいるが、所詮は人間なのだ。いざ戦闘になれば、死ぬ可能性が最も高いのは勇者だ。耐久性の問題だ。
単にアホなのか、やけになっているのか。
「それで、聞きたいことがあるんだろう?」
「……それは、そうだが……」
魔王はこんらんしている!
「そうだね、三つまで無条件で教えてあげよう」
「……なにを企んでいる」
「色々。はい残り二つねー」
「ちょ、いまのもカウントするのか!?」
「するに決まってるじゃん。はいラスト」
「ぐぬぬ……」
「お、成長したね」
「うっさいわ!」
イリスやメイはおろか、勇者までもが口をはさんでくることはなかった。
なぜなら、そこには彼女達の知らない魔王が居たからだ。
他者に翻弄される魔王というものはものはなかなかに新鮮で、滑稽だった。
とはいえ、勇者が長時間おとなしくできるはずもなく、どこからかカメラを取り出して写真を撮り始めたわけなのだが。
「では、イリスの正体を教えてもらおうか!」
そんな勇者を無視して、魔王は神にドヤ顔でそう言った。
「……君は……」
「お? 答えられないのかな? うーん?」
「うわぁ、ここぞとばかりにパッパァが煽ってるよ」
「ダメな大人の典型的なやつですね。つまりゴミですね」
口を出さないと心の中で決めていたイリスですら、魔王の子供のような言動にツッコミを入れてしまっていた。
「いや、まぁ答えられなくもないんだけどさぁ……」
「……何が言いたい」
「そう喧嘩腰になるなって。時間が有限というわけでもないんだから」
「いや、時間は有限なのだが……まぁ、落ち着くとしよう」
とはいえ、神の言っていることもあながち間違いではない。勇者以外は人間ではないため、人よりもかなり長い間生きることができる。
従って、人間以外の種族は時間を有限ではないものと表現することが多い。
「で?」
「いや、十分喧嘩腰なんだけど……」
やれやれとでも言いたげな神と、あくまで喧嘩腰な魔王。
「キミは、別に頭が悪いというわけでもない。イリスの正体くらい、自分で気づいてほしいな」
神は知っている。目の前にいる魔王という男には、答えが出てもそれを認めようとしない悪癖が存在することを。
魔王は悟った。自分の悪癖を知っている神が、それを言外に指摘していると言うことを。
「……つまりは、予想は正しいと、そういうことか……?」
「いいや、違う」
「ならさっさと答えを……!」
「それは、予想とは言わないんだよ。数々の証拠から導き出された――推測。そしてその推測は、正しい」
いつもうるさい、魔王ともそれなりにつきあいの長い勇者でも、口を挟むことはできない。
いや、今回が妙にシリアスなだけで、他愛もない日常会話なら……。
勇者はそんな場面を想像して、その想像の中でも会話に参加できずにいた。
そして、理解した。
神は、自分ではどうにもできない相手だということを。
「じゃあ……いや、でも……」
魔王はこんらんしている!
「ほら、しっかりしなさいよ、パッパァ」
勇者は、己の頭が不出来だと言うことを理解している。
二人の会話には当然ついていけていない。故に、魔王の代わりを務めることもできない。
だから、勇者が魔王を正気に戻させようとするのはある意味で当然の行動だった。
先ほど神との違いを理解したが、せめてこれくらいは……と、勇者が行動した結果がこれだ。
「……」
「……パッパァ?」
だというのに、魔王は正気を取り戻さない。
「ね、ねぇってば」
「……ん、どうした?」
「だ、大丈夫なの?」
「あ、ああ。大丈夫に決まっている」
「そうは見えないんだけど……」
とはいえ、正気に戻せた。ここからは、自分の居場所はない。
納得のいかない部分はあれど、勇者は口を閉じた。
こういった一種の潔さが、勇者を勇者たらしめている一因なのかもしれない。
だが、そんな二人に追い打ちをかけるものがいた。
「じゃあ、キミの出した答えを聞かせてもらおうか」
神だ。
前向きに生きていきたい。