紹介
「そう、私がこいつを封印した勇者なのですよ」
執事の格好をした人形が言った。
「す、すごいですねおねえちゃん!」
「でしょでしょー?」
「わ、我のターンだったはずなのに……」
メイは勇者のことを素直に褒め、メイドの人形である魔王は静かに落ち込んでいた。
「……では、何故封印をした張本人である勇者の貴女がこのゴミと一緒に封印されていたのですか?」
勇者、という正体を知ったメイドでありメイの親代わりでもあるイリスは勇者に対しての警戒心を隠さぬまま尋ねた。
それは当然で、最悪の場合勇者と敵対しなくてはいけない場面が訪れるかもしれないからだ。
「それは……」
勇者は黙ってしまう。
「それは?」
イリスが追い討ちをかけるように尋ねる。
「……ゴミ。おいゴミっ!」
「ん? なんじゃ勇者。我は今忙しいのじゃ」
ゴミと呼ばれても反応してしまう魔王はなんとも情けない。
「どうして私とパパが一緒に封印されていたか教えてあげてよ」
「パパはやめろというておろうに……」
魔王の呼び名がコロコロ変わっていることには誰も突っ込まない。
「で、どんな理由があるんですか? ゴミ」
イリスが魔王にプレッシャーをかける。
「パパ、早く教えてあげようよ」
勇者もプレッシャーをかける。蛇も逃げ出してしまうような目つきで、だ。
「パパ。メイも知りたいです」
とどめの、メイの上目遣い。
魔王は、
「……しょうがない、今回だけだよ?」
おちた。
「えーっと、あれか、勇者が何故封印されていたのか、じゃったか」
「そうですパパ」
「こ、恋に落ちたから、じゃないかな?」
「真面目にやってください、次はないですよ?」
イリスの言葉遣いは綺麗なものなのに何故か怖い。
「我の最後の抵抗と偶然が重なってのぅ。まぁ要するに勇者がドジっただけなんじゃ」
「……だから知られたくなかったのに……」
勇者の独り言が聞こえたのか聞こえなかったのか。
「と、ところで! パパは私のお願いを叶えてくれるんですか?」
メイの絶妙なタイミングでの話題転換で、部屋の中は嫌な雰囲気で満たされることはなかった。
「ああ、それならもちろんできるよー?」
「だから今は我のターンだというておろうが!」
「それはさっきまでのはなしですー」
「な、そんなことあるわけなかろうが!」
「おねえちゃん、少しパパと喋ってもいいですか?」
このままではかわいそうだと思ったのか、メイが勇者に尋ねる。
「あ、ごめんごめん。親子水入らずで話していいよー」
「我はメイの優しさに感動したぁー!」
魔王が、あの魔王が感動して泣いている。
……あのってどの魔王なのだろうか?
「パパ。どうやったら私は本当の魔王に近づくことができますか?」
メイの問は直球で、それはつまりわかりやすい答えを欲しているということだ。
「とりあえず、我についてきたら魔王に近づくことは間違いないが……」
「……? どうしたんですか? パパ」
「……いや、なんでもない」
魔王は何か隠し事をしているようだったが、メイはそれについて聞くことはなかった。
「さて、今後ゴミと勇者様にはメイドの真似事をしていただきます」
「わ、我の扱いひどくない……?」
おや、ようやくツッコミをいれたようだ。
「そして、お二人にはメイ様の教育係となっていただきます」
「あぁ、無視なんですねー」
「あとゴミはジジくさい言葉遣いを直してください。メイ様の教育に悪いので」
「我から古い言葉遣い取ったら何も残らないからねっ」
魔王よ、それはそれで悲しくないのか?
「では、これからよろしくお願いしますね、パパ。おねえちゃん」
「よろしくねー」
「よろしくー」
そして、魔王たちを召喚をした部屋から四人が出て行く。
メイの、魔王になるための日々のはじまりである。