神、帰宅。
「メイは、純粋に魔族なんだろう?」
そう。確かに神の言うとおり、メイは紛れもなく魔族だ。
だが。
「イリスが試験管ベビーだったなら、まだ疑問はなかっただろう。だが……」
「彼女はそうではなかった」
「そう。だからこそ、疑問は発生する」
「それは……?」
「なぜメイは純粋な魔族なのか、ということだ」
「……ごめん、何を言っているんだい?」
どうやら神の理解を超えたものであったらしい。
「まぁ、これは魔族の根源にまでさかのぼる必要のある問題なのだ」
「……ム?」
「そもそも、魔族はどうやって子孫を残しているか、貴様は知っているか?」
「そりゃ、男と女がいてやることやったら子供ができるんだろ? それがどうかしたのかい?」
「やること……」
勇者が顔を真っ赤にしてトリップした。それを当然のように無視して、魔王は言う。
「まぁ、これは我も魔王になってから初めて知ったのだがな」
「もったいぶらずに教えてよ。いったいどういうことなのさ」
「最強にして最恐の魔族、原初の魔族、原初の魔王。その魔王は女性だったらしい」
「ふーん。でもまぁ、それがどうかしたの?」
珍しく神の察しが悪い。……いや、それだけこの問題が難解だということの証なのか。
「いいか? 原初の魔族はたった一人なのだ。それがどうして、純粋な魔族なんてものが存在する?」
「そりゃ無性生殖でもしたんじゃ……んん?」
「そう。無性生殖しているなら、魔界は純粋な魔族で溢れているはずなのだが、現実は違う」
むしろ、魔界には純粋な魔族というのは存在しない。……ある一人を除いて。
「純粋な魔族は、今目の前に居る、メイしか存在しないのだ。……まぁ、そのメイがなぜイリスと一緒に居るのかは、わからんがな」
魔王はメイの正体を明確にはしない。だが、勇者を除く全員が理解していた。
メイは、原初の魔王にして原初の魔族。最強にして最恐の魔族であるということを。
「まぁ、一言で言ってしまえば共感したからですね」
と、今まで無言だったメイが口を開いた。
「娘ではなくババァだったという訳か!」
「誰がババァじゃこのクソじじぃ!」
「ふっ、ババァに比べれば我など赤子のようなもの!」
「アンタ私に娘だの何だの言っておいてババァはないんじゃないのかい!?」
「世間にはロリババァなるジャンルもあるから大丈夫だと思うぞ」
「そんなジャンル消えてしまえ!」
「なんだか一気に幼稚になったなぁ……」
これが魔族の性だとでも言うのなら、自分は神で良かったと心の底から思う神だった。
「お二方、今はそんなことをやっている場合ではありませんよ?」
「「あ、はい」」
イリスには逆らえない何かがあるのだろう。メイも魔王もその言葉におとなしく従う。
「ねー、やっぱりもう帰っていい? というかもう帰るね」
「あ、まて貴様! まだ話は終わってないぞ!」
「ばいばーい」
「……」
神は転移魔術で帰っていった。
残されたのは、魔王、メイ、勇者、イリスの四人だ。
いつも通りのメンツとも言える。ただ、これまでとの違いは魔王と勇者が人形ではないということだ。
「さて……」
使い物にならない勇者。ババァだったメイ。そして娘のイリス。なにやら混沌な場ではあるが、ともあれ。
「とりあえず、話をしようか」
魔王という男の目的を。
そろそろ最終回?