招かれざる生徒
「さて、今日から本格的な魔王講座を始めたいと思うのだが……」
「? どうしたんですか?」
「早く講義始めろー!」
「……」
「おうおう黙ってないで始めろー!」
「お前が原因じゃこのアホ勇者ー!!」
「ひどいっ! パパが私をいじめるよう。助けてメイちゃん!」
「あ、あはは」
さすがのメイにもフォローは難しかったようで苦笑いしかできなかった。
「いや、私にだってちゃんと考えがあるわけですよ」
「……ほぅ……?」
「ほら、自分で言うのもなんだけど私勇者じゃん? ぶっちゃけ敵だったじゃん? つまり敵の立場としての意見が言えるってことさ!」
「お、おねえちゃんすごいですっ!」
「でしょでしょー? もっとほめてもいいんだよー?」
「……すぐさま退場して欲しいと思っているのだが」
「え? 聞こえないなぁ?」
「すぐさま退場して欲しいと思っているのだが!!」
魔王の口調はだんだんと荒くなっていく。
「だいたい貴様は……ッ」
「……パパ?」
「思い出すだけでもイライラしてくるわ! 我の計画を狂わせおって!」
「……」
心当たりは……まあいろいろあるのだろう。勇者と魔王なのだから。
二人の、いつもとは違う雰囲気を感じ取ったのか、メイは黙ったままだ。
とはいえ、実際は幼女が人形を見つめているという微笑ましい場なのだが。
「本当ならこんなことにはなっておらんかったはずだというのに!」
「ちょ、いきなりなによ、マジギレしちゃって……」
「これも全て神のせいじゃ! 今度会ったら消し炭にしてくれるわ!」
「……」
「……パパは神様と面識があるのですか?」
これまで黙っていたメイが問う。
「うむ。まあ勇者より長い仲……というわけではないのだが、それなりに付き合っておる」
「ということは、魔王だった頃よりあとにできたお友達ってことですか?」
「いや、魔王だった頃からの仲なのだが……この話はやつを消滅させたくなるから、また今度に」
「は、はい」
「さ、とりあえず勇者はどっかいくのだ。しっし」
まるで虫でも追い払うかのように勇者を追い払う魔王。
「……今日のところはこれくらいで勘弁してやらァ!」
と、どちらが悪役なのかわからない捨て台詞を残して勇者は去っていった。
「……まったく、時間は有限ではないというのに……」
「? どういうことですか?」
魔王の独り言を、メイは聞き逃さなかった。
「む……ま、まぁメイはまだ知らなくても……」
「どういうことですか?」
「えーっと……」
メイの追求を逃れられないと悟った魔王は、ある事実を告げる。
「メイ達と永遠にいられるわけではないと、そういうことなのだ」
「……どういう、ことですか?」
「いや、魔力やら何やらと、この世に存在するためのあれこれが不足していてなぁ」
「なら集めればいいんじゃないんですか?」
「……それだ! それはいいアイデアだ! よくやったなメイ!」
「あ、ありがとうございます」
人間……いやこの場合は魔族だが、理由がわからないまま褒められると戸惑うらしい。
「よし、そうと決まれば明日は社会見学にしよう!」
「社会見学ってなんですか?」
「それは明日になってからのお楽しみ、だな」
……しまった、授業させてないや……