3分クッキング
裏山探検……というか薬草採集のおみやげをイリスに渡しながら魔王は尋ねた。
「ところで、ずっと気になっておったのだが……」
「なんですかゴミクズ。女性に年齢を聞くのはマナー違反ですよ」
「そうではないわ」
このタイミングを逃せば、次はない。
魔王は覚悟を決めた。
「貴様……魔族ではないな?」
「おやおやなにを言うかと思えば」
「とぼけるでない。仮にも生前は魔王軍をまとめていた魔王だぞ? 同胞とそれ以外を見分けることなど朝飯前だぞ」
しかし、だからこそ気に食わないこともある。
このイリスという女が魔王や勇者を前に平然と姿を見せていること。
そして、勇者がおとなしいということだ。
勇者にとって敵である魔族の中に、敵ではないと思われるイリスが存在する。この事実は、勇者には無視できないものだったはずなのだ。
それなのに、勇者は行動を起こさなかった。
その事実が不気味であり、またもう一つ気になることもあった。
「なぜ、子供とはいえ魔王の……いや、次期魔王の手助けをする? 一体誰の差し金だ?」
それは、イリスもかなりの実力を持っていることだ。
魔王クラスとはいかないまでも、イリスは四天王クラスの実力を持っていると推測できた。もっといえば、メイとは互角だろう。
だからこそ。それほどに実力があるからこそ。歴代最強の魔王と言われている自分をいつまでも欺くことなどできないと理解できているはずなのに。
「答えてもらおうか、イリス!」
「……やはり、まだダメですか」
「……なに?」
「……いずれ、そう遠くはない未来に知ることができますよ」
そう告げると、イリスはどこかに消えてしまった。
「あれほどの実力を有するものを……もしや……いやしかし……」
魔王の疑問は頭の中でぐるぐると回るだけで、答えはいつまでも出せないままでいた。
「元魔王こと我のっ! 三分クッキングー!」
いつまでたっても結論は出なかったために、まずはやれることからという、問題の先送りにしかなっていない行動をとることに。
しかもやけにテンションが高い。
「さて、今回調理するのは、裏山から採ってきたこの草共だ!」
そういえば勇者達は帰ってきたのだろうか。そんなことを考えながらも調理は続いていく。
「まず、この草共からなにやら健康に良さそうな汁を搾り取っていくぞ」
そこには誰もいないというのに、まるで誰かに聞かせるように解説を続ける。
「そして! ここでとっておきのアイテムの登場です!」
テンションが上がっているのが原因なのか、口調もいつもと違う。
懐から取り出されたそのアイテムは、小瓶だった。
中には禍々しいオーラを放っている赤色の液体が入っている。
「緑と赤の化学反応で紫に変わります!」
色が変わったのは化学反応が原因ではないが、確かに草の汁の緑と赤色の液体が混ざって紫に変わった。
「これぞ錬金術! 世の真理!」
ついに魔王は壊れてしまった。
……いや、違う。紫色の液体がまた変化している!
「完成!」
どうやら先ほどのトチ狂った発言は呪文か何かのようだったらしく、液体は最終的に黄色になっていた。
「はい、そういうわけで三分クッキング、また来週〜」
もしこの光景を勇者かメイが見ていたら、彼女達はきっと魔王の頭を心配したことだろう。
幸いというべきか、そこには彼女達の姿はなかった。
代わりに、魔族でもなければ人間でもない何かが、その一部始終を見ていた。
それぞれの思いを胸に、しかし時は止まらない。
歯車は再び動き始めようとしていた。
メイとイリスと勇者と魔王と。
彼女達は果たしてエンディングにたどり着けるのでしょうか?
それはきっと、作者次第なのでしょう。
次回、「魔王、取り戻す(?)」