社会科見学
「というわけで、今回は屋敷の裏にある山、つまり裏山に来ておるのだが……」
「ねぇパパ? うらやましい?」
「……そのさっむいギャグはちっとも羨ましくないぞ」
久しぶりの外出に、勇者ははしゃぎにはしゃぎまくっている。
「というか、貴様にパパと呼ばれると背筋が凍る思いなのだが……」
「あ、メイちゃんこっちに綺麗な花があるよー?」
「聞いてないし……」
ちなみに、今回イリスはお留守番だ。
魔王城の守りを手薄にするわけにはいかないとかなんとか。
「む、それは毒があった気がするのだが……」
勇者が持つ花を見ながら魔王がつぶやく。
「……ま、勇者だしいいか」
「……よくありませんよ、パパ」
魔王の独り言はメイに聞かれていた。
「いくら昔からの因縁があるといっても、今は仲間じゃないですか」
「……むぅ」
娘同然に可愛がっているメイからの言葉に、魔王は強く出ることができない。
「……ゆ、勇者よ、その……」
勇気を振り絞って、魔王は告げる。
「ん、何?」
対する勇者は自然体だ。
「その、非常に言いにくいことなのだが……」
「どうしたっていうのよ」
覚悟を決めた魔王は大きく息を吸って言った!
「スカートがめくれておるぞ!」
「……ッ!!」
勇者は顔を赤らめたかと思うとすぐに魔王をボコボコにしてからスカートを元に戻した。
「り、理不尽な……」
ちなみに、毒があると思われていた花は、勇者が「嫌な感じがする」と言ってすぐに捨てていた。
「気を取り直して、薬草やら木の実やらその他もろもろを集めたいと思うのだが……」
「どうしたんですか?」
「……なによ」
「……いや、ただ中には異臭を放ったり刺があったり、それこそ毒があるものもある。心してかかるのだぞ。特に勇者」
「……」
先の一件があってから勇者はどこかよそよそしい。
だが、それを気にする魔王でもない。
「メイは軍手を使うのだぞ? ……勇者も、まぁ使いたかったら使うがよい」
かくして、裏山探索は始まった。
「パパ、これはなんですか?」
「おお、これはヒガンバナという花でな……」
先程から仲睦まじげ(といっても事情を知らないものが見れば幼女が人形遊びをしているようにしか見えない)な2人を、勇者にはただただ眺めることしかできなかった。
まるでそこに居ないかのように、存在を感じさせずに……。
「……おい勇者」
「……な〜に〜?」
「貴様にも一つ、ものを教えてやろう」
「ん? 珍しいこともあるんだね」
「人の好意くらい素直に受け取ったらどうだ」
「人じゃなくて魔族だけどねー」
「言葉尻を捕まえて得意そうに……」
急に元の調子を取り戻した勇者に、魔王は少しやりにくそうにしながらも告げる。
「クローバーという魔草を知っておるか?」
「クローバー? おいしいの?」
「食べられなくもなかった気がするが……そうではなくてだな」
本当に勇者は面倒だなと思いつつ。
「本来クローバーというものは三つ葉なのだが、稀に四つ葉のものもあってな。それを見つけることができれば幸せになれるという言い伝えがあるのだ」
「本当に!?」
「ただ、なかなか見つかるものでもないからそのような言い伝えがあるわけで……」
「メイちゃん! 一緒に四つ葉のクローバーを探そっ!」
「もちろんですよ! 見つけて幸せになりましょう!」
「あ、我は先に帰るからあとは勇者、任せたぞ」
「了解了解。さ、メイちゃんっ」
「四つ葉のクローバーを見つけましょう!」
しばらくの間二人を見つめた後、魔王城へと帰る魔王であった。
久しぶりの更新ですが、皆さんは設定とか覚えてらっしゃるのでしょうか……?
私は……や、やだなぁ覚えてるに決まってるじゃないですか。
次回、魔王は荒ぶります。